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APRIL 2007 48
PBRは依然として一倍以下
主力の輸送事業に加えて、近年新たに事業
ポートフォリオに組み込んだ自動車販売事業
を収益基盤とするセイノーホールディングス
は、二〇〇七年度を最終年度とする中期経営
計画「G5プラン」を推進中。 同計画では商
業小口貨物をコアに、ロジスティクス、自動
車販売の三本柱を確立することによって売上
高四六五〇億円、営業利益一九〇億円、営業
利益率四%の達成を目標に掲げている。
計画策定時(二〇〇五年二月)には営業利
益二三五億円、営業利益率五%を目標数値に
設定していた。 しかし、燃油価格高騰や道交
法改正(駐禁取り締まり強化)といった外的
要因の変化を理由に減額修正している。 それ
でも初年度である二〇〇五年度の実績は、営
業利益一〇一億円、営業利益率二・四%と未
達に終わった。 計画値を減額したとはいえ、
ハードルは極めて高いと言わざるを得ない。
実際、資本市場での同社への評価もそれを
裏付けているのではないだろうか。 近年の株
価のボトムは二〇〇一年三月の四二九円で、
一九九九〜二〇〇一年度にかけて主力の輸送
セグメントで営業赤字を計上していた時期と
概ね重なる。 その後の業績改善によって、現
在では株価が一一〇〇円台で推移しているも
のの、PBR(株価純資産倍率)は依然とし
て一倍を下回る状況が続いている。 すなわち
マーケットでは将来の収益に対する期待が低
い銘柄として評価されていると解釈できよう。
こうした状況を打破しようと、輸送事業で
の基本戦略として商業小口貨物への特化、さ
らにロジスティクス分野ごとのアライアンスパ
ートナーとの連携強化を推進してきた。 この
うち商業小口貨物では時間指定を付加価値と
したサービスを拡充した。 指定時間に対する
ギャランティーの付与、配達予定時間の事前
配信などは特色のあるサービスと言えよう。
昨年四月にスタートしたヤマトホールディ
ングスとのコラボレーション商品「JITB
OXチャーター便」はその延長線上にあると
捉えている。 セイノーは一部地域での集配業
務と幹線輸送を担っており、一般路線貨物の
幹線輸送効率化や中ロット貨物の新規開拓と
いったプラスが見込める。 月間取扱個数も当初の想定を上回る順調な推移を続けている模
様。 車両増備の必要性などを勘案すれば、当
面の収支改善効果は限定的なものにとどまる
と見られるが、今後の展開は注目に値する。
一方、ロジスティクス分野では機能補完を
図るため、国際貨物でドイツ鉄道および同社
傘下のシェンカーと提携。 二〇〇六年一〇月
には日本梱包運輸倉庫グループとの合弁会社
設立などを進めている。 セイノーの全国ネッ
トワークに、国際ネットワークや倉庫、梱包、
流通加工のノウハウを付与することで、ロジ
スティクス事業の増強につなげている。
ただし、先行する他社に比べ、トラックレ
コードの蓄積が十分であるとは言い難い。 3
第29回
セイノーホールディングス
中期計画の業績目標数値を下方修正
市場での評価向上は単価維持が条件
セイノーホールディングスの株価は現在一一
〇〇円台で推移しているものの、市場では将来
性への期待が低い銘柄と評価されている。 収益
基盤の一つとなりつつある自動車販売事業の利
益貢献度はそれほど大きくない。 業績の回復に
は3PL事業の強化や、本業である路線便事業
での運賃是正が不可欠となる。
一柳創
大和総研
企業調査第一部アナリスト
49 APRIL 2007
PL市場は今後も拡大が期待できることから、
その恩恵を享受するためにも事業展開ペース
の加速が待たれよう。
自動車販売の利益貢献は限定的
ここ数年は荷動きの低迷、荷主企業の物流
コスト削減意欲の高まり、業者間の競争激化
