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63 JUNE 2007
佐高信
経済評論家
ピーター・タスカという著名な証券アナリス
トが、最初の本『インサイド・ジャパン』(笹
野洋子訳、講談社)で、「天皇が戦争を終わら
せることができたのなら、なぜその開始を食い
とめることができなかったのか」と指摘し、浩
宮のお妃選びに関しても、次のように日本人の
身勝手さを衝いたことがある。
「浩宮に対するマスコミの態度は、他の皇族
に対する場合と同じく、用心深くおよび腰でさ
えある。 日本の雑誌は、外国の王族のひどい写
真を得々として載せる。 頭のハゲやスカートが
舞い上がったところなどはお気に入りのテーマ
である。 ところが自国の皇族となると、あまり
元気がなくなる。 笑いものにするのはもっての
ほかだ」
パパラッチに追われて事故死した母国のダイ
アナ妃騒動を見ているだけに、タスカはなおさ
ら何なんだと思ったのだろう。 しかし、もちろ
ん、おかしいのはマスコミだけではない。 お役
人はもっとズレている。
筑摩書房が出している『ちくま』の五月号に、
精神科医で作家のなだいなだが「抗議外交」と
題して書いている内容は、私たちを恥ずかしさ
でいっぱいにする。
日本の外務省はこのところ抗議を連発してい
るというのである。 半年間に三回。
まず、オーストラリアでは、ベン・ヒルズの
書いた『プリンセス・マサコ、雅子、菊の玉座
の囚人』に対し、日本の皇室に侮辱的だと抗議をし、フランスでは『ル・モンド・ディプロマ
ティーク』誌の社説に抗議した。
後者は、安倍首相は自民党の中でも最も右翼
だと見られていると書かれたことに対し、「正
確さを欠き、偏った見方」と書面で抗議したと
いうのだが、これまでの言動を見ても、安倍を
ハト派とはとても言えないだろう。
『プリンセス・マサコ』の著者からは、日本
には出版や言論の自由はないのか、と反論され
たというし、「抗議」によって、日本のイメー
ジを著しく悪くしている。
なだは、従軍慰安婦問題で米国議会に抗議し
たことまで含めて、「抗議した相手が揃いも揃
って、日本が友好国と信じている国であること
が特徴だ」と指摘している。
こうした抗議は、フランスでは「読者から投
書欄に山ほどの反論が寄せられ」る結果を招き、
アメリカでは『ワシントン・ポスト』の社説で
「安倍首相のダブルトーク」と書かれてしまっ
た。
この抗議に安倍が無関係であるはずがない。
タカ派の特徴は批判に学べないことであり、批
判をあってはならないと攻撃的になることであ
る。 森喜朗、小泉純一郎、そして安倍と、三代
続けてタカ派の首相が続いていることの弊害が
ここに出ている。
その前の小渕恵三は曲がりなりにもハト派で
あり、私などに対しても「批判する人は必要だ
から」と握手を求めてくるようなところがあっ
た。 小泉や安倍にそんな考えやゆとりはまった
くない。
なだによれば、『プリンセス・マサコ』は「政
府の圧力がかかったのか、訳書の出版が急に中
止になってしまった」という。 それで英語の原
書で読み、「雅子妃が明らかに、うつ状態だと
思われるのに、長い間、宮内庁病院の内科医か
らトランキライザーは処方されたが、専門の精
神科医の治療を受けさせてもらえなかったこ
と」を知った。
「皇室の人々は、当然日本での最高の治療を
受けておられるのだろうと思っていたぼくには、
うつ病になっても精神科医にもかかれない、と
いう不自由さにビックリした」のである。
雅子妃の実母の切望によって、はじめて精神
科医の治療を受けられるようになったらしいが、
なだの言う如く、「これでは皇族は宮内庁の囚
われ人」だろう。
知らせるべき情報は知らせる。 この大原則を
忘れている日本のマスコミも同じように「囚わ
れ人」である。
外国皇族には無遠慮でも宮内庁には及び腰
外務省は友好国相手に恥ずかしい抗議を連発
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