ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
グローバルSCM
サプライチェーンの評価指標

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCの評価に結びつくものでなけれ ばならない。
試行錯誤を経てできあがったのが、 図1に示した、お客様・オペレーシ ョン・財務の三つの視点からなる六 つの指標だ。
六つの指標の下には、部 門から現場レベルまで細分化した八 〇〇以上に上る指標を定めている。
各指標について、目標値と実績値 を四半期ごとに確認し、最終的には 年間を通じた実績を部門や個人の評 価に反映する。
IBMは、お客様満足度を重視し ている。
そのため従来から、お客様 志向に根ざした多くの改革の積み重 ねがあり、オペレーションやプロセス をお客様にとっての価値を基準にし て見直す基盤があった。
とはいえ、サプライチェーンの現場 レベルまでお客様志向が浸透してい たわけではない。
そこで、ISCの評 価指標の最上位には、お客様の満足 度を示す指標を置くことにした。
だが、通常のサプライチェーンで用 いられる機能別の指標では、お客様 満足度は測れなかった。
製造における不良率、オンタイム の出荷率、出荷後のダメージレート といった指標は、問題点の調査・分 析にはどれも有効だ。
しかし、プロセ スを細切れにした指標を追っている だけでは、お客様にとって重要なもの を見失ってしまう。
お客様を基軸に、 機能間の連携を数字で表せる指標が 必要だった。
まずは、何がお客様の満足度を高 めるのかを正確に理解することから 始めた。
IBMの価値向上に結びつ く可能性のある様々な要素を挙げ、分 析した。
必要なデータと情報を集め るインフラも確立した。
こうして?お客様満足度と?営業 の生産性向上の指標を設定した。
?お客様満足度 製品/サービスの納入時に、満足 度調査への協力をお願いしている。
お 客様が本当に希望する時に納入され ているか、納期回答は正確か、変更 要求に十分に対応しているか――こう した重要な事柄が、満足度調査の結 果で確認できるようになった。
IB Mがどのようにお客様に対応してい るかのビジビリティ(可視性)が大き 三つの視点と六つの指標 戦略の実行にあたっては、現在の レベルを知り、目標とのギャップを把 握するための評価基準が必要となる。
IBMのサプライチェーンを統括す る組織であるISC(Integrated Supply Chain)では、サプライチェ ーンの統合にあたり、評価指標(以 下、指標)を大きく見直した。
統合のスピードを上げるためには、 サプライチェーンのすべての活動を結 び付け、共通のゴールと目標に向か って全体を導く、総合的で分かりや すい評価基準が必要だと考えた。
そ してその仕組みは、真のE2E(En dto End)オペレーションの動 きを表し、かつ、お客様の成功がI APRIL 2007 74 顧客満足を起点として、サプライチェーンの評価方法を抜本 的に見直した。
新たに六つの指標を設定し、それを各SCM部 門の業績評価やスタッフの給与にも反映させた。
これによって ロジスティクス部門の評価基準は、距離当たりのコストからサ イクルタイムの遵守率に変わった。
サプライチェーンの評価指標 第4 回 く向上した。
お客様の声や不満を埋もれさせな いようにも努めた。
お客様の不満を 吸い上げ、適切な責任部門に自動的 につなぎ、即座に対応した。
また、お客様がIBMとビジネス をする際に、できるだけシンプルに行 えることを目指した。
どこにいても簡 単にオーダーできるように、事業やブ ランドの枠を超えてお客様ごとに統 合したインターフェイスを確立した。
さらに、お客様の期待を超える提 案を迅速に行うため、販売と価格を 管理するツールを開発した。
これによ り、オーダーの作成から返品までの 処理をオンラインでリアルタイムに行 えるようになった上、支払いやその他 の経理面での変則処理にも柔軟に対 応できるようになった。
従来は起こっ たことに対しての対応しかできていな かったが、ツールを活用することで、 お客様の要望を先読みしながら対応 するしくみを確立できた。
?営業の生産性向上 この指標は、営業担当者が本来の 営業活動にあたる時間をどれだけ増 やせたかを測るものだ。
変革以前のISCでは自部門の生 産性に重点が置かれており、販売部 門に十分なサポートができていなかっ た。
指標の見直しでこの体制を改め、 ISCが積極的にサポートすること で営業担当を本来の業務に集中させ、 営業の価値・生産性を向上させよう という狙いがあった。
営業担当は当時、細かな応対や煩 雑な事務作業に多くの時間を費やし ていた。
お客様からの問い合わせには 直接対応しなければならず、また、値 引き交渉を受けた際にはISCの各 部門に個別に確認して調整する必要 があった。
まずは営業担当が事務作業に費や している時間を把握し、可能な範囲 で自動化を進めた。
その上で、営業 担当が直接問い合わせに応じる代わ りに、お客様がWebにアクセスして 必要な情報を得られるよう新たにシ ステムを構築した。
