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JULY 2005 18
宅配事業者を襲う個人情報リスク
個人情報保護法の完全施行は、良くも悪くも物流
分野に大きな衝撃を与えた。 とりわけ宅配便やメール
便など、家庭向けの小口貨物を扱うビジネスへの影響
は甚大だ。 この法律によって、長年、効率化のために
積み重ねてきた企業努力が違法行為に問われかねなく
なっている。
法制化の前段で国が二〇〇〇年二月に組織した「個
人情報保護法制化専門委員会」の席上でのやりとり
は、宅配事業者を震撼させるのに十分な内容だった。
元最高裁判事を委員長とする同委員会は、個人情報
やプライバシーといった国民にとってセンシティブな
テーマを扱うために集められた、各分野の学識経験者
九人で構成されていた。
その第一〇回の会合(九九年四月七日)で、現在
は帝京大学法学部教授の上谷清委員(元大阪高等裁
判所長官)は、宅配事業者が配送データを蓄積する
行為に対して次のように言葉を荒げた。 「そんなもの
を蓄積しておくのは、それこそ違法な収集というか、
違法な蓄積になるということなのです」。 あえて繰り
返すが、裁判所の長官まで務めた人物の発言である。
たしかに宅配事業者が、個人宅の家族構成や、在
宅率の高い時間帯などを、本人が知らないうちに把握
しているとしたら気持ちのいい話ではないだろう。 し
かしデータベース化して運用しているかはともかくと
して、宅配ドライバーが経験的にこうした情報を利用
するのは当然の成り行きだ。 荷受け側にしても、いつ
も不在票が投函されるよりは、望ましい時間に荷物が
届くほうがサービスレベルは高いと感じる。
宅配便最大手のヤマト運輸は、これまでサービスレ
ベルの向上を図るために個人データを膨大に保有して
きた。 荷物の届け先が不在だと、同社のドライバーは
不在票を残し、後ほど電話で再配達のためのやりとり
をする。 連絡窓口となるコールセンターでは、顧客の
了承を得ることを原則としながらも必要な個人情報を
蓄積してきた。
他にも特定のサービスの内容に応じて個人情報を顧
客に登録してもらうケースは少なくない。 配送伝票に
記載された情報をすべて保管しているわけではないが、
それでも法人と個人を合わせたヤマトの保有個人デー
タは数千万件にも上る。
ヤマトが矢継ぎ早に打ち出すサービスの内容に応じ
て、収集する個人情報の内訳も変わっていく。 このた
め法律の施行後は、「今後どんどん出すであろうイン
ターネットを使ったサービスなどでは、あらかじめ利
用目的を明示して個人情報を登録してもらう」(ヤマ
ト運輸・社会貢献部の弘内泰樹氏)のだという。
かつてヤマトの「宅急便」が郵便小包のシェアを奪
い続け、社会インフラの一つと言えるまでに成長した
裏には、こうした企業努力の積み重ねがあった。 しか
し、その事実をヤマトは声高には表明してこなかった。
プライバシー論争につながるのを懸念したためと思わ
れる。 ところが個人情報保護法の施行は、同社が蓄
積してきたデータの存在を、期せずしてあぶり出して
しまった。
各社バラバラの保護方針
酒販店や米屋による個人宅への?御用聞き〞が当た
り前だった時代には、顧客の事情を良く理解し、わざ
わざ指示しなくてもタイミングよく現れる業者が重宝
がられた。 時代が変わり、情報技術が発展したことで
膨大な情報を電子的に扱えるようになった。 このこと
は日常生活の利便性を飛躍的に高める一方で、大量
郵政の住所データが民業を圧迫する
個人情報保護法の施行は郵便事業の独占状態をより強
固にした。 宅配便やメール便には住所データが不可欠だ。
しかし、民間業者が郵政公社に匹敵する個人データを収
集するのは難しい。 見えない参入障壁が物流市場の公正
な競争を阻害する。 (岡山宏之)
第3部 Report
19 JULY 2005
特集1 個人情報保護法の衝撃
の個人情報が簡単に漏れてしまうリスクも生みだした。
高度情報化社会の利便性は、脆さと表裏一体になっ
ている。
日本における個人情報保護の在り方について、一
