ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
keyperson
山口広太経営コンサルタント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2007 4 か。
社長が演説する」 「なぜ、社長はそう言うか。
経費の 半分は人件費だからです。
どの企業 もそうです。
そして人件費が五五%を 超えれば倒産の危機です。
四五%は 倒産の兆し。
四〇%は警告。
四〇を 割る。
つまり三〇%台になると優良 企業。
中小企業の経営分析を行うT KCはそう言っています。
社長はその ことを自分の身体で知っている」 「もっとも社長だって人を上手く使 ってきたわけではない。
サービス残業、 見なし残業で現場を泣かし、ごまか し、労働基準局から逃げまくりなが ら来ているわけです。
それと同じこと を営業所長にやれとは、さすがに社 長も言えない。
しかし結果数字だけ は会議で追及する」 「その会議で使われているのが、セ ンター別の『PL(損益計算書)』で す。
しかし、これは会計士に提案されて使っている全国共通の標準フォーマ ットで、その会社独自の管理フォーマ ットになっていない。
そのため会議の 議論が現場とつながらない。
数字の裏 側に潜んでいる仕事のやり方、仕事の 効率が見えない。
財務会計上の勘定 科目を羅列しているだけなので、管理 項目が現場と合わないんです」 「そのためセンター長は、日頃から PLを使わない。
そもそもセンター長 成長の壁を破る ――物流業は零細企業が圧倒的で、後 は一握りの大手。
中堅は少ない。
「他のサービス業や小売業も同じで す。
サービス業の会社の成長には、い くつかの壁がある。
やる気のある創業 者であれば、二店舗目までは目をつ ぶっていても上手くいく。
二店舗目 は一店目と全く同じことをやればい い。
最初の壁となるのが三店舗目。
相 当に権限委譲を進めて、経営者が自 分の時間を作ろうとしない限り、現 場が見えなくなってしまう」 「社長の一日の行動を考えてみれば分 かります。
朝、一号店に出勤する。
昼 から二号店に行く。
そして夜は営業 活動と称して飲み歩く。
ここまでは 上手く回る。
三店舗になると、これ が回らなくなる。
経営者が現場に顔 を出せなくなる。
経営者のいる時し か、現場はちゃんと動きません。
当然、 業績が悪化する。
それが年商で四億 円のレベルです」 「それでも信頼のおける番頭がいれ ば五〜六店までいく。
番頭は優秀で ある必要はありません。
能力よりも 『安心』『安全』が大事。
たいていは 経営者の奥さんか兄弟などの肉親で す。
それでも構わない。
それで一〇億 円までは届きます。
しかし、それが限 界。
それ以上は大きくなれない」 ――その壁を破るには? 「現場の生産性向上の仕組みが必要 です。
番頭がいなくても、カリスマ的 な創業者であったり、猛烈に働く経 営者であれば五〜六店までは自分で 何とかなる。
しかし、それ以上はムリ です。
例えばマクドナルドは、店長を 監督するスーパーバイザーに一人最大 八店舗までしか持たせない。
そしてス ーパーバイザー八人を、さらに上級職 の統括スーパーバイザーに管理させて いる。
そうやって八の倍数で階層を設 定していくことで全国約四〇〇〇店 舗を管理している」 ――中堅が少ないのは、もう一つ理 由があります。
中堅になると管理部 門などの間接費がかかるので、零細 の時よりも価格競争力が落ちる。
「簡単に言うと、利益は現場にある、 本社にはない、ということなんです。
そこが全ての出発点です。
経営者も そのことを分かっているといいながら 実際には本社の会議室で数字を睨ん でいる。
毎月センター長・営業所長 を集めて会議を開く。
今月は利益が 上がっていない。
未達成が何%だ。
そ の原因を君たちはなんだと思うんだ。
人を上手く使っていないんじゃないの 山口広太 経営コンサルタント 「物流サービスの利益は現場にある」 物流業はサービス業だ。
ところがサービス業の基本ノウハウ が物流業には活かされていない。
経営者の意識を変える必要が ある。
マクドナルドの研究をベースに独自に開発した人材活用 手法で、数々の流通業を株式上場に導いた異能のコンサルタン トが、物流業経営者に訴える。
(聞き手・大矢昌浩) には、社員を辞めさせる権限がない。
人が余っても、異動も本社に返すこ ともできない。
給料も決まっている。
従って経営会議の時は、黙って下を 向いて、嵐が通り過ぎるのをじっと待 つしかない」 ――どこから手を付ければ良いのでし ょう。
「まず現場の作業調査です。
商品の荷 受けから、あいさつの仕方まで現場 の仕事を全部調べる。
