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SCM部門の二つのフォーカス
インテルと聞いて皆さんがまず思
い浮かべるのは、パソコンのマイク
ロプロセッサだろう。 だがインテル
の事業は、その他にもマザーボード
やモバイルテクノロジー、サーバー
ルームのサポートなど多岐に渡って
いる。 そして、北米だけでなくアジ
ア、ヨーロッパにもディストリビュ
ーションのための拠点を配置してい
る。
サプライチェーンに関しては、「戦
略&サポート」部門が長期的な戦略
や品質、内部支援の役割を担ってお
り、サプライチェーンを維持し、将
来的なサプライチェーンの変更を見
極めてアクションを起こす責任を負
っている。
戦略&サポート部門には、二つの
フォーカスが存在する。
一つは、「需要フォーカス」であ
る。 これはビジネスプランニングと
カスタマーフルフィルメントの側面
を持っている。 ビジネスプラニング
は長期的な視点から、何を、いつ、
どこで製造するかを決定する。 一方
のカスタマーフルフィルメントは、デ
ィストリビューターやOEM、リセ
ーラーといった顧客のための、注文
管理や顧客サービス、サポートなど
を担当する。
もう一つは、「フルフィルメントフ
ォーカス」である。 これは具体的な
生産計画と、輸配送マネジメントを
担うロジスティクスを含んでいる。
生産計画の担当領域は、サプライヤ
ー、部品保管、アセンブリー、シス
テムまでである。 ロジスティクスは、
調達から流通までの流れのほか、協
力工場や倉庫なども含めて管理して
いる。
厳しさ増すビジネス環境
ここで、SCMの鍵となる四つの
ビジネストレンドについて説明して
おこう。 どれも特に新しくはないが、
過去に比べてよりいっそう強調され
てきているものだ。
第一に、マーケットの要求レベル
が高くなってきていること。 市場が
地理的に拡大するほど輸送費はかさ
む。 配達先件数の増加と配達区間の
伸びで、輸送費が上昇している。 複
雑化が進むマーケットにおけるカス
タマーの要求に、当社はこれまで以
米インテルは、〇五年から高速度のサプライチェーンを目指し
た改革に取り組んでいる。 そのツールとして独自の活動評価指標
(メトリクス)を開発した。 効果はサイクルタイムの大幅な短縮
という形であらわれた。 自社の取り組みをもとに、担当者がSC
Mにおけるメトリクス活用のポイントを解説する。
米インテルのメトリクス活用インテルコーポレーション
ダン・マホニー
サプライチェーン・インダストリアル・エンジニア
スピーカー
67 MARCH 2007
上の費用をかけて応えている。
第二に、サプライチェーンの複雑
性が高まっていること。 売り上げが
ほぼ横ばいであるのに対して、注文
あたりのアイテム数は右肩上がりで
推移している。 これは、取り扱いS
KUの増加によるところが大きい。
これにより、エンドカスタマーのも
とに届くまでに必要な、各カスタマ
ーのための特別なシステム化やプロ
セス化がよりいっそうの複雑性を招
いている。
第三に、カスタマーからの期待、
特に反応の速さについての期待が高
くなっていること。 カスタマーの変
化する需要に対して、イエスかノー
かの返答を迅速に出すことが求めら
れる。
3PLへの委託を決めてから稼働
させるまでのスピードも問われてい
る。 五つのロジスティクス拠点では、
二七〜四八週間かかってしまった。
業界のベストクラスは四週間である
から、その差は大きい。 そのために、
システム製造のODM(Original
Design Manufacture:相手先ブラ
ンド設計製造業者)導入を六週間と
いう短期間で行うことが求められた。
反応力を高めなければビジネスを失
う可能性さえあるのだ。
第四に、アフォーダビリティー
(手頃さ)を管理することが難しく
なっていること。 サブストレイト(I
Cチップの下層)の単位当たりの配
送費用の上昇や、一つの調達先に頼
らなくてはいけない原材料の急増、
また商品のサイズや重量が大きくな
っていることが例として挙げられる。
インテルのサプライチェーン戦略
とは、こうした内的・外的な状況に
いかに反応していくかの問いに答え
ることである。 その戦略は、当然、
インテル自体の経営戦略と合致して
いなければならない。 サクセスフルな戦略を立てるため
に必要なことは何だろうか。
まず、その成功がどんな姿なのか
を定義することだ。 具体的には、「ク
リティカル・サクセス・インジケー
ター(CSI)」の確立である。 測
定し、目標を設定し、伝達し、改善
していく。 そして、アプローチを明
確にしてそのための資金を確保する。
さらに、カルチャーや行動を改め
る。 これは、報酬とモラルに関わる
ことだ。 戦略の方向性が、既存の報
酬システムに反映されていることが
大切である。
我々のサプライチェーン戦略は極
めてシンプルだ。 それは、高いベロ
シティ(速度)のサプライチェーン
を築くことである。
そのためには、サービスレベルと
在庫に関して改善を行わなくてはい
けない。 これを数式で表現すると、
フレキシビリティ(あるいはアジリ
ティ)向上×バライアビリティ(変
