ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年3号
ケース
ビジネスモデルライトオン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

51 MARCH 2007 SPA化の失敗をバネに ライトオンはジーンズを核としたカジュア ル衣料の大手だ。
〇六年八月期の売上高は九 五三億円。
自社企画品の比率は低く、アパレルメーカーからの仕入れ販売の比率が全体の 約八割を占める。
ショッピングセンター内の 店舗を中心に、都市型/地方型の路面店を構 え、関東を中心に北海道から沖縄まで全国約 四〇〇店舗を展開している。
業績は好調だ。
〇三年八月期以降、売上 高は年一五%前後のペースで伸びている。
店 舗数を〇三年二二九店、〇四年二六一店、〇 五年三一五店、〇六年三七三店と加速度的 に増やしており、今後も年七〇店のペースで 新規出店していく計画だ。
経常利益率も〇四 年八月期以降、一〇%超を維持している。
好調な業績は、〇二年にスタートした社内 改革によるものだ。
キッカケは折からのユニ クロブームだった。
ユニクロの九九年〜〇一 年の売り上げは、一一一〇億円、二二八九億 円、四一八五億円と、倍々ペースで拡大した。
フリースをはじめとする独自企画の低価格商 品に消費者が押し寄せた。
ユニクロの客層や商品群はライトオンとバ ッティングする。
業績への影響は深刻だった。
それまで毎年二〇%ペースで伸びていた売上 高が、〇二年八月期には一・五八%と低迷。
六〜八%あった経常利益率は二〜四%に半減 した。
巻き返しには価格競争力の強化が必須だっ た。
しかし、自社企画製品を自社店舗で販売 する「SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売り)」のユ ニクロとは異なり、ライトオンは販売する商 品の九割をナショナルブランドメーカーから 仕入れていた。
原価の低減には限界があった。
そこで〇一年八月にSPA化に乗り出した。
それまで複数のブランド名で出していた自社 企画商品をライトオンブランドに統一し、自 社ブランド品の比率を約五割に引き上げた。
最終的には自社ブランド品の比率を八割にま で高める計画だった。
ところが、これが裏目に出た。
もともとデ ザイナーやパタンナーを社内に抱えていなか ったため、自社企画製品といっても開発はす べて外部に委託するしかなかった。
しかも委 託先は複数に分かれている。
その結果、同じライトオンブランドであるにも関わらず、委託 先ごとにサイズや色、素材の規格がバラバラで、 色味も違うといった事態を招いてしまった。
SPA化開始から半年後の〇二年二月、S PA化の中止を決定し、従来の仕入れ中心型 に軌道修正した。
同時に、戦略・施策の決定 に店舗の声を反映する「現場主義」の方針を 打ち出し、「PDCA(Plan-Do-Check- Action)」サイクルに基づいた「売れる仕組 み」を構築する全社的な改革に着手した。
それまでは、本部主導で決定した計画を現 場(店舗)に落としていくやり方で、現場の ビジネスモデル ライトオン SPA化を断念して仕入販売に回帰 一括物流&毎日補充で品揃え強化 ユニクロブームへの対抗策としてSPA化を図 るも失敗。
業績が急落した。
事業を仕入れ中心 に軌道修正するとともに物流体制を見直し、店 舗への商品補充を単品単位で毎日行う一括物流 に改めた。
在庫回転期間が0.6カ月短縮し、粗利 率は7%向上。
経常利益率は10%を超えた。
MARCH 2007 52 声が反映されにくく、本部と現場の連携が弱 かった。
本部においても組織間の壁があった。
これを、店舗起点に切り替えるとともに、情 報の流れを上意下達式から交流型に切り替え ることを目指した。
単品単位で毎日補充 改革のリーダーを務めたのは、SPA要員 として〇一年九月に中途入社した梅田泰弘商 品計画部長(当時。
現・取締役経営企画部 長)だった。
「既に始まっていたSPAの進 め方を見て、こんなやり方では無理だと思っ た。
