*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
業部門の生産性支援
?事業、ブランドの枠を超えたオーダ
ープロセスの構築
?需給調整サイクルの見直しと納期
回答精度の向上
?生産指示プロセスの改善
?各種プロセスを支えるデータの精度
の向上
七つの目標の実現と並行して、I
BMの変革と統合を支える役割を果
たしてきたのが、
FIW(Financial
Information Warehouse:財務情報
ウエアハウス)
と呼ぶデータベースと
セグメント別収益管理のしくみの二
つだった。 これらの構築に着手したの
は九二年のリエンジニアリングに遡る。
その後、〇二年からのサプライチェー
ン統合を経て完成した。 この二つの
取り組みは、IBMのコンサルティ
ング部門と開発部門との協業により
実現された。
コストを「見える化」
成功を収めている会社には大きく
二つの特徴がある。 一つはコスト管
理能力だ。 製造原価、物流費、税金
を含めたすべての費用を的確に管理
している。 そしてもう一つが、収益管
理能力だ。 精度の高いコスト管理の
仕組みを築き、その上に、収益を管
理する仕組みを構築している。 経費
と利益率を常に管理しながら、すぐ
れた販売モデルを使って、競合に勝
負を仕掛けていく。
こうした仕組みがうまく機能して
いる企業は、概して売上高の伸び率
よりも利益の伸び率が高い。 儲かる
仕組みがきちんと確立しているからだ。
IBMでは、世界中の全ての拠点
からの経理情報をFIWで一元的に
集中管理している。 それにより、情
報の見える化を高度なレベルで実現
している。 データが常に管理されているので、IBMの決算は締めから一
週間弱の早さで完了する。
世界の各拠点で日々入力されるコ
スト、出荷、売上、在庫といった実
績データは、すべて自動的に集計さ
れる。 集計データは、グローバル全体
から、製品や地域といったカテゴリー
別に詳細にブレイクダウンしていくこ
とも可能だ。 FIWを使えば、日々
の実績データのほか、サプライチェー
IBMのサプライチェーンを統合
するという使命のもと、専門組織で
あるISC(Integrated Supply
Chain)は数々の取り組みを進めてき
た。 原則やリーダーシップを重視し、
人財の育成や評価の見直しを行い、大
きな成果を生んできた(二〇〇七年
一月号〜四月号参照)。
サプライチェーン改革を進める上
で、ISCはITの活用度を飛躍的
に高めた。 IT活用策として設定し
た目標は、次の七つだった。
?お客様との接点におけるサービスの
向上
?B2B(企業間)リレーションシ
ップの構築
?引き合い管理プロセスの改善と営
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一〇年越しの取り組みによって、地域ごとに異なる運用をし
ていた情報システムをグローバルに統合した。 世界の各拠点で
入力される全ての情報を集中管理するデータベースを構築し、あ
らゆる角度から収益性を分析できるシステムを作った。 サプラ
イチェーンの「見える化」を徹底したことで、儲かる仕組みが
できあがった。
グローバルSCMシステムの構築
第5 回
ンにおける構成人員、経費、出荷金
額(量)、在庫金額(量)、資産まで
の情報を経理的な側面から捉えるこ
とができる。
コストの見える化は、次の三点で
非常に大きな価値を生んでいる。
?Fact(事実)に基づく意思決定
客観的な事実を捉えていないと、利
益が逼迫した場合に部門間で水掛け
論が起こりがちだ。 生産を縮小すべ
きだとか、価格を下げて販売を拡大
すべきだとか、それぞれの立場を主張
するだけでは合理的な結論には至ら
ない。
感情や部門の権力といった非合理
的な要素に左右されずに適切な判断
を行うには、数字という客観的なデ
ータが必要だ。
IBMでは、意思決定の基礎とな
る数字を正確かつ迅速に把握してい
る。 適切な経営判断を行う上で、こ
れは非常に重要だ。 だが実際には、そ
れが実現できている企業は限られる。
例えば、多くの日本企業ではロジ
スティクスコストがきちんと把握され
ていない。 その原因として、勘定科
目の設定がコスト分析に適していな
い、データの入力ルールが徹底してい
ない、分析ツールも少ない――といっ
たことが挙げられる。
コストには、必要なコストと不要
なコストがある。 コストの要/不要を