動性)低下×物理的なスピード上
昇=サービスレベル向上と在庫削減
となる。 この数式の背後にあるの
は、
サイクルタイム=仕掛品÷スループ
ット(単位時間あたりの処理能力)
という原理である。 サイクルタイ
ム(スピード)は、仕掛品(在庫)
とスループット(サービスレベル)で
決定されるのである。
成功するメトリクス運用
メトリクスは、戦略を達成する過
程において、その時点での成功度合
いを示してくれる。 また、戦略を実
際の行動(アクション)に変換する
ことを可能にする。 方向性を明確にし、その期待度を数値化するもので
ある。
例えば注文部門が注文サイクル短
縮という目標を与えられた場合、期
待されている数値が明らかになるこ
とで、どのくらいの努力をつぎ込む
ことが必要かを理解し共有すること
ができる。
プログラムの開始から一八カ月あ
まりの段階で「成功」と言うにはま
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だ早いのだが、それでもいくつかの
分野で改善が見られている。 我々は、
次の三点が、メトリクス成功のカギ
であり、改善の助けになったと認識
している。
一点目は、変革のターゲットを絞
ること。 業界をリードする組織であ
っても、全領域を一度に改善するの
は不可能だ。 全領域にまんべんなく
資金を投入するのは逆効果となる。
どの領域に注力し、資金を投入する
かの決定が大切である。
二点目は、バランススコアカード
をアンバランスさせること。 つまり、
バランススコアカードがあるからと
いっても、すべての改善対象項目を
同じレベルの集中性で追い求めるよ
うなことはしない。 優先順位を持っ
て、問題を解決していく。
三点目は、改善実行プロセスに、
個人が関わるものとしてアカウンタ
ビリティを持たせることだ。
また、どの領域にフォーカするか
を決める上では、次の四つの視点を
考慮した。
?インテルにとって大事なのは何
か?
?カスタマーが求めているのは何か?
?ビジネストレンドをいかにモニタ
リングするか?
?どんなデータが利用できるか?
従来は注文活動のワンサイクルに
あたる一八カ月間のデータをトレン
ドの見極めに使用していたが、デー
タの整合性問題に直面することがあ
った。 また、サプライチェーンスコ
アカードのいわゆるトップレベルメ
トリクスとして九一のメトリクスを
持っており、各部門が独自のやり方
でメトリクスを運用していた。
こうした状況を鑑み、先に述べた
計算式の、インプット(フレキシビ
リティ、バライアビリティ、物理的
スピード)と、アウトプット(サー
ビスレベル、在庫)という要素を含
むサプライチェーン戦略を、次の六
つのCSIに変換してフォーカスを
絞った。 以下が、第一段階のCSI
である。
?納期および見積もり回答の期間
?要求ドック期日/確定ドック期日
?売り上げに対するサプライチェー
ンコスト比率
?サプライチェーンのクオリティ
?在庫回転数
?サプライチェーン・カスタマー・
エクセレンス・スコア
これらのCSIに投資の優先順位
をつけ、予算の振り分け方法も変更
69 MARCH 2007
した。 このプログラムは〇五年に開
始したものである。 〇六年まではス
コアカード方法論に従い、プラン、
ソース、メーク、デリバーのそれぞ
れに予算を投入してきたが、〇七年
にはその方法を変え、各CSIに対
して予算を割り振っていくやり方に
改めた。
また、
図2のような回転式の改善
プロセスを作成して実行した。
○0
重
要
性
の
認
識
(
サ
プ
ラ
イ
チ
ェ
ー
ン
ディレクターによる認識、財務的
な結果を基にした説得)
?ベースラインの測定
?改善ターゲットの提案
?改善プロジェクトの確認
?プロジェクトの財源確保
?プロジェクトロードマップの実行
から始まり、?から?を自動車
の車輪のようにぐるぐると回転しな
がら改善を続ける仕組みだ。
この改善プロセスを通じて、六つ
のグローバル拠点における月間サイ
クルタイムが劇的に短縮した(
図3)。
最後に、我々が得た一〇の教訓を
整理しておこう。
?組織的な惰性を軽視すべきでない
?金銭のコントロールができない戦
略は意味がない
?メトリクスは総計すべきではない
し、また複雑すぎてもいけない
?メトリクスを現実的で、かつすべ
ての事業目的とリンクしたものに
させること
?すべてのフォーカスのためにカギ
となるいくつかのメトリクスを選
び、その中から一つを決定し、それをひたすら追い求めること
?すべてのデータが揃っていないと
しても、まず始めること
?データを取得することの難しさを
十分に認識すること
?マネジメントが真剣に取り組んで
いることを人々にきちんと理解さ
せること
?コンセンサスを得てから動こうと
してはいけない。 トップからの変
革が必要である
?たとえ暫くのあいだ日の目を見な
いとしても、粘り強さを持ち、諦
めないこと
(翻訳
岩田佐和子)
※このレポートは米CSCMP年次総会で
の講義内容を本誌編集部がまとめたも
のです。
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