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昇給は「多頻度少額」で
できるパートから辞めていく。 ダメな現場の共
通点だ。 その原因は下記の
図1の通りだ。 そこに挙がっている約五〇項目の現場の実態について、
センター長などの監督者とパートの双方に意識調
査を行うと、お互いの現状認識に大きなギャップ
のあることがハッキリする。 このうちとりわけ重
要なのは、頑張っているのに報われないというパ
ートの不満だ。
頑張ったパートに報いる最大の方法は、何とい
っても時給だ。 ただし昇給は「多頻度少額」を原
則とする。 つまり一度に昇給する幅は少額で構わ
ない。 昇給額をいたずらに増やしても働く人の満
足度は上がらない。 それよりも昇給の頻度を増や
す。 仕事を始めると誰しも自分のレベルを知りた
くなる。 その要求に応えて、トレーニングの進捗
に合わせタイミングよく評価する。
やる気を引き出す効果は時給金額そのものより、
仕事ぶりを認められることのほうがむしろ大きい。
表彰や職位に応じた名札・ユニフォームの貸与な
ど、時給以外にも仕事ぶりに報いる方法はたくさ
んある。 評価は最も重要なコミュニケーションの
手段でもある。 評価を巡ってお互いの考えを交換
する。 そこに具体性と納得性があれば、パートの
不平不満の大半は解消される。
多頻度少額の原則に基づいた公正なパートの評
価制度を構築する必要がある。 評価制度は、どの
職位のパートに、どんな作業を担当させるのかと
いう職務編成と連動する。 つまり組織と評価制度
をトータルシステムとして設計しなければならな
い。 それは正社員向けに作成された従来の仕組み
終身雇用やフルタイム労働を前提とした正社員中心の労
務管理は、パート職場には通用しない。 できるパートを辞
めさせない。 パートのやる気を引き出すには、組織体制、評
価制度、コミュニケーションなどの仕組みをパート活用の
トータルシステムとして設計し直す必要がある。
【評価】――いいパートを辞めさせない
第2部マクドナルド化の手順
29 APRIL 2007
とは全く違うものになる。
経営者そしてセンター長などの管理担当者は、
頭を切り換える必要がある。 従来、パートは正社
員の補助として位置付けられてきた。 しかし今や
パートは現場労働力の主役である。 それを前提に
した人事労務制度と組織体制、さらにはマーケテ
ィング戦略や投資判断まで含めたビジネスモデル
全体を抜本的に刷新することで、競合他社との決
定的な差別化が可能になる。
日常のオペレーションは全てパートに任せる。
それが儲かる組織作りの基本的な考え方だ。 一方、
社員は利益、品質、進行などの管理業務に専念す
る。 そしてパート一〇人に一人程度の割合で上級
パートマネジャーを任命し、社員管理職の下位者
と同等に位置付ける。 これによって社員が一人も
いなくても、一定のレベルで日常業務を回せるよ
うにする。
マクドナルドはパートの頂点に立つ上級パートマネジャーを「スイングマネジャー」と名付け、店
長のフォローのもと、ローボリューム時間帯の店
舗運営を一任している。 さらに「サテライト店」
と呼ばれる小規模店舗ではスイングマネジャーが
現場の全ての指揮をとっている。 常勤する社員が
一人もいない現場だ。
一般のパートは、スキルに応じてA級、B級、
C級、見習いといった職制に分けている。 その上
に一般パートのトレーニングを全てクリアし、な
おかつ昇格を自ら希望したパートをトレーナーと
して位置付けている。 これによって
図2のような
組織ができあがる。 このうち正社員はマネジャー
とマネジャー補佐だけだ。 この職階と時給を連動
させる。 各職位のトレーニングを終了した段階で、
昇格と同時に最低一〇円以上、「資格給」として
時給を上げる。
資格とやる気で能力評価