当然いろんな 人がいろんなやり方をしている。
それ を整理する。
パートでできる作業、機 械で処理する作業、そして社員でな くてはできない作業に分けて、ムリ、 ムラ、ムダを省いて標準化する。
ある いは機械に置き換える」 「本来、センター長や班長などの監 督者は、現場作業をパートよりも、速 く、正確にできなければならない。
そ れで初めて、パートも監督者の話に 耳を貸すわけです。
しかし実際にはで きない。
そのことがパート側にもバレ ている。
そのためパートもベテランに なると、班長や新任のセンター長な どを見下すようになる。
センター長に も負い目がある。
自分ではできないの で、パートに頼り、まかせっ放しにな る。
立場逆転です」 「作業の分析と整理ができていない から、そういうことになるんです。
『作 業のやり方の基準』さえキチンとして いれば、パートに全て任すことができ る。
一般に全作業の七五〜八〇%は パートに置き換えることができます。
どんな業種・業態でもそれは変わり ません。
定型作業なんです」 儲からない理由 ――実態調査よりも、理想的なモデ ルが先にあって、その通りにやるとい うアプローチが主流なのでは? 「完全な間違いです。
その会社に合致 したオリジナルなものでなくては、使 える仕組みになりません。
実は現場 管理のための『オペレーションシステ ム』のマニュアル化のコンサルティン グというのは、株式の上場準備段階 で依頼されるケースが多いんです。
上 場にあたって現場を標準化するため に監査法人にマニュアル化を依頼す る。
監査法人のコンサルティングフィ ーは一年一億円、三年かかるので三 億円にも上ります」 「ところが監査法人の仕事は、どこ かの会社のマニュアルをコピーしてき て、用語をその会社用に修正するだ け。
そのため上場した後は誰も使わ ない。
上場監査の時点では使ってい るフリをしていますが、いったん上場 してしまえば用はない」 ――物流現場にマニュアル化が馴染 むでしょうか。
外食チェーンや物販 と違って、物流は拠点や荷主によっ て仕事の内容が全く違う。
「それも誤解です。
これまで私は外 食や物流はもちろん、理美容業からパ チンコ業まであらゆるサービス業を手 がけてきました。
どこに言っても経営 者は皆『いや先生、ウチは違います。
特別なんです。
ハンバーガー屋のよう にはいきません』という。
マクドナルドと同じ外食チェーンであっても『ハ ンバーガー屋の商品数は三〇前後、ウ チのメニューは何百種類。
同じように いくわけないだろう』と反発します」 「物流業の経営者も同じことをいう。
確かに荷姿や荷主によって物流の特 性は違う。
しかし、そうした違いはど んな商売にもある。
そもそも外食店 というのは、いつ何がどれだけ売れる か分からない。
売れ残ったら数時間 後には食材を廃棄することになる。
そ れでも事前に人を雇って食材を仕入 れて準備しておかなければならない。
しかも高温多湿の労働環境の中で複 雑な作業を秒単位で、朝、昼、晩と 繰り返す。
物流とは比較にならない 劣悪な条件です」 「荷物によって入荷から出荷までの 工程そのものが大きく変わるわけでは ありません。
多くの基本作業は機械化 できる。
単純作業の繰り返しを人間に やらせるから、ウッカリミスとマンネ リで上手くいかないわけです。
また機 械を取り巻く作業のほとんどはパート で処理することが可能です。
パートに できない仕事というのは結局、判断性 業務だけです。
それ以外の作業はパー トか機械やITに置き換えられる」 ――なぜ物流業はパート活用、機械 化が遅れたのでしょうか。
「基本作業というのは、それがあっ て初めて商売が成り立つ大事な部分 とも言えます。
物流業において配送、 荷受け、荷渡しといった作業は品質 を決める大事な基本です。
それだけ にオーナー創業者にはこだわりがある。
大切な仕事を、いつ辞めるか分から ない人間に任せたら作業の品質を維 持できない。
だからパートには任せら れないという考え方になってしまう。
単純作業でパートでもできる作業で あるにもかかわらず仕事をさせない。
それで儲からないと嘆いている。
『意 識改革』と『システム改革』が必要 なのです」 5 APRIL 2007 やまぐち・こうた 一九三六年、福岡 生まれ。
中央大学卒。
食品メーカー、 卸、忠実屋外食事業部長などを経て八 〇年に経営コンサルタントとして独立。
サービス業の経営指導で豊富な実績を 持つほか、パート活用を中心としたマク ドナルドのビジネスモデル研究で数十冊 の著書を発表。

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