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JUNE 2007 38
分割販売で薬局を支援
医薬品業界では近年、業務・資本提携や
合併による流通再編が急速に進んだ。 大手医
薬品卸の東邦薬品もその一端を担っている。 子会社や提携先などと「共創未来グループ」
(一五社加盟)を形成し、業界に一大勢力を
築き上げた。 同グループの営業エリアは現在、
ほぼ全国を網羅するに至っている。
「共創未来グループ」は仕入れを東邦薬品
に一本化することに加え、同社のホストコン
ピューターを加盟企業が共同利用する形で基
幹情報システムも統合した。 東邦薬品が構築
した物流システムやさまざまな顧客支援シス
テムについても共同利用を進め、グループの
組織強化と効率化を図っている。
昨今の医薬分業の進展によって、卸の医薬
品販売の対象は、医療機関から調剤薬局へと
大きくシフトしている。 調剤薬局には充分な
在庫スペースを持たないところが多い。 卸が
調剤薬局との取引を拡大するには、品切れを
起こさず、かつ短時間で商品を供給する物流
機能が欠かせない要件となる。
これに対応して東邦薬品では、物流機能の
強化を積極的に進めてきた。 合併で商圏が拡
大した地域に相次ぎ物流拠点を新設したほか、
既存の物流施設の増設などで、二〇〇四年ま
でに札幌・東京・大宮(埼玉)・東大阪・
岡山の五カ所に医療用医薬品の物流センター
を整備した。
これらの拠点には、出荷頻度の極めて低い
商品も含め全アイテムを在庫している。 地域
によって多少の違いはあるが、在庫アイテム
数はおおむね二万前後に上る。 この五カ所の
保管型物流センターから、それぞれの地域の
営業所を経由して、医療機関や薬局などのユ
ーザーに医薬品を供給している。
物流センターでは、ユーザーから発注のあ
った商品を翌日午前中に営業所へ届ける。 首
都圏などでは一日二便体制をとり、午前中の
注文に対しては当日配送も実施している。 二
万アイテムのうち緊急性の高い二〇〇〇〜三
〇〇〇アイテムについては、営業所にも在庫
を持って対応している。 また一部のユーザー
には物流センターからの直送も行っている。
物流だけでなく、情報面の基盤整備にも早
くから着手している。 九七年には「ENI
F」と呼ぶ小型の情報端末を介した顧客支援サービスを開始している。 既に全国で約二万
台の利用実績がある。
ユーザーはENIFの端末から二四時間い
つでも商品を発注できる。 発注情報は同社の
基幹システムで処理され、最寄りの営業所お
よび物流センターの在庫に引き当てが行われ
る。 これに並行して、物流センターから営業
所への輸送時間や営業所の配送スケジュール
などから自動的に輸送のリードタイムが割り
出される。 これによってユーザーは、発注とほ
ぼ同時に配送予定日を確認することができる。
こうした発注業務以外にも、ENIFを利
物流拠点
東邦薬品
薬品の製造ロット・期限を一貫管理
“光るI Cタグ”を活用してミス防止
医薬品卸大手の東邦薬品は昨秋、東京の2カ所
に物流拠点を新設した。 一つは検査薬の全国供
給基地で、もう一つは医薬品の首都圏向けセン
ターだ。 いずれも製造ロットや使用期限の一貫
管理システムを導入している。 正確で迅速な出
荷体制の整備と、トレーサビリティーの実現を
狙ったものだ。
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用した、さまざまな顧客支援を行っている。
その一つが「分割販売」だ。 通常の取引がパ
ッケージ単位であるのに対し、分割販売では
包装を解いた状態のバラ注文に応じる。 錠剤
はワンシートからの注文が可能だ。 ENIF
の端末で発注することを条件に薬局向けの会
員制サービスとして実施している。
このサービスは顧客からの要望に応えるか
たちで始まったものだ。 病院の医師に処方さ
れた薬を院外の調剤薬局で受け取る医薬分業
が広がるとともに、その長所を活かした?か
かりつけ薬局〞の制度が普及し始めた。 薬の
重複投与や副作用を避けるため、?かかりつ
け薬局〞が患者一人ひとりの投薬記録を管理
する制度だ。
患者は複数の病院で処方された薬をすべて
自分の?かかりつけ薬局〞で受け取る。 その
ために?かかりつけ薬局〞は、どんな病院の
処方箋にも対応できるよう豊富な種類の医薬
品を品揃えしておかなければならない。 ただ
し薬局の在庫能力には限度がある。 また滅多
に処方されることのない医薬品の在庫を大量
に仕入れるのはリスクが大きい。
こうした薬局の負担を緩和する狙いで、東
邦薬品は業界に先駆けて十年前に分割販売に乗り出した。 当時、卸による分割販売は薬事
法の規制によって実施が困難だった。 一方、
薬局間で医薬品を融通し合う場合の規制は比
較的緩かったため、東邦薬品自身が薬局を設
立することで規制をクリアした。
分割販売事業の開始にあわせて東邦薬品で
は、小分け作業を行うための専用拠点を整備
