ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
特集
儲かる現場 パート活用の落とし穴

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流現場の正社員をパートに置き換える。
それだけで トータルコストを25%削減できる。
ただし、安易なパー ト化は現場を荒廃させる。
パート職場の管理に従来型の 精神論は通用しない。
サービス業で培われた管理ノウハ ウを物流オペレーションに適用し、現場を再設計する必 要がある。
(本誌=大矢昌浩、編集協力=山口広太、菊次洋光) APRIL 2007 14 パート活用の落とし穴 第1部 パート化率が高いほど儲かる パート化率は八〇%が限界だ。
米ウォルマート傘下 の西友では現在、パート化率の目標を八五%に置いて いるという。
日本マクドナルドの場合には、投入労働 時間に占めるパート化率でも九〇%以上に達している と推測される。
しかし、これはパート活用の仕組みが 整っていて初めて実現できるレベルだ。
一般の物流企 業が八〇%以上にパート比率を上げてしまうと、現場 は回らなくなると考えた方がいい。
正社員とパート社員の実質的な時給の差は約二倍 と言われる。
これまで正社員を充てていた業務をパー トに切り替えると人件費は二分の一になる。
売上高に 占める人件費の比率を五〇%とすると、価格を二五% 引き下げることができる計算だ。
あるいは、その分だ け利益が増える。
そのため今日、物流業に限らず、労働集約型の現 場を抱えるほとんどの企業がパート化率の向上を図っ ている。
しかし、その多くは失敗している。
パート化 率を上げること自体は簡単だ。
一時的にはコストも下 がる。
ところが肝心の商品やサービスの質が著しく低 下してしまう。
あるいは現場が荒廃し、予定していた アウトプットを生み出せなくなってしまう。
現場作業の八〇%は、定型作業の繰り返しだ。
全 てパートに任すことができる。
むしろ任せなければ利 益は出ない。
しかし、残りの二〇%は人間の判断やス ピードを求められる業務だ。
経験とスキルを持った正 社員でなければ対応は難しい。
採用・評価や苦情処 理など、物流センターにも人間の判断を必要とする業 務はたくさんある。
それを短期間で速成した人材に頼 ればしっぺ返しをくらう。
パートの勤続年数は長い方がいい 通常、現場を三カ月も経験すれば、新人のパートで も見よう見まねで一通りの作業を覚えてしまう。
その 後も三カ月は熟練度を上げようというチャレンジ精神 を期待できる。
しかし六カ月も経つとマンネリ化する。
現場に飽きてくる。
時給も天井まで上がってしまい、 やり甲斐が感じられなくなる。
モチベーションの下がったパートが、そのまま現場 に居座り続けると生産性は悪化する。
他に勤め先がな いという理由だけで働いている、やる気のないベテラ ンが幅を利かしている現場には、優秀なパートは定着 しない。
過去の調査でも、パートの平均勤続年数の長 い現場ほど生産性が低いことが分かっている。
モラールの高い、優秀なパートが長く定着し、能力 アップについてこられないパートが自然と辞めていく。
それが正しい管理のあり方だ。
そのためパートの平均勤続期間は基本的に短いほうがいいといえる。
半年か ら一年が妥当だ。
実際、コンビニで半年、スーパーで 一年が平均的なパートの勤続期間になっている。
これ に対して、ある大手物流企業の現場を調査したところ、 パートの平均勤続年数が五年近くにも上っていた。
明 らかに長過ぎる。
センター長に聞いてみれば、そのことが分かるはず だ。
センター長が現場の労務管理で最も頭を悩ませて いるのは、ベテランパートの扱いだ。
ベテランはさす がに現場を熟知している。
そこに新人の正社員が監督 者として入っても耳を貸してもらえない。
実際、ベテ ランに頼らざるを得ないことも多い。
最初の段階で優 位に立たれてしまうと、後からそれを覆すのは容易で はない。
15 APRIL 2007 経営コンサルタントの 菊次洋光氏 パートを正社員並に遇する パートの正社員登用が話題になっている。
しかし実 際に正社員になることを希望するパートは少数派だ。
パートは日頃から社員の苦労を間近で見て肌で感じて いる。
現場の正社員たちが、苦労のわりに、たいした 給与をもらっているわけではないことも知っている。
そのため正社員にはなりたがらない。
現在のパート労働力は大きく二つに分類できる。
一 つは正社員になりたいという希望を持ちながらも職に 就くことができなかった就職氷河期世代を中心とする フリーター層だ。
この層には正社員登用制度もそれな りの意味を持つだろう。
しかし、今も現場労働力の八割 を占めているのは、家庭を持つ主婦を中心とした従来 型のパート層だ。
こうした純然たるパート層は、正社員 になってフルタイムで働きたいとは考えていない。
自 分の働きたい時間だけ働くことを希望している。
質的 に全く違う労働力をひとまとめにすることはできない。
事実、勤続年数をベースとした年功序列タイプの正 社員登用制度はほとんどが機能していない。
年齢や勤 続年数ではなく、能力に応じた処遇を徹底する。
パー トの自己申告に基づいた登用制度が成功する。
衣料 量販店のしまむらは一〇〇〇店舗のうちの約半分をパ ート店長で運営しているという。
その結果、ライバル の低迷を尻目に継続的に成長を続けている。
