ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年3号
SOLE
シミュレーション活用の生産革新分散型仮想工場でSCMが変わる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2007 104 界があるので、コンカレント・エン ジニアリング(サイマルテニアス・ エンジニアリング)の導入により、 企画・開発・試作・製造ライン立 ち上げの同時並行を限りなく追及し、 量産開始の早期化が指向されつつあ る。
これには、デジタル化、CA D/CAM/CAE導入とネット ワーク化等により情報共有化を実現 し、かつラピッドプロトタイピング (注2)を促進する必要がある。
しかしながら、さらに多品種製品 の変種変量生産に俊敏に対応するた めには、生産工場は、生産資源のフ ル活用、設備計画・導入・運用技 術・生産能力の評価/管理方法を 改善しなければならない。
このよう な対応には個別の生産システム改善 では限界があり、バーチャル・ファ クトリー(仮想工場)を構築し、こ れを積極的に活用することが重要に なると考えている。
バーチャル・ファクトリーの活用 は、SCM構成メンバーとして、生 産可能性(技術的・容量的・納期 予測・遵守・コスト見積もり)の戦 略的意思決定の俊敏性向上に十分 に役立つ。
分散型仮想工場の構築 広義のバーチャル・ファクトリー は図1のとおり、「顧客のモノづく イクルにまでSCMシステムの活 用が及んできている。
製品開発から製造までは、技術 的には、コンカレント・エンジニア リング(注1)、情報化、デジタル 化が進み、さらにデジタル・ファク トリー、バーチャル・ファクトリー へと展開されつつある。
この方向 の発展は、ユビキタス情報環境の 整備とともにさらに進むと考えら れる。
製造現場の生産システムは、 自動化・情報化・統合化が進み、 さらに自律化に向かっている。
これらの技術は、多品種少量・ 中品種中量・少品種大量生産への 対応の中で革新が行われてきた。
し かし近年では変種変量生産に柔軟 に対処しなければならなくなってき ている。
生産を取り巻く環境に焦点を当 てると、情報化は企業内から企業 間情報ネットワークと進み、さら にユビキタス社会へ向かっている。
グローバル化が進み海外生産拠点 が増え、原材料や部品の調達環境 も大きく変化してきている。
マーケ SOLE日本支部では毎月「フ ォーラム」を開催し、ロジスティク ス技術・ロジスティクスマネジメン トに関する活発な意見交換・議論 を行い、会員相互の啓発に努めて いる。
一月度のフォーラムでは、上智 大学の藤井進教授(神戸大学名誉 教授)から、永年にわたり研究さ れている生産システム革新のなかで も、近年取り組んでいる「分散型 仮想工場の構築」に関して講演を いただいた。
変種変量時代の生産対応 モノづくりの基本は、誰が(W ho)、いつ(When)、何を(W hat)、どれだけの量(How) といった3W1Hの効率的実践を 目指すことには変わりない。
だが、 製品開発にはプロダクトアウトか らマーケットインに移行し、製品 管理にはサプライチェーン・マネジ メント(SCM)システムが大き な役割を果たし、製品のライフサ SOLE日本支部フォーラムの報告 シミュレーション活用の生産革新 分散型仮想工場でSCMが変わる The International Society of Logistics ットの変化も早く、変種変量生産、 電子商取引、サプライチェーン・ マネジメント、バーチャル・エンタ ープライズ等への対応に俊敏性(ア ジリティ)が強く求められてきてい る。
生産システム改革を進める上で、 次の三つの視点を持つ必要がある。
?サプライチェーン全体での位置 づけ?サプライチェーン構成メンバーと しての製造業の対応 ?個別生産システムの効率化(ラ イン改善、ロボット導入等) ?についてさらに言えば、生産 面における「量的、時間的、コス ト的対応」は、生産システムの「総 生産容量/生産余力」と密接な関 係にあり、さらに、経営面での対 応における「品質/納期/価格」、 特に「価格」にも密接な関係にあ る。
こうした状況においては、戦略 的意思決定の俊敏性が重要である。
これまでの製造業の対応は、計画 段階での企画・開発・試作・製造 ラインの立ち上げから、運用段階 の量産へと逐次的に実行されてい くことが一般的であった。
しかし、 逐次的実行ではその短縮努力に限 105 MARCH 2007 り参画の開発設計から、製造工場 での部品調達・製造プロセス、製 品の顧客への発送まで」と定義で きる。
一方、ここで考えるバーチャル・ ファクトリーは、従来の生産シス テムシミュレーション技術を発展 させて、「コンピュータの中に仮想 工場を構築する」ものであり、狭 義のバーチャル・ファクトリーとい える。
生産システムシミュレーションの 利用には仮説検証―設計段階―運 用段階の三つの段階があるが、従 来は仮説検証からシステム設計段 階までが中心であった。
だが、実 際には運用段階まで拡大してシミ ュレーションを行う必要がある。
シミュレーションを運用段階ま で用いる意義は、予測機能の強化 にある。
サプライチェーン構成メン バーである製造業の対応としての 俊敏な戦略的意思決定には、運用 段階の予測が不可欠と考える。
ま た、SCMからの要請として、品 質、納期に加えてコスト分析も重 要であり、この対応にも運用段階 のシミュレーションが不可欠 となる。
また、局所的な意思決定の 全体システムへの影響の検証・評価は、現在、実システ ムの実測に頼らねばならない が、バーチャル・ファクトリ ーを用いた分析により短時間 で検証・評価することが可能 である。
