ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年5号
ケース
現場改善ケイヒン配送

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2007 38 日生協の通販が急成長 ケイヒン配送は通販商品の物流管理に三〇 年近い歴史を持つ。
本社所在地でもある神奈 川県内の横浜商品センターで、通販商品の入出荷から在庫管理・配送・返品処理まで含 めたトータルな物流代行サービスを手がけて いる。
総合カタログ通販を皮切りにこれまで インターネットやラジオなどさまざまな媒体 を使った通販物流に手を拡げ、順調に取り扱 い数量を伸ばしてきた。
日本生活協同組合連合会(日生協)との 取引は九〇年にスタートした。
日生協の通販 事業「くらしと生協」というカタログに掲載 される商品の物流業務を一括受託している。
「くらしと生協」はアパレル製品やインナー 類・寝具・雑貨・家具など、食品以外の日 常の生活関連品を総合的に展開している。
こ のうち大型家具を除くすべての商品をケイヒ ン配送が扱っている。
日生協には地域生協や大学生協など五〇〇 余りの生協が加盟している。
日生協はこれら の会員生協を通じて通販事業を行っている。
会員生協が組合員(消費者)にカタログを配 布、組合員からの受注をまとめて日生協に発 注する。
エンドユーザーは組合員だが、日生 協にとっては会員生協が直接の取引先となる。
生協の通販には、組合員が班単位で商品を 共同購入する方法と個人で購入する方法があ る。
日生協のカタログ通販も組合員の個人購 入と共同購入方式の二通りがある。
ケイヒン 配送のセンターではこのいずれについても、 組合員単位でピッキング・包装を行っている。
個人購入の分は宅配便で直送する。
一方の共同購入は会員生協がほかの商品といっしょに 組合員のもとへ配達する形をとるため、会員 生協のセンターに送る。
班単位の共同購入は消費者のライフスタイ ルの変化などから九〇年代半ばをピークに縮 小を余儀なくされている。
その一方で個人宅 配による購入方法が急速に普及していること で、生協の通販事業は再び成長軌道に乗って いる。
日生協の個人宅配も近年、急成長を遂 げた。
ケイヒン配送のセンターで扱う商品の 出荷量も順調に増え、ここ数年は毎年二割前 後の伸びを続けている。
現場改善 ケイヒン配送 通販物流の拡大に対応しWMSを刷新 大幅な生産性向上とミス撲滅を両立 ケイヒングループのケイヒン配送は、急成長 を遂げる日本生活協同組合連合会(日生協)の カタログ通販に対応し、倉庫管理システムを一 新した。
進捗管理の導入やピッキング方法の見 直し、梱包の自動化などで効率化を実現。
また パートタイマーの賃金に個人別生産性の分析に 基づく成果主義をとり入れ、モチベーションを 高めることにも成功している。
日生協向けに約3万アイテムを管理。
年間の出荷数量は 1000万点を超えている 39 MAY 2007 すでに上昇気流に乗りつつあった四年前の 二〇〇三年一月、ケイヒン配送は日生協から 二〇一〇年を目標年とする長期事業計画を明 かされた。
それによると二〇一〇年にはケイ ヒン配送のセンターから出荷する物量が年間 一〇〇〇万〜一二〇〇万点の規模になる見 込みだという。
当時の出荷数量のおよそ二倍 に当たる。
予想される数量に対応した出荷能 力の増強とコスト低減の実現について、ケイ ヒン配送は日生協から提言を求められた。
容易なテーマではなかった。
「くらしと生 協」は、大手通販会社の総合カタログによく 見られるような、たくさんのカテゴリーの商 品を一冊に掲載したものではない。
ある号で はインナー類、別の号では靴という具合に、 カテゴリーごとに媒体が分かれている。
従っ て一媒体あたりで展開する商品の数は少ないものの、媒体の種類が多い。
平均すると週に 一度のペースで展開されている。
カタログによって掲載商品の数はまちまち で、複数のカタログの展開時期が重なること もある。
日によって出荷の波動が激しい。
ま た最近では、ターゲットを従来の四〇〜五〇 代主婦層からヤングファミリーなどに広げて 新媒体を相次ぎ立ち上げており、年間に扱う 商品のアイテム数も増大している。
このように日々の変動が大きくアイテム数 も拡大するなかで、商品の出荷能力の増強と コスト低減という二つの命題を実行するには、 センター業務の生産性を飛躍的に高めていく 必要があった。
このためケイヒン配送では、 専任部署である当時の商品管理一部二チーム (〇六年四月にコープセンター部へ改組)が 中心となり業務の抜本的な見直しを行うこと にした。
進捗管理をシステム化 生産性の向上にはまず倉庫管理システムの 刷新が必要だった。
当時のシステムはあくま で在庫管理に主眼が置かれていた。
