ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
海外Report
ニベア・ポーランド

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2007 50 ポーランド国内シェアは五割 ニベアがポーランドに現地法人を立ち上げた のは一九二〇年代終わりのことでした。
親会 社は隣国ドイツのハンブルグに本社を置くバイ ヤスドルフです。
当社はBDFバイヤスドルフ としてスタートしましたが、第二次世界大戦中 に国有化されました。
戦後、社会主義政権の 下でも国営化の状態が続きますが、ベルリンの 壁崩壊後にポーランドを含む東欧の国々は、資 本主義へと舵を切っていきました。
当社が、元々の親会社であるバイヤスドル フのジョイントベンチャーとなったのは九二 年のことで、その五年後にバイヤスドルフが 全株式を買い取りました。
現在の社名となっ たのは二〇〇五年のことです。
親会社のバイ ヤスドルフは創業一二〇年以上の老舗で、ニ ベアをはじめ「8×4」や「アトリックス」 「ユーセリン」といったスキンケア製品や化粧 品に関する様々なブランドを擁している多国 籍企業として知られています。
ポーランドではベルリンの壁崩壊後、経済 の自由化が進み、九六年にはOECD(経済 協力開発機構)に加盟し、さらに二〇〇四年 には念願のEU(欧州連合)への加盟を果た しました。
ポーランドのGDP(国内総生産) の伸び率は二〇〇〇年以降、平均で三・五% を上回るペースで成長を続けてきました。
ニベア・ポールスカは従業員約三〇〇人を 抱え、売上高は四億四八〇〇万ズロチ(約一 七九億二〇〇〇万円)で、年率一〇%前後で 伸びています。
当社の売上高の八〇%はニベ アのスキンケア製品で占めており、ポーラン スキンケア製品のニベアのポーランド現地法人であるニベア・ポールスカは二年前にドイツの 親会社の指示でサプライチェーン・マネジメント改革をスタートした。
需要予測業務の一本化や 売れ筋製品の絞り込みなどによって一定の成果を上げている。
同社役員のウェルゾー・ビエール マックSCM部長が改革の詳細について語った。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州SCM会議から ニベア・ポーランド 親会社の指示でSCM改革に着手 製品の絞り込みで在庫半減に成功 〈第七回〉 ウェルゾー・ビエールマック SCM部長 51 APRIL 2007 月間かけて具体的な戦略を練ってきました。
戦 略が出来上がると、製造部門、品質管理部門、 SCM部門、購買部門などに落とし込んでい きます。
最後は、戦略の成果と人事考課を結 びつけることで完成しました。
物流業務はシェンカーに委託 親会社からの指示の二つ目は、社内外にお けるコミュニケーションを十分に図ること。
S CM改革の意味を理解するうえでもコミュニ ケーションは欠かせませんし、日々の業務を遂 行していくうえでも重要です。
われわれは西側 諸国で使われているようなVMIやEDIな どを通じて業務を効率化しています。
三つ目は、事前にリスクを正確に予測する ことで利益につなげるというやり方です。
た とえば、工場で常に問題となるテーマとして、 どこまで安全性のチェックに時間と費用をつ ド国内における化粧品のシェアは五〇%です。
当社は二年前にSCM改革プロジェクトを スタートしました。
そこには親会社の強力な イニシアチブがありました。
それまでのように 高品質の製品を作るという工場中心主義的な 考え方に加え、物の流れを最適化することで サービスレベルを上げて、コストを下げなけ ればならないというプレッシャーにさらされて のことです。
私は製造畑を歩いてきましたが、SCMプ ロジェクト発足と同時にSCM部長に就任し、 今日までプロジェクトを率いてきました。
製 造畑出身である私がSCMに取り組むように なった背景には、それまで経験則が幅を利か せていたロジスティクスの分野にも、工場の ような科学的な手法をとりいれなければなら ないといった考えがありました。
改革にあたって親会社から指示のあった方 法は四つです。
まずは各国で独自の戦略を練 ること。
戦略を練るうえで大切なのはSCM だけにこだわりすぎないという点です。
SCM の視点から見れば、在庫水準をできるだけ抑 えて、時間指定の配送を行う、といったことが 必要になりますが、無駄のない筋肉質な(リーンな)体制が常に正解ではないということです。
特にポーランドのように経済発展を続けてい る国においては、どんな需要が発生するかがわ かりませんから、ある程度の在庫を抱えること も必要となります。
西側での成功例をそのまま 東欧に当てはめることはできません。
各国の事 情に合わせてSCM戦略と全社戦略をすり合 わせることが大切です。
その戦略を全社で共有するために「バラン ス・スコア・カード」を活用しました。
まず役 員会が現状を分析して改善点を指摘する。
そ れにしたがって社内で特別チームを作り、数カ を言います。
さらに 外資系企業が続々と 参入している現状で は、収支の合わない 取引に甘んじる必要がないのです。
ニベア・ポールス カでは西部のレビン に中央倉庫兼物流セ ンターを構えていま す。
製品はポーラン ド国内外の九工場か ら入ってきます。
現 場での作業はドイツ 鉄道傘下のシェンカ ーに外注しています。
ポーランド国内には 六万社の輸送業者が ありますが、その九 〇%以上が一人親方と呼ばれる一台持ちの運 転手(オーナーオペレーター)です。
