*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
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一〇年で売り上げが三倍に
まずはエンターテイメントUKの概要から
説明したいと思います。 六〇年代に創業した
当社は、レコードやビデオの卸業務からスタ
ートしました。 現在ではCDやDVD、ゲー
ムといった「ホーム・エンターテイメント」商
品に加え、書籍や携帯電話、小型電子機器ま
でを取り扱うようになりました。 二〇〇五年
の売上高は一二億ポンド(約二八〇〇億円)
です。 この数字は一〇年前のほぼ三倍に相当
し、五年前の約二倍となります。
当社はイギリスのエンターテイメント市場
でシェア二五%を握り、業界トップであるば
かりでなく、食料品卸を除くとイギリス最大
手の卸業者となります。 物流はロンドン近郊
の四つのセンターで処理しています。 常勤の
作業員は一〇〇〇人ですが、繁忙期には三〇
〇〇人にまで拡大します。
主要サプライヤーはソニーやペンギンブッ
クス、ディズニーやマイクロソフトなどで、合
計すると一〇〇〇社超と取引があります。 一
〇万SKU(在庫保管単位)に上る取扱商品
をいったん物流センターに集めて、小売業者
に配送します。 代表的な販売・納品先はテス
コやWHスミス、モリゾンズやアマゾン・ド
ット・コムなど合計三〇社、二九〇〇店舗に
達します(
図1)。 さらにまだ売上高全体に占
イギリスの卸業者であるエンターテイメントUKが取り扱う商品は、CDやDVDに始まり、
書籍や携帯電話にまで広がってきた。 一〇年前、売り上げが伸びるという予測に基づき、物流セ
ンターの増設を計画したが、予測を上回ったため、さらなる増設に踏み切った。 しかしその間に
物流コストは上昇。 同社は社内の組織活性化と新システムの導入で、物流コストを下げながら、
かつサービスレベルを向上させることに成功した。 同社のマイク・クインターナ事業開発部長が
一連の改革について語った。
(取材・編集
本誌欧州特派員
横田増生)
欧州SCM会議報告
エンターテイメントUK
十万SKUのAV商品を小売店に配送
コスト削減を狙い需要予測システム導入
〈第六回〉
マイク・クインターナ
事業開発部長
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と思います。
過去一〇年間で売り上げを急速に伸ばして
きた当社が、このままでは物流センターが手
狭になり物量増に対応できなくなると考えた
のは一九九七年のことでした。 当時、三カ所
の物流センターを使って出荷と返品業務を行
ってきました。 そのころ年間の取扱件数は一
億件でした。 これが二〇〇五年には一億六〇
〇〇万件まで伸びるだろうという予測に基づ
いて新センターの建設に取り組みました。
二〇〇〇年には、三カ所のセンターを二カ
所に集約して、年間の処理能力もそれまでの
一億二〇〇〇万件から一億五〇〇〇万件に高
めました。
二〇〇〇年に立ち上げたグリーンフォード
の物流センターは当社の基幹センターで、主
力商品であるCDとDVDを取り扱っていま
す。 ここでは二つの方法でピッキングされた
商品が出荷されています。 一つは、トップ二五〇の売れ筋タイトルで、これは五段ラック
に箱のまま積まれて、そこからフォークリフ
トを使ってピッキングします。 全物量の七
〇%に相当します。
残りの三〇%は小口の注文で、「あるDV
Dを一〇枚届けてほしい」とか、「同じタイト
ルのCDを一枚ずつチェーン店の二五店舗に
届けてほしい」といった注文です。 これは作
業員が手作業で処理します。 商品はアルファ
ベットに従って保管されています。 ピッキン
グされた商品は梱包された後、三台のソータ
ーで仕分けされてから出荷となります。 現在、
める割合は低いのですが、一般消費者に直接
届けるBtoCやオンラインで供給するデジ
タル商品への対応も進めています。
イギリスではエンターテイメント商品は委
託販売制度の下で流通しており、店頭での売
