ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年5号
CSR経営講座
CSRが物流子会社の役割を変える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2007 74 物流子会社の提供するサービスの 価格は、物流専業者に比べるとたい てい高い。
親会社との人間関係の中 で、しぶしぶ利用しているケースも目 立つ。
ところが近年は、もっと積極的 に物流子会社を活用しようという動 きが出てきている。
親会社のリスクマ ネジメントという意味で、物流子会 社が専業者にはない強みを発揮しは じめた。
連結経営が変えた子会社の役割 日本にはメーカー系をはじめ多数 の物流子会社がある。
その物流子会 社の提供するサービス価格が高いこ とぐらい、親会社は百も承知してい る。
わざわざABC(活動基準原価 計算)などで分析するまでもなく、固 定費や人件費を見るだけでも明らか だ。
親会社と同じ給与体系からスタ ートした物流子会社のほとんどは、一 般的な物流専業者に比べると人件費 比率が高い。
にもかかわらず、これまで親会社が 物流子会社を使い続けてきた理由は、 人間関係によるところが大きい。
同 じグループに所属する身内として競 争を避けてきたのだ。
九〇年代以降 の不況を通じて、物流子会社に対す るコスト削減の圧力は強まった。
そ れでも専業者のレベルにまでコストを 引き下げるのが難しいことは、親会 社も十分に理解している。
いわば消極的に使い続けてきた面 があったのだが、近年は明らかに変 化している。
変化の引き金になった のは国際会計基準の導入にともなう 連結経営の浸透だ。
本連載の第六回 でも書いたが、連結経営ではグルー プ会社のコストをトータルで管理する 必要がある。
物流子会社が管理して いるコストも、親会社の連結決算に 製造原価や人件費などとして反映し なければいけない。
このことが物流子 会社の存在を見直す契機になった。
連結経営に対応するために有力企 業が相次いで導入した「カンパニー 制」の影響も大きい。
欧米流のカン パニー制は、「本部」と「執行部門」 と「サポート部門」の機能を明確に 分けることで成り立つ。
この制度の 中で物流子会社は「サポート部門」に 位置づけられる。
言い換えれば、事 業を行って利益を追求する「執行部 門」ではない。
20 世紀の日本的な経営の常識では、 たいていの物流子会社が事業会社と して独立する道をめざしていた。
究 極的には株式の公開を果たし、親会 社に事業利益と上場利益の両方をも たらすことこそ、物流子会社のゴー ルという認識が一般的だった。
この考え方がカンパニー制では明 確に否定された。
「サポート部門」の 組織は、グループ内の企業などに横 断的にサービスを提供し、グループの 全体最適という観点からコスト削減 に寄与することを求められる。
物流 子会社の最大の役割は、競争力のあ る物流サービスを提供することであり、 たとえ親会社の業務をこなしながら であっても自立をめざすことは副次 的な選択肢でしかなくなった。
もはやコスト削減も、期待される 役割の一部でしかなくなっている。
親 会社が直面している環境問題への対 応を物流面から支援したり、トレー サビリティ(製品の履歴管理)の仕 組みづくりに協力することなどが、新 たな役割としてクローズアップされて きた。
グループ企業にトータルでロジ スティクスの機能を提供することが、物流子会社に求められるようになっ てきたのである。
外販拡大路線からの転換 結果として、物流子会社が掲げる 経営方針も様変わりした。
これまで 物流子会社の多くは、事業会社とし て成功するために、親会社以外の荷 主を扱う外部販売事業、いわゆる外 販に注力してきた。
しかし、これは一 CSRが物流子会社の役割を変える 第11回 75 MAY 2007 朝一夕で実現するものではない。