成功させるなら、一から人を育てなけれ ばならない。
それには少なくとも二、三年は かかる。
現実的に考えて、SPA化中止は正 解だった」と梅田取締役は振り返る。
改革の取り組みにおいて、物流面では、店 舗への商品補充を単品単位で毎日行う「デイ リーフォロー」体制の構築を目指した。
従来、 商品は仕入れ先であるメーカーや商社から店 舗へ直送していた。
仕入れ先は約二〇〇社に 上る。
仕入れ先は各店舗への出荷が一定量にまと まらないと出荷してくれない。
補充は一〜二 週間待たなければならず、長いと一カ月待つ ケースもあった。
補充を急ぐ場合は、さしあ たって補充の必要がない商品まで出荷依頼を かけて出荷単位を満たすなどの対応をとって いた。
一方、各店舗では、販売員が荷受け作業と 仕入れ確認に忙殺されていた。
仕入れ先によ って使う運送業者が違うため、業者ごとに一 日に三、四回は荷受け作業が発生する。
接客 の合間を狙って行う仕入れ確認作業は、売れ て忙しい店舗ほど負担になる。
「商品は次から次へと入ってくる。
どんどん 片付けてしまわないと溜まって追いつかなく なる。
とにかくやってしまわないといけない ので、時間と作業をなんとかやりくりしてこ なしていた」と、店長を経て現在ロジスティ クスチームの宇野英明氏は当時の苦労を語る。
各店舗のバックヤードには、検品・検収な ど仕入れ確認作業が追いつかない商品が積み 上がった。
最終的には年に二回の棚卸しまで に仕入れ確認作業を行えば大きな問題は無い という認識もあり、溜まった作業は後回しに なりがちだ。
必要な商品がバックヤードにあることは分 かっても、その山の中のどこにあるか分から ない。
同じ商品であれば、わざわざ積み上が った山の上からではなく手前にある物から仕 入れ作業を行ってしまう。
先入れ先出しが機 能していなかった。
店舗にあるはずの商品が店頭に並べられな い。
当然、販売機会を損失する。
一方で無くてもよい在庫が膨れ上がる。
悪循環に陥って いた。
こうした問題を解決するために、店舗に対 して必要な商品を、必要なときに、必要なだ け供給する仕組みの実現を目指した。
同時に 店舗の荷受け作業負担をできるだけ減らさな ければならない。
複数の商品をまとめて店舗 に納める一括物流を導入することにした。
このアイデアに当初、経営陣は難色を示し た。
一括物流センターの設置によって新たに 運営コストが発生すると考えたからだ。
これ に対し、梅田取締役は仕入れ先からセンター ライトオンの梅田泰弘 取締役経営企画部長 53 MARCH 2007 こうして一括物流体制が本格的にスタート した。
一括物流対応の仕入れ先を徐々に拡大 し、本格稼働から半年後の〇四年八月までに、 全仕入れ商品のうち約四〇%がセンター経由 の納品に切り替わった。
成果は上々だった。
「従来は、年末年始や ゴールデンウィーク中は仕入れ先が休みで出 荷が止まってしまうため、店舗に商品が補充 されなかった。
仕入れ先の休みに関係なく商 品が補充された時には、改めて一括物流の効 果を実感した」とロジスティクスチームの宇 野氏はいう。
その後〇五年には、従来から一部の輸入品 を保管していた茨城県つくばの自社倉庫と、 川口のTCを統合する形で、伊澤の持つ千葉 県柏市の倉庫に拠点を移転。
現在の柏・市 川・大阪の三拠点体制ができあがった。
三つ の拠点は、柏は上着類(トップス)、市川は 靴下やアンダーウェアなどの小物類、大阪は ボトムス、と商品群ごとに役割を分けている。
こうして〇六年八月までに、独自の物流網 を持つリーバイスとエドウィンを除くほぼす べての仕入れ先が一括物流センター経由に切 り替わった。
現在、全仕入れ商品のうち約九 〇%がセンターを経由している。
この一括物流体制の構築と並行して、これ まで自社倉庫で物流部が処理していた現場業 務を完全にアウトソーシングに切り替えた。
当初、一括物流の委託先候補には日通やセン コー、佐川といった大手も挙がっていた。
あ えて大手ではない伊澤と丸二倉庫を選んだ理 由は、両社ともアパレルに強いことと、一心 同体になって改革に取り組めることだった。
