ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年4号
特集
儲かる現場 【教育】――15時間で未経験者を戦力化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2007 24 十五時間 VS 三カ月 正社員を対象に作成された作業マニュアルはパ ート教育には馴染まない。
正社員向けマニュアルの多くは、作業手順が書いてあるだけで指導方法 が記載されていないからだ。
その欠点を補うため にチェックリストを用意しても、各作業の目標レ ベルが明示されていないので、どこまで教えれば いいのかわからない。
それが時間ばかりかかって 成果の上がらないパート教育の実情だ。
一般的な物流現場では、パートが一通りの仕事 を覚えるのに三カ月はかかると言われる。
それに 対して、マクドナルドは新人パートを十五時間で 速成している。
一日当たりの労働時間が四〜五時 間として三日間。
二日に一度の出勤で約一週間と いうスピードだ。
「SOC(Station Observation Checklist)」と呼ぶ独自の教育システムの威力だ。
「SOC」がマクドナルドに導入されたのは今か ら二〇年以上も前、一九八五年のことだ。
それ以 前も同社は「BCC(Basic Crew Course)」と 「ACC(Advanced Crew Course)」と名付けら れた二つのマニュアルを用いて、三〇時間でパー トを育てることを武器としていた。
「SOC」では 育成のスピードを二倍に速めた。
「SOC」には、各作業をどういう順序でする のかという「手順」と、どの程度までやればいい かという「基準」が同時に示されている。
つまり 作業マニュアルとチェックリストの機能を統合し た点に特徴がある。
店舗内各エリアの作業ごとに、一枚のフォーマ ットが用意されている。
そこには初日のオリエン テーションから上級レベルのオペレーションまで、 五段階にレベル分けされた作業手順とチェックリ ストが記載されている。
使用するのは、作業ごと 一人につき一枚。
それを個人別にファイルして、 スケジュールに則ってトレーニングを進めていく。
五段階の第一ステップ「イニシャル・トレーニ ング」には、一二〇分から一九〇分をかける。
初 マクドナルドは15時間でパートを一人前にする独自のト レーニングシステムを持っている。
「SOC(Station Observation Checklist)」と呼ばれる。
現場作業の基準と 手順を示すマニュアルであると同時に、各パートのスキル を確認するチェックリスト機能も備えた教育ツールだ。
【教育】――15時間で未経験者を戦力化 第2部マクドナルド化の手順 25 APRIL 2007 日はまずVTRを使って、三〇分ほど企業概要や 諸規則・約束事を解説する。
その後、ユニフォー ムに着替えて、身だしなみをチェックし、事務所 内を案内する。
ここまでのオリエンテーションが 通常五〇〜六〇分だ。
さらに各作業エリアの説明が二〇分〜四〇分。
「SOC」を使った作業手順の説明が一〇分〜二 〇分。
実行とフォロー一〇分〜二〇分。
質疑応答 二〇〜三〇分。
そして最後に、「SOC」のチェッ クリストを使って、正しいオペレーションができ るかを確認する。
チェックリストに「NG」のつ いた項目についてはトレーナーから具体的な指示 を受け、パートがセルフトレーニングを実施する。
ここまでがイニシャル・トレーニングだ。
速成 メソッドにしては、この段階に比較的時間をかけ ている。
初日に退職するパートの多いことが過去 の統計で分かっているからだ。
初日は誰しも不安 を抱えている。
仕事の内容や職場の人間関係など、 時間をかけて分かりやすく説明することで新人の 不安を取り除くことが何より重要なのである。
こうした教育カリキュラムの開発に、マクドナ ルドはこれまで多額の資金を投じてきた。
八〇年 代に米マクドナルドが買収の危機にさらされた時 も、最初に買い手がついたのは同社の持つ店舗チェーンやブランドではなく、社内大学の「ハンバ ーガー大学」だったといわれる。
人材育成ノウハ ウこそが、同社の競争力の源泉なのだ。
