ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
ケース
JIT物流ミサワホーム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2007 40 二〇年で在庫金額一〇分の一 ミサワホームの経営危機が叫ばれはじめた のは九〇年代末からだった。
事業を多角化し ようと不動産投資やゴルフ場開発を積極化したのが裏目に出て、バブル経済の崩壊後、多 額の不良債権を抱え込んでしまった。
二〇〇 四年十二月には産業再生機構の支援を受ける ことが決まり、その後はトヨタ自動車と資本 提携するなどして経営再建に取り組んできた。
資産の圧縮を進め、低迷していた業績はよう やく上向きつつある。
多角化には失敗したものの、本業である住 宅産業のオペレーションは、経営危機のさな かも高く評価されていた。
とくに生産・物流 分野の効率化には目をみはるものがある。
八 〇年代半ばと比べると、現在の同社の取扱ア イテム数は約四〇倍に膨れ上がっている。
し かし、逆に在庫金額は七〇億円近くあったも のが一〇分の一の水準へと激減している。
この目覚しい在庫削減を、ミサワは調達分 野の効率化から着手して実現した。
一般的な 企業が物流効率化を販売分野からスタートす ることを考えると、異色といえるアプローチ だ。
しかも驚くべきは約一五年前から、資材 を調達するときの物流費を資材費と分離して 管理していた点だ。
日本の一般的な商習慣では、物流費は販売 する側が負担する格好になっている。
いわゆ る?運んでナンボ〞という取引条件で、物流 費が販売価格のなかに含まれているためだ。
このため物流を効率化する役割も、物流を管 理している販売側が担うのが普通だ。
しかし、この取引条件には落とし穴がある。
物流のサービスレベルを現実に決めているの は買い手の側だからだ。
「物流拠点を集約し たから来月からこちらに納品してくれ」、「在 庫を減らしたいから納品を多頻度小口化して ほしい」といった要望を購入する側が示し、 その条件を飲めないのであれば他社から買う と迫る。
販売側は、無理をしてでも条件を飲 JIT物流 ミサワホーム 総勢60人の物流部門を社内に擁し 調達改革で「一個流し」を下支え 15年以上前にトヨタ流のJIT調達をスタートし、 その後も改善を重ねてきた。
近年は多角化の失 敗で経営危機に陥ったものの、本業のオペレー ションは依然として高いレベルにある。
なかで も独自開発した「モジュールパレット」を調達 先と共に使いこなす物流の仕組みは、ライバル 企業も認める優れた取り組みだ。
41 APRIL 2007 まざるをえない。
こうした場合、新たに発生する物流コスト は、合理的に考えれば販売価格に上乗せされ ていくはずだ。
ところが実際にはそうはなら ず、さらに多くの矛盾を生み出してきた。
製 品の価格競争力を高く見せるために物流費を 隠れミノに使ったり、小売業のセンターフィ ー問題のように、買い手側が手配した調達物 流の費用を売り手側に対しサービス内容に見 合わない金額で請求するといった事態を招い てきた。
これらは?運んでナンボ〞という商習慣が 生み出した古くて新しい課題だ。
日産自動車 が九九年から取り組んだゴーン改革では、こ の商習慣がやり玉に挙がった。
同社が「外 化」と呼ぶ施策だ。
従来は調達部品価格の中 に含まれていた物流費を分離。
調達部品の改 革と、調達物流の改革を別々に手掛けること によって、それぞれを最適化した。
その成果 については、もはや説明の必要はあるまい。
もっとも調達分野の改革は大きな困難をと もなう。
日本企業の多くは、物流子会社を構 えて販売物流を管理してきた。
そこでは、物 流コストが雇用を生み出し、グループ内に資 金をつなぎとめる役割を果たしている。
こう したサプライチェーンで調達改革を行えば、 既存チャネルとの摩擦を招くことになる。
この難しい改革にミサワは約一五年前に本腰を入れた。
しかも販売物流より先に、調達 物流の改革から手をつけた。
これについて資 材物流部の秋本一善部長は、「まず自分たち にできるところからやっただけ」と謙遜する が、いったい一般的な会社とは何が違ってい たのだろうか。