このため センター内でのステータスは大枠でしか管理 できなかった。
例えば、入荷検品が完了した 時点でコンピュータ上は「入庫」になってし まう。
事前に送られた入荷情報をもとに商品 と入庫ロケーション番号とが紐付けしてある ため、自動的にそのロケーションに入庫が行 われたものとして処理されていた。
実際には入荷作業が間に合わず、入庫前に 何カ所かにエリアを分けて仮置きしておくこ ともある。
通販商品は需要予測が難しい。
予 想以上の注文が入って「注文残」が発生し、 一度に大量の商品を入荷することもしばしば だ。
仮置きが発生するのは主にこうしたケー スだ。
この状態で出荷指示が出ると、商品の 保管場所が分からず、作業が滞ってしまう。
また、作業フローの分析によって、ピッキ ングの動線に無駄が多いことや、梱包工程の 作業効率が著しく悪いことも明らかになった。
そこで同社は、?倉庫管理システムを高度 化して、細かなステータス管理を行い、作業の進捗管理をシステム化する、?ピッキング 方法の見直しを軸に作業フローを効率化する、 ?梱包工程を一部自動化して作業の省人化 を進める、などを主な項目とする業務改革案 を提案した。
この提案を実行するため、〇四年九月に日 生協との共同プロジェクトを立ち上げた。
一 年がかりでWMS(Warehouse Manage ment System:倉庫管理システム)などの導 入準備を進め、翌〇五年八月に新体制をスタ ートした。
従来と大きく変わったのは、まず作業の進 MAY 2007 40 もピッキングに行くことになり、動線の数が 多くなっていた。
そこで出荷頻度によって商 品の入庫ゾーンを分け、生協の受注データ (出荷指示)をピッキングデータに加工する 際に、作業動線が極力短くなるよう振り分けを行うことにした。
ピッキング作業は十二件単位で行う。
十二 件分のオーダーを商品別にトータルピッキン グしてから一件ずつ種まき式に配分する。
そ の際に、商品別トータルピッキングを一つの ゾーンで行うことを優先して十二件分のオー ダーをまとめる。
どうしてもオーダーが複数のゾーンにまた がる場合は、隣り合うゾーンで作業できるよ うに振り分ける。
出荷頻度の高いゾーンほど スタート地点に近いところに設定する。
これ によって、ゾーンまでの歩く距離も、ゾーン 内またはゾーン間でピッキングする距離も最 短にすることができる。
このほかオーダーの特徴を考慮してもう一 つ工夫を凝らした。
日生協の通販には、組合 員からのオーダーが商品一点だけという「単 品オーダー」がオーダー件数全体の半分を占 めるという特徴がある。
?ショーツ一枚だ け〞というような文字通り単品のオーダーで、 小物などは「郵便」で届けている。
会員生協のなかには独自にカタログを作成 して通販事業を行っているところが多い。
日 生協の「くらしと生協」は通常、これらのカ タログといっしょに配布される。
組合員は配 布された複数のカタログの中から商品を選ん でまとめて注文する。
このため何点かの商品 を注文していても、日生協への発注分だけを とると一点になるケースがでてくる。
こうし た「単品オーダー」については、二点以上の 「複合オーダー」と分けてピッキング作業を 行うよう、業務フローを変更した。
ピッキング作業もWMSで管理する。
従来 は七ケタの商品コードを目視で確認しながら 作業を行っていたため、三万件に一度の率で ミスが発生した。
WMSの稼動に合わせて、 日生協がベンダーの協力のもとで商品にバー コードを導入、作業者のハンディターミナル に指示を出し、バーコードを読みながらピッ キングを行う形にした。
作業精度が著しく高 まり、ミスはほとんどなくなった。
バーコード導入の効果が最も現れたのは包 装工程だ。
従来は最終の包装工程で目視による検品を行っていたため、負荷が大きく、作 業全体のボトルネックとなっていた。
新体制 では、トータルピッキングの時と種まき式の 配分時に、それぞれハンディターミナルでバ ーコードを読み込むことで検品を同時に行え る。
このため、包装工程での検品は原則とし て省くことにした。
その結果、導入前には包 装作業のスピードが一人あたり一分間に平均 一〜一・五件だったのに対して、導入後は 二・五件以上へと大幅にアップした。
配置す る人数をほぼ半分に減らすことができた。
自動包装システムも新たに導入した。
商品 捗管理が容易になったことだ。
センター運営 を効率化するには、作業量に応じて適切に人 を配置し、進捗状況を見ながら工程間で員数 の調整を行うことが重要だ。
だが以前は、伝 票の枚数などから経験と勘を頼りに大まかな 配置を決め、現場の状況をいちいち確かめな がら調整していた。
新しいWMSでは入荷検品や棚への入庫、 ピッキング、梱包時に送り状を添付する際な どに、ハンディターミナルでバーコードを入 力して細かなステータス管理を実施する。
