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発泡酒・焼酎など新分野が成長
アサヒビールが「スーパードライ」を発売
して今年で二〇年になる。 九六年に売り上げ
首位となってから今日まで、「ドライ」は十年以上もビールのトップブランドを維持して
いる。 ただし、この一〇年間で国内の酒類市
場は多様化が急速に進んだ。 それに伴い同社
の事業構成も大きく変わってきた。
「発泡酒」と、それに続く「第三のビール」
の登場は、市場の勢力図を一変させた。 今で
はこれらの商品がビール類(ビール・発泡
酒・第三のビール)全体の出荷量の四割強を
占めるに至っている。 アサヒビールも「ドラ
イ」の単品ブランドだけではトップを維持す
ることが困難になってきた。 そこで二〇〇一
年に発泡酒市場に参入。 これ以来、新ジャン
ルで相次ぎブランドを立ち上げ、ラインナッ
プを増やしている。
ビール以外の酒類の隆盛も目立っている。
酒類市場では近年、ビールの売り上げが縮小
傾向にある一方で、焼酎や「チューハイ」「カ
クテル」類の低アルコール飲料がブームにな
った。 これに対応するため、アサヒビールは
二〇〇二年に協和発酵工業と旭化成から酒
類事業の営業譲渡を受け、さらにマキシア
ム・ジャパンとの販売提携にも踏み切った。
焼酎・洋酒・ワイン・低アルコール飲料のカ
テゴリーで、これら三社の主要ブランドを継
承するとともに、製造拠点を傘下におさめた。
事業領域を拡げ、主要な酒類カテゴリーをす
べて品揃えする総合メーカーへ脱皮すること
で、再び成長軌道に乗ろうという戦略だ。
こうした事業領域の拡大は、同社の物流体
制に大きな影響をもたらした。 総合酒類化を
進める以前のピーク時には、「ドライ」がア
サヒビールの酒類出荷構成比の九割を占めて
いた。 このため、「ドライ」を全国に九カ所
あるすべてのビール工場で生産し、地域内需
給率を高めることができた。
この時期に同社は工場からユーザーへの直
送を一気に拡大した。 域内需給率の高さが工
場直送に有利に働いた。 ところが発泡酒や焼
酎など新ジャンルの売り上げが伸びたことで、
前提条件が変わった。 ブランドの多様化によ
って「ドライ」のように全工場で生産する商
品の比率が相対的に下がり、地域外にある工
場から転送して品揃えしなければならない製品のウエートが徐々に大きくなったのだ。 しかも洋酒・ワインのような多品種少量型
商品が新たに加わったことで、ビールよりも
はるかに細かいピッキングや在庫管理にも対
応しなければならなくなった。
こうしたコストアップ要因を抱えながら、
ローコストオペレーションによって総合酒類
体制を支えることが、近年のアサヒビールに
とって大きな物流課題となった。
総合酒類体制がスタートした二〇〇二年に、
同社は洋酒・ワイン・焼酎など新事業分野の
在庫・仕分け機能を、平和島と西宮の東西二
SCM
アサヒビール
多品種化で在庫管理手法を変更
ICタグ活用で仕分け作業も効率化
アサヒビールが従来の「スーパードライ」を
軸とした単品大量型の物流体制からの脱皮を進
めている。 焼酎・ワインなど酒類カテゴリーを
総合的に品揃えする販売戦略に対応して、在庫
管理の仕組みを変更。 ICタグを活用して仕分け
作業にもメスを入れた。 在庫削減や荷役効率ア
ップなど成果を上げている。
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拠点(DC)と北海道・仙台・佐賀の三つの
サブ拠点に集約した。 物流特性の異なるビー
ルとはオペレーションを分離することで効率
化を図ろうという狙いだ。
拠点を集約した当初、現場は複雑な在庫管
理に頭を悩まされた。 洋酒・ワインなどはビ
ールと比べて出荷の変動が大きく、需要予測
も難しい。 品切れを恐れて安全在庫を多目に
設定する傾向があった。 庫内に無駄な在庫が
増え、そのことが非効率なオペレーションに
もつながっていた。
出荷頻度で在庫日数を設定
このため在庫管理方法を抜本的に見直すこ
とにした。 それまでは「出荷数」だけをベー
スに在庫水準を決めていた。 例えば一週間の
出荷数が同じ一〇〇ケースの商品でも、毎日
二〇ケースずつオ
ーダーの入るもの
と、いずれかの日
に一〇〇ケースま
とめてオーダーの
入るものがある。
いずれのパターン
でも、これまでは
一〇〇ケースとい
う「出荷数」をも
とに安全在庫を
設定していた。
確かに後者の
ように、オーダーが突発的にまとめて入る場
合には、常に一〇〇ケース分の在庫を持って
おく必要がある。 だが前者のように、日々の
出荷数量が比較的安定している場合には、毎
日定期的に補充を行うことによって、安全在庫の水準を絞り込むことができるはずだ。
そこで、「出荷数」だけでなく、新たに「出
現率(出荷頻度)」という要素を取り入れて
商品別の安全在庫量を算出する独自の在庫管
理システムを構築した。 商品ごとに「出荷数」
と「出現率」を、それぞれAからDまで四つ
のランクに分ける。 そして「出荷数」を縦軸
に、「出現率」を横軸にとった一六分割のマ
トリクスシートに商品を分類し、それぞれに
安全在庫の係数を設定する(
図1)。
出現率の高いものほど在庫日数の設定は短
くなる。 その一方、出荷量は在庫日数の設定
に大きな影響を与えない。 図1のように、出
現率がAランクの商品は、出荷数のランクが
AでもB、Cでも在庫日数はほとんど変わら
ず、低めになる。
この指標を製造部門と物流部門が共有する。
市場に変動が起きて、商品のランクが変化し
た時には、それに最初に気付いた現場が出荷
パターンの設定を変更する。 これによって市
場動向に素早く対応できるようにする。
この在庫管理の仕組みを三年前から洋酒・
ワインなどの拠点に導入してきた。 その結果、
洋酒・ワイン・焼酎・低アルコール飲料のカ
テゴリーの在庫を、三年間で二割削減するこ
とに成功した。
これに並行して各拠点では、?倉庫の価値
を上げるための活動〞というコンセプトで庫
内オペレーションの改善に取り組んできた。
物流システム部の折田房治部長は、「日々の
改善によって保管効率や荷役効率がどれだけ
上がったかをコストなどの定量的な尺度で捉
えて、それを?倉庫の価値の向上〞として評
価する取り組み」と説明する。
その一例がパレットサイズの変更による価値の向上だ。 アサヒビールではすべての製品
の保管・輸送用にビール業界標準の9型パレ
ットを採用して一貫パレチゼーションを実施
している。 ところが多品種少量型の洋酒・ワ
インの保管には、このパレットサイズが適し
ていなかった。 せっかく商品ごとに適正な在
庫水準を設定しても、棚に保管する際のパレ
ットの表面積が在庫数量よりも大きく、デッ
ドスペースが生じてしまうのだ。
そこで輸送用パレットとは別に、倉庫保管
用に9型よりも小さいサイズのパレットを導
入することにした。 9型パレットは一つの棚
アサヒビールの折田房治
物流システム部部長
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客からの要望もあって、ビールとの一括納品
に切り替えている。 洋酒・ワイン類をDCか
ら各地のビール工場に併設している物流セン
ターへ転送、そこで届け先別に仕分けてビー
ルと積み合わせて配送する。 こうした転送による商品を含め、ビール工場からユーザーへ
の直送率は現在、九割近くに上っている。
ただしこの転送体制はいくつかの課題を抱
えていた。 洋酒・ワイン類は受注後に総量を
DCから出荷。 これを受けた物流センターで
は、いったんアイテム別に仕分けて仮置きし、
庫内作業員がピッキングリストを見ながら、
それを摘み取り方式で届け先別に仕分けると
いう方法をとっていた。 アイテム別および届
け先別に二度の仕分け作業を行わなければな
らず効率が悪かった。 しかも洋酒などは毎日
の出荷アイテムが二〇〇近くもある。 仮置き
用に広いスペースが必要だった。
拠点間を転送する際の荷姿にも問題があっ
た。 洋酒・ワインは梱包サイズや耐荷重が商
品ごとにまちまちだ。 これらの商品を一枚の
パレットに積み合わせると、どうしても荷姿
が不安定になる。 このためドライバーが輸送
中の荷崩れを恐れて、トラックに積み込む際
にストレッチフィルムを巻いてパレット上の
商品を固定する作業を行っていた。 手作業で
非効率なうえ、出荷ヤードで行うため危険を
伴う。 さらに着側でも、着荷時にフィルムを
解いて廃棄処分を行わなければならず、無駄
な作業と費用が発生していた。
これらの問題を一度に改善するため、ユニ
ークな方法を考案した。 まずストレッチフィ
ルムの代わりに再利用可能な「エコバンド」
をメーカーと共同開発した。 帯状のタイプに
着脱可能なネットを取り付けて、さまざまな
形状の商品を固定できるよう工夫を凝らした
ものだ(
写真1)。
同時にデータキャリア型のICタグを導入。
DC出荷時の方面別仕分けを行う際に、パレ
ットごとの商品名・数量・届け先などの情報
を書き込んだICタグをエコバンドに装着し、
この情報を着側の物流センターの仕分け作業
に活用する。
物流センターでは作業者が荷降ろしした後、
パレットからエコバンドをはずしてハンディ
ターミナルでタグの情報を読み取る。 これが
届け先別の仕分け情報となり、ハンディター
ミナルに表示される指示を見ながら種まき方
式で仕分け作業を行う(
図2)。
に三枚しか収容できないが、新しいサイズの
パレットは五枚収容できる。 これを使用する