外 販事業が軌道に乗るまでの間は、親 会社の仕事で物流子会社の経営を下 支えすることが暗黙の前提になって いた。
実際、この路線で成功した物流子 会社は、ごくわずかしか存在しない。
むしろ、親会社の物流効率化と外販 の両方が中途半端になってしまった 物流子会社がほとんどだ。
このよう な状態を連結経営の観点から見れば、 グループにとって不要の存在とみなさ れても仕方ない面がある。
専業者と比較したときの競争力が よほど高い場合を除けば、物流子会 社が外販の拡大を追求する時代は終 わった。
ほとんどの子会社が事業の 主目的を「外販の拡大」から「親会 社への貢献」へとシフトしている。
経 営目標として株式公開を掲げる子会 社は影をひそめ、親会社やグループ 会社への貢献を最大の事業目的とし て標榜するように変わった。
国内で販売物流を束ねる元請業者 として、協力物流業者をまとめるだ けという役割にも背を向けつつある。
有力な物流子会社ほど、連結経営を 物流面からサポートするためにサプラ イチェーンをトータルで管理する存在 に脱皮しようとしている。
原料・包 材を仕入れる調達物流や、海外で生 産する製品を日本に輸入する国際物 流などを、新たな活動領域とする企 業が増えてきた。
ただし、戦略の立案は、あくまで も親会社のヘッドクォーターが持つべ き機能だ。
物流子会社が担うべきも のではない。
欧米流のカンパニー制を 導入した企業ではこれが徹底されて いるし、そこまでいかなくても物流子 会社がグループの物流戦略まで担う ケースはほとんどなくなった。
子会社 の役割はもっと現場に近い領域に限 定され、物流現場の運用や、実務の 管理などに携わっている。
そうした場合に物流子会社が発揮 する最大の強みは、親会社の業務を 知っていることだ。
最近は日本でも 3PLが拡大してきたが、私の印象 では、物流専業者の認識はまだまだ 荷主の感覚とかけ離れている。
契約 こそ包括的になってきたものの、依 然として荷主の指示を待っている。
親 会社が対処すべき課題が目まぐるし く変化する現状に対応していくには、 力不足のように思える。
一例を挙げよう。
たとえば加工食品メーカーがASEAN諸国から原 料や製品を輸入しようとすると、日 本で高まっている「食の安心・安全」 を意識した物流管理が欠かせない。
輸 送段階での情報管理やトレーサビリ ティなどが求められるのだが、このよ うに手間はかかるが売上増につなが らない行為を、物流専業者が自ら率 先して行うとは考えにくい。
運んだ 結果にさえ問題がなければいい、と 考えているフシがまだある。
その点、物流子会社は荷主と同じ 目線で考えられる。
そこで新たなコス トが発生するとしても、親会社が必 要性を納得できるものであれば仕方 がない。
対応が後手に回って、企業 不祥事として発覚してから高い代償 を求められることを思えば、トラブル を未然に防ぐほうが重要だ。
こうし た判断を親会社と同様の感覚で下せ ることが、物流子会社の強みだ。
そ のうえでコスト競争力も身につけるこ とが、連結経営の時代の物流子会社 には求められている。
親会社のリスク管理を肩代わり この連載でも繰り返し指摘してき たことだが、 20 世紀に主流だった効 率一本槍の物流管理は、もはや 21 世 紀には通用しない。
良い製品やサー ビスを安く提供するのは当たり前で、 これに加えて社会のさまざまな要請 に応えられる企業だけが生き残る。
こ うしたことが現在では漠然とCSR として認識されるようになったわけだ が、物流分野でも同じだ。
むしろC SR経営の時代に入って、物流部門 に求められる役割はかえって大きくな ったと私は考えている。
とりわけ食品メーカーにとって、こ れは顕著だ。
「食の安心・安全」とい う社会の要請に応えるには、製造技術や品質管理など多くの要素を満た す必要がある。
しかし過去の企業不 祥事を振り返ってみると、在庫管理 をはじめとする本来のロジスティクス が機能していれば防げた事例が多い。