こ れによって各工程での作業の進捗状況が管理 用のコンピュータ端末で、ひと目でわかるよ うになった。
また「注文残」となっていた商品が後から 大量に入荷して作業量が一気に増えてしまう 問題は、日生協からデータを送ってもらうタ イミングを早めることで解決した。
従来は 「注文残」の分については商品が入荷してか ら出荷指示が送られてきていたが、入荷前に 「事前出荷情報」を送ってもらうことで、入 荷した日の午後から出荷を行うかたちに変え た。
センター作業を平準化できることに加え、 日生協にとってもリードタイムを半日短縮で きるメリットがある。
これもステータス管理 の導入によって可能になった。
ピッキング動線を最短に ピッキング方法も大幅に変更した。
従来の オーダーピッキング方式では同じ商品を何度 41 MAY 2007 と納品伝票を一対にしてラインに投入するだ けで自動的に包装され、送り状が添付される システムだ。
「単品オーダー」のなかの小物 類を対象に運用している。
これらの改善策によりセンターの出荷能力 は大幅にアップした。
以前は一日に四万点ま での出荷が限界で、これを超えると翌日に作 業を繰り越していた。
体制を一新した後は、 ピーク時に七万五〇〇〇点の出荷数を処理し た日もあった。
ピッキング工程には商品のバ ーコードを一点ずつチェックする検品作業が 新たに加わったにもかかわらず、一人あたり の一時間の平均処理数は従来の一〇〇点から 一二〇点に増えた。
アイテム数が一年で一・五倍に ただし、出荷数は生産性向上を上回るペー スで伸びている。
新システムを導入した〇五 年度は年間の出荷数が八〇〇万点だったのに 対し、〇六年度は一〇〇〇万点を超えた。
日 生協の当初計画では二〇一〇年に一二〇〇 万点の出荷を見込んでいたが、〇七年度に目 標を達成してしまう勢いだ。
数量だけでなくアイテム数の増加も著しい。
システム稼動当初は常時出荷のあるアイテム 数が二万(SKU)だったのに対し、昨年秋 には三万を超えた。
ベビー用品など新ジャン ルのカタログ展開で、媒体の種類も前年の五〇から六〇以上に増えた。
コープセンター部 の吉村裕部長は「わずか一年でこれだけ一気 にSKUが増えるとは全くの予想外だった」 と舌を巻く。
アイテム数の増加とともに在庫数量も一年 で二倍近くに増えた。
ピッキングエリアや保 管場所が足りなくなり、〇五年当時に三六〇 〇坪だったセンター内のスペースを今では六 〇〇〇坪まで広げている。
これによって動線 も長くなり、このままアイテム数と在庫が増 えると、作業効率が著しく悪化する懸念が出 てきた。
このためコープセンター部では、今年から 再びピッキング方法などの見直しに取り組む ことにした。
今まではピッキングエリアに、 全てのSKUの間口を設け、毎日の出荷の後 で補充を行っていた。
三万もSKUがあると 補充作業に大変な負荷がかかる。
だが毎日、 三万SKUすべてにオーダーが入るわけでは ない。
実際に在庫が引き当てられるのは一日 当たりせいぜい六〇〇〇SKUだ。
それなら ば出荷のあるSKUだけを当日の朝に補充す ればいい。
さらにゾーンの考え方をやめてピッキング の間口そのものを六〇〇〇に絞り込むという 方法も検討している。
補充作業の負荷が減り、 ピッキング動線も短くできるはずだ。
ただし リードタイムが長くなるなどの懸念もある。
コープセンター部ではこの春からテストを行 い、効果の検証を行う予定だ。
生産性の向上にはこのような業務の見直し とともに、「作業者が業務に主体的に取り組 んでくれるような環境づくりが重要」と吉村 部長は考えている。
WMSの導入で個人別の ピッキング数を把握できるようになったこと から、コープセンター部では作業者全員の平 均点数を毎月掲示板に張り出して、モチベー ションを高めるために活用してきた。
ピッキ ングの平均処理数が前年よりアップしたのは その効果によるところが大きい。
昨秋からはパートタイマー一人一人の時給 に成績を反映させるとともに、平均点の高い パートをリーダーに選んで作業の進捗管理などを任せている。
「今後は各工程の管理業務 などもできる限り社員からパートにシフトし ていきたい。
それができるような業務の流れ を今年のうちにつくる」と吉村部長は言う。
昨年からコープセンター部では、日生協か らベンダーへの発注業務や納期管理も任され るようになった。
顧客の信頼を勝ち得た一つ の証しと言える。
そのうえで「今年は(出荷 増などの)課題を克服しながら利益を出せる 体制にするための変革の年にする」という。
同部にとって今年がまさに正念場だ。
( フリージャーナリスト・内田三知代) コープセンター部の吉村裕 部長

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