仮想工場の構築には生産シ ステムのモデル化が必要であ るが、大規模になるほどその モデル化は複雑となり課題が 多くなる。
モデル化の課題を、?大規 模性、?広域性、?自動化レ ベル、?拡張性・追従性の四 つの項目で整理すると、それ ぞれ次のような課題がある。
?大規模化により、全体シス テムを理解する人材が限られ てくる。
また、シミュレーシ ョンの実行時間が長時間になる。
? 広域化により工場が国内外での活 動に連動すると、使用言語、時差 が問題となる。
?自動化レベルで は、機器/装置の自動・半自動・ 手動が混在した場合には、モデル 化が複雑になる。
?拡張性・追従 性(メンテナンス性)に関しては、 部分的なモデルの変更が全体へ大 きな影響を及ぼしメンテナンスも 複雑となる。
こうした課題をふまえ、仮想工 場の構築は小規模モデルから始め、 それらを統合して大規模モデルを 構築していくのが有効である。
そ のようなモデルの大規模化により、 仮想生産システムも大規模になる ため、結果的に「分散型システム の構築」が不可欠となる。
分散型になると言語、通信、同 期、データ(表記)の整合性の維 持・解決が重要となる。
また、仮想工場の構築も分散型とする方が 効率的である。
分散仮想工場の概 念は 図2のとおりである。
分散型仮想工場の構築には二つ のアプローチがある。
一つは既開 発シミュレーション資産の活用で ある。
そこには異種シミュレーショ ン言語が混在することになるため、 それらの統合が課題となる。
もう 一つは資産の新規開発であるが、そ MARCH 2007 106 サプライチェーンのメンバーとし ての製造業への要請は、品質、納 期だけではなく、価格も重要とな ってきており、ますます生産現場 のプロフィットセンター化が進むも のと思われる。
製造の外注化のE MS業態も台頭してきており、内 製か外注かの視点からも、生産現 場におけるコスト管理は必須とな っている。
従来、生産計画の効率性評価は、 生産量、稼働率、納期遅れ等の「時 間・個数を基準とした指標」であ ったが、これらには指標間にトレー ドオフの関係が存在し、評価指標 の選択が困難であった。
製造コストを基準とした単一の 指標を用いることにより、この問 題は回避できる。
このため、これま でに製作した分散型仮想工場の構 築にあたっては、原価計算法とし て個別製品のコスト計算にActivity Based Costing(ABC法)を採用 し、二段階で個別製品への配賦を 可能にしている。
製造コストによる効率評価は、従 来は実績データによる事後計測し かなかったが、仮想工場では、シ ミュレーションにより事前予測が 可能である。
最後に、ポイントを整理してお こう。
――大規模生産システムのシミュレ ーションのモデル化技術の開発は、 分散型シミュレーション技術活用 による複数の仮想工場を構築する アプローチが現実的である。
――近未来となったユビキタス情報 環境のもと、モノづくりのトータル ライフサイクルにおける意思決定プ ラットフォームとして次の事柄が期待されると考えられる。
・企業内生産・物流システムでは、 分散型バーチャル・ファクトリ ーにおける大規模・複雑生産シ ステムの実用的意思決定支援、物 流指標とコスト指標の開発 ・自律型生産システム設計・運用 (スケジューリング)支援 ・企業間交渉・電子商取引システ ム等 ――企業内・企業間における、さ まざまな生産・経営の問題に関し て、その計画・設計・運用・改善 段階の各局面に対応した、迅速・ 適切な意志決定支援が強く求めら れている。
これらの観点から、分散型仮想 工場の構築とサプライチェーン・マ ネジメントへの適用は大きな貢献が できると期待し、推進している。
こではリアルタイム性が重視された シミュレーション用プロトコルHL A(High Level Architecture)や Web Based Simulation 等の新し いシミュレーション技法の使用が 課題となる。
以上の要素を組み入れ、これま でに分散仮想工場の離散型製品 (注3)の製造モデルを構築してい るが、それは七台のコンピュータ で稼動するものである。
また、こ のモデルでは、生産管理部とエリ アシミュレーションの機能の連携 に様々な工夫をこらしている。
シ ミュレーション時間の同期管理と して物流システムモデルにロール バック機能(注4)を付与した「フ ェーズドバケット法」(注5)を提 案している。
経営指標として、売り上げ、原 価、利益、投資効率が重要である ことは周知のとおりである。
これまでは「コスト+(プラス) 利益」にて売価が決められること が多かったが、本来「売値―(マ イナス)原価」の利益をいかに出 せるかを直接的指標として議論す べきである。
経営ステージだけではなく、生 産現場までプロフィットセンター 化することで、この共通指標での 一貫した管理が可能となる。
注1:コンカレント・エンジニアリング 設計から製造にいたる業務を同時並行 的に処理することで量産までの開発プロ セスを短期化する開発手法。
注2:ラピッドプロトタイピング 設計の形状情報を元に短時間に試作品 を作ること。
光造形技術を用いた、形状 複製、形状リバースエンジニアリングで 行う。
注3:離散型製品 電気製品、カメラ、工作機械、自動車 のように「離散的な部品」を組み合わせ て最終とする製品。
一方、「連続型製品」 は鉄鋼、化学などのような生産形態をと る製品を指す。
注4:ロールバック技法 シミュレーションを途中で止め、逆に 戻す技法。
一般的なシミュレータはシミ ュレーションを逆へ戻す機能がない。
注5:フェーズドバケット法 シミュレーションの同期機構を、シミ ュレーション時刻を一定のタイムフェー ズに分解して行う方法。

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