「大手にとっては、ライトオンはその他大勢 の一つになってしまう。
担当者の交代があれ ば、それまで築き上げたものがそこで途切れ てしまう。
物流のノウハウに乏しい当時の当 社に取っては、お互いに社運をかけるくらい の覚悟で取り組める相手が必要だと判断し た」と梅田取締役は言う。
ITを活用して在庫を最適化 情報システムの再構築にも取り組んだ。
「売 れる仕組み」を構成する「五適」を満たすシ ステムというコンセプトだ。
五適とは「適時」 (必要な時に短時間で売り場へ)、「適品」(顧 客が望む商品を売り場へ)、「適量」(過剰で なく機会損失も無い)、「適所」(見やすく選びやすい売り場)、「適価」(買いやすい価格) を指す。
従来のシステムは、機能間の連携が取れて おらず、また使い勝手も悪かった。
そこで基 幹システムにSAPのR3を導入。
それに連 結する形で、「PDCA(Plan-Do-Check- Action)」の各機能を処理するアプリケーシ ョンを導入した。
計画システムには、JDAソフトウェアの 「Arthur」と、日本総合システムの「Visual MerchanDiser」を採用した。
この計画シス テムは商品販売計画を立案するだけでなく、 フィーを受け取って運営する仕組みを説明し、 さらに販売ロスが減り、在庫効率が上がり、店 舗の作業負担を減らして販売に集中させられ るというメリットを説いて承諾を取り付けた。
もっとも、新たな負担を強いられる仕入れ 先は簡単には納得しない。
ライトオンの提示 したセンターフィーに対し、自分でやった方 が安いと言い切る仕入れ先も少なくなかった。
ところが詳しく調べてみると、そういう仕入 れ先ほど人件費まで含めた広い意味でのトー タル物流費をきちんと把握していない。
フィ ーは決して高くはない。
むしろ一括物流でお 互いに売れ行きが伸びて利益が伸びることの メリットを訴えた。
商品の九割を一括物流に 〇三年一月、倉庫会社の伊澤が運営する埼 玉県川口市のTC(通過型センター)から一 括物流がスタートした。
同八月には、丸二倉 庫の拠点を賃貸する形で大阪にDC(在庫型 センター)を立ち上げた。
さらに〇四年二月、 千葉県市川市にある丸二倉庫のiBLプラザ に入居する形でDCを追加した。
経営企画部ロジスティク スチームの宇野英明氏 MARCH 2007 54 計画を「見える化」して経営層の意思や計画 情報を全社で共有する機能を持つ。
経営計画、 店舗計画、商品計画、フェース(売り場)計 画といった複数の計画をリンクして、全社的 な計画と店舗レベルでの計画を全社で共有す る仕組みだという。
「D(Do)」にあたる業務実行システムも同 じJDA社の「PMM」だ。
計画システムで 算出された販売計画に、実際の販売状況を反 映させて、対処方法・推奨値を自動算出する。
これによって売れ筋商品の欠品と死に筋商品 の過剰を抑え、在庫を最適化する機能を持つ。
商品発注、店舗への配分、補充、店舗間の移 動といった業務の処理負担も軽減される。
「C(Check)」には、ビジネスオブジェ クツ社の「Business Objects XI(エックス アイ)」を導入した。
他のシステムと連携し て、各種のKPI(Key Performance Indicator:主要業績評価指標)や販売動向 を監視して視覚的に表現し、異常が発生した 場合にはアラーム(警告)を出す。
「従来は、数字を引っ張ってきて分析して、 という作業にかなりの時間を要していたと聞 いている。
XIなら、必要な情報を必要なと きに取り出せて、しかも分かりやすい。
使い 勝手の良さが評価されている」と日本ビジネ スオブジェクツの味戸忠義マーケティング部 マネージャーは言う。
この新システムをチェーンオペレーション にフル活用している。
まずシーズン前に計画 システムで仕入れ計画を立て、店舗別SKU 別の初回投入量を決める。
シーズンに入って 販売を開始すると、今度は「PMM」で計画 と実績を照らし合わせ、売れ行きに応じた対 応を取る。
売れ行き好調であれば、追加買い 付けや、予定していた値下げの時期を遅らせ るなどして欠品を防ぐ。
