ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年1号
現場改善
データを活用して営業を巻き込む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 取締役 石橋岳人 JANUARY 2005 70 オレたち頑張 てるよな 物流が 第三の利益源 と言われるようにな て久しい 実際 物流改善によ て大きな成果を得ている現場は少なくない 物流はいつしか ロジステ クス と呼ばれるようになり 今では サプライチ ン という言葉が経営上の重要なキ ワ ドとなるに至 ている しかしながら コンサルタントとして現場サイドから物流改善を進めていて いつも感じるのは 物流以外の部門を巻き込んで改善を実施しようとしても 物流部門からの提案は必ず邪険にされる という現実である 今回はそんな社内の逆風を見事に追い風に変えた 食品卸A社の取り組みをご紹介する 同社の物流部は 毎年設定される物流コスト削減目標の達成と ロジステ クス改革による顧客満足の向上という二律背反のテ マの実現に苦慮していた それまで長年にわた てセンタ 内の人員の調整や配送契約の交渉を協力物流会社と繰り返し 物流コスト削減に努めてきたため 既に単価の低減は限界に達していた しかも商品価格が下落したことで作業量は増加しているのに通過売上高は下がるという状況にあ た 小口出荷も増加していた その結果 対売上高物流コストは悪化し 絶対額も微増傾向にあ た 顧客満足の向上という面では 物流現場 とりわけ出荷に伴う作業工程において 注文の追加や取り消し 変更など 得意先や自社営業マンからの緊急依頼に出来る限り対応するようにしてきた 出荷品質や配送品質の点でも 人員別誤出荷率等の管理指標を設定して作業のパフ マンスを管理し 配送クレ ムをケ ススタデ とした対応策の検討など 継続的な教育を施してきた そのため物流の現場サイドは 俺たちは結構頑張 てるよな という認識を持 ていた ところが営業側から見れば 正確に届くことは当たり前であり 物流部門に対しては相変わらず 品質が悪い 対応力が無い という意見ばかりが投げ掛けられるという状況であ た 現場には疲弊感が漂 ていた A社の物流現場管理は既に一定のレベルに達していた 改善をさらに推進するためには他部門の協力が不可欠だ た 物流の 頑張り を他部門のメンバ に理解してもらいたいという気持ちもあ た その突破口とするために 物流部門では 物流現場における作業イレギ ラ の発生件数 図1 の集計を始めることにした 1イレギ ラ 業務の定義イレギ ラ 業務の発生件数を集計するに当たり 始めに どのような業務をイレギ ラ 第24回物流部門の提案は 他部門にはまず聞き入れてもらえない しかし改善は他部門の協力なくして成功しない そこで食品卸A社では 説得材料を得るために物流現場で発生するイレギ ラ 業務を数値分析することにした その結果 イレギ ラ 業務の七割は物流部門以外の活動によ て発生していることが明らかにな た デ タを活用して営業を巻き込む 食品卸A社 71 JANUARY 2005からそれまでの発生状況を報告してもら た上で どの状況がイレギ ラ に当るのかを説明し 判断基準の明確化を図 た 事前に危惧した通り 導入後の一週間は作業をするメンバ によ て イレギ ラ 業務の判断にかなりのバラツキが発生した しかし 毎日の業務報告の中で その日に発生したイレギ ラ 状況を各メンバ がリ ダ と確認し またメンバ 間でも情報交換をすることで 共通認識化を進めた その結果 導入後約一カ月で人員による報告のブレは減少した 3トラブルシ テ ングに追われる現場A社ならずとも物流現場の改善を進める上で イレギ ラ 業務の発生件数デ タはぜひ欲しい情報のひとつである しかし 誰もが欲しいと思いながら実際にデ タ化している現場は少ない 主に以下のような理由が挙げられる ■イレギ ラ の定義が難しいため システム的なデ タの集計ができない■イレギ ラ 業務は常に緊急処理を必要とするため 一秒を争う現場でいちいち管理 集計 していられないA社でイレギ ラ 業務の集計を行うに当たり 現場サイドと繰り返し話し合い 最も気を遣 たのも そうしたイレギ ラ 業務を報告する際の運営方法であ た 具体的にはA社に対して次の二点を指導した 1全てのイレギ ラ 業務件数を把握しようと意識し過ぎないこととするか? を明確にするため イレギ ラ マスタ の作成を行 た 現場で起きた現象 欠品など と その要因 入荷遅れなど を洗い出して 一覧表にまとめたのである とりあえず叩き台を作り 詳しい項目については実際の運用後に修正を加えていくこととした 2イレギ ラ 業務の判断次の課題は 担当者によ てイレギ ラ 業務の捉え方に温度差がある ことであ た イレギ ラ の申告をするのは現場を担 ているパ トやアルバイトの作業員である とりあえず作業員にイレギ ラ 業務の定義を伝え 各人2多発しているイレギ ラ の主要因に絞 て集計すること現場のメンバ に対しては上記の二点に加え 出来る範囲での収集 をお願いした 八割程度のカバ 率でも構わないから とにかく集計に協力してもらう デ タの精度よりも まずは集めることのほうが大事という判断だ もともと物流センタ の事務部門は 営業からの追加オ ダ への対応 得意先からの在庫確認や欠品・配送問合わせ 納品クレ ムなどに追われている 一方の作業現場は通常の出荷業務に加えて 事前連絡の無い返品の受付 事前連絡と違う入荷数量・アイテム対応など 種々雑多なイレギ ラ 業務の火消しに忙しい 作業員からすれば通常の指示ル トに乗らないイレギ ラ 業務のカウントなどできない あるいはやりたくないというのが本音だろう この企画を持ち込んだ私自身でさえ そのように感じたことはある 実際 A社の現場は作業をしているメンバ に気軽に話しかけられる雰囲気などないほど忙しくしている しかし そのような状態だからこそ この頑張りを何とか他部門に伝えたか た しかも イレギ ラ 業務のデ タを集計することで次の改善の道筋は絶対に開けると考えたのである も とも いざ蓋を開けてみれば メンバ たちは予想以上にデ タ集計に前向きだ た 導入当初はバラつきがあ たものの 一〇〇%に近いデ タの捕捉ができた 物流部門内向けの説明として イレギ ラ 業務の発生デ タを基に他部門へ 見せしめ を行い 改善交渉を図1 イレギュラー集計フォーマット イレギュラー報告 オーダーNo。
品 名  得意先  担当者  処理内容  要 因  備 考 日付:  年  月  JANUARY 2005 72営業部長 物流イレギ ラ 要因 て何? 物流部長 分かりやすく言えば 高品質・低コストの運営を妨げている要因をあぶりだすために 物流現場で起きている様々な 当初取り決めたル ルが守られていない指示 の件数を数えてみたんです 営業部長 今月はそれが八〇〇件もあ たの?しかも ほとんどの要因が営業絡みじ ない ウチ 営業部門 がいつもおたく 物流部門 に無理言 てるから それを強調するためにデ タを集計したんだな? 物流部長 いえいえ これは営業部門が悪いということを言うための資料ではありません 物流コストがなぜ下がらないのか 物流のミスがなぜ無くならないのかを考えると その原因が通常の物流業務以外に起因していることが多いと感じたので 集計しただけです しかし確かに営業部門の方々に協力をいただかなければ 私どもの業務改善は進みにくいというのは このデ タからも明らかです 営業部長 物流部長の言いたいことは分かるけれど 営業のメンバ もわざと出荷指示デ タを遅らせたり 緊急出荷をかけたりしているわけではないよ 得意先から言われたらどうしようもないしね 物流部長 それは十分承知しているつもりですし 追加発注等も対応しないと言うわけではないのです ただ物流側が感じることは この指示は顧客側のわがままで出された指示なのか?本当は営業のミスではないのか?と思われるような指示があ たり 指示の仕方や提供されるデ タが不十分であ たりと 後工程を意識しているとはとても思えない指示が多いと感じています このような指示が 実は現場のコストを押し上げ 品質を下げる大きな要因とな ています 営業部長 う ん 確かにそれは分かる気がする どうせ変な指示を出す人間は限られているんだろう? 物流部長 今回は 誰が という所までは把握していませんが 詳細の分析をすれば傾向は出図2 イレギュラー要因推移 イレギュラー要因の月別推移 3503002502001501005009008007006005004003002001000要因別件数 件数合計 データ未着 指定数量の超過 顧客指示  入荷遅れ  指示変更  出荷行き先変更  指示追加 伝票作成遅れ 指定取り消し  商品破損  作業ミス  マテハン機器の故障 コンテナの積み方  電話対応  合計 04年1月 04年2月 04年3月 04年4月 04年5月 04年6月 04年7月 04年8月 04年9月することを明言していたからかも知れない こうして収集したA社の物流現場で起こ ているイレギ ラ 業務の状況は図2の通りだ た 集計をし始めた一月度のイレギ ラ 件数は 実に八〇〇件にも上 た そしてイレギ ラ 業務の発生要因は ほぼ現場メンバ の予想通りであ た デ タ未着に伴う待ち時間の発生 四〇%顧客 営業 指示に伴う追加業務の発生 三一%入荷遅れによる作業遅れ 一七%つまりた たの三つの要因で九〇%近くを占めていたのである しかも七〇%は物流現場の前工程の問題がイレギ ラ 業務を発生させる原因にな ていた もちろん営業側が必ず指摘する物流現場の問題もゼロというわけではなく 月によ て一 三%程度の比率で発生していることが分か た このデ タを持 