れ残りは卸に返品されます。 そのため、卸業
者の役割の一つは小売業者に代わって在庫を
抱えることになります。 売れ筋商品を常に確
保しながらも、返品を極力抑える仕組みを構
築することが重要な経営課題となります。 そ
れでも全体の二〇%前後の商品が返品されま
すので、ロジスティクスでは出荷だけでなく、
返品の受け皿機能
を充実させること
が不可欠です。
DVDやCD
を中心としたイギ
リスのエンターテ
イメント業界には、
いくつかの大きな
トレンドがありま
す。 一つは販売の
季節波動が大きい
ということです。
売り上げの六〇%
が一〇月から十二
月までの三カ月間
に集中します。 そ
のため、物流セン
ターの作業員数も
一〇〇〇人から三
〇〇〇人へ大きく変動します。
次は、商品のライフサイクルが四〜五週間
と非常に短くなっているということです。 し
かも売り上げの半分は発売第一週に集中して
おり、その後急速に落ち込んで、五週以降に
はほとんど動かなくなります。 毎週七〇〇前後の新タイトルが発売されますので、そのス
ピードに合わせて商品を揃えなければなりま
せん。 加えて販売各社がシェアを高めようと
して実施する販促で使用する商品があります。
販促用商品だけで取り扱いは年間に五万SK
Uに達します。
三つ目の特徴は、商品の価格が大幅に下が
っていることです。 CDは過去一〇年で価格
が四分の一になりました。 DVDの価格も同
様に下落傾向にあります。 価格の低下によっ
て利幅も小さくなるため、業務効率の善し悪
しが最終損益に大きく影響するようになりま
した。
最後の特徴は、新商品がどれだけ売れるの
かという予測が非常に難しくなってきたこと
です。 以前なら、人気歌手のCDの売り上げ
はある程度読めたのですが、最近は商品が発
売されるまでわかりません。 イギリスの人気
女性ボーカル「ピンク」は二〇〇五年に四枚
のシングルCDをリリースしましたが、一番
売れたCDと一番売れなかったCDとの間に
は二倍近い開きがありました。
あと数年で処理能力不足に
時計の針を少し戻して話を進めていきたい
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ピッキングの精度は九九%以上を維持してい
ます。
ところが、当初の予想以上に物量が伸びま
した。 一九九七年の時点では二〇〇五年の物
量は一億六〇〇〇万件前後となると見込んで
いたのですが、実際には二億件にまで拡大し
ました。 これは二〇〇〇年以降、書籍と携帯
電話を取り扱うことになったためです。 書籍
と携帯電話を始めた理由は、いずれも既存の
大手取引先からの要望を受けてのことでした。
「すでにCDやDVDを納入しているのだから、
一緒に書籍や携帯電話も運んでほしい」とい
う内容でした。
そこで当初の計画を変更して、二つの物流
センターを二〇〇三年と二〇〇五年に立ち上
げて現在に至っています。 現時点での年間の
処理能力は二億三〇〇〇万件弱となっています。 しかしそれでも売り上げの伸びからする
と、あと数年で処理能力が不足することが予
想されます(図2)。
コンペでソリューション企業を選定
処理能力は十分となる一方で新たな問題も
発生していました。 物量が増えたにもかかわ
らず、物量当たりの物流コストが上昇したの
です。 特に一九九九年から二〇〇〇年にかけ
ては、物量が大きく伸びて、本来ならスケー
ルメリットによってコストが下がるはずでし
たが、反対に上がってしまいました。
この数字に危機感を抱いた経営陣は、すぐ
に社内の組織改革に乗り出したのです。 その
結果、営業部門と物流現場との間に大きな溝
があることが物流業務を非効率にしており、
それがコスト高につながっていると結論づけ
ました(
図3)。 私自身、最初は物流現場の
責任者として活動し、その後、営業部門に移
ったので、二つの部門が違った論理で動いて
いるのはよくわかっていました。
営業部門は小売業者との取引からどうして
もサービス重視となります。 小ロットであろ
うと、急に入った無理な注文であろうと、で
きるだけ引き受けることで売り上げを確保し
ようとします。 また欠品を避けたいという気
