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MARCH 2007 2
来必ず売れるという保証などどこに
もありません。 今のように製品のライ
フサイクルが短くなってしまうと、も
はや在庫は資産とは言えなくなって
きているよね。 陳腐化した在庫を評
価替えしたら、ドカッと利益に影響
してしまう。 それに気付いて本気で在
庫削減に取り組む企業と、いまだに
在庫を資産と考えている企業とに、二
〇〇〇年頃から二極分化してきた」
――今時、在庫削減に無関心な企業
などありますか。
「たくさんありますよ。 実際、在庫
回転期間が二カ月を超えるメーカー
は珍しくないでしょ。 (今回の本誌調
査で〇六年の合計値となった)一・
四一カ月だって、私に言わせればま
だまだ長い。 優秀なメーカーであれば
一カ月〜一・二カ月程度で回してい
ますよ」
「在庫削減というのは、その気になれば最初の段階でガクッと落ちる。 そ
れが特徴です。 今まで全く管理して
こなかったのだから、これは当然と言
えば当然です。 ただし、在庫が自然
に減るということはない。 もちろん売
り上げの増減による通常の在庫循環
はありますよ。 自社工場の生産能力
を上回る売り上げがある場合には自
然に落ちる。 それ以外の場合は、経
営者が減らそうと考えない限り在庫
在庫は資産ではない
――九九年をピークに日本の上場メ
ーカーの在庫が減っています。 九〇
年代の一〇年間は、ほぼ横ばいでし
た。 二〇〇〇年代に入ってSCMが
機能し始めたということでしょうか。
「個人的な経験を言わせてもらうと、
九〇年代には在庫をどうにかしたい
というコンサルティングなどなかった
ね。 僕は八八年に『無在庫経営への
挑戦』(日通総合研究所)という本を
出版しているのだけれど、当時の企
業経営層には在庫に対する意識など、
ほとんどなかった」
「二〇〇〇年代に入ってから、在庫
のコンサルの依頼が急に増えてきた。
ただし、依頼してくるのは物流部門
ではないですよ。 経営層か、あるいは
SCM担当グループなどのプロジェ
クトチームです。 そもそも物流部門と
いうのは在庫をいじれないんです。 そ
の権限を持っていない。 そのため物流
部は在庫削減を自分たちの範疇では
ないと考えている」
――物流管理は在庫とは無縁ですか。
「少なくとも九〇年代までは関係なか
った。 目の前にある物流をいかに効
率化するか、というのが物流部門の
仕事であって、在庫の量に関する問
題は扱っていなかった。 もちろん拠点
集約は当時から物流部門のテーマだ
ったけれどね。 しかし拠点を集約して
も、作り方を変えない限り、在庫は
減らない。 保管場所が変わるだけだ」
――二〇〇〇年代に入って在庫に関
する見方が急に変わった?
「キャッシュフロー会計が導入され
たことがキッカケでしょう。 棚卸資産
がキャッシュフローに与える影響は本
当に大きいからね。 それ以降、経営
層が本気で在庫量に関心を持つよう
になった」
――「在庫は悪」という考え方自体
は、九〇年代にも既に浸透していま
した。
「それでも実際には在庫を削減しよ
うとはしていなかった。 バブル崩壊で
売り上げが止まっていても、工場は
動かしていた。 工場の評価基準が生
産性である以上、誰だってそうしま
すよ。 工場は生産原価を下げたい。 生
産原価が下がれば売上原価が下がっ
て粗利が増える。 もちろん、在庫は
棚卸資産として残ってしまう。 しか
し棚卸資産は償却しない限り、利益
に影響を与えない。 そのため放置さ
れたままだった」
「在庫は資産だという考え方は、い
まだに根強いですよ。 しかし在庫が将
湯浅和夫
湯浅コンサルティング代表
「在庫回転期間は一カ月を目指せ」
キャッシュフロー会計の影響で日本企業もようやく在庫削減
に本気になってきた。 しかし個別企業を見れば、二カ月以上の
在庫を抱えているメーカーがまだまだたくさんある。 在庫管理
に優れた企業は一カ月で回している。 在庫削減は一カ月を目指
せ。 それが大先生のアドバイスだ。
(聞き手・大矢昌
浩)
は減らない」
――今回の調査でメーカー全体の在
庫は、九九年の一・八四カ月から一・
四一カ月まで下がったわけですが、直
近二年を見ると〇五年の一・四〇カ
月から〇六年は微増に反転していま
す。 二〇〇〇年以降の在庫削減が一
段落した、在庫削減の時代が終わっ
たとは言えませんか。
「いやあ。 そうは思わないね。 そも
そも財務諸表の棚卸資産は期末時点
でしょ。 実は期末だけ在庫を減らし
ている会社がたくさんあるんですよ。
トップから在庫を抑えろと言われてい
る手前、期末に在庫を隠してしまう。
だから財務諸表だけをもって在庫が
減ったとは言えない。 仕組みで減ら
しているかどうかは判断できません。
在庫削減のコンサルティングの依頼
も減っていないしね」
――在庫の減らし過ぎで、揺り戻し
が起きる可能性は?