お客様が人によ る対応を期待する場合は、営業担当 ではなくISCの該当部門の専門家 が応じるようにした。
また、システムの構築と並行して、 カスタマー・フルフィルメントに関す る業務をISCに統合した。
営業担当者が周辺業務に煩わされ ることなく本来の業務に集中できる ようになり、お客様の利便性が増し た。
加えて、ISCはお客様の情報 を鮮度の高い状態で直に入手できる ようになった。
オペレーションのあるべき姿 オペレーション視点での指標設定 にあたっては、オペレーションのある べき姿を、お客様視点で研究した。
研究の結果、納期を明確にお答え したうえで確実に守ることが、ブラン ドイメージを向上させ、向上したブラ ンドイメージがお客様のリピート購買 率を高め、ひいては会社の利益につ ながるということが分かった。
ブランドに対する信頼は、お客様 の購買活動に強い影響を与える。
お 客様満足度とブランドの信用力、リ ピートオーダーは密接な関係があった。
お客様がIBMを選ぶうえでの重 要な判断材料は二つある。
一つは、パ フォーマンスや信頼性といった、製 品そのものの満足度だ。
もう一つは サービスにおける満足度であり、購 入時の利便性、即時対応能力や納期 通りの正確な納入などである。
サプライチェーンは、その両方に大 きな影響を与える。
つまり、ISC のパフォーマンスがカギを握っている ということになる。
納期遵守率は、お客様の満足度を 左右する大きな要素の一つだ。
受注 から納品までのサイクルタイムがある 程度縮まると、さらにサイクルタイム を縮めることよりも、約束した納期 を守ることが重要になった。
そして、 約束した納期を守るためには、需要 と供給の情報をリアルタイムで捉え、 需給を同期化させることがすべての 出発点であるとの結論に達した。
オペレーションのあるべき姿を探る 研究は、IBMの目指す姿が正しい かどうかを検証するだけではなく、お 客様とIBMのビジネスに新しい価 値を見出すという効果もあった。
IBMが「マーケットプレス・イ ンサイト(Marketpress Insight)」 と呼ぶ、多くのマーケット情報から 最も効果的な対応策を見つける洞察 75 APRIL 2007 上げ増につながった。
?需給の同期化 四半期末時点で、供給が保証され ていない需要の合計金額を算出する。
供給計画を上回ったために満たせな かった需要、そもそもの供給能力不 足で満たせなかった需要が金額算出 の基礎データになる。
連載第二回(二〇〇七年二月号) で説明した「四つの戦略目標」の第 二項「中核となる戦略的ITプラッ トフォームの展開を遂行する」がこの 指標と関連している。
戦略的ITプラットフォームの展 開により、社内の見える化が進んだ。
新たに確立されたIT基盤が、サプ ライチェーンに対する、正確かつリア ルタイムな情報のフィードバックを実 現した。
需給情報の可視性が高まり、 供給が保証できない需要を迅速に発 見できるようになった。
精度の高い予測を行い、保証でき る納期をリアルタイムに回答できる 仕組みを確立したことで、需給バラ ンスのタイムリーな調整を実現した。
ITプラットフォームの構築により、 機能間、企業間のコラボレーション (協働)と生産性向上が進み、需給の 不均衡に迅速に対応できるようにな った。
二五〇億ドルのコスト削減 三つめの視点である財務に関する 指標を設定するに当たり、新たな指 標はビジネス全般における成果を表 すものでなければならないと考えた。
会社の価値向上への貢献はもちろん、 お客様と株主にも利益を還元して初 めて評価されるべきものだと考えたか らだ。
ISCが目指してきたのは、サプ ライチェーン戦略の実行ではなく、I BMのビジネス戦略の実現だ。
サプ ライチェーン戦略はビジネス戦略であ る。
ISCが行ったのは、ビジネス 戦略を実現するためのサプライチェー ンの変革であり、サプライチェーンを 利用したビジネス戦略の実現である。
ISCでは、IBMのビジネス戦 略にどう影響を与えるのかを念頭に 置いて、改善の目標や指標を定めて いる。
明確に定めた指標を確実に実 行することで、二〇〇二年から〇五 年の四年間で、約二五〇億ドルのコ ストを削減し、一五億ドル以上のキ ャッシュを創出した。
財務の視点で定めた評価指標が、? コスト削減と?キャッシュ創出だ。
?コスト削減 各部門が行った様々なコスト削減 の効果を測定する指標だ。
材料費の コストダウン、在庫の削減、オペレー ションの最適化・効率化による経費 の削減、グローバルリソースの活用に よるコスト削減などが基になる。
従来IBMではソーシング(調達) を事業部ごと、地域ごとに実行して いたが、これをグローバルに集約して スケールメリットを活かす仕組みに改 めた。
集約によるコスト削減効果は 大きかった。
グローバルでのスキル共 有は、エキスパートの育成につながっ た。
また、サプライヤーとの長期的な リレーションシップの確立で、サプラ イチェーンにおけるリスクシェアリン グも実現した。
調達機能の集約と並行して、製品 を納入する際に用いる情報システム をグローバルに共通化し、重複した IT投資を徹底的に削除した。