持ちからできるだけ在庫を抱えようという意
識も働いてしまいます。 しかし物流現場では、日々の業務をこなす
ことが最も重要になります。 できるだけ早め
に計画を立てて、人の配置を含めた手はずを
整えたいと考えます。 物流コストを抑えるこ
とも物流現場に課せられた重要な責務の一つ
です。
一番の問題は、二つの部門の間に協力関係
が成り立っていなかったことでした。 両部門
の溝を埋めるために、需要予測と業務改善の
手法を取り入れました。 営業部門と物流現場
の双方から情報を集めて、売り上げの予測を
立てるようにしました。 そのデータに、市場
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全体の動向の分析結果や、販売各社の販促商
品の情報を反映させました。 また、業務改善
として現場のトレーニングをサポートしたほ
か、KPI(重要業績評価指標)レポートを
作成しました。
しかし、それだけでは問題は解決しません
でした。 そのころ当社は四つの問題を抱えて
いました。 一つは返品率の増加、二つ目は在
庫回転率の低下、三つ目はサービスレベルの
低下、最後は物流コストの増加です。 このま
まだと、たとえ売上高が増えても利益が伴わ
ないという状態にありました。
現状を改善するのに一番必要だったのは、
より精度の高い需要予測を弾き出す能力でし
た。 それまでは、過去数年間の売り上げデー
タを分析して、一週間先の予測を立てている
といった状態でした。 それを大幅に変化しなければなりませんでした。 そこで外部のソリューション企業に助けを
求めました。 コンペを開いて五〇社以上の有
名無名のソリューション企業の中から、最終
選考でマニュジスティックス(現・JDAソ
フトウェア)とi2テクノロジーズ、TXT
eソリューションズの三社に絞りました。 そ
して最後は、アパレル産業で同じような需要
予測の経験を持っていたTXTeソリューシ
ョンズ(本社・ドイツ・ハレ市)を選びまし
た。 二〇〇四年のことです。
物流コストを六億円削減
新しい需要予測の方法は、販売先である二
九〇〇店舗すべてから上がってきたPOSデ
ータ(販売時点情報)を集め、対象を売れ筋
の八〇〇タイトルに絞って行うというもので
した。 当社が入力するのは新商品の情報で、
毎週八〇〇タイトルのうちから七五タイトル
を新しい売れ筋商品として選び出します。 そ
れに販売促進や季節的、地域別の要因などの
情報を加えます。
TXTeのシステムは、店舗やタイトルな
どの条件に従って、毎晩、三時間以内に六〇
〇〇万通りの計算を行います。 そして物流セ
ンターと各店舗での適正在庫の水準を測定し、
過不足分を指摘します。 加えて、六週間先ま
での需要予測を算出します。 それらの情報を
社内の購買部門や物流現場と共有するだけに
とどまらず、取引先の店舗や販売会社にも流
すことで、サプライチェーン全体の可視性を
高めることができました。
社内の組織改革とソリューション会社の起
用が車の両輪として機能することで、すぐに
結果が現れてきました。 それまで物量に関係
なく上下していた物流コストにスケールメリ
ットがはっきりと現れ始めたのです(
図4)。
二〇〇四年は、前年に比べ物流コストを二五
〇万ポンド(約六億円)削減することができ
ました。
物流コストに加え、システム導入から一五
カ月で次のような成果が出ました。
●在庫回転率
五・二週間→四・一週間
●返品率
二〇・八%→一七・九%
●商品欠品率
二・六%→一・六%
このような好結果が出たことで、当社は二
〇〇五年に「ヨーロッパ・サプライチェーン・
エクセレンス賞」(センタウル・メディア主
催)、二〇〇六年には「グローバル・リテー
ル・アチーブメント賞」(グローバル・リテー
ル・テクノロジー・フォーラム主催)を受賞
しました。 今後は物流システムに一層磨きを
かけて、ヨーロッパだけでなく、世界中から
注目されるような仕組みにしたいと思ってい
ます。
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