連の議論を主導してきた堀部政男中央大学法科大学
院教授は、具体的な個人情報の保護システムを検討
するにあたって、まず考慮すべき視点として、「(情報)
保護の必要性」と「利用などの有用性」のバランスを
とる必要があると訴えてきた。
ここで言う「利用などの有用性」を確保するために、
個人情報保護法では、あらかじめ企業のホームページ
などで「利用目的を公表」しておけば、利用目的の範
囲内に限って個人データを自由に収集することを認め
ている。 ただし、利用目的を具体的にどう明示すべき
かまでは法律では示していない。 ここは監督省庁や業
界団体によって示されたガイドラインに従う仕組みに
なっている。
このガイドラインの内容は省庁間で大きく異なる。
経済産業省のガイドラインが、かなり丁寧に利用目的
を例示しているのに対し、国土交通省のそれはあいま
いだ。 結果として、経産省傘下の業界団体のガイドラ
インが、たとえば日本ダイレクト・メール協会のそれ
のように非常に具体的なのに対し(下図)、国交省の
指導下にある産業では必ずしもそうではない。
企業にとって「利用目的」を完全に明示するのは容
易ではない。 あまりにも詳細に示そうとすると、新し
いサービスを導入するたびに保有する個人情報の本人
たちに告知し直さなければならなくなる。 しかし漠然
とした表現では、利用目的を特定したことにならない。
事が起これば法律違反を問われかねない。 ヤマトなど
がサイト上で公表している利用目的があいまいなのは、
そうした配慮からだ(次ページ図参照)。
さらに個人情報保護法では、情報の開示を本人か
ら求められたときには、特別な理由がない限り遅滞な
く公開することが義務づけられている。 これも膨大な
個人データを持つヤマトにとっては簡単な話ではない。
今回の法律ができるずっと以前から、ヤマトは「転
居・転送サービス」というサービスを手掛けてきた。
転居の際にヤマトに新旧の住所を登録しておけば、旧
住所あてに届いた荷物を、新住所に転送してくれると
いうものだ。
ただし、ヤマトがそのための個人データを一元的に
管理しているわけではない。 「もともとお客様から頼
まれて、現場レベルで自然発生的に始まったサービス。
各店がそういう情報を持っているだけで、全社的に統
一したデータベースがあるわけではない」(ヤマト運
輸・社会貢献部の森田雅哉係長)。 このため、もしこ
のサービスの対象顧客から個人情報の開示を求められ
たら、いちいち現場を調査しなければならない。
こうしたサービスをヤマトが手掛けてきた理由の一つは、最大のライバルである郵便局に「転送サービ
ス」があるからだ。 周知のように、ヤマトと日本郵政
公社は長らくつばぜり合いを続けている。 その郵政公
社の民営化を巡って現在、国会で論戦が繰り広げら
れているが、個人情報保護法の施行はヤマトと郵政公
社の関係にも微妙な陰を落とす。
官民で守るべき法律が異なる
今回の個人情報保護法にはいくつかの関係法があ
る。 民間企業に適用される法律とは別に、行政機関
や独立行政法人に適用される法律があり、日本郵政
公社には「独立行政法人等の保有する個人情報の保
護に関する法律」が適用される。 それぞれの法律を貫
く考え方はほぼ同じだが、利用目的の明示や、収集の
ヤマト運輸の
社会貢献部法務課の
弘内泰樹氏
ヤマト運輸の
社会貢献部安全環境課の
森田雅哉係長
個人情報保護法第15条1項「利用目的の特定」について
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うにあたっては、そ
の利用の目的をできる限り特定しなければならない。
ダイレクト・メール協会のガイドラインより
1、会員は、個人情報を取り扱うにあたっては、その利用目的を
できる限り特定しなければならない。 なお、利用目的の特定に
当たっては、個々の処理の目的を特定するだけにとどめるので
はなく、あくまで最終的にどのような目的で個人情報を利用す
るかを特定する必要がある。
■利用目的の特定
?「当社の商品に関する、ご案内・ご紹介のための【ダイレクト・
