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財務を共通言語に
私はサプライチェーン・カウンシル(SC
C)で、欧州を担当するディレクターを務め
ています。 SCCは、九六年にアメリカのコ
ンサルティング会社が中心となってサプライ
チェーン・マネジメント(SCM)の啓蒙・
普及を目的に設立された非営利団体です。 現
在、フォーチュン五〇〇傑の企業を中心に約
八〇〇社が参加しており、そのうち欧州では
二〇〇社が参加しています。
さて、SCMとは何でしょう。
わかりきった質問に聞こえるかも知れませ
んが、それを改めて考えることで、現在のS
CM部門が抱える問題がはっきりと見えてき
ます。 現場レベルから見れば、SCMとは調
達から最終顧客まで、どうやって物を効率的
に流すのかが重要になります。 情報システム
としてとらえるなら、ERP(統合基幹業務
システム)ソフトを中心に据えて、その周り
にCRM(顧客関係管理)やSRM(サプラ
イヤー関係管理)に関するソフトを配するモ
ジュールということができます。
ビジネスとしてみる場合は、会社の中の三
つの階層によって見方が違ってきます。 役員
会レベルでは、SCMをROI(投資利益率)
やビジネス全体に与える影響といった観点か
ら見ています。 その下のマネジメントレベル
今や荷主企業の約三〇%がSCMをCFO(最高財務責任者)の管轄にして
いる。 これまで現場から一番遠いところにあった財務部門にSCMを管轄させる
ことで取り組みを推進しようという狙いだ。 これに合わせてSCMの実務者は、
現場の効率化やコスト削減がどのように株主の利益につながるのかを理解し、そ
れを報告する必要に迫られている。 その方法をサプライチェーン・カウンシルの
欧州ディレクターが解説する。
(取材・編集
本誌欧州特派員
横田増生)
欧州SCM会議から
SCMはCFOの管轄下に移行
現場担当者は財務諸表に精通せよ
〈第八回〉
サプライチェーン・カウンシル
エンリコ・キャメリネリ
欧州ディレクター
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ら現場を取り締まる警察官としてではなく、あ
くまでもコーチやパートナーとしての立場を
とることです。 さらに、現場の業務報告のラ
インを、現場の責任者と財務担当者の二人に
することで、いっそう効果が上がります。
たとえばフェデックスでは、現場を担当す
る役付の社員は、ビジネスユニットの部門長
に報告するのと同時に、CFOにも報告して
います。 そして各自の給与の半分については、
部門長が査定して、残りの半分はCFOが査
定します。 つまり現場でどれだけの業績を上
げたかという従来の基準に加え、それを財務
諸表から見た場合、どれだけ経営に貢献があ
ったのかを計っているのです。
EVAの活用
企業においてSCMマネジャーは、作業現
場の専門家と見られています。 作業の細部に
まで精通しており、SCMを最適化すると同時に、経費削減という責任も負っています。
この?コスト・カッター〞としての側面は、し
ばしばマーケティングや販売部門の責任者と
の間に緊張関係を生み出します。 マーケティ
ングや販売部門は、顧客満足度を大切にしよ
うとしますが、それに対してSCMの担当者
は、コストがかかるサービスに対しては待っ
たをかけるからです。 また常に在庫レベルを
低くしようとするその姿勢は、マーケティン
グや販売部門から見ると?問題〞として映り
ます。
さらに困ったことには、CEO(最高経営
では、予算とコストや、資産活用といった観
点で見ます。 その下の現場レベルとなると、オ
ンタイム配送や誤配送、在庫精度などのKP
I(重要業績評価指標)を使って自らの業務
を測定しています。
それぞれにSCMの効率を図る指標はある
のですが、ここで問題なのは三つの階層にお
ける指標がうまくつながっていないことです。
つまりSCMの現場における指標と、財務に
おける指標がつながっていないのです。 この
ことは、会社経営者にとって大きな問題とな
っていて、どのような共通言語を使えば、S
CMの成果を話し合えるのかが課題となって
います。
フェデックス――CFOが現場を査定
サプライチェーン・カウンシルが会員に対
して行った最近の調査では、約三〇%の荷主
企業において、CFO(最高財務責任者)が
SCMの結果に責任を持つようになったこと
がわかりました。 SCMに対する企業の考え
方が、これまでの現場中心主義から、財務と
いう側面で管理しようとするように変わって
きていることを表しています。 SCMの成果
を、株主の利益という視点から説明できるよ
うにしようとするものです。
それによってCFOに新しい仕事が生まれ
ようとしています。 それまでの本社で予算を
立て、その実行状況を把握して、上がってき
たデータを分析するという受身の役割に加え、
SCMの現場などの財務部門以外の社員にも
財務指標について説明し、理解を深めること
で、自らの努力の結果を財務指標の改善につ
なげていくというプロアクティブな姿勢が求
められるようになってきました。
製薬メーカーであるグラクソ・スミスクラ
イン社のドイツ法人のCFOは次のように語っています。 「財務部門の仕事は、財務指標を
財務部門以外の社員にもわかりやすく説明す
ることだ。 そして目標とする利益を達成する
ために、各セクションのメンバーがどのよう
に貢献すればいいのかを説明する。 われわれ
は、最終利益の目標を、各自の目標に細かく
切り分けることができるのだ」
財務部門とSCMの現場との関係を強化す
るには、人事的な交流に加えて、SCMの現
場にいる社員に、財務に関する基本的な教育
を行う必要があります。 損益計算書や貸借対
照表の見方といった基礎的なことから、内部
収益率や資本コストといったSCMの現場と
関連する項目までの理解を深める必要がある
のです(
図1)。
財務部門の社員には、人事異動によって、
現場の仕事を経験させることが大切です。 現
場の仕事といっても、作業に精通するという
のではなく、現場にコーチや仕事上のパート