手作 業で行っていたソフトウエアのインストールをIT化し、作業の担当部門 を販売から生産(工場)に移管した。
情報システムの標準化と単純化は、 費用を削減し生産性を向上するだけ ではなく、サプライチェーンにおける E2Eの管理をより容易なものにした。
?キャッシュの創出 売掛金回収期間の短縮、VMI (Vendor Managed Inventory:ベン 力を発揮し、研究結果をお客様とI BM自身の価値向上につなげた。
こうして出来上がった評価指標が ?サイクルタイムと?需給の同期化 である。
?サイクルタイム 製品別、工場別の各種サイクルタ イムの遵守率を測定する指標だ。
サ プライヤーとのすべてのプロセスを、 業界標準となるようなものに統一し、 IT化した。
情報そのものの精度も 向上させ、部材情報の可視性を大幅 に高めた。
そして、あらゆるデリバリ ー要求に対応できるグローバル統一 型のロジスティクスの仕組みを確立 した。
かつてのロジスティクス部門では、 距離(キロメートル)あたりのコスト が評価の基準であった。
目標がサイ クルタイムに変わったことで、評価の 基準は不慮の事故が起きた場合の適 応能力の高さに変わった。
トラック をチャーターし、トラックが満載にな るのを待って運んでいたのが、トラッ クが満載にならない状態でもサイクル タイムに合わせて定時運行するよう になった。
オンタイムデリバリーとサイクルタ イムの改善は、サーバー関連での全 体的な物流コスト削減と大幅な売り APRIL 2007 76 77 APRIL 2007 ダー主導型在庫管理)の活用による 支払い発生時点の延長、会社の売却 益などによるキャッシュの創出を評 価する。
まずはキャッシュの管理を容易に するために、受発注と供給のプロセ スを単純化して人手のかからないオ ペレーションを構築し、プロセスの徹 底した共通化と統合を進めた。
そし て、サプライヤー、契約、支払いの 管理プロセスとITをグローバルに 共通化した(二〇〇七年一月号参照)。
ノンコアオペレーションを アウトソースし、コスト構造 の変動費化も進めた。
さらに、 「ATS(Available To Sell )」と呼ぶ仕組みを構築 し、余剰部材の回転率を高め た。
ATSとは、部材ごとに余 剰の履歴と予兆を管理し、調 達・製造・販売・ブランドの 各担当部門が連携して余剰 在庫を解消するための対策を 検討し、実施する一連のプロ セスだ。
余剰在庫をどの製品にして 売るべきか、あるいは廃棄す べきか、販売チャネルはどう するか、価格帯設定やプロモ ーション展開はどうするか。
余剰部材/製品/販売方法 (チャネル・価格・プロモー ション)の組み合わせの中か ら、最適なものを短時間で決 定し、実行に移す。
ATSの導入により、部材 の価値が下がりきる前に製品化し、販 売し、現金化する流れが確立した。
製 品化せずに廃棄する場合の判断も、早 い段階でなされるようになった。
スコアをボーナスに反映 六つの指標による評価を補完する ため、定期的なベンチマーク調査も 開始した。
業界団体、学術機関、コ ンサルティング会社、調査会社に、商 品カテゴリーごとの実績数値とオペレーションの調査を依頼している。
その項目は、支払いと回収、デリ バリー、品質、インターネットの活用 度、受発注処理の自動化度、各種費 用、ロジスティクスなど多岐にわたる。
他社がより優れている項目があれば、 それを超えるプロセスの導入を進める。
最後に、重要なポイントをお伝え しておこう。
変革の取り組みにおいて は、目標や教育の徹底だけではなく、 社員の大きな関心事である給料につ ながるルールの見直しが欠かせないと いうことだ。
評価と報酬の見直しは、 社員にとって非常に重要な動機付け となり、変革を成功に導く。
ISCスタッフの給与(報酬)は、 六つの指標と明確にリンクしている。
年間を通じての達成度をパフォーマ ンス・スコアとしてまとめ、そのスコ アに基づいてボーナスの支払額を確 定する。
指標と評価制度の見直しで、IS Cのカルチャーは大きく変わった( 図 2)。
例えば、物事がうまくいかない とき、以前は他の部門に目を向けて、 あの部門が悪い・うまく機能してい ない、などと言っていた。
それが今は 自己を省みるようになった。
これは大 きな変化だった。
社内で交わされる言葉一つをとっ ても違いは明らかだ。
従来は「OK!」 と言えば、「自分達の組織の業績が好 調だ」という意味だった。
これが現在 では、「お客様が満足している」こと を意味するようになっている。
もうり・みつひろ シニアマネージングコンサルタント 製造業、外資系コンサルティング会 社を経て日本IBMに入社し、IBMビ ジネスコンサルティングサービスに 出向中。
現在、ロジスティクス・サ ービスの日本及びアジア・パシフィ ック地域のリーダー。
これまで多く のSCM/ロジスティクスの改革に従 事。
上流から下流まで幅広いプロジ ェクト経験を持ち、グローバルに展 開するプロジェクトの経験が豊富。

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