メール】を送付させて頂くために、利用させていただきます」
?「ご記入いただいた氏名、住所、電話番号は、名簿として販売
することがあります」
?情報処理サービスを行っている事業者の場合は、「給与計算処
理サービス、宛名印刷サービス、伝票の印刷・発送サービス
等の情報処理サービスを業として行うために、委託された個
人情報を取り扱います」
■利用目的を特定している事例
?「当社の提供するサービスの向上のため」
?「当社のマーケティング活動、事業活動に用いるため」
■利用目的を特定していない事例
JULY 2005 20
制限、罰則規定などが若干異なる。
ヤマトが守るべき法律では、個人情報の収集自体
は自由だが、そのためには事前に利用目的を明示し
ておく必要がある。 一方、郵政公社が守るべき法律
では、やみくもに個人情報を収集することはできない
が、法令で定める業務を遂行するために必要なら、こ
の限りではない。 一見、些細な違いにも思えるが、両
社がその解釈をめぐって論争を繰り広げている?信
書〞について考えてみると、これが天と地ほど異なる
条件であることがわかる。
現在、ヤマトと郵政公社の持っている住所データの
精度には大きな差がある。 業界事情に詳しいある物流
業者は、「ヤマトの未配達率(宛先不明で発送元に戻
ってくる比率)を二%とすると、郵政の場合は〇・
五%くらい。 もし一〇〇万通のDMを送るとしたら未
着分として一万五〇〇〇通の差が出ることになる」と
指摘する。 荷主の立場では無視できない違いだ。
実際、ある大手通販事業者は、「配送サービスのレ
ベルはヤマトの方が明らかに高い。 しかし、郵便の未
配達率の低さは魅力。 サービスレベルに目をつむって
も使わざるをえない」と明かす。
仮にヤマトが本気で信書便に参入しようとすれば、
住所データの精度を郵政公社なみに保つ必要がある。
それができなければ、転居者が新住所を積極的に通知
するとは限らないビジネスを手掛けている荷主は、ヤ
マトを使うことに躊躇しかねない。
過去のヤマトが未公表ながら転居情報を扱ってきた
背景には、このような狙いがあったと思われる。 とこ
ろが個人情報保護法の施行は、そうしたヤマトの陰の
努力を困難にした。 理屈の上では、信書便への本格
参入を目指すためと目的を明示すればいいのだが、こ
れは簡単な話ではない。
民間の宅配事業者であるヤマトが、自分たちの事業
目的を追求するために個人情報を集めれば、冒頭で紹
介したような反発が少なからず出ることが予想される。
一方の郵政公社は、郵便法の規定によって「郵便の
役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供す
る」(郵便法第一条)ことを義務づけられている。 つ
まり法律で定められた業務を遂行するため、わざわざ
明示しなくても個人情報を集めることができる。
郵便局に転居情報を提出するのは個人の自由意思
なのだから、こうした差違が生まれるのはヤマトの信
用力が郵便局より劣るからだという主張もあるだろう。
たしかに一般的な日本人のメンタリティとして、郵便
局なら安心という感情が根強いことも理解できる。 し
かし、これは他に選択肢がないことの裏返しだ。
本当にそれほど公的部門の情報セキュリティに対す
る信頼度が高いのなら、住民基本台帳ネットワークシ
ステムへの国民の反発がこれほど高まることもなかっ
たはずだ。 個人情報保護法は、少なくとも郵便の分野
においては、官から民へという現代の潮流を押し止め
る防波堤になりつつある。
郵便事業会社の肥大化を監視せよ
今国会で審議中の郵政民営化関連法案が成立した
ら状況はどう変わるのだろうか。 現在の法案通りであ
れば、二〇〇七年に民営化して以降に誕生する「郵
便事業株式会社」は、独立行政法人ではなくなる。 こ
れによってヤマトと同じ個人情報保護法に基づく活動
が義務づけられることになる。 イコール・フッティン
グ(対等な競争条件)が実現するかに思える。
だが、ここにも落とし穴がある。 今国会で審議中の
郵便事業株式会社法には、業務の範囲として「郵便