した。 東京・大宮・東大阪・岡山の四カ所に
専用拠点を配置し、全国をカバーする体制を
整えた。 ただし東京以外の拠点はすべて、既
存の物流センターに併設するかたちをとり、
配送も営業所を経由する通常のルートを利用
することで効率化している。
検査薬を集中管理
昨年秋、東邦薬品は東京に相次いで二つの
物流拠点を新設した。 まず十月に、検査薬を
全国のユーザーに供給する専用物流センター
を平和島にオープンした。 在庫アイテムは約
三〇〇〇で、一日に平均四〇〇〇件のオーダ
ーを処理する。 北海道と九州へは注文を受け
た翌々日に、それ以外の地域へは翌日に営業
所へ届けている。
検査薬とは臨床検査に用いる診断用医薬品
のこと。 かつては医療機関が主なユーザーだ
ったが、検査業務をアウトソーシングする医
療機関が増え、今日ではその委託先の検査セ
ンターが大口ユーザーとなっている。
検査薬には通常の医療用医薬品との相違点
がいくつかある。 検査薬は大半が輸入品だ。
当然ながら医療用医薬品のように、品名を識
別するためのJANコードがついていない。
EAN等の欧米標準のコードや輸入元の独自
コード、あるいはまったくコード表示のない
ものまでさまざまで、専門知識がないと取り
扱いが難しい。
また検査薬には使用期限の短いものが多い。
医療用医薬品の平均的な使用期限が三年程
度なのに対して、検査薬のなかには二週間で
期限が切れるものもある。 そのうえ、ユーザ
ーからの製造ロット指定が医療用医薬品より
も厳しい。 検査薬を使って診断を行う際に、
製造ロットが異なると同じ検査内容でも検査値に微妙な影響が出ることもある。 これを避
けるため、発注の際にユーザーがロットを指
定するケースが多く、卸には厳密なロット管
理が求められる。
このように管理が複雑なことから、ほとん
どの卸は営業所に検査薬専門の担当者を置い
て、担当者がユーザーごとに製造ロットや使
用期限を確認しながら出荷する方法をとって
いる。 だが営業所単位・担当者単位の分散管
理では滞留在庫が発生しやすい。 通常の医薬
品と比較して使用期限が短く、厳しい製造ロ
ット管理が求められるだけに、そのリスクは
品川区八潮に開設したTBC東京。 約
20億円を投じて最先端のシステムを
構築した
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東京貨物ターミナル駅構内に完成した倉庫に
拠点を移して機能強化を図った。
新センターは二万一〇〇〇アイテムを在庫
し、一日に二万七〇〇〇件のピッキングを処
理する。 建物は四階建てで延べ床面積は約二万平方メートル。 ここに二〇億円を投じて最
先端の医薬品物流システムを構築した。 精度
を重視して作業は完全なペーパーレスとし、
不稼動品も含め全品目を対象に入出庫・ピッ
キングなどの作業指示をシステムでコントロ
ールする。
東邦薬品ではここ数年、MS(マーケティ
ング・スペシャリスト=営業担当者)が配送
業務を兼務する従来の営業スタイルから、商
物分離への切り替えを進めている。 すでに九
割近くが切り替わったエリアもある。
これに対応して、TBC東京ではそれまで
営業所単位で行っていたピッキングをより細
分化して、配送者別にピッキングできるよう
にした。 これに加えてピース単位のピッキン
グ能力と精度を高めるため、ICタグを活用
したユニークなシステムをユビキタス・ネッ
トワーク研究所と共同で開発した。
ピッキングは摘み取り方式だ。 アイテム別
に間口を設けたピッキングゾーンで、作業者
はデジタル表示に従ってその数量だけ商品を
ピッキングし、コンベヤーで搬送されてきた
折りたたみ式コンテナに投入する。 このとき
に、コンテナの到着に合わせてピッキングを
行うのではなく、到着前にピッキングを済ま
せてしまう点が一つの特徴だ。
投入するアイテム数(ピッキング間口)の多いコンテナは、コンベヤーで各ゾーンを巡
るのに時間がかかる。 コンテナの出発地点か
ら遠いゾーンでは到着するまでの待ち時間が
発生してしまう。 ?先行ピッキング方式〞を
採用することでこの待ち時間を解消した。
ピッキングゾーンの作業は二人一組で行う。
コンベヤーでコンテナの搬送がスタートする
と同時に、各ゾーンに作業指示が出る。 まず
一人がピッキングして?買い物カゴ〞に商品
を投入する。 もう一人が検品を行って、カゴ
を所定の場所に置く。 コンテナがゾーンに到
着したらカゴの中身をコンテナに移し替える。
いっそう大きくなる。
そこで東邦薬品では十年ほど前から、医療
用医薬品とは別に検査薬専用の物流拠点を設
けて、一カ所で集中管理する体制をとってき
た。 検査薬をセンターに入荷した時点で、製
造ロットや使用期限を登録しておき、ユーザ
ーの求める製造ロットや使用期限の条件に合
わせて出荷、営業所を経由して届ける。
そのために、平和島の新センターができる
までは、製造ロットや使用期限をいちいち手
書きで伝票に記入して管理していた。 これを