といった外的要因に加えて、セイノー自身も
主として売り上げ・シェア重視の営業施策を
打ち出すケースが多かった、と認識している。
結果として取扱貨物量自体は一定規模を確保
できているものの、継続的な収受料金の低下
が収益面でのネックと言えよう。 先に述べた
ような各種施策は付加価値商品の販売強化に
よる単価水準の引き上げを意図したものと捉
えているが、顕著な成果を確認するまでには
至っていない。
営業赤字を計上していた一九九九〜二〇〇
一年度にかけての三年間
を?最悪期〞とすれば、
費用面での取り組みがあ
る程度奏功したとは言え
る。 配送ネットワークの
強化を目的としたターミ
ナルや車両への投資負担
が残る中で赤字脱却を果
たしたわけだが、その過
程での主な対応策は自社
運航便見直しや閑散期お
よび土曜日ダイヤ運用で
幹線輸送の効率化を進め
たことだった。
加えて、間接部門を含む人員数の削減、人
事・処遇制度や退職給付制度の見直しによっ
て、人件費抑制を進めたことが大きなポイン
トとなったと推察できる。 ただし、こうした
取り組みを進めてきたものの、二〇〇五年度
の営業利益率は一・九%に留まっている。 輸
送セグメントの収益水準はターゲットから大
きく乖離しているのではないだろうか。
今後のリスク要因としては労働需給のタイ
ト化、ドライバーをはじめとした労働力の確
保が挙げられよう。 直接的には人件費あるい
は傭車費・外注費の負担増リスクが想定され
るが、すでに賃金水準上昇といったかたちで
影響が一部顕在化しつつあるのではないだろ
うか。 実際、「毎月勤労統計調査」によれば、
長らく低下トレンドにあった道路貨物業の実
質賃金水準は二〇〇五年に〇・一%で底を打
ち、二〇〇六年は一・四%の上昇と状況が変
化しつつあることが示されている。
高水準で推移する燃料価格の問題、安全対
策や環境規制への対応コストなどマイナス要
因を鑑みれば、運賃水準の是正(引き上げ)が
必須条件となろう。
ただし、月次実績を見るかぎり、依然とし
て単価低下基調が続いているため苦戦してい
る様子が窺える。 これに対して「ビジネス便」
をはじめとした時間提供商品の拡販によって
単価水準の維持・向上を図る方針を打ち出し
ているが、今後はこれまで以上にその姿勢を
鮮明にしていく必要があろう。
もう一方の事業の柱と目されている自動車
販売業についてはトヨタ系ディーラーのグル
ープ企業再編・完全子会社化を通じて基盤整
備が進められてきた。 連結業績の押し上げ効
果はともかくとして、国内の自動車販売市場
が成熟していること、本業とのシナジー効果に
乏しいことなどを勘案すれば、同事業の成長
シナリオは描きにくい。 新車販売スケジュー
ルなどの影響を受けつつも、引き続き一定水
準の利益貢献にとどまるものと判断している。
小口貨物輸送分野では大手間での競争のみ
ならず、中堅業者との競争も激しさを増して
いる。 物流業界の中でも最も競争の厳しい分
野の一つと言えよう。 将来の労務関連コスト
の負担増リスクも考慮すれば、サービスの差
別化やレベル維持を前提に、人件費や傭車費
などの抑制に加えて、?中期的な観点からは
商品戦略見直し、?付加価値サービス強化を
通じた運賃水準の是正と物量のバランス化―
―などがポイントとなると考えられる。
路線便を主力するトラック運送会社には老
舗企業が多く、ネットワークや保有資産の価
値を鑑みれば、業界再編が起こらないとも限
らない。 セイノーは業界大手という立場にあ
る。 業界の健全な発展に貢献すべく運賃水準
をはじめとした競争条件の改善で強いリーダ
ーシップを発揮することを期待している。
セイノーホールディングスの過去10年間の株価推移
(円)
《出来高》
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