「それもほとんどないと思う。 日本
のメーカーは何より欠品を怖がるので、
在庫削減に対しても慎重に進めてい
る」
――安全在庫量を計算するには、ま
ず許容欠品率を設定する必要があり
ますよね。 しかし日本では許容欠品
率の水準があまり話題になりません。
「欠品率はゼロ。 もしくは決めてい
ない会社がほとんどです。 つまり在庫
管理がないんです。 もちろん、なかに
はきちんとやっている会社もあるよ。
しかし大部分はそうではない」
――マクロ的な在庫水準は今後も下
がっていくと予測されますか。
「下がってくる。 下げてくるでしょ
う。 私としては、できるだけ一カ月に
近づいて欲しい」
まだ三割は減らせる
――在庫回転期間一カ月という水準
が、何かの目安になるのですか。
「これはかなり感覚的な話になるけ
れど、一カ月を切るというのは、出荷
動向を把握して、生産に反映させる
仕組みを作り上げ、キッチリ管理し
ないと達成できないレベルなんです。
それ以上に減らすとなると、今度は
生産ロットの制約が出てきますから、
やはり一カ月が一つの目安になる。 も
ちろん業種・業態による違いはある
けどね」
――現状が一・四一カ月ですので、ま
だ三割減らせることになります。
「仕組みを作って減らしている会社
はまだ少数派でしょう。 減らせると思
いますよ。 ただし、社内だけでなく、
サプライチェーン全体の仕組みをいじ
る必要があるけれどね」
――サプライチェーンの取り組みとなると、流通の川上ではVMI
(Vendor Managed Inventory:ベン
ダー主導型在庫管理)、川下では一括
物流の導入が盛んです。
「ベンダーが客先の出荷動向を見て商
品を送り込む。 送り込んだ商品の所
有権は客側に移る、というのであれ
ばVMIと呼んでも構わないでしょ
う。 しかし現実のVMI倉庫は、そ
うなってはいない。 客が、ベンダーに
対してそこに置いておけ、在庫を切
らすな、使った分だけ買うと指示し
ているだけです。 これはベンダーによ
る在庫管理でも何でもない。 ベンダ
ーは自分の在庫を管理しているだけ
で、客の在庫を管理しているわけで
はない。 在庫は減りませんよ」
「例えばメーカーがサプライチェー
ンをマネジメントしようと考える。 相
手は問屋さんだ。 そこで問屋のデー
タをもとに生産して送り込む。 それに
基づいて原材料も必要なだけを調達
する。 この仕組みを作ることで調達
先から客先まで管理対象が広がる。 た
だし、そこで問題になるのが、問屋さ
んのデータの信頼性です。 データがい
い加減だったり、恣意的な内示だっ
たり、あるいは返品があったりすれば、
全てご破算です。 つまり市場動向に
合わせて全体を動かすという理屈が
通らず、取引の力関係が働いてしま
うと、SCMはできなくなってしま
う」
――どうすれば良いのでしょう。
「取引先とのビジネスライクな関係
を作ることです。 そもそも返品が容認
されているような取引条件では、在
庫を減らそうなんて誰も考えない。 リ
ベートの問題もある。 リベート目当て
にまとめて買って、後で返品してもO
Kなら、市場動向に合わせて調達す
ることでむしろ損してしまう。 そういう商慣行がある限りSCMは無理。 そ
こにメスを入れないと、どうにもなら
ないよ」
3 MARCH 2007
ゆあさ・かずお
一九七一年、早稲田
大学大学院修士課程修了。 同年、日通
総合研究所に入社。 経営コンサルティ
ング部長、常務取締役を経て〇四年三
月退社。 同四月、湯浅コンサルティン
グを設立、代表に就任。 現在に至る。
本誌に「物流コンサル道場」を連載中。
湯浅コンサルティングの近刊
「在庫管理の基本と仕組みがよ〜くわかる本」
湯浅和夫・内田明美子・芝田稔子著(秀和シ
ステム発行・一四七〇円)
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