判断できなければ、適切なレベルのコ
ストを無理に削減し、削るべきコス
トを放置することになる。 然るべきア
クションにつながるコスト管理ができ
ていなければ、長期的なコスト削減
は不可能に近い。
?経営のシミュレーション
把握した数値を構造化し、利用す
ることで、どこをどう変えたらどこに
どのような影響があるかをシミュレー
ションできるようになった。 各種施策
と経営効果との因果関係を明確にし
た上で施策を練ることができ、さらに
その施策を事前評価することができ
る。 また、特定のセグメントのデータを抽出し、他社をベンチマークするこ
とも可能になった。
?グローバル・カンパニー化
世界中で展開されるあらゆる活動
を、本社で常に数字で把握できる。 情
報を可視化したことで、戦略の実行
は現地の責任者に任せ、本社は全体
的な整合性の調整や高いレベルでの
戦略の見直しに集中できるようにな
った。
従来のIBMは、「マルチナショナ
ル(複数の国に拠点を置く)・カン
パニー」の域を出なかった。 つまり、
地域最適、地方分権、スローオペレ
ーションで顧客志向が低かった。 業
績低迷を機に着手した九二年からの
変革では、地域分散型の管理を中央
集権型の管理に切り替えた。 組織体
制とITの仕組みを見直し、全社最
適、中央集権、迅速で精度の高いオ
ペレーション、お客様志向を実現す
る「グローバル(地球規模の)・カ
ンパニー」となり、IBMは一つ(O
ne
IBM)になった。
グローバルレベルでの見える化を確
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対策、開発等のコストや、製品、保
守、サービス等の売上も管理してい
る。 これらのデータを使って、商品群
別、お客様別にライフサイクルを通
して収益管理をする仕組みが「セグ
メント別収益管理」である。 計画的
に利益が見込めるか、結果として利
益がでたかを管理できる機能も備え
ており、具体的な戦略・施策の検討
が可能だ。
セグメント別収益管理表は
図1の
ようになっている。
デスクトップPC、ノートPC、サ
ーバーといった商品カテゴリごとに、
売上高、売上原価、販売費および一
般管理費、営業利益、営業利益率を
示したP/L(損益)情報を管理す
る。 このうち販売費および一般管理
費の内訳は、ライフサイクルのステー
ジ別に細分化している。 開発、製造、
販売、保守、廃棄までの各ステージ
で発生するコストを詳細に管理する。
初期段階で予算を入力しておくと、ス
テージが進むにつれて実績を反映す
る仕組みになっている。
セグメント別に利益圧迫の要因を
細かく分析し、利益改善につながる
アクションを明確にする。 緻密な収
益性分析を行うことで、投資配分計
画に基づいた戦略ガイドラインの作
成、リソースの最適化配分、効果的
立するまでには、当然、試行錯誤も
あった。
九七年に、世界中の工場のサプラ
イチェーン関連データを基礎研究所
に集めて分析する仕組みを作ったこ
とがある。 当時としては最高水準の
仕組みであったが、データを十分に
分析できなかった。 情報の精度や区
分が統一されておらず、また、タイム
リーでなかったからだ。 組織構造や
社内ルールが浸透していないという
問題もあり、入手したデータを使い
こなせなかった。
このときの失敗を教訓として、三
年以上をかけて〇二年にようやくグ
ローバルでの勘定科目コード統一を
実現した。 時期を同じくISCが発
足したのに合わせ、データの精度と
鮮度を向上させるITインフラの拡
張と組織ルールの見直しを進めた。
地域や事業部門の独自コードは、原
則として認めないことにした。 ただし、
現地の法律に関わる場合は本社の承
認を条件として設定できるようにし
た。 また、地域、事業毎に自由に使
える管理用コードの項目も準備して
柔軟な運用もできるようにした。
収支データを緻密に管理
FIWでは、ISCに関わる費用
だけではなく、販売、保守、クレーム
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な業務改善の検討などが可能になる。
図1のデータを分析した結果を、図
2のようにビジュアル化して示すこと
もできる。 顧客別、製品別の売り上
げデータや利益データが、金額に応
じた大きさの円形で示される。 どの
顧客に、どの製品がどれだけ売れて
いて、利益がどれだけ出ているのかが