NPS研究会に学び生産革新 同社が調達分野の改革に乗り出した直接の きっかけは、一九八四年にNPS(ニュー・ プロダクション・システム)研究会に参加し たことだった。
この研究会は、トヨタ生産方 式の創始者である大野耐一氏の右腕だった鈴 村喜久男氏が立ち上げた団体で、「一個流し」 (実需に応じて製品を一個ずつ生産する)の 考え方に基づく無在庫経営の実践を提唱した。
ミサワはこの研究会に一五年間あまり所属し ていた。
ここで学んだことが同社のオペレー ションの基礎になっている。
ミサワは現在、全国十二カ所に工場を構え ている。
これらの工場で資材メーカーから調達した物品を住宅部材へと加工して、それ以 外の資材とともに全国の販売会社(施工・販 売などを担当する販売代理店)に供給してい る。
ミサワ自身も一部では住宅の施工・販売 を手掛けているが、ほとんどの物件は代理店 の扱いであり、施工現場の工程管理も通常は 代理店が行う。
ミサワは、資材メーカーから自社の工場も しくは「中継基地」までを?調達物流〞と位 置付け、一日あたり約二〇〇台の一〇トン車 を運用している。
一方、工場や中継基地から 施工現場に至る販売物流は?納品物流〞と 資材物流部の秋本一善部長 APRIL 2007 42 単位で資材を調達していた。
当然、在庫の山 ができ、コストもかさむ。
どうすれば一個ず つ作れるのかを模索するなかで、結局は自分 たちが運ばざるをえないという結論に到達し た。
その後、物流網の整備を進めるなかで、単に輸送業務をコントロールするだけでなく、 こちらから取りに行くという発想に変わって きた」と秋本部長は述懐する。
JIT物流ささえる自前主義 ミサワの調達先は中小企業が多い。
製品の オリジナリティを重視してきたことで、どう しても中小規模のメーカーとの付き合いが増 えた。
だが中小メーカーに、工場をはじめと する全国二〇カ所余りの拠点にJIT納品し てもらうのは端から無理があった。
こうした 事情も、自ら調達物流を手掛けることを後押 しした。
協力物流業者も大手である必要はなかった。
むしろ小回りのきく中小事業者のほうがやり やすい。
現在、全国で二〇社弱ある協力物流 業者の売上規模はいずれも中堅クラス以下だ。
当然、ミサワの物流部門の仕事は増える。
こ れを担っている資材物流部は総勢六〇人から なるが、そのうち半数が物流グループの所属 だ。
ここには物流現場で作業を管理している 約一五人も含まれている。
同社の物流管理は、役割分担が徹底されて いる。
まずミサワが全体像を描き、これを協 力物流業者と一緒に実現していく。
資材メー カーから出荷されるすべての部材にバーコー ド入りの専用ラベルを貼ってもらい、これを 輸送過程で利用するという一〇年以上前から の取り組みもその一例だ。
日用品と違い、生産段階の住宅部材にはバ ーコードラベルなど貼付されていない。
それ をミサワは、資材メーカーに協力を要請して 実現した。
これも「一個流し」による生産・ 物流活動を追求するうえで必要な施策だった。
在庫を持たない以上、一つひとつの部材を正 確に管理できなければ、すぐに施工現場に影 響が出てしまうからだ。
工場や物流拠点では、このバーコードを工 場や物流拠点でスキャニングすることで入荷 検品や仕分け作業を行っている。
「資材メー カーがバーコードをつける時点で、すでに施 呼んでいる。
こちらも一日あたり約四五〇台 の四トン車を動かしている。
調達・納品とも リードタイムは約一日。
ここでジャストイン タイム(JIT)の物流を実現できたことが 大幅な在庫削減につながった。
施工現場に部材を供給する?納品物流〞 は、実際に工程を管理している代理店と調整 しながら運用する必要がある。
ミサワの都合 だけでJIT物流を徹底することはできない。
一方、調達物流は、工場の生産計画や資材発 注のタイミングを自分たちの意思で動かせる ため、かえって販売分野よりコントロールし やすいという事情があった。
NPS研究会に参加したことで、それまで は見込みで大量生産していたのが、実需に合 わせて一個ずつ生産することを求められるよ うになった。