て営業部長の元へと急いだ 営業部長に対して 物流改善の具体的取り組み 物流コストの削減・物流ミスの削減・営業支援体制の構築 と現場の状況を伝えた上で 物流現場の頑張りと営業部門の問題を数値で示したのである 物流部長VS営業部長物流部長 これまで物流改善を進めてきましたが 現場だけでできることはそろそろネタも尽きてきました さらなる物流改善を進めるために また問題点を明確にするために 物流イレギ ラ 要因の把握 を行いました 73 JANUARY 2005ると思います 営業部長 この数値を見ても 純粋な現場のミスはほとんどないことは理解するよ 確かにこちらに現場を思いやるという意識は薄いね どうしてもや てほしい のような出荷依頼は無くならないとは思うけど 営業メンバ にはも と物流 メンバ のことを意識して指示・依頼を出すように一喝しておくよ 物流部長 ありがとうございます 営業部長からの通達が効いたのか このやり取りの直後 二月度のイレギ ラ 業務は大幅に減 た その後 四月度は 極端な通達の反動のためか若干増加に転じたものの マクロ的な傾向として イレギ ラ 業務件数は確実に減少した 二月度以降から 営業部門と物流部門で 物流改善ミ テ ング を定期的に行うようにした ミ テ ングをはじめた頃は どのようにしてイレギ ラ 業務を減らすかということに主眼が置かれ なぜそのような状況が発生するのか を話し合 た挙げ句 場合によ ては名指しの批判が出ることもあ た しかし回を重ねていくに従 て ミ テ ングの内容は少しずつ変化を見せてい た 当初の 起こ てしま た結果に対する反省や責任追及の場 から イレギ ラ を発生させないためには どのように業務や仕組みを変えれば良いのか ということを考える場にな てい たのである 結果を見て状況を嘆くだけ もしくは反省をするだけのミ テ ングには意味がない イレギ ラ 要因分析も数値を取ること自体が目的という形式主義に陥 てしまう そこを今回は営業・物流両部長の後押しもあり 改善して結果を出すことを目的としたミ テ ングにすることができた このミ テ ングから具体的には以下のような改善テ マが生まれた ■納入場所の変更に伴う必要情報と指示命令系統の明確化■物流情報のデ タベ ス化の推進■顧客からの事前情報の共有化の方法など現状ではイレギ ラ 件数が劇的に減少したとまではいえない しかし 物流部門のメンバ からは 以前と比較して 緊急対応にかかる時間が格段に減 た という声があがるようにな た 以前は営業部門からの不正確な出荷指示によ て いろいろと調べながら作業を行わなければならない場合が多か たが 今では追加指示でも迷うことが少なくな た 運営ル ルが明確になり かつ営業がそれを遵守するようにな たからである これまでは物流部門内だけでの改善であ たが 今回の改善でようやくA社は部門横断的な改善に着手できる段階までこぎ着けた これが次のステ プに進み 得意先までを巻き込んだ改善が実現したときには イレギ ラ 件数も劇的に減少することだろう 物流部門だけでは改善できない今回の食品卸A社の事例は 営業部門長が物流に対して理解を示したこと そして物流側でも 自分たちにもまだまだ改善すべき点はあり その部分は改善する という姿勢を見せ しかも結果を出したことが 全社的な改善活動の引き金にな た 物流管理であれ ロジステ クスであれ 使う言葉は何でも構わない 改善を進めていく上で必要なのは 現場作業や協力会社との契約条件を見るだけでは大きな効果は得られないという認識である 物流活動には社内あるいは社外の様々な組織が関わ ている だからこそ経営の観点から物流をまとめられる力が必要になるのである 物流が経営テ マと言われる所以である ところが この連載で何度もお伝えしているように 物流改善を進めようという企業は多くても 改善活動の対象を物流以外の業務にまで拡げているケ スはまだまだ少ない 物流のことは物流部門に任せたと言われても すべてが部門内で解決できるはずはない むしろ物流部門だけで改善できる範囲など ほんのわずかな領域に限られている 物流改善は物流部門に任せるのではなく 業務を横断的に見渡せる部門あるいは経営ト プが積極的に進めていかなければ成功しない そのことを再度確認して改善に取り組んで欲しい いしばし・たけと 一九七〇年生まれ 神奈川大学経済学部経済学科卒 大学卒業後 大手経営コンサルテ ング会社へ入社 その後日本ロジフ クトリ の創業メンバ として マ ケテ ングから見た物流 をテ マに 物流コンペテ シ ン企画運営 物流企業の品質管理・改善および現場改善指導を行 ている また 物流のみならず 経営計画の立案や販売促進指導 提案営業指導など幅広い業務に対応している 九九年六月 取締役に就任 ishibashi@nlf。
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