ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
ケース
新サービスボックスチャーター

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2007 42 初年度は二二万本を販売 ヤマトホールディングスをはじめセイノー ホールディングスや日本通運など大手特積み 運送業者一五社が出資するボックスチャーター社の「JITBOXチャーター便」が好調 だ。
二〇〇六年四月の正式サービス開始後、 毎月着実に販売本数を増やし、初年度のトー タルは二二万本を超えた。
ヤマトが単体で販 売していた二〇〇五年度の販売数と比較する と、五倍近く増加したことになる。
ボックスチャーターの長谷川誠社長は「目 標としていた初年度の販売本数をクリアし、 今年三月末の事業売上高(フランチャイジー の販売金額合計)は約二八億八〇〇〇万円 となった。
実勢運賃の値引き率も低い。
ほぼ 予定通りの展開だ」と笑みを浮かべる。
企業間取引(B to B)の中ロット貨物輸 送はこれまで、トラックを車両ごと貸し切る か、特別積み合わせ便(路線便)を使う以外 に有効な選択肢がなかった。
貸し切り便は、 柔軟なサービスと高い輸送品質が期待できる ものの、輸送単位が車両の大きさで決まって しまうため、ムダが生じがちだ。
一方の路線 便は個建て輸送が可能だが、納品時間や方法 が指定できない上、荷物の積み替えによる破 損や複数個口の納品がバラバラになる口割れ 等のリスクを抱えている。
JITBOXチャーター便は、路線便と貸 し切り便の両方の長所を併せ持つ。
六〇〇キ ログラムまでの貨物を収納できるロールボックスパレット(カゴ車)を一単位とする個建 て輸送で、一〇時から一八時までの時間帯な ら分単位で納品時間の指定ができる。
通常の 路線便と違って積み替え作業を必要としない ため、口割れや破損も回避できる。
運賃は路 線便より割高だが、中ロットで貸し切りをチ ャーターするのに比べれば格段に安い。
今年二月には沖縄県及び人口三〇〇〇人 以上の離島まで配送エリアを拡大、ほぼ全国 を網羅した。
同じタイミングで定温輸送版の 「クールBOXチャーター便」もリリースし た。
積載可能重量は四〇〇キログラムで、温 新サービス ボックスチャーター JITBOXチャーター便の販売好調 ヤマト&セイノーが仕掛ける特積み改革 JITBOXチャーター便の売り上げが好調だ。
最大600キロ積めるロールボックスパレット (カゴ車)を使った路線便だ。
2006年4月に正式 にサービスを開始。
ヤマトとセイノーが中心と なり販売を行い、初年度は約22万本を売り上げ た。
今年度は40万本の販売を見込んでいるとい う。
43 JUNE 2007 度帯は冷凍(マイナス一八度以下)、冷蔵(三 〜五度)の二温度帯。
輸送可能なエリアは出 荷地から約九〇〇キロメートル圏内で、出荷 日の翌日にジャストインタイムで配送する。
従来なかった輸送商品の登場に、顧客の反 応も良好だ。
携帯電話やパソコンに使用する 精密部品材料を製造する新日鐵化学電子材 料事業本部ではこれまで、輸送中に付着する ほこりや破損から製品を守るため、厳重な梱 包を強いられていた。
しかも安全面を考慮し て貸し切り便を利用していたが、積載量が安 定せず、輸送コストに悩んでいた。
専用ボックスにフルカバーをかけることが できるJITBOXチャーター便を利用する ことで、ほこりや破損のリスクを回避し、安 全な輸送が可能になった。
梱包作業の手間も 不要になり、トータル物流コストの軽減に成 功したという。
東芝エレベータでは、パーツを本社センタ ーから支社に輸送するのに新サービスを利用 している。
従来は元請けの協力会社に輸送の 手配を任せていたが、ボリュームによって貸 し切りや路線便など輸送方法が変わるため納 品が安定していなかった。
それをJITBO Xチャーター便に変更することで、納品時間 の指定が可能になり、荷受け側の手待ち時間が解消された。
ヤマトとセイノーで八割を販売 新サービスを開始するにあたって、ヤマト はボックスチャーターを事業の企画・運営を 担当するフランチャイザーとして位置付け、 その下に特積み各社をフランチャイジーとし て組織するフランチャイズ方式を採用した。