ナーとして身を置くことで、結局は現場が仕
事を動かしているのだということを理解する
ことです。
その際、財務部門の社員が気をつけなけれ
ばならないことは、財務の視点から現場の?あ
らさがし〞をしないことです。 財務の視点か
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のまま利益を上げるか、利益を維持して資本
コストを下げるか、その両方を同時に行うか、
となります(
図2)。
この考え方の重要な点は、EVAの向上と
いう目標を、SCMの現場の目標につなげることができることです。 たとえば、役員会が
「資本コストを一〇%削減したい」という目標
を立てたなら、それを在庫や売掛金、買掛金
といった細目に振り分けて現場の目標とする
ことができます。
加えて、需要予測の精度を上げるといった、
これまでSCMの効率化の文脈だけで語られ
てきたことも、EVAに当てはめて測定する
ことで、その価値が全社的に共有されること
になります。 需要予測の精度を上げることで
サプライヤーとの関係が強化され、それが支
払いサイトの変更にまでつながれば、買掛金
の項目でプラスとして働きます。 これにより
SCMの現場作業と、役員会の決定の間に関
連が生まれるのです。
DHLのSCOR活用
ただし、SCM担当者が、EVAを有効に
使いこなすには、EVAの概念を現場の作業
員にも理解できるように伝えなければなりま
せん。 役員会で売掛金に関する数値目標が決
まったとして、どの作業を優先すればその目
標が達成できるのかを、現場レベルに落とし
込んで作業の指示を出すことが不可欠になる
からです。
EVAを使いこなす具体的な方法として、
SCCが提案しているのは「SCOR
(Supply Chain Operations Referencemodel:
サプライチェーン業務参照モデル)」
という業務標準化のためのプロセス言語の活
用です。 SCORのメトリクス(指標)を使
用することで、SCMの現場作業が貸借対照
表と損益計算書にどのように影響を与えてい
るかを示すことができます。
たとえば
図3にある貸借対照表には、在庫
に影響を与える項目として、配送のリードタ
責任者)やCFOの目からすると、経費削減
や業務効率化といった課題は、販売の拡大や
マーケティング戦略と比べると訴求力に欠け
るということです。 つまり、?コスト・カッタ
ー〞という側面だけでは、経営の中核に入り
込むことができないわけです。
そうした状況で、SCM担当者が、自分の
立場を強める方法が一つあります。 それは、
自らの仕事の結果やその成果を、財務指標を
使って説明する能力を身に着けることです。
CEOもCFOも財務指標にプラスの影響を
与えるのなら、SCMのプロジェクトに今以
上に大きな関心を寄せるようになります。 そ
うした、財務指標に現れる効果を前面に押し
出すことが大切です。 これまでいわれてきた
ような「顧客満足度」や「ベンダーとの関係
改善」といった財務諸表に明確な形で現れて
こないことは、二次的なメリットとして経営
陣に提示する方が望ましいと考えます。
財務諸表でSCMの効果を計るときに、私
たちがSCMの担当者に勧めているのは「E
VA(経済付加価値:Economic Value
Added)」という指標の活用です。 EVAを
使って、経営陣に自分たちの仕事が会社にど
れだけ貢献しているのかを伝えるやり方です。
ちなみに、EVAはアメリカのコンサルテ
ィング会社であるスターン・スチュワート社
の商品登録です。 その考え方を一言で説明す
ると、税引後事業利益から資本コストを引い
た額で企業の業績を判断するというものです。
EVAを上げようとすれば、同じ資本コスト
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イム、製造の柔軟性、在庫日数、在庫回転率
をあげています。 売掛金には、支払いサイト、
在庫回転率、調達にかかるリードタイムなど
があります。 損益計算書にも同様のことが当
てはまります(
図4)。 これを先のEVAに当てはめることで、SCMの現場と財務の指標
の動きに関連があることがはっきりしてきま
す。 また、SCORを使うことで、SCMの
担当者が現場作業の指示を出すとき、その根
拠が明確となるのです。
EVAを使ってSCMの効率を測定するや
り方は、すでにSCCの会員が先行して行っ
ています。 ドイツポストは、これまでに「ハ
ウス・オブ・ファイナンス」という社内プロ
グラムに大きな投資をしてきました。 これは、
財務の担当者が現場を体験して、現場担当者
が財務のことを理解するためのプログラムで
す。
SCCが先日モナコで行ったセミナーで、
DHLエクスプレスの現場担当者が、どのよ
うに自分たちの業績目標を立てて、どのよう
に現場の作業とつなげているのかを報告しま
した(
図5)。 細かい用語は多少違っています
が、基本はEVAの考え方と同じであること
がわかります。 つまり、売り上げを伸ばし、費
を下げるという損益計算書の部分と、資本費
用を下げるという貸借対照表の二つの部分を、
どうやって現場の目標に落としこむのか。 そ
れを達成することで、DHLの財務諸表にど
のように貢献しようとしているのかがわかり
ます。
変化のスピードの速い時代における会社経
営において、各部門は経営にどのぐらい貢献
しているのかを明確にする責任があります。 S CM部門も例外ではありません。 これまでの
ように、作業の効率化や経費削減といった後
ろ向きの役割を乗り越えて、自分たちの業務
を財務の視点で語ることが求められているの
です。 要するに、SCM業務が株主にとって
どんなメリットを生み出しているのかを語る
ことができなければならないのです。
もちろん、魔法の特効薬はありません。 各
社がそれぞれ試行錯誤を続けていく中で、ベ
スト・プラクティスがうまれてくると思って
います。 EVAやSCORといった方法が、
その端緒となれば幸いです。
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