ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年3号
管理会計
管理組織を確立する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

87 MARCH 2007 組織が管理不能に陥るとき ロジスティクスにおいて管理会計は、大き く二つの分野で使用される。
ひとつは投資対 効果の算定時である。
中長期計画や単年度 計画の立案時、あるいは個々の施策を検討 する時に、その妥当性を判断するために管理 会計が使用される。
本連載では主にこの観 点から新しい動きを紹介してきた。
管理会計のもうひとつの使用分野は、部 門評価だ。
毎年、年度末か年初には年間の 収支予算を立てる。
プロフィットセンターで あれば収入と支出の双方、コストセンターで あれば支出のみで予算を策定する。
それを月 次レベルに落とし込んだ部門別の収支表で、 予算と実績を対比して、問題の発生や年間 目標達成に向けた進捗状況を把握する。
会社の経営目標の一部には、必ず売り上 げや利益が設定されている。
しかし、一定以 上の規模を持った会社では、経営トップが 社内の詳細について全て把握することは困 難である。
したがって実態は部門別に管理 することになる。
外部環境や内部環境の変化、新たに打つ 施策が個々の部門にどのような影響を与え るのかを事前に想定したものが予算である。
それと実績を比べることにより、どこが計画 どおりに進んでいるのか、どこに問題がある のを、大まかに把握することができる。
部門別に収支や予算実績差異を見ること は、経営管理の極めて基本的な方法である。
物流部門の予算管理のあり方についても、既 に多くの書籍や報告書などで取り上げられ ている。
だが、そこには問題が潜んでいる。
例えば 物流部門の費用が予算より多くなったとし よう。
その原因はいくつも考えられる。
取り 扱い物量が想定以上に増えたせいかもしれ ない。
顧客からのコスト高な物流サービス要 求が増えたのかもしれない。
あるいは燃料高 騰により輸送費が上昇した可能性もある。
他 にも作業効率の低下、使用輸送事業者の選 定ミスなど、想定される原因は枚挙にいとま がない。
これらの原因は物流部門に起因するもの ばかりではない。
そのため、物流部門の支出 の増加を物流部門単独で改善せよと指示しても、数値は改善されない可能性が高い。
む しろ、予算実績管理そのものの有用性につ いて、物流部門が信じなくなってしまうこと が危惧される。
その結果、組織は管理不能 に陥る。
予算実績管理を上手に機能させるには、 個々の組織の機能およびミッションと権限 を、その部門の収支と連動させなければなら ない。
しかし、管理会計だけを用いて、それ を担保しようとすれば、かなりの負荷がかか る。
また、いくら詳細に設計しても、管理会 計では把握しきれない問題も残る。
予算実 績管理と並行して指標管理を導入すること 管理組織を確立する ロジスティクス部門の持つ権限と、ロジスティクス部門の業績 を評価する基準に矛盾があってはならない。
またコストだけでは ロジスティクスは評価できない。
物流品質や課題の開発など、金 銭に換算することの難しいテーマを管理するために、管理会計と 指標管理を併用する必要がある。
最終回 梶田ひかる アビームコンサルティング 製造・流通事業部 マネージャー MARCH 2007 88 で、そのような問題が解決される。
ロジスティクス組織の設計 日本では、組織を確立する方法が、概念 論や形式論などの抽象的な「論」として認 識されていることが多い。
しかし組織とは設 計可能なものである。
科学的経営という言 葉があるように、経営は科学的であり得る。
そして経営の重要な構成要素である組織も また、科学的に設計することができる。
アプローチはシンプルである。
まずは企業 の目指すべき方向が明確であることが前提 となる。
そして企業の目指すべき方向を満た すように、個々の組織にミッションと権限を 与え、それを評価する方法を考えるのである。
その際、個々の組織および組織間の機能、 ミッションと権限に齟齬が起きないようにす る必要がある。
どの部門がどのようなミッシ ョンを担い、個々の部門がそれを達成するよ うに、十分に動けるかを詰める。
それが組織 を検討する上で必要なことなのである( 図1)。
組織の形に正解はない。
ロジスティクスを コントロール する部門は経 営企画部門で も、製造部門 でも、営業部 門でもかまわ ない。
製造・ 販売・物流の トータルのプロセスを最適化に向けてコント ロールできれば良い。
実際、ロジスティクス先進企業とされる企 業の組織形態は様々である。
トップの直下にロジスティクス本部を設けている企業もあ れば、製造本部が全社のロジスティクスの責 任を担っている企業もある。
同じ製造業で あっても、作っている製品のタイプ、製造の 仕組み、販売先の業態などによって、適切 な形態は違ってくる。
管理会計の設計 部門別収支は、評価のための一つの手法 である。
いわゆるマネーを尺度とした評価で あるため、会社全体の収支との関係を掴み やすい。
しかし発生した売り上げや費用を単 純に部門別に仕分けるだけでは不十分であ る。