フランチャイジー各社は、各地域における販 売活動のほか集荷〜幹線輸送〜配達のオペレ ーションを請け負っている。
特積み大手のコラボレーションによる新サ ービスの開発は過去に例がない。
しかも従来 は自前主義の色濃かったヤマトが、それを先 導した格好だ。
「これまでのように一人勝ち の発想で行くのか、協調路線で行くのかで、 社内でも意見は対立した」とボックスチャー ターの長谷川社長は当時を振り返る。
宅急便と同様、全てのオペレーションを自 社で完結したほうが品質面では有効だ。
期待 通りに事業が拡大した時の見返りも大きい。
しかし、JITBOXチャーター便の対象と なっている中ロットの商業貨物は、これまで ヤマトが不得意としてきた分野だ。
インフラ 投資を抑え、同業他社の追随を許さないため に、同業他社との提携でネットワークを構築 する協調路線を選んだほうが得策だとヤマト 経営陣は判断した。
パートナーの本命はセイノーホールディン グスだった。
実際、ヤマトは〇六年二月に他 の特積みに先駆けてセイノーとの業務提携を 発表している。
従来から商業貨物をドメイン としてきたセイノーの集配機能と幹線輸送機 能の充実ぶりは、宅急便に特化しているヤマ トにとって魅力的だった。
その後、両社は他の特積み各社にもプロジェクトへの参加を呼びかけ、〇六年五月に日 通、さらにその翌月には三八五流通、第一貨 物、西部運輸といった中堅クラスの特積み十 二社との業務提携を発表した。
各地域で強力 な配送網を持つ同業者をパートナーに加える ことで、全国配送網を一気に整えた。
もっとも、ボックスチャーターに出資する 特積み各社の取り組み姿勢には、現状ではか なりの温度差が見られる。
初年度の販売も八 割以上はヤマトとセイノーの二社が手がけて いる。
セイノーは初年度の全体の実績約二二 万本のうち、約一〇万八〇〇〇本を販売した。
ロールボックスパレット ボックスチャーターの長谷 川誠社長 JUNE 2007 44 ヤマトは専門営業部隊を組織 一方、ヤマトでは、JITBOXチャータ ー便の専門営業組織としてヤマトボックスチ ャーター(YBC)を設立している。
YBC の初年度販売は約八万本だった。
目標はクリ アしたが、同社の松本行雄社長は「宅配でも 特積みでもない、ニッチな商品の利用価値を 荷主に理解してもらうのに時間がかかった」 と振り返る。
ヤマトはJITBOXチャーター便のプロ ジェクト始動に伴い、大規模な組織再編を行 っている。
それまで各地域でヤマト運輸の幹 線輸送を担ってきた全国一四のグリーンライ ナー各社を、二〇〇五年のJITBOXチャ ーター便のテストマーケティング開始と同時 に大きく二分した。
神奈川グリーンライナーをボックスチャー ターに社名変更し、JITBOXチャーター 便事業の統括会社として位置づけた。
その一 方で、埼玉グリーンライナーをYBC本社と し、ヤマトにおけるJITBOXチャーター 便の専用営業組織という役割を持たせた。
残 りのグリーンライナー十二社も社名をそれぞ れYBC○○(地域名)に変更、YBC本社 の傘下に収めた。
さらに二〇〇六年七月には これらの地域支社をYBC本社内に統合した ( 図2)。
宅急便の幹線輸送の運行をメーンとしてき た旧グリーンライナーには、営業マンが存在 しなかった。
そのためYBCはほとんどの営 業マンを社外から調達し一から教育しなけれ ばならなかった。
新規採用した営業マンは初 年度時点で既に五〇人を数えている。
彼らを 西濃運輸の高橋智ボックスチャーター事業 部部長は「当社が当初予想していた七万本を 大きく上回った。
同業他社が共同でやってい くという初めての取り組みということで、期 待も不安も共に大きかったが、予想以上に販 売できた。
今期は一九万本の販売を計画して いる」という。
西濃はJITBOXチャーター便専用の営 業部隊を組織しているわけではない。
同社の 営業の基本は、顧客の抱えている課題やニー ズに沿った輸送サービス商品やソリューショ ンを提供する提案型営業だ。
JITBOXチ ャーター便も、数ある輸送サービス商品のう ちの一つという位置づけだ。
それでも、JITBOXチャーター便の販 売には高いプライオリティを置いている。
営 業マンやドライバーの提案だけではカバー率 に限界があるため、インターネットを活用し、 コールセンターを設けるなど、いつでも商品 を案内できる体制を整えている。