改め新センターでは製品情報をメーカーから
送ってもらい、そのままセンターの在庫管理
システムにデータを取り込んで管理できるよ
うにした。
同社の森久保光男取締役開発本部長は「一
カ所で全国のユーザーに目を向けながらロッ
ト単位の細かな管理を行うのは容易なことで
はない。 それを十年も前から当社は実践し、
リードタイムも含めユーザーに利便性を提供
してきた。 平和島の新センターはその経験と
仕組みづくりの積み上げによるものだ」と強
調する。
先行ピッキング方式を採用
この平和島センターに続き昨年十一月には、
品川区八潮に「TBC東京」を新たに稼動さ
せた。 首都圏を主なターゲットとする医療用
医薬品の物流センターだ。 それまで東京地区
のセンターは平和島にあったが、JR貨物の
左写真:コンテナの到着
を待たずにピッキングす
ることで手待ち時間を解
消した
右写真:“光るICタグ”
をカゴに装着。 ミスの発
生を防いでいる
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その際にカゴの取り間違えを防ぐため、I
Cタグを使ってカゴとコンテナを一致させる。
カゴにタバコケースよりやや大きめの?光る
ICタグ〞を装着。 ピッキング作業の実績デ
ータを自動的に紐付ける。 これによって、到
着したコンテナのバーコードを読むことで、
投入するべきカゴのタグが光るという仕組み
だ。 現在、八〇〇個のタグを使用している。
営業所の負担を軽減
TBC東京の機能でもう一つ重要なのは、
すべての商品の製造ロット・使用期限管理を
システム化したことだ。 検査薬とは異なり、
これまで医療用医薬品の物流センターでは、
生物由来製品を除いて製造ロットなどの管理
を行っていなかった。 もともと医療用医薬品
は、検査薬ほどの厳しいロット管理が卸に求
められることがなかったからだ。
転機は二〇〇三年の改正薬事法施行とと
もに訪れた。 この法律で動物に由来する原料
や材料を用いた生物由来製品について、メー
カーや卸に対してトレーサビリティーの確保
が課せられた。 卸には出荷の際に製造ロット
番号などを管理して、販売記録をメーカーに
報告することが義務付けられた。
しかしメーカーから入荷した状態の商品に
はJANコードしかついていない。 JANコ
ードで識別できるのは品名まで。 製造ロッ
ト・使用期限情報を識別するためには別に管
理コードが要る。 このため、東邦薬品では改
正法の施行に先立って独自のバーコードラベ
ルを導入している。
物流センターに商品が入荷した際に商品に
一点ずつバーコードラベルを貼る。 これをセ
ンターからの出荷や営業所への入荷のたびにスキャナーで読み取り、最終的に営業所から
ユーザーへ出荷する時点で読んだ情報をメー
カーにフィードバックする。 この仕組みによ
って、物流センターに入荷してから営業所を
経由してユーザーへ出荷するまでの、生物由
来製品の製造ロット・使用期限の一貫管理を
実現した。
これをさらに一歩進めたシステムをTBC
東京に導入した。 バーコードラベルは使わず、
メーカーから製造ロット・使用期限の入った
入荷情報を送ってもらい、この情報を入庫ロ
ケーションに紐付けして管理する方法だ。 生
物由来製品以外の医薬品についても製造ロッ
ト・使用期限を入荷時点から管理しようとい
う狙いだ。
ただし「今のところ商品には識別用のシン
ボルがついていないので、センターではデー
タと照合する作業が必要になっている。 ミス
を防ぐという面からも、メーカーに(シンボ
ルの導入を)積極的に働きかけて行きたい」
と森久保取締役はいう。
厚生労働省はこのほど、来年九月以降に出
荷される医療用医薬品には、国際標準シンボ
ルのバーコードを使って製造ロット・使用期
限を表示することをメーカーに通知した。 た
だし生物由来製品以外は任意表示にとどまっ
ている。 東邦薬品では今後のメーカーの対応
を注視しながら、TBC東京で管理するロッ
ト情報の高度活用を図っていく考えだ。
ロット情報をつけて出荷できるようになっ
たことは、営業所の負担軽減にもつながって
いる。 これまで営業所では、ユーザーの要請
に応じて出荷の際に一点ずつロットを確認し
て伝票に記入する作業を行っていた。 作業に
リードタイムをとられるため、営業所に在庫を持たざるを得ない商品が少なくなかった。
TBC東京の稼働で営業所は伝票作成作業
が不要になり迅速な出荷が可能になった。
執行役員の有留逸郎物流本部長は「これか
らはもっと在庫を減らすことができるのでは」
と期待する。 同社は〇九年度までの中期経営
計画で、現在〇・七カ月分の全社在庫を、
〇・五カ月まで削減することを掲げている。
今後、TBC東京の機能を有効活用して大口
ユーザー向けの直送を拡大するなどで目標達
成をめざしていく考えだ。
(
フリージャーナリスト・内田三知代)
有留逸郎物流本部長
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