一目で分かる。
分析結果は、
図3のライフサイク
ル収支曲線のように、製品別に時系
列で表すこともできる。 企画・開発
の段階では、コストのみ発生して利
益が出ていないのでマイナス。 出荷
段階に入って利益がコストを吸収す
るとプラスに転じ、売り上げとともに
利益が拡大していけば曲線は右肩上
がりで推移する。 計画と実績を比較
しながら、製品ごとの収支状況を把
握し、アクションに移す。
IBMの事業計画は、各製品のラ
イフサイクル収支計画の合計だ。
計画を達成するためのマネジメン
トは、IPMT(Integrated Portfolio
Management Team:統合型ポートフ
ォリオマネジメントチーム)とPDT
(Product Development Team:製品開
発チーム)の二段階で行う。 事業責
任者と各機能部門長による組織横断
型マネジメントチームであるIPM
Tが、製品(群)ごとに組織横断的
にPDTメンバーを選任し、担当製
品(群)の収支管理を任せる。
IPMTは実行部隊であるPDT
に対し、構想、計画、出荷、打ち切
りというチェックポイントを設け、状
況を見極めながら、PDTに対する
支援と事業全体としての意思決定を
行う。 価格、市場投入タイミング、そ
れらに伴う経営資源配分、打ち切り
と後継機種の投入タイミングなど総
合的にバランスのある判断をスピーデ
ィーに行う。
ガバナンスにITを活用
IBMは、コーポレートガバナンス
(企業統治)の確立にもITを活用し
ている。 プロセスやルールを確実に組
織に浸透させるための仕組みづくり
で、もはやITは無視できない存在
だろう。 ITを活用したガバナンスの
しくみは、SOX法(サーベンスオク
スリー法)をはじめとしたコンプライ
アンスへの対応としても役立つ。
IBMでは、グローバルに事業を
統括する責任者を、顧客対応管理や
フルフィルメントといったプロセスご
とに「プロセスオーナー」として任命
し、大きな権限を与えている。 そのプ
ロセスにおいてプロセスオーナーはC
IO(Chief Information Officer:
最高情報責任者)でもあり、プロセ
ス設計からルール統一、既存情報シ
ステムの廃棄、新情報システムの開
発予算に至るまでの権限を有してい
る。 プロセスオーナーの責任の下で全
てのプロセスが明確に定義され、違
反処理が行えない仕組みが確立され
ている。 プロセス監査も定期的に実
施している。
プロセスオーナーに情報システム改
廃・構築の権限を与えたのは、非常
に重要なポイントだ。 従来は、地域や事業ごとに独自の
情報システムを使って管理をしてい
たため、中央のガバナンスがきかなか
った。 そのため、サプライヤーへの支
払いをグローバルでまとめるやり方に
変えたものの個別処理が後を絶たな
いなど、問題が少なくなかった。
プロセスオーナーにCIOとしての
権限を与えることで、サプライヤー/
業者の登録、契約の登録、支払い処
理といったデータがグローバル共通の
システムで一元的に管理できるよう
になった。
「IBMの社員はまず権限を与えら
れるので自由に活動できる。 通常は、
やりたいことがあっても実績を積まな
いと権限が与えられない」と、お客
様から言われることがある。
確かに、IBMでは権限と責任が
明確だ。 責任はあるが権限はない、責
任はあるがガバナンスがきかないとい
ったような混乱は、IBMには存在
しない。
目標を確実に達成できる計画があ
れば、実行権限が与えられる。 権限
を与えた後の実行状況は常に数値で
表され、すべてトップおよび会社全
体に見えるようになっている。 見えて
いるから、何か問題がある、あるいは
問題が起きそうな場合でも、状況悪
化を未然に防ぐことができる。 その
仕組みが整っているからこそ、トップ
は現場に権限を与えて主体的に行動
させられるのである。
もうり・みつひろ
シニアマネージングコンサルタント
製造業、外資系コンサルティング会
社を経て日本IBMに入社し、IBMビ
ジネスコンサルティングサービスに
出向中。 現在、ロジスティクス・サ
ービスの日本及びアジア・パシフィ
ック地域のリーダー。 これまで多く
のSCM/ロジスティクスの改革に従
事。 上流から下流まで幅広いプロジ
ェクト経験を持ち、グローバルに展
開するプロジェクトの経験が豊富。
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