営業活動の 成功事例の水平展開も積極的に行っており、 事業部を通じて情報を発信し、全国の販売店 で情報を共有している。
高橋部長は「初年度のJITBOXチャー ター便が好調だったのは、安定した輸送技術 を提供できたことが大きい。
今後についても 物量の増加にも耐えられる幹線輸送体制と輸 送技術の向上が大事だ。
それはJITBOX チャーター便の幹線輸送を一手に担っている 当社の使命だと考えている」という。
西濃運輸の高橋智ボックス チャーター事業部部長 45 JUNE 2007 いかにしてJITBOXチャーター便の営業 集団として育て上げるかが、ヤマトにとって 何よりも大きな課題であった。
「とりわけ顧客候補の選別、提案方法には 苦労した。
安くするから買ってくださいとい うやり方ではダメ。
各企業にヒアリングに行 った上で、どうJITBOXを組み込むこと で、どれだけメリットが発生するかを提案し なければならない。
営業マンに求められる提 案力はそれだけ高度になる」とYBCの新藤 繁東京統括支店長は営業部隊を育成する苦 労を語る。
それでも、専門営業体制のメリットは小さ くない。
他の商品と兼務しないため、迅速な 提案ができる。
例えば、ハンガーにかけた状 態で衣類の輸送を行いたいという荷主に対し ては、ロールボックスパレットをタンスに見 立てることで、顧客に合わせた提案を行うこ とが出来た。
包装・梱包に関するコンサルテ ィングを行うヤマト包装技術研究所に顧客の 要望を投げかけ、ボックスのカスタマイズを 行うことで、フランチャイジー他社との差別 化を図った。
YBCの今年の販売目標は一六万本。
昨 年の倍だ。
この目標に対してYBCの松本社 長は、「新規顧客を積極的に開拓しなければ 現状維持、それどころか販売本数が減る恐れ すらある。
宅配便のように自然増は見込めない。
そのためにも高度な生産性、提案力を持 つ営業マンをいかにして育成するか、営業の スタンダードを確立することが課題だ」との 見方を示している。
特積み改革は止まらない ボックスチャーターは、正式サービス開始 から二年目を迎える今年のJITBOXチャ ーター便全体の販売目標を、四〇万本と設定 している。
二〇一〇年をメドに作っている中 期計画では一八〇万本という数字を目指して いる。
現状の延長線上では到達できない、か なり挑戦的な数字だ。
それでもフランチャイズシステムを採用し ているので、売り手を増やすこともひとつの 手だし、セイノーとヤマト以外の十三社が本 格稼働してくれれば、到達する可能性は十分 にあるだろう。
今回の取材を通じて、 ヤマト、セイノー両社に 共通するバックボーンを 見つけることが出来た。
それはJITBOXチ ャーター便を特積み、貸 し切りに続く第三のス タンダード商品にしようとする強固な意志だ。
歴史的に見ると特積みは既に衰退期に入って いる。
価格競争に陥り、市場全体がシュリン クしてしまっている。
「このプロジェクトに参加してくれた特積み 業者の動機にも、特積み便の価格競争に対す る疲弊感、閉塞感があると思う。
実際、現在 の特積み便には、サービスで差別化する決定 的な要素がない。
改めて商品設計に立ち戻る 必要がある。
JITBOXチャーター便は、 その突破口になりえる。
そのためにも値引き ではなく商品力で差別化するという原則は今 後も絶対に崩さない」とボックスチャーター の長谷川社長はいう。
とはいえ同業他社の動向も気になるところ だ。
福山通運は二〇〇六年九月より「スペー スチャーター便」の販売を開始した。
福通は JITBOXチャーター便への参加を一時検討していたが、自社のみでサービスを提供で きると判断した。
「他にも佐川急便は競合商 品を出すポテンシャルを持っている。
郵政公 社も今は宅配で勝負をしているが、正式に民 営化した後には、また違った風景が見えてく るはず。
JITBOXの競合商品を出してく る可能性は十分にある」と、ボックスチャー ターの長谷川社長は警戒している。
果たしてJITBOXチャーター便はコモ ディティ化した特積み便市場のカンフル剤と なるのか。
改革はまだ始まったばかりだ。
( 柴山高宏) ヤマトボックスチャーター の新藤繁東京統括支店長 ヤマトボックスチャーター の松本行雄社長

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