その後もマクドナルドは「SOC」の改良を進 めている。
そのノウハウを物流現場に適用できれ ば、大きな効果が期待できるはずだ。
ただし、他 社のオペレーション・マニュアルを丸写ししても 使い物にはならない。
どんな現場にも共通のベス ト・プラクティスなど存在しない。
そのセンター 独自の「SOC」を作る必要がある。
?見る〞マニュアルを作る パートを対象とした教育システムは、基本的に 三種類のマニュアルと、それを補完するサブシス テムによって構成される。
三種類のマニュアルと は、標準作業基準を示す「?オペレーション・マ ニュアル」、教え方の基準を示す「?トレーニン グ・マニュアル」、そして仕事ぶりを評価する「? フィードバック・マニュアル」の三つだ。
「?オペレーション・マニュアル」の作成は、現 場作業の標準化が出発点だ。
ここから全てが始ま る。
まずは現場の実態調査を実施する。
調査と言 っても身構える必要はない。
調査票を現場全員に 配布し、一日の作業開始から作業終了まで、その 日に何をどうしていたのか、一〇分〜三〇分単位 で記入させるのである。
この調査は現場で発生している作業の種類と方 法を明らかにすることが目的だ。
調査票を回収し た結果、同じエリアの同じ作業を、全員が同じ方 法で行っていたのならマニュアルは要らない。
し かし、そんなことはまずない。
恐らく同じ作業を 皆が違う方法で遂行していることが分かるはずだ。
作業を説明する用語自体、人によってバラバラで あることが多い。
作業の標準化以前の問題だ。
次のステップで調査票を集約していく。
調査票 一枚一枚に書かれている作業の説明を「キーワー ド化」することで、作業体系を整理する。
「KJ 法(川喜田二郎氏の提唱した情報整理方法)」と 同様、付箋などのカードに作業項目を書き写し、 類似したものをまとめて表題を付ける。
このグル ープ化を四〜五回繰り返すことで、現場の作業項 目を「大項目」「中項目」「小項目」「小小項目」 に体系化できる。
整理した作業体系は経営陣の承認を受ける必要 がある。
会社として定めたサービス品質等が現場 の作業手順に落とし込まれていないことがあるか らだ。
必要な作業が抜け落ちている場合は、それを加える。
このステップを経て、いよいよオペレ ーション・マニュアルの作成にとりかかる。
ここで重要なのは、目で見てすぐに分かること。
難解、抽象的、現場に合わないマニュアルは結局、 使われない。
文章を読んでもらうこと自体、徹底 するのは難しい。
そこで発想を切り替える。
読ん でもらうのではなく、?見る〞マニュアルを作成す るのだ。
そのために以下のポイントに留意する。
?誌面の半分以上を写真やイラストなどで埋める ――作業動作などは言葉で説明するより、流れ 作業を視覚的に区分して分解写真で示すほうが はるかに分かりやすい。
備品や設備等の説明も APRIL 2007 26 写真であれば一目瞭然だ。
?プロセスを表現する――結果を強調するのでは なく、そこに導くための作業プロセスを重視し、 具体的な作業手順と身体の使い方を表現する。
?文章はできる限り短く箇条書きにする――「何 を:What 」「なぜ:Why(目的)」「どのよう に:How(作業手順)」に「どの程度:Level 」 を加えた「2W1H1L」を簡潔に表現する。
このうち「どの程度:Level 」は、スピードや動 きの角度など、数値で表現することが望ましい。
「きちんと」「きれいに」「正しく」などの修飾語 は一切使わない。
文章が長くなるだけでなく、 達成基準が曖昧になるからだ。
右下にオペレーション・マニュアルのフォーマ ットを掲載した。
記入は上から「作業目的(なぜ その作業をするのか)」、「達成基準(その作業は どのレベルまでやればいいのか)」「作業手順(作 業のやり方と注意点、コツ)」の順に進める。
「目 的」が明確化できない作業はムダである可能性が 高い。
結局カットすることになる。
大規模な物流センターで作業実態調査を行うと 通常一〇〇〇〜二〇〇〇の作業項目が抽出され る。
しかし、それを最も合理的な作業方法に整理 すると、最終的に作業項目数は三〇〇程度に集約 される。
なお達成基準は、顧客の期待と競合他社 のレベルを考慮して決定する。