車両台 数五台を超える会社は一五〇〇社に過ぎず、 一〇〇台を超えるとなると一〇社以下です。
ポーランド国内にはまだ、われわれのような 製造業者のSCMをトータルで管理できる3 PL企業は育っていません。
シェンカーにはセンター業務と輸送の手配 などを委託しています。
レビンの物流センタ ーからは、?流通加工してから集荷する、? 小包として出荷する、?荷主の物流センター に横持ちをかける、?荷主の物流部門が引き 取りにくる、?他の物流業者が引き取りにく る――という五つのパターンで、最終的に店 舗に配送しています( 図1)。
SKUの二割減に成功 現在、ニベアの製品を納めているのは一三 五社で、約六四〇店舗となります。
その数字 は年々増えていますが、それ以上に納品先の 業態が大きく変わってきました。
ニベアの取引 において、売上に占める外資系小売りの割合 が五〇%を超えたのは二〇〇四年のことで、直 近の数字では六〇%以上が外資系との取引と APRIL 2007 52 いやすか、というのがあります。
何段階かの 製品チェックが必要だとしても、もし信頼で きるサプライヤーが出荷する段階で十分な検 査を行っており、当社のプロセスにも問題が なければ、製品チェックの一部を省略するこ ともできるのです。
そのためには十分にリス クを把握しておくことが条件です。
最後は、サプライヤーと顧客である小売業 者のマネジメントです。
社会主義政権下では、 全国チェーンを展開する大手小売業者はほと んど存在せず、中小の小売業者がひしめき合 っていました。
現在でも国内には四〇万社の 小売業者が存在します。
ここに近年、外資系の大手小売業者が参入 してきたのです。
ウォルマート(アメリカ)や カルフール(フランス)、メトロ(ドイツ)な どの西側の多国籍小売業者の売上上位二〇社 のうち、すでに一四社がポーランドに進出し ています。
これは東欧諸国の中では最も多い 数です。
このことが当社のSCM改革に大き な影響を与えています。
外資系小売業者の参入による影響は後で詳 しく述べますが、ここで一つお話しておきた いことは、ディスカウンター対策です。
外資 系のディスカウンターには、採算割れになる ほど仕入れの値段を叩いてくるところがあり ます。
交渉しても双方に利益の上がるような 仕組みが作れないときは、当社は取引を断る ことにしています。
そうした態度は、他の小 売業者との交渉にも有利に働きます。
当社が シェア五〇%を抑えていることが、ここで物 53 APRIL 2007 なっています。
ポーランド資本の中小小売業者 との取引は年々縮小しています。
ポーランドの FMCG(日用雑貨)市場全体で見れば、外 資系小売りとの取引が五〇%を超えるのは数 年後になるだろうと予測されていますので、当 社ではそれよりも速いテンポで外資系との取引 拡大が進んでいることになります。
それによって物流ニーズも変わってきまし た。
国内の中小小売業者向けには、センター での流通加工後に直接店舗に納入するという スタイルでしたが、外資系の小売りの場合は、 自ら物流センターを構えていますので、流通 加工は小売り側で行います。
国内の小売りに ついても、流通加工は自社で行うという企業 が増えてきました。
従来の物流機能を持たな い小売り向けに構築してきた物流体制は、大 きな見直しを迫られています( 図2)。
センター業務の需要は減りつつあるとはい え、ロジスティクス業務への要求は高まる一 方です。
具体的には、発注から二四時間以内の納品、販売促進活動への柔軟な対応、IC タグの導入――などが求められています。
同 時に多くの中小輸送業者を使っているために、 配送の時間指定や誤配率を減らすといった基 本的な部分でも業務改善が必要となります。
SCM改革で一番力を入れてきたのが在庫 の削減です。
改革を始めた二〇〇四年から二 〇〇五年にかけて在庫を約半分に減らしまし た( 図3)。
最初に取り組んだのが社内の需要 予測システムを一本化することでした。
それまでマーケティング部門と営業部門、 経理部門でばらばらだった数字を一本にまと めました。
マーケティング部門は予算を獲得 するために多めに数字を予測して、営業は低 く予測する傾向があります。
経理はキャッシ ュフローを重視して独自に予測を立てますか ら、ちぐはぐな数字が社内に存在して、それ が在庫精度を狂わす元凶となっていました。
しかし、三つの部門の数字をSCM部門が調 整するようになると、在庫予測の精度が五 〇%から七〇%まで上がりました。
次は売れ筋製品の絞り込みです。
以前はほ とんど「死に筋」となった製品までそろえて いました。
なかには注文件数では三〇%を占 めながら、売上の二%にも満たないという製 品もありました。
ここで大切になるのは誰の利益を優先するかということです。
幅広い製品をそろえてお くことは、小売りの側にとっては魅力的なこ とです。
しかし、作業の割に利益が上がらな いとするなら、それは会社を所有する株主に とってはプラスとなりません。
われわれは、株主である親会社への貢献を 第一と考えて、社内で製品のラインアップの 見直しを図り、SKU(在庫保管単位)にし て二二%の製品を削減しました。
売れ筋製品 に集中できる体制を作ったことで、在庫の水 準は半分にしながらも、欠品率を下げること に成功しました( 図4)。

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