逆に売れ行きが不調であれば、仕入れのキ ャンセル依頼や、値下げ時期の前倒しで売り 切る。
例えば昨年末はダウンジャケットの在 庫を一括物流センターから大量に出荷して一 気に売り切った。
センターを預かる丸二倉庫 の里内健一役員待遇首都圏副業務統括部長 は、「今年は稀に見る暖冬で、二月の頭で既に 春のような日が続いている。
ライトオンさん の読みはさすがだと感服するばかり」という。
一括物流の運営の仕組みは次のようになっ ている。
まずライトオンの本部が、約二〇〇 社の仕入れ先にインターネットの専用ページ を通じて二週間分の販売予定情報を伝える。
販売予定情報は、二週間のうち一週間分をロ ーリングする形で毎週更新する。
仕入れ先は この情報を受けて、物流センターに週に一回 の頻度で商品を納入する。
センターではこれ を預かり在庫として保管しておき、ライトオ ンからの出荷指示を待つ。
出荷単位はSKU(最小在庫管理単位)レ ベル。
靴下一足、サングラス一本単位から対 応している。
毎日深夜に各店舗への出荷指示 データがライトオンの本部を経由してセンタ ーに届く。
翌朝、この指示データに基づいて 預かり在庫をピッキング。
同じ施設内のライ トオンの所有スペースに移動する。
この時点 で所有権がライトオンに移る。
ライトオン側 のスペースには基本的に在庫は保管しない。
すぐに店舗別に仕分けて出荷する。
商品群ごとに三カ所に分かれたセンターか らの出荷と店舗への納入は佐川急便が一括し て請け負っている。
別々のセンターからの出 荷物でも、佐川急便の着店でまとめられるた め、店舗側の荷受けは一日一回で済む。
従来は店舗への納品時点で行っていた検品・検収 作業をセンターの出荷時点で処理することで 店舗の荷受け負担も減らした。
箱が届いたら、 開けてそのまま陳列すればよい。
取り組みの効果は見事にあらわれた。
店舗 への補充リードタイムは一〜二週間短縮した。
リードタイムが長かった商品では一カ月以上 短縮したものもある。
在庫回転期間は一・七 七カ月から一・一七カ月と、〇・六カ月短縮 した。
あるべき商品が店頭に並び、各店舗で 積み上がっていたバックストックはなくなり、 店員は販売に集中できるようになった。
丸二倉庫の里内健一役員待 遇首都圏副業務統括部長 55 MARCH 2007 販売機会の損失が減った効果は試算してい ない。
しかし売り上げの増加は明らかだ。
利 益率も大きく改善した。
〇二年八月期に四 〇・五%だった売上総利益率(粗利率)は、 〇六年八月期には七・一%増の四七・六% にまで引き上がった。
二・三九%にまで落ち 込んだ経常利益率が三期連続で一〇%を超え ている。
仕入れ先との情報連携を強化 「成功要因としては、小売りの要である現 場スタッフがしっかりしていたことが大きい。
そして、行き当たりばったりで進めず、初め に戦略を明確に打ち出したこと。
三年くらい のスパンで戦略を立てたらあとは突き進むだ けだった。
絵が描けているから、協力してく れる倉庫側も提案がしやすいし、内部でも一 つの方向に向かって進んでいける。
手前味噌だが、かなりうまくいった取り組みだと自負 している」と梅田取締役は笑顔を見せる。
サプライチェーン全体での効率化を図るた め、仕入れ先との情報共有を更に進める新た な取り組みを始めている。
仕入れ先約二〇〇 社に対して販売計画や実績情報の分析結果を リアルタイムで提供するというものだ。
従来から売り上げ実績等の情報は担当者か ら仕入れ先の担当者にメール等で送っていた。
だが送っていたのは生データで、分析結果で はなかった。
仕入れ先でそれぞれデータ分析 を行う必要があった。
情報分析基盤をアップ グレードし、セキュリティにも配慮して仕入 れ先がネットワークにアクセスして分析結果 まで入手できる仕組みにした。
今後は、この仕組みを通じて仕入れ先の生 産進捗状況を把握するなど、仕入れ先との情 報共有を更に進めていく考えだ。
( 森泉友恵)

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