それでは社内のどの部門に問題が発生 したのかを把握することはできても、その部 門組織が与えられたミッションを遂行してい るのかどうかは判断できない。
部門別収支を用いて、より正確に組織の 実態を把握しようとするなら、社内取引を 活用することになる。
事業部制を導入して いる企業では、事業部間での社内取引を導 入することにより、個々の事業部の収益把 握を行っている。
欧米では過去からPL(損益計算書)の みではなくBS(貸借対照表)についても収 支管理の俎上に載せてきた企業が多い。
日 本でも最近、EVA(Economic Value Added:経済付加価値)等を用いてBSに ついても、その責任に応じて部門別会計に 載せる企業が増えてきている。
物流についても、その責任範囲を管理会 計に反映し、任務の遂行状況を把握しよう とするなら、物流部門をプロフィットセンタ ー化することになる。
製造に起因して増減す るコスト、営業に起因して増減するコストを、 社内取引のスキームを活用して配賦すれば、 物流部門の収支によって、物流の効率を評 価することができる。
ただし、これは実際にはかなり難しい。
端 的な例を示そう。
物流部門の子会社化は、プ ロフィットセンター化の一つのバリエーショ ンといえる。
しかしながら、子会社の料金体 系がコストと連動していない場合には、子会社の収支は必ずしも物流の効率を示さない。
親会社の物流の小口化、多品種化などが進 めば、子会社はいくら努力しても収益悪化 を免れない。
逆に親会社がいくら物流改善 に努めても、それが反映されない料金体系で は子会社が儲かるだけという結果になりかね ない。
こうした事態を防ぐには、「ABC (Activity Based Costing:活動基準原価計 算)」を用いて、コストの実態に則した料金 体系を設定しなければならない。
しかしAB Cの導入に多大な労力がかかることは周知 のとおりである。
過度な管理負担を避けて実 89 MARCH 2007 態を把握するのに、マネー以外の評価指標 との併用が有効なのである。
極端に言えば、発生した売り上げや費用 を部門別に仕分けた部門別収支は問題が発 生している箇所を特定することだけに使用 し、原因の所在を特定するのには他の指標 を使うという方法でも、正しい実態把握は 可能である。
どこまでの実態を管理会計で 把握し、何を他の評価指標で判断するかを 明確に理解しておくことが重要なのである。
指標管理との併用 管理会計は万能ではない。
いくら精緻に 計算しても、会計数値のみでは把握が困難 なものがある。
その代表的なものに「品質」 がある。
製品の不具合、物流のサービス品 質など、管理すべき品質は数多い。
管理会計においても、品質の問題は時間 が経てば顧客が離れることによる売り上げ の低下という形で現れる。
しかしながら、そ れでは品質の問題が発生した時点で、タイ ムリーな対策を打つことはできない。
またコ スト低減だけを追及すると、品質の劣化を 招く可能性が高いという側面もある。
例え ば、倉庫内で作業効率のみを追求すると、荷 扱いが雑になって破損が増えてしまう。
「時間」も管理会計では取り扱うことが難 しい。
在庫量の増減の影響は、在庫保有コ ストを部門別収支に加えることで解決でき る。
しかし在庫を増やす原因となる生産の 遅れ、出荷の遅れは部門別収支には表せな い。
ABCを提唱したカプランがその後「バ ランスド・スコア・カード」を提唱したよう に、指標管理は管理会計の弱点を補完する上で重要なのである。
指標管理を導入する場合、重要なことは 三つある。
一つは多角的に見るということ だ。
たとえばバランススコアカードでは、財 務の視点のみではなく顧客の視点、人材と 変革の視点など、複数の観点での指標管理 を提唱している。
ロジスティクスにおける指標設定の視点 についても、多く取り上げられている( 図 2 )。
共通しているのは「品質」「時間」「コ スト(財務)」だ。
他にも、近年強化された トラック関連の各種規制のためには「安全」 という観点からの指標も必要になるだろう。
また、大手企業であれ ば「環境」の指標も設 定することが望まれる。
二つ目は、経営の上 位目標からブレイクダ ウンしながら設定し、 具体的な問題箇所の特 定を設定できるように することである。
このよ うな構造にすることで、 トップ層、ミドル層、 現場それぞれの階層で、 常に把握しておく必要 のある指標の数を限定することができる。
ロジスティクスであれば、ロジスティクス 全体での指標を、ロジスティクスを構成する 個々のプロセスの指標にブレイクダウンする。
そのようにすることで、全体指標に問題が生 じたとき、それがどのプロセスに問題があっ たからなのかがわかるようになる( 図3)。
三つ目は、指標の数をなるべく少なくする ことである。
多く設定し過ぎると何に注目す べきかが分からなくなり、結果として指標を 見なくなってしまう。
管理される側にしても、 改善すべき指標が多過ぎれば、どこから着手 すべきか分からなくなってしまう。
その結果、 改善が進まないという事態を招く恐れがある。
ロジスティクス管理には、どのような指標 があるのか、他社はどのような指標を使用し ているのか、といった問い合わせが、筆者のもとには少なくない。