原因そのものとは無縁でも、ロジステ ィクスが機能していれば発生後の対 応にまごつかず、深手を負わずに済 んだと思われるケースも目立つ。
W X e B V ‰ を、運賃や保管料の安さだけを基準 に選んだ物流専業者に回避してもら うのは無理がある。
また、リコール(製品回収)の際 にも、物流子会社ならではの強みを 発揮することがある。
加工食品の流 通は問屋を経由するため、メーカー は問屋の物流拠点に納品するところ までしか管理していない。
それ以後は、 問屋の管理下にあり、いざ回収をし ようとしても自社の製品が、どこに、 どれだけ出回っているのかをメーカー は把握できない。
このため、問題にな った製品はごく一部でしかな いのに、念を入れて出回った 製品すべてを回収するといっ た事態が発生する。
日頃から物流管理を手掛 けている物流子会社が回収 作業にあたれば、経験的に製 品の出回ったエリアを特定し て、被害を最小限に食い止 められる可能性がある。
物流 専業者に配送を委託してい る場合は、この役割を荷主の物流担当者が自らやらなけれ ばいけないのだが、よほど日 頃から配送実務に関与して いなければ手も足も出ないは ずだ。
荷主が物流子会社を 使い続ける一番の理由は、い まやリスクマネジメントにあるといっ ても過言ではないと私は思っている。
改正省エネ法で存在感 昨年四月に改正省エネ法が施行さ れたことも、物流子会社にとっては 追い風になっている。
従来の省エネ 法が配送実務を担う輸送業者だけを 規制対象としていたのに対し、改正 法では荷主も対象になった。
事業活 動に伴う貨物の総輸送量が三〇〇〇 万トンキロ以上ある荷主は、「特定荷 主」として、エネルギー使用量の把 握や、省エネルギー計画の策定およ び国への報告を義務づけられたので ある。
周知の通り、この法改正の背景に は二〇〇五年二月に発効した「京都 議定書」がある。
地球温暖化の防止 をめざす枠組みづくりを、「気候変動 枠組条約第3回締約国会議(COP 3=京都会議)」の議長国として九七 年に推進した日本は、二〇〇八年〜 二〇一二年までに温室効果ガスの排 出量を九〇年比で六%削減すること を国際的に約束している。
目標の達 成に向けて国を挙げて取り組むなか で、荷主企業も責任を負うことにな った。
企業が環境対策に協力するのは当 然だが、荷主にとっては厄介な仕事 だ。
エネルギーの使用量を把握する ために輸送データを集めるだけでも大 変な労力を要する。
ましてや、ここからモーダルシフトなどによって省エネ ルギー化できる業務を抽出し、実際 に輸送ルートの変更などをするとなる と、多くの事務処理や判断が求めら れることになる。
モーダルシフトでは、輸送手段が 陸運から鉄道などに変わる。
既存の 業者にしてみれば、自らの首を絞め る行為を率先して行うわけもなく、荷 主の視点がなければ実現は難しい。
こ 親会社をとりまくこのような事業 環境の変化は物流子会社にとっては 追い風だ。
本来のロジスティクスを 実現するうえで、親会社の業務に精 通している物流子会社にできること は多い。
広い意味でのセキュリティへ の対応や、親会社のリスクマネジメ ントを下支えするという意味で、その 存在意義は高まっている。
食品の物流では、輸送段階で異臭 がつくような事態は絶対に許されな い。
段ボールの外箱に臭いが付着し ただけでも、流通業者から受け取り を拒否されてしまう。
鮮魚を運搬し た車両で、直後に他の食品を運ぶべ きでないことぐらい誰にでも判断でき るが、こうしたトラブルは意外なとこ ろで発生する。
ある種の化学製品を 運んだ車両でも、同様の事態を招く ことがある。
倉庫での保管にも注意が必要だ。
と くに定温倉庫のように密閉された場 所では、他の荷物から異臭がうつる ようなトラブルの可能性も高まる。
も ちろん荷主は、このような事態が発 生しないように指示を出すのだが、実 務に携わる物流業者が判断を誤れば どうしようもない。