法の規定により行う郵便の業務」(第三条の一)が明
宅配大手が公表している「利用目的」
ヤマト運輸「個人情報保護ポリシー」より
お客様の個人情報は、お客様へのより良い商品・サービスの提供、有用な
情報のお届け、その他正当な目的のためのみ利用いたします。
■利用目的
日本郵政公社「個人情報の取扱いに関する基本方針」より
お客さまとのお取引を安全かつ確実に進め、より良い商品・サービスを提
供させていただくために、必要な範囲で適正かつ公正な方法により個人情
報を収集いたします。
■個人情報の収集
佐川急便「個人情報保護方針」より
当社は、以下の目的で個人情報を利用します。
●集荷および配達、その他輸送に付帯するサービスを提供するため
●お客様からの各種問い合わせや資料請求等に対応するため
●各種サービスの案内等をお客様にお届けするため
●お客様から頂いた意見や要望等を当社のサービス改善等に反映するため
●お客様へのプレゼントや謝礼等をお届けするため
●お客様への報告や必要な処理等を行うため
●当社の事業に関する案内等を行うため
■利用目的
日本通運「個人情報の取扱いについて」(ペリカン便版)より
お客様からお預かりしたお荷物をご指定先に運送する目的のため、お客様
およびお届け先のお名前、ご住所、電話番号あるいは携帯電話番号を収集
いたします。
■個人情報の収集・利用目的
1980年 9月 OECDが個人データに関する理事会勧告
1988年 12月 「行政機関個人情報保護法」公布
1994年 8月 高度情報通信社会推進本部がスタート
1999年 7月 同本部「個人情報保護検討部会」発足
11月 上記「検討部会」が中間報告
2000年 2月 「個人情報保護法制化専門委員会」発足
10月 上記「委員会」が「法制化に関する大綱」
2001年 3月 「個人情報保護法」を国会に提出
2002年 3月 「行政機関個人情報保護法」等提出
2003年 3月 「個人情報保護法」等再提出
5月 「個人情報関連5法」 成立・公布
2005年 4月 「個人情報関連5法」完全施行
個人情報保護法が完全施行されるまでの主な経緯
21 JULY 2005
記されている。 つまり、民営化後の郵便事業会社は、
個人情報の収集目的として「郵便事業の遂行」さえ
明示すれば、かえって現在より自由に情報収集を行え
るようになる可能性が高い。 そうなれば、住所データ
の扱いに関するヤマトとの格差はさらに拡大する。
現在、国会における郵政民営化論争は金融改革に
特化しつつある。 もはや郵便分野は「置き去りにされ
た改革」(松原聡東洋大学教授・囲み記事参照)に過
ぎない。 にもかかわらず形式上、民営化されたことに
なる郵便事業会社は、二〇〇七年以降には「広く国
内外の物流事業への進出が可能に」なる見込みだ。 し
かも郵便事業の独占は続き、この独占事業で得た利
益を、民間会社として自由に物流事業に投じられるよ
うになりかねない。
もちろんヤマトが一段の企業努力をして、郵便事業
会社の独走に待ったをかける可能性もゼロではない。
個人情報の扱いについても、地図情報大手のゼンリン
や、ネット書店のアマゾンドットコムのように、自らの存在価値を胸を張って訴えることで、郵政公社を上
回る信頼を獲得する可能性もある。 しかし、住所デー
タに注がれる国民の視線は日を追って厳しさを増して
いる。 そこまでのリスクを取るのを、純粋な営利企業
であるヤマトに求めるのは酷だろう。
「官の信用力」に基づく情報セキュリティなど幻想
に過ぎない。 今後、郵便事業会社が業務を高度化し
ていけば、個人情報の有効活用は欠かせない。 漏えい
のリスクは確実に高まる。 いかなる組織であろうとも
高度情報化社会では情報の漏えいリスクが避けられな
い。 だからこそ公平な競争を通じて、信頼に耐えうる
仕組みを作り出す必要がある。 郵便事業会社が漏え
い事件を起こしてから、他に選択肢はないと後悔する
のでは手遅れだ。
特集1 個人情報保護法の衝撃
「郵便事業への政府関与は永遠に続く」
東洋大学経済学部 松原聡 教授
――国会で続いている郵政民営化の議論をどうみて
いますか?