しかし店長クラスまで上り詰めるパートは一握りに 過ぎない。
その他の平均的なパートの勤続年数は一年 が限度だ。
やる気のあるパートに昇進のチャンスを与 えると同時に、やる気のないパートが自然と退職する、 信賞必罰の公正な職務制度が必要だ。
成果主義は正 社員よりも、むしろパートにこそ適している。
社員の給与は抑えたほうがいい 現場の運営コストを下げるために、多くの経営者が パート化比率の向上と並んで、正社員の人件費抑制 に手を付けている。
個人業績評価制度の導入に名を 借りた給与カットが横行している。
しかし、正社員の 給与水準を低く抑えている現場ほど儲かっていない。
逆に社員の給与が高い現場は、まず儲かっている。
そ れが市場の現実だ。
そもそも安い給与で長期間、正社員を維持すること などできない。
優秀な人材ほど先に辞めていく。
優秀 な人材は経営者に見切りをつけるのも早い。
ダメな経 営者は早々に捨てられる。
残るのは他に行き場のない 赤字社員ばかり。
生産性の高い優秀な人材、多くの 利益を上げられる人材ほど会社に残りたがる人事制度 の仕組みを作らなければ儲かるはずがない。
藤田田(でん)時代の日本マクドナルドは、外食産業で日本一高い給与水準を目指すことを社是として いた。
実際、日本マクドナルドのパートの時給は地域 最低でも、正社員の給与は外食産業では群を抜いて 高かった。
給与を高くできるのは、正社員の生産性が 高いからに他ならない。
パートにできる仕事を正社員 にやらせていれば、パート並みの給与しか払えないの は当然だ。
正社員には付加価値の高い仕事を割り当 てる。
これは業務設計の問題だ。
どう人を育てるのか。
どんな仕事を誰に、どのレベ ルまで任せるのか。
そして、それをどう処遇するのか。
労働集約型産業では、そうした人の使い方が最大の 競争条件になる。
労務管理のトータルな仕組みを整え ないまま、安易に人件費削減に手を付ければ、いずれ は会社の存続自体が危うくなる。
APRIL 2007 16 現場はセンター長の能力次第 センター長では対応しようのない要因が現場には山 積している。
そのセンターに割り当てられた業務内容 や料金設定に問題があっても、センター長はそれを是 正する立場にない。
現場改善によって人が余ったから といって、社員をクビにしたり、異動させる権限があ るわけでもない。
それなのに、センターのパフォーマンスは結局セン ター長次第だと、多くの経営者が考えている。
そのた めセンターの業績が落ちると、すぐにセンター長のク ビをすげ替える。
構造的に業績が悪化しているセンタ ーに配属されたセンター長は、蟻地獄に落とされたよ うなものだ。
もちろんセンター長のマネジメント能力は重要だ。
実際、センター長を入れ替えることで二割近く業績が 変わることも珍しくはない。
しかし、それはセンター の本来の収益力を会社側が見誤っていたことを意味し ている。
会社としてのマーケティングが無策で、それ をセンター長個人に委ねていることの証拠といえる。
そうした会社では、現場のパート活用もセンター長 に任せきりだ。
人材教育は結局、OJT(オン・ザ・ ジョブ・トレーニング)に尽きる。
ほとんどの経営者 がそう考えている。
間違いではない。
しかし現場には OJTという言葉自体、何を意味するのか分からな い人が少なくない。
実はセンター長以上の幹部クラスも大きくは変わら ない。
さすがにOJTの意味は知っていても、具体的 にパートをどう指導すれば良いのか、分かっていない。
そもそも自分が指導された経験もない。
センター長に 対する教育制度と人事制度に問題がある。
物流にマニュアルは馴染まない 物流作業は荷主次第、センター次第で全く変わっ てしまうため規格化できない、マニュアルに馴染まな いと考えている人が多い。
実際、現場で調査してみる と物流センター内の作業項目数は一〇〇〇〜二〇〇 〇にも上っている。
しかし、それは同じ作業を人によ って異なるやり方で処理しているからに過ぎない。
それぞれの作業を最も効率的なやり方、つまり「ワ ン・ベスト・ウエイ」に集約していくと、基本作業項 目は三〇〇から多くても五〇〇程度に絞られる。
これ は小売店、飲食店の作業項目数と変わらない。
物流 だけが特別と考える理由はない。
実はマニュアルに対する抵抗感は、現場に詳しい叩 き上げの経営者ほど根強い。
サービスはマニュアルで はない。
サービスとは誠心誠意、顧客に尽くすことだ。
つまり心だという考えだ。
これも間違ってはいない。
それでは心とは何か。
人によって全く違う。
しかも目 には見えない。
それをどうやって行動に移せばいいの かは誰も分からない。
マニュアル通りに作業すれば上手くいくわけではな い。
しかし、何らかの基準を示さないと人は動けない。
店頭であれば「いらっしゃいませ」「ありがとうござ います」「もうしわけありません」。
ドライバーであれ ば「こんにちは」「失礼します」「もうしわけありませ ん」の三大用語をハッキリ言える。
そうした最低限の 基準を示すのがマニュアルだ。
当たり前のことを当た り前にできるようにするためにマニュアルは存在する。
つまり最低それだけはできないとサービス商品として 成立しない、ボトムラインがマニュアルだ。
物流に馴 染む・馴染まないといった問題ではない。
17 APRIL 2007

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