貸切ならまだしも、 複数の荷主の貨物を積み合わせてロ ーコスト化を図っているような場合ほ どリスクは大きい。
このようなリスク MAY 2007 76 れまで物流管理の大半を外部の専業 者に直接、委託してきた荷主の中に は、環境対応のために物流部門を拡 充する動きもある。
こうした仕事の 担い手として、物流子会社は使いや すい存在だ。
現状では「特定荷主」の事業に使 われる貨物であっても、調達先が輸 送の手配をしている原料や部材につ いては改正省エネ法の規制対象から 外れている。
だがCSR経営の時代 に、いつまでもこのような状況が続く とは思えない。
あくまでも買い手の事 業のための貨物である以上、輸送を 手配したのが誰だろうと、買い手に 責任があると言われても何ら不思議 はない。
全体最適とかロジスティクス を真剣に考えていけば、いずれはそう なると考えるほうが自然だ。
仮に将来、こうしたところまで省 エネ法の対象が広がるとしたら、ます ます荷主の物流部門の負担は増える。
物流子会社を活用しようと考えるの は理にかなっている。
リスクマネジメ ントや環境対策という新しい課題が、 物流子会社の役割や期待される姿を 大きく変えつつあることを関係者は 意識しなければいけない。
何よりも人材育成が急務 もっとも物流子会社が現在、この ような親会社の期待に応えられてい るかといえば非常に心許ない。
親会 社の指示を待つ姿勢も依然として目 立つ。
物流子会社の多くは、自主的 な経営計画を持っておらず、人材育 成の仕組みもない。
せっかくグループ 内で存在感を発揮できるチャンスが 到来したのに、生かせない可能性が 大きい。
これまで親会社が、物流子会社の 人材育成に本気で取り組んでこなか ったという指摘もあろう。
たしかに、 異なる給与体系や人事制度のなかで、 コスト削減ばかりを求めてきた。
物 流子会社の人たちが、『偉そうなこと を言うなら、お前がきて自分でやって みろ』と思う気持ちも理解できる。
し かし、これを言ってしまっては身も蓋 もない。
そんな子会社はグループ経 営には不要というレッテルを改めて 貼られてしまうだけだ。
いま物流子会社には、親会社の意 向を意識しつつ、自ら行動すること が求められている。
何よりも焦眉の急は人材の育成だと私は認識してい る。
多様化するニーズを考えれば、親 会社と同じ人材教育では足りない。
現 在の日本では、本当の意味での物流 のプロが、経営から実務の現場まで 不足している。
物流子会社にとって、 いかに人材を育てるかは最大の課題 といえるだろう。
そのためにも、親会社に依存して きた過去の体質から脱却し、今後の 経営ビジョンを明確にする必要があ る。
外販の拡大を中心に据えるケー スはもはや稀だと思うが、グループ会 社の荷物だけを扱っていては、コスト 削減に限界があることも事実だ。
共 同物流などで効率を高める努力も欠 かせない。
商売上の利害が絡む同業 種との連携が難しいのであれば、思 い切って異業種と組むのも一つの手 だろう。
その際には、国内だけに限定され がちだった業務領域を、国際分野に 広げるという判断もありえる。
異なる 地域に展開している物流子会社同士 が連携すれば、単に外販を増やすの とは違った相乗効果を発揮できる可 能性が出てくる。
そうなれば自ずとコ ストは下がり、グループ内での立場も 強化できるはずだ。
こうしてコスト削減に取り組む一 方で、中長期的に物流子会社の存在 価値を高めていくためには、やはり人 材がカギになる。
次々と発生する課 題に応えられる物流マンを育てなけ ればいけない。
CSR経営の時代に 物流子会社を上手く活用していくう えで、親会社は子会社の役割を明確 にし、子会社は生まれ変わることを 求められている。
77 MAY 2007

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