これが同時に現場 スタッフの仕事ぶりを評価する基準にもなる。
パートがパートを指導する 次はトレーニング・マニュアルの作成だ。
新人 パートは上級パートに指導させる。
それがパー ト・トレーニングの原則だ。
上級 パートはセンター長や正社員の管 理スタッフ以上に現場作業に習熟 している。
同じパート同士であれ ば営業時間中に実際の業務を通じ て手取り足取り教えることもでき る。
文字通りのOJT(オン・ ザ・ジョブ・トレーニング)だ。
ただし「手取り足取りのしかた」 を統一する必要がある。
作業に習 熟していることと、教えることは 別のスキルだ。
トレーナー側に回 ったパートには教えることに対す る不安がある。
そこで「何を」「ど の順番で」「どの程度まで」「どんな方法で」教え るか、その基準をトレーニング・マニュアルで定 めるのである。
トレーニング・マニュアルは、「トレーニング・ プログラム」と「OJT4ステップシステム」お よび「チェックリスト」の三つで構成する。
この うちトレーニング・プログラムのポイントは教え られる側の心理に配慮して、学習項目の選定と教 える順番を決定することだ。
つまり仕事に興味を 持つように項目を選定し、離職周期に合わせてそ れを並べていくのだ。
初日向けのオリエンテーションは既に説明した。
その後、新人パートは三日目と七日目に離職周期 のピークを迎える。
これに合わせて二日目には、 新人が応募前に予想していたであろう、センター 業務らしい仕事を学習させて関心を呼び込む。
そ の後、易しい仕事から徐々に難しい仕事へとステ ップを進める。
次頁の表は、大手スーパーのパート用トレーニ ング・プログラムだ。
このスーパーのように七日 間・七ステップで見習いをクリアできるように設 定している場合には、六日目に最も難しい仕事、 清掃など嫌がられる仕事を教える。
残り一日でト レーニングが終了すると思えば、多少きつい仕事 にも耐えられるからだ。
コーチを育てる 教え方の基本は、まさに山本五十六の「やって 見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやら ねば、人は動かじ」である。
これをマクドナルド は「?準備」「?説明」「?実行」「?フォローア ップ」の「OJT4ステップシステム」に整理し て、トレーナーに徹底させている。
?準備――教える作業は事前の準備が肝要だ。
必 要なツールを前もって準備する。
説明を始めて 27 APRIL 2007 しまってから慌てて道具を集めるようでは、時 間がムダになるだけでなく、教えられる側の信 頼を得られない。
?説明――先のオペレーション・マニュアルを使 用する。
人は機械ではない。
「こうすることに決 まっている」「こうしなければならない」と言わ れても納得を得られなければ、上司のいない時 には実行されない。
マニュアルに基づいて「2 W1H1L」を明快に説明することで、個人レ ベルの仕事のバラツキがなくなり全体の生産性 が向上する。
?実行――説明と同時に、教える側がまずやって 見せる。
そして次にやってもらう。
このとき、新 人にはやり方を暗唱しながら作業してもらう。
「分かりましたか」は禁句だ。
分かっていなくて も新人は気圧されて頷いてしまう。
分かってい るかどうかは、あくまで実行から判断する。
?フォローアップ――良いところを褒める。
もち ろん最初から完璧な作業をできるわけではない。
何回もやってもらうことになる。
それをトレー ナーは必ずそばで見ているようにする。
そして 少しでも向上したら褒める。
間違いを正すのは その後だ。
これはコーチングの鉄則である。
この四ステップを遵守してトレーニングを重ね ていくことで、教えられる側だけでなく、教える 側のスキルも上がっていく。
マニュアルを見なく ても教えられるようになる。
その結果、新人パー トのトレーニングに必要な時間が大幅に短縮され る。
つまり教える側のパートのコーチング・スキ ルが、新人パートの育成スピードを決定するので ある。

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