だが工場で「一個流し」を実現 しても、これに合わせて資材を一個ずつ調達 できなければ、結局は在庫を抱えざるをえな い。
調達物流を資材メーカーに任せていては、 そのような細かい物流を実現することはでき なかった。
「以前は見込み発注によってトラック一台 資材物流部・物流グループ の田中克明マネージャー 10トン車の荷台を80分割した独自のモジュールパレット で混載 43 APRIL 2007 主別の管理がスタートしている。
そのまま工 場のラインまで流され、ここで一つひとつの 製品のバーコードを読み取る。
間違った部材 が流れてくれば必ずこの時点で分かる」と資 材物流部・物流グループの田中克明マネージ ャーは説明する。
このようにバーコードによる管理を実現し ている住宅メーカーは珍しい。
特定の部材に 専用ラベルを貼ることに、一般的な資材メー カーは抵抗するはずだ。
効率化を進めるうえ で、調達物流を自らコントロールできる体制 が有利に働いたのは間違いない。
独自パレットで理詰めの管理 ミサワの物流管理でもう一つ特筆すべきは 「モジュールパレット」の仕組みだ。
NPS 研究会の教えに基づいて「一個流し」を実現 しようとすると、調達する部材を混載しなけ れば輸送効率が低下してしまう。
その際に多 様な荷姿の住宅資材を効率よく扱う狙いで、 十数年前に独自開発したのがこのパレットだ。
これがJIT物流を下支えするとともに、そ の後の改善活動のベースにもなった。
考え方はシンプルだ。
調達物流に使う一〇 トン車(ウイング車)の荷台を八〇分割して、 その寸法を1ブロックとしてすべての基本サ イズ(縦 99 ×横 92 ×高さ 40 センチ=目安)に 据えている。
これを縦横に組み合わせた十数 種類の専用リターナブル・パレット(鉄製) を作り、ミサワが管理している。
部材の大き さや形状に応じたパレットを選択することに よって、積載効率や作業効率、物流品質の向 上が可能になった。
モジュールパレットを使うと理屈上はウイ ング車の片側に四〇ブロックを積める。
前日の段階で、積むべき物量や、どのようなパレ ットが何個あるのかは決まっているため、積 載効率を考えて配車を行う。
フォークリフト による実際の積み込み作業は、実務者の経験 がモノをいう。
専用パレットはすべてミサワ の資産で、同社の物流部門が資材メーカーへ の補充数量などを管理している。
最近、この仕組みがさらに進化した。
従来 は事前の物量情報や積み込み指示を、電話や 絵でやりとりしていた。
だが二〇〇五年に独 自の「荷量情報システム」を稼動してからは、 ITで管理するように変わった。
まず資材メ ーカーが、どの部材が、どこに行くのかとい う「予定情報」をオンラインで入力する。
さ らに、どのサイズのパレットが何個あるか、 パレットから飛び出す部材の状態がどうかな ども細かく入力することで、従来以上に積載 率を適正化できるようになった。
同時にパレットにもバーコードを貼付して、 これをトレースすることで輸送品質の向上を 図った。
従来は各輸送工程で目視による確認 をしていただけだったので工場で検品するま で正しく輸送されたかどうか分からなかった。
現在は、輸送業者が要所でパレットのバーコ ードを読み取っている。
輸送中に誤配の芽を 摘めるようになった。
「新しいやり方を定着 させるのは簡単ではなかったが、これによっ て輸送段階でのミスが五〇%ぐらい減った」(田中マネージャー) 仕組みを改善することでミサワの在庫は減 り続けてきた。
物流現場での作業改善も相変 わらずだ。
稼動から約二年が経過した「関東 物流センター」では「見える化」の工夫をは じめ、工場のコンベヤーを流用した仕分けな どが効率化に寄与している。
こうした物流の 強みをいかして、他の住宅メーカーと共同配 送を行う構想も視野に入ってきた。
改善の余 地が残る?納品物流〞の効率化とともに、今 後が楽しみな取り組みだ。
( フリージャーナリスト・岡山宏之) ミサワホームの「関東物流センター」(千葉県野田市)

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