ことで一つの棚からピッキングできるアイテ
ム数が三から五に増える。 その結果、作業動
線が短くなり、保管効率だけでなく荷役効率
も大幅にアップした。
通常なら、輸送用と保管用でパレットサイ
ズを別にすると積み替え作業が必要になり、
デメリットが生じる。 だが洋酒・ワインのD
Cではもともと、全体の八割近い商品につい
て、入庫の際に品種別に仕分けて別のパレッ
トに積み変える作業を行っていた。 このため
業務負荷をほとんど増やさずに済んだ。
これらの取り組みによって、洋酒・ワインの
主要拠点である平和島DCでは飛躍的な?価
値の向上〞が見られた。 従来は最大でも二〇
万ケースまでしか保管できず、ピーク時には
外部倉庫を確保しなければならなかった。 と
ころが今では三〇万ケースを超えても余裕を
もって対応できるようになった。
折田部長は「管理者からパートタイマーま
でが、価値を高めるという共通の意識のもと
にローコストオペレーションを徹底したこと
が成果につながった」と見る。
仕分け作業にICタグを活用
アサヒビールでは、洋酒・ワインの拠点を
集約してビールの物流から切り離して以降、
これらの商品を主に路線便でDCから問屋な
どの顧客に直送していた。 しかしその後、顧
写真1 パレット荷物をシュリンク包装
するストレッチフィルムに代えて、再利
用可能な「エコバンド」を開発した
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届け先別の仕分け作業を種まき方式に変え
ることで、入荷後いったんアイテム別に仮置
きしておく必要がなくなる。 その分ハンドリ
ング回数が減る。 荷役作業を行うフォークリ
フトの走行距離も短縮できる。
昨年秋から平和島DCと名古屋物流センタ
ーの間で新システムの導入実験を行っている。
これまでに物流センターでの仕分け作業時間
を二〇%以上短縮できることが判明している。
仕分け作業用のフォークリフトは六台から二
台に削減できることがわかった。 エコバンド
によるカバー率も平和島DCから出荷する商
品の八割以上になる見込みだ。
物流システム部の島崎市朗チーフプロデューサーは「種まき方式はスルー型の仕分けに
は極めて有効だ。 拠点間での連携をより密に
して着側の出荷のタイミングに合わせて送る
など工夫すればさらに効率化できる。 本格的
に導入して同じモデルをビール工場などの仕
分け拠点にも展開していきたい」と話す。
転送を「PULL型」に
昨年は物流センター間の商品転送でも、鉄
道利用による新しい取り組みを開始した。 こ
れまで拠点間輸送にはトラックを利用してい
た。 だがトラックは到着時間がまちまちで、
出荷がピークとなる時間帯に到着便の荷降ろ
し作業が割り込んだり、トラックが構内に滞
留したり、荷物の仮置きが発生するなどチグ
ハグな現象が起こる。
それに対して、鉄道輸送は定時運行のため
作業をスケジュール化しやすい。 同社はこれ
に着目。 出荷の時間帯を避けるようにダイヤ
を組み、コンテナの発着に合わせてタイムリ
ーに積み降ろしを行うよう計画を立てること
によって、余分な一時在庫や無駄な仕分け作
業を一掃し、物流センターのオペレーション
を効率化することにした。
昨年夏から茨城工場〜吹田工場間で三一
フィートコンテナによる鉄道輸送をスタート。
現在は二工場間の往復で週五便を運用してい
る段階だが、今後は他工場にも拡大し、コン
テナ輸送の比率を〇九年までに工場間輸送の
一〇%まで上げていく考えだ。
今年に入ってアサヒビールでは、全ビール
工場に洋酒・ワインと同様のマトリクスシー
トによる在庫管理システムを導入した。 工場
間の転送を「PULL型」へ変更するのに伴
い、需給管理の見直しの一環としてとりいれ
たものだ。
従来、工場間の転送に当たっては商品を出
す側の工場が転送する数量を決めていたが、
一月からはこれを改め、送る側も受ける側も
マトリクスシートによる共通の指標で在庫を
管理することにした。 送る側は指標をもとに
受ける側の在庫を管理し、どの商品をどのタ
イミングでどれだけ補充するべきかを判断して生産計画を立てる。 このように製造工程から出荷工程まで一枚
のシートで管理することによってPULL型
の供給体制が実現する。 さらにサプライチェ
ーン全体の効率化をめざして、川下の小売業
などへ同様の運用を働きかけていく考えだ。
総合酒類化に対応した物流体制を確立する
なかで、同社はビールより管理が複雑な分野
の物流スキルを磨き、コスト抑制に成功して
きた。 このことは、同社がサプライチェーンで
主導的な役割を果たす上で大きな力になるだ
ろう。 (
フリージャーナリスト・内田三知代)
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