基本的な指標の種類 は限られている。
ただし、その会社のロジス ティクスの形態やレベルにより見るべき指標 は変わってくる。
ライバル企業が採用してい ても、システムなどの制約で採用できないも のもある。
自社の実態に則した指標、多角 的な観点から問題の特定を行える指標を、な るべく絞り込んで採用することが望まれる。
グローバル化への対応 組織設計と評価指標の組み合わせが特に 重要となるのが、グローバル・ロジスティク スの分野である。
グローバル・ロジスティク MARCH 2007 90 スは、管理対象が海外工場や海外販社など 複数の会社にまたがるため、部門別収支表 では実態把握が困難である。
海外販社は設立が古いほど、コントロー ルが難しくなる傾向にある。
現地資本が入 っている場合は、そもそもガバナンス自体が 弱くなる。
親会社の資本が大半であっても、 日本からの十分な支援が得られない中で孤 軍奮闘して市場に食い込んでいったという経 緯から、「本社は現場を知らずに好き勝手な ことを言う」といった意識を持つ子会社も多 いようだ。
とりわけ一九八〇年代までに設立した海 外販社で、かつ売上規模の大きいところに、 そうした傾向が強い。
また、そのようなコン トロールが難しい販社ほど、在庫の問題を抱 えているものだ。
売り上げが大きい分、在庫 も多くを抱えている。
グローバル在庫を削減 するには、そうした海外販社の協力が不可 欠である。
この問題の解決策は、まずグローバル在庫 の削減を、海外の現地法人と日本本社との 共通の目標として位置付ける。
そして、目 標の実現に向けて、各組織の機能、ミッシ ョン、権限、評価指標を定めることである。
他に、情報システムをグローバルに一元化 するという方法も考えられる。
それによって 各地の実態を本社で詳細に分析し、各現法 に指示を出す。
ただし、このような対応が全 てのケースで可能なわけではない。
また本社 のシステムでカバーしていないデータについ ては、海外子会社に対し、実態データを渡せ、 報告しろと指示を出す必要がある。
こ れが往々にして反発を招く。
在庫を 減らせという指令も同様だ。
本社の指令が反発を招く背景には、 海外現法が自らに課せられた評価指標のコンフリクション(利害の衝突) がある。
通常、生産部門であれば製 造原価低減が、販社であれば売上増 大が、それぞれの評価指標として課 せられている。
それは在庫削減とト レードオフの関係にあることが多い。
そうしたコンフリクトを招かないよう に、海外現法統治の全体の枠組みの 中で、個々の組織の機能やミッショ ン、権限、評価指標を検討していく 必要がある。
一般に、見込み生産でグローバル 市場を対象としている場合には、グ ローバル・ロジスティクスを一箇所 ですべて管理するのは困難である。
基 本的な考え方は国内ロジスティクス 再構築と同じとはいえ、地域による 環境の違いは大きい。
地域によって 強い事業者は異なる。
対応しなけれ ばならない規制もある。
そのため、現状では「極」を単位 として、極内の輸送・倉庫配置およ び機能を管理するのが主流となって いる。
世界を三極、あるいは四極な どにブロック分けして、それぞれに統 括会社を置く。
グローバル・ロジス ティクスの管理も極体制を活かした 91 MARCH 2007 形で構築する。
例として図4の形態が考え られる。
グローバル時代の管理会計 グローバル化・スピード化に伴い、ロジス ティクスは複雑化している。
日本国内の市 場が成長しており、国内で作ったものが海外 でも十分に価格競争力があった時代はもは や過去のものとなった。
一方、国内市場は 飽和が言われながら、海外から安い製品が 次々に押し寄せている。
日本企業にとって 今や海外生産、海外販売は避けられない方 向性であるといえる。
本社のロジスティクス部門は、それらを統 合し、全体および極間のロジスティクスネッ トワークを考える立場にある。
ロジスティク ス問題には開発、製造、営業、財務、情報 など複数の部門が関連する。
本社内にそれ らの調整を行う部門は必要だ。
さらにグルー プ全体のロジスティクスを円滑化するために は、グループ全体でのロジスティクス管理と いう視点から組織を設計し、評価基準を設 定する必要がある。
しかし統括会社および現地法人は、ロジ スティクス部門の管轄下にあるわけではない。
連結子会社であることから、通常はグループ 全体の経営管理部門が管轄している。
また、 現地法人が販社であれば営業部門、製造会 社であれば製造事業部門の管理下にもある。
その中でロジスティクス部門は、ロジスティ クスという観点から統括会社および現法の 管理体制のあり方、ミッション、権限、評 価基準などを設定することが望まれている。
そこでは日本国内のロジスティクス管理以 上に、管理会計の知識が必要になる。
管理会計の強みと弱みを理解し、管理会計と対 となる組織設計と評価設計を行うこと――そ れが真にロジスティクス管理会計を活用する ことにつながるのである。
※本連載は今回でひとまず終了します。
筆者には、また新たな 企画で寄稿をお願いする予定です。
(本誌編集部)

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