ただし、パート各人の時給は「基本給」と「資
格給」だけでは決定しない(
図3)。 身につけた
能力は常に発揮されているとは限らない。 「知っ
ている」「できる」ということ以上に「やっている
か」を重視する。 そのために能力評価を二段構え
にしている。 能力を身につけたことによって支給
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する「資格給」に加え、能力を実際に発揮してい
るかどうかを「評価給」として時給に反映させる。
この二つを足した金額が、そのパートの「加算給」
となる。
「資格給」と「評価給」の比重は、「評価給」に重
きを置く。 パートの場合、まずは勤務態度が優先
される。 この点、正社員と同じではない。 出勤状
況や多忙な曜日・時間帯へのシフトの協力、ミー
ティングの参加など、職場組織のモラル維持が、
パート職場の生産性を決める大事な条件になるか
らだ。 「加算給」に占める「評価給」の配分は六
〇%が妥当だろう。
昇格審査は、あくまでもパートの自己申告が原
則だ。 苦労してまで昇格したくないと考えるパー
トは少なくない。 能力が高いからといって審査を
無理強いすれば逆効果になる。 ただし、昇格審査
は自己申告に応じてその都度行うのではなく、定
期的に審査期間を設けるようにする。
自己申告制では不公平が生じるだけでなく、せ
っかく本人にチャレンジ意欲がわいても、他のパ
ート仲間の目が気になって手を挙げにくい。 また
審査期間をオープンなイベントとして位置付ける
ことで、「審査」や「評価」という言葉の持つ暗
いイメージを払拭することができる。 開催頻度は
マクドナルドの場合、年間四回以上と決められて
いる。 各職場の年間の離職周期に配慮し、離職が
高い時期の少し前に日取りを設定することで、離
職を抑える効果が得られる。
経営者や監督者は、最初からやる気を持ってい
るパートなどいないと考えた方がいい。 持ってい
るのはやる気ではなく、様々な欲求である。 人は
会社や職場のために働くのでない。 まず自分のた
めに働く。 そうした欲求を満足させる仕掛けが評
価だ。 そのため評価制度は公開し、事前に常に示
しておく。 それによって「何を」、「どうすれば」
自分にプラスになるのかを明確にしてパートの行
動を促すのである。
ミーティング制度の設計
評価制度と並んで重要なパート活用の課題が日
常のコミュニケーションだ。 パートに協調性がな
い、仕事に対する関心がないなどとセンター長が
嘆いている現場のほとんどに、コミュニケーショ
ンの重大な欠如が見られる。 パートは協調性がな
いのではなく、知らされていない。 情報が共有さ
れていないのである。 結果としてお互いの不信感
が募り、いたずらに離職を誘ってしまう。
コミュニケーションにも、また原則がある。 ま
ずはミーティングのやり方だ。 ミーティングは上
司とパートとのコミュニケーションの場であり、ま
たパート同士の連帯感を育む絶好の機会だ。 しか
し思いつきで開催すれば、効果が上がるどころか、
逆に信頼を失ってしまう。
ポイントは小集団で定期的に実施することであ
る。 開催場所は職場内でも外でも構わない。 全員
が座れるだけの広さがあり、プライバシーの守れ
る場所を選ぶ。 開催日は事前に通知し、シフトの
問題で集まれない人がいる場合は二回に分ける。
そのことも全員に伝える。
定期ミーティングで報告する情報は主に次の四
つだ。 ?会社の方針と職場の方針の説明、?会社
の状況と職場の営業状況、?パートの仕事の方針
や変更、?業務と時給の関係など。
事前にテーマを決めて、具体的な提案を出すよ
うに指示しておく。 運営面では褒めることに徹す
る。 ミーティング中のパートの発言は遮らず、最
後まで誠実な態度で耳を傾ける。 そして褒める。
それによって、もっとよく考えようという意欲を
喚起する。 時間通りに始め、時間通りに終える。