「今回の政府の改革は、いまや金融に特化してしま
い、郵便についてはほとんど改革なしだと私は思っ
ています。 二〇〇二年に信書便法ができたのに事実
上、民間の参入がゼロだったということは、たとえ
信書便法で民間参入を許すといっているとしても、
実際には高い参入障壁があって参入できない法律に
なっているということです」
「だから私は今回、日本郵政公社の改革とともに、
信書便法も改正して、実質的な競争が導入されるよ
うなかたちに変わるはずだと思っていました。 とこ
ろが違った。 信書便法はまったくいじらない。 事実
上の参入障壁を見直さないということになってしま
いました」
「このままでは、新しくできる郵便会社は、今より
もっと大きな矛盾を抱えることになるはずです。 独
占部分と競合部分を一緒に持っているという矛盾で
す。 実際に料金を調べてみると、小包などの競合部
分を下げて、独占部分の信書は上げている。 つまり
独占で儲けた利益を競合分野に回して料金を下げる
という、経済学では一番やってはいけないという最
悪のことをしています」
――民営化後もあくまでも特殊な会社として運営す
べきだ、と。
「実は現在の政府のスキームがすでにそうなってい
ます。 持株会社を入れると五つの会社ができること
になっていて、持株
会社の下に四つの事
業会社がぶら下がる。
その五つの会社のう
ち持株会社と郵便会
社と郵便局会社の三
社は、政府が法律で
もって設立した特殊
な会社です。 そこが郵便保険と郵便貯金とは決定的
に違う」
「法律で設立された郵便会社と郵便局会社は、未来
永劫、政府設立の株式会社で、政府の傘下で、最大
の株主は政府という会社です。 そうである以上、保
護もあるけれども、相当強い公的な制約を受けるべ
きです。 こんな会社が民間と同等ということはあり
得ません」
――結局、小泉郵政改革の主眼は、お金を民間に引
っ張り出すことだった。 これをやるうえで郵便の部
分は、いまや足を引っ張る存在にすらなってしまっ
たようです。
「私も長くこの分野を勉強してきましたが、まった
く同じ意見です。 ただね、今の政治状況を考えると
仕方ない面もある。 与野党ともに反対しているわけ
ですから。 郵便に関してもっと競争をきつくなるよ
うにしたら、全逓(日本郵政公社労働組合)はさら
に命がけの抵抗をしたはずですよ」
「やるべき改革にはならなかったけれども、それは
日本の政治情勢がなせる業で、竹中さん、小泉さん
が本来やろうとしていたことは違ったと思う。 彼ら
が、どっちを選ぶかという究極の選択を強いられた
ときに、やはり三五〇兆円のお金を官から民に流す
方が優先順位が高いと判断したのでしょう。 両方や
ろうとしたら、全部が潰れていたはずですから。 そ
ういう意味では、小泉さん自身も忸怩たる思いでし
ょうね」
「私は今の政治状況をみて目をつむりましたが、そ
こを無視して学者として見ると、とんでもない法案
です。 しかし究極の選択の結果、こちらを選ぶしか
なかったというのであれば、残った方が好き勝手を
やっていいというのは矛盾している。 このままでは
郵便は、イコール・フッティングを目指さないまま
民業圧迫だけを進める可能性がある。 いわば、置き
去りにされた改革ですよ」
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