約束を守るのだ。 パートが分刻みで働いているこ
とを忘れてはならない。
ラップセッションとは
通常のミーティングとは別に、パートに言いた
い放題言ってもらう機会を設けるのも効果的だ。
パートと現場監督者との型にはまらないリラック
スした集まりで、日頃の職場・人間関係の不満や
希望を聞き出す。 それによってコミュニケーショ
ン・ギャップを解消し、モラールの向上を図る。
「ラップセッション」と呼ばれる。
ラップセッションにも最低限のルールは必要だ。
31 APRIL 2007
テーマは職場および仕事に関連した改善点に絞る。
そして三つの約束事を設ける。 すなわち?何をし
ゃべっても良いが、個人批判はしない。 ?メー
ン・スピーカーはあくまでパート。 センター長や
正社員は会議進行の舵取りをするだけで黙って聞
く。 ?いかなる意見が出ても、その場で結論は出
さない。
それ以外は自由を尊重し、できるだけ気軽で楽
しい雰囲気を盛り上げるようにしたい。 もちろん、
時給は支給されなければならない。 このセッショ
ンを受けて、センター長や社員は別途協議し、問
題解決のための改善策を少なくとも一つは開発す
る。 そしてパート全員に告知し、すぐ実行するの
である。
パート職場におけるコミュニケーションは、人
の入れ替わりの早さ、勤務シフトの違い、年齢差
や性別などによって、あちこちで寸断されている。
日々の朝礼・夕礼と定期的なミーティングだけで
は、到底カバーすることはできない。 ラップセッ
ションのように様々な機会を設けると同時に、そ
れぞれの手段を相互に連関させるように仕組みを運営する必要がある。
仕事のゲーム化
本来、パート職場の活性化は正社員よりもはる
かに簡単であるはずだ。 社員は企業の成長性や安
定性などに期待感を持ち、自分の将来をかけて入
社してくる。 これに会社が応えるには、事業の成
長を長期的に維持し、それぞれの社員に自己実現
の達成できる場を常に提供し続けていかなくては
ならない。
それに対してパートは、決まったことを正しく
やってくれさえすれば十分だ。 ところが、それが
徹底できない。 人間は機械ではないからだ。 人間
にとって、簡単な定型作業を継続的に実行するこ
とが、実は最も難しい。 日常業務に刺激や変化を
盛り込む必要がある。
しかし「TQC(トータル・クオリティ・コン
トロール)」などの全員改善活動は、パート職場
には基本的に馴染まない。 パートの短期・短時
間・変則勤務は、TQC活動の大きな障害になる。
そもそもパートの職場に対する期待は、正社員と
は違い、「明日」ではなく、「今日この時間」にあ
る。 忍耐や将来に向けた努力をパートに求めるの
は筋違いだ。
通常のTQCに代えてマクドナルドでは、仕事
のゲーム化に取り組んでいる。 職場の汚れた場所
に金額の書かれた小さな目印を張っておく。 それ
を見つけて清掃したパートは目印と引き換えに賞
品をもらう。 釣り銭間違い防止コンテスト、ある
いはチームを組んで作業品質や達成度を競い合う
など、様々なアイデアが試されている。
誰もが持っている競争心やチャレンジ精神を煽り、パートの知的欲求をくすぐる。 そして成果に
対しては多少なりとも金銭的なインセンティブを
付与する。 掲示板やポスター、バッジなどを用意
して、センター長や管理者が先頭に立って旗を振
る。 管理者の意気込みが本物だと感じれば、パー
トもその気になるものだ。
もっとも、こうしたイベントは、あくまでも人
材育成を補完するサブシステムであるに過ぎない。
パートの採用から育成、評価、組織体制などのト
ータルシステムを欠いた仕事のゲーム化は単なる
茶番劇に終わってしまう。 センター長や管理者の
資質以前に会社としての取り組み姿勢を問われる
のである。
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