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買収重ねロジ部門強化
マースク・ロジスティクスは、A・P・モ
ラー・マースクグループのコンテナ輸送部門
の中で、コントラクト・ロジスティクス事業
を担っています。
当グループは一〇〇年以上前に、現在の本
社があるデンマークのコペンハーゲンで海上
輸送会社として出発しました。 現在では、海
上輸送に加え、石油・ガスの探査と採掘、造
船事業、航空事業や小売業まで幅広い事業を
展開しています。 世界一二〇カ国以上で事業
を展開しており、従業員は二〇〇五年の段階
で七万人近くとなりました。 二〇〇五年八月
にP&Oネドロイドを買収したことにより、二
〇〇六年にはこの数字が、一〇万人を超えま
した。
A・P・モラー・マースクは、買収以前か
ら海上コンテナ輸送の実績で一位でしたが、
業界二位のP&Oネドロイドを買収したため、
海上コンテナの取扱数においては、二位以下
を大きく離すことになりました。 所有するコ
ンテナ船は約五〇〇隻となります。
グループ会社の売上高は、二〇〇六年で二
六四七億デンマーククローネ(五兆二九四〇
億円)超となり五年前と比べると七〇%以上
拡大しています。 株価についてもほぼ順調に
推移しています(
図2)。
マースク・ロジスティクスは、海上コンテナ輸送で世界最大の規模を誇るA・
P・モラー・マースク社の3PL部門だ。 同社は航空輸送を利用している荷主に
対し、「シー&エア」と呼ぶ船と飛行機を組み合わせた複合一貫輸送を提案するこ
とで、懐に食い込む戦略をとっている。 同社の中央ヨーロッパ営業部長であるキリ
ー・ムクヘルジ氏がその詳細を語る。 (取材・編集
本誌欧州特派員
横田増生)
欧州SCM会議から
「シー&エア」で割高な航空輸送を回避
ドバイ経由の利用でコスト四割減も
〈最終回〉
マースク・ロジスティクス
キリー・ムクヘルジ
中央ヨーロッパ営業部長
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に立っていることは間違いありません。 しか
しこうした会社の上層部の考えからは、しば
しば運賃という概念が抜け落ちているように
見えるときがあります。 もちろん運賃を比べ
ると、海上輸送の方がはるかに安いのです。
マースク・ロジスティクスが荷主のサプラ
イチェーンの最適化に取り組むときは、海上
輸送を前面に出すと拒否反応が強くなるので、
まずは「シー・アンド・エア」から勧めるこ
とにしています。 多くの製造業が生産拠点を
東南アジアに移す今日、完成品は東南アジア
からヨーロッパやアメリカへと輸送されます。
東南アジアの拠点からインドネシアの首都
ジャカルタを経由してロンドンやアムステル
ダム、パリといったヨーロッパの主要空港へ
と貨物を運ぶ際の「シー・アンド・エア」の
ルートは二つあります(
図3)。
一つは、ジャカルタから海上輸送でマレー
シアのタンジュン・ペラパス(TPP)港へと運び、そこからクアラルンプール空港やシ
ンガポール空港に横持ちをかけ、ヨーロッパ
の主要空港へと運ぶルートです。 この場合、
ジャカルタを出発してから七〜八日で空港ま
で到着します。 航空便で運んだら四日前後で
すが、貨物の性質によっては七日でも十分間
に合うものもあるはずです。
ここ数年、このルート以上に輸送量が増え
ているのがアラビア半島のドバイ(DXB)
を経由するルートです。 ジャカルタから海上
輸送でドバイに運び、そこから飛行機に載せ
ヨーロッパの主要空港へと運ぶのです。 海上
グループ会社の事業は多岐にわたっていま
すが、依然として海上輸送が事業の大きな柱
であることに変わりありません。 海上輸送は
七〇年代に入り、それまでのバラ貨物輸送か
らコンテナ貨物輸送へと移行していきます。
それ以来、どうやってコンテナの積載効率を
上げて運賃を下げるのかが重要な課題となり
ました。
マースク・ロジスティクスは一九七七年に
コンテナ輸送部門の中に作られました。 初期
の目的は、情報処理や書類処理などの業務プ
ロセスを改善するというものでした。 台湾や
シンガポール、香港といったアジア地域から
事業を展開しました。
八〇年代に入るとコンテナ輸送の前後に必
要なトラック輸送や航空輸送の手配、それに
通関業務や荷主企業のベンダーマネジメント
といった今日でいうコントラクト・ロジステ
ィクス事業を手掛けるようになりました。 そ
して、このコントラクト・ロジスティクスの流れが一気に加速するのが九〇年代後半のこ
とです。
九七年にロジスティクス部門がアメリカの
輸送企業を買収して以来、通関業者や航空フ
ォワーダー、ロジスティクス企業など大きな
案件だけでも一〇社を買収してきました。 事
業部門の名称が現在のマースク・ロジスティ
クスとなったのは二〇〇〇年のことでした。
海上輸送と航空輸送の中間に位置
世界規模のサプライチェーンの効率化に取
り組むとき、多くの荷主企業はその方法とし
て航空輸送を第一に選びます。 私自身、以前
働いていたイギリスの小売業界でロジスティ
クスを担当していた経験から、社内の肩書き
が上に行けば行くほど、「こんな変化の早い時
代に海上輸送だなんて、なんてのんきなこと
を考えているんだ。 海外から調達する商品は
全部航空貨物で運んでくるんだ」という声が
強くなるのを知っています。
この傾向は、商品単価の高い高級衣料品メ
ーカーや商品サイクルの短いコンピュータメ
ーカーに顕著に見られます。 確かに航空輸送
は輸送時間も短いし、可視性も高い。 海上輸
送に比べると、輸送品質の面で圧倒的な優位
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くなります。 これを、ドバイ経由とするなら、
一万八五五ドル(一三〇万二六〇〇万円)と
四〇%以上安くなります。 東南アジアからア
メリカ西海岸に向かう貨物でも、同様の計算
が成り立ちます(
図4)。
輸送時間も海上輸送だけのときに比べて短
くなります。 「シー・アンド・エア」は、航空
輸送と海上輸送の中間に位置する便利なサー
ビスといえます。
「シー&エア」でJIT物流構築
当社が「シー・アンド・エア」を勧めるのは、
何も当社がコンテナ輸送を主業にしているか
らだけではありません。 荷主企業がそれまで
の航空貨物一辺倒のやり方を見直して、「シ
ー・アンド・エア」の可能性を考えてみるこ
とで、サプライチェーン全体を費用対効果の
面から見直すきっかけとなると思うからです。
先にお話しましたように、航空貨物から一
足飛びに海上貨物に切り替えるのには、荷主
側に大きな抵抗があります。 実際、全部の航
空貨物を海上貨物に切り替えましょうと提案
しようものなら、ほとんどの場合、その時点
で交渉が終わってしまいます。
しかし、「シー・アンド・エア」ならそれほ
ど時間も変わらず、しかも運賃が安いという
ことで話し合いの第一段階を突破しやすいの
です。 「シー・アンド・エア」を使った提案な
ら、荷主のロジスティクス担当者を話し合い
のテーブルにつかせることができるわけです。
実際、東南アジア―ヨーロッパ間における
輸送の距離が長くなる分、到着までに一四〜
一五日かかりますが、その分運賃も安くなり
ます。
マースク・ロジスティクスは、タンジュン・
ペラパス港に一万平方メートルの専用スペー
スを構えています。 IT(情報技術)ネット
ワークも自前で持っています。 ここでは、年
間四五〇万〜五〇〇万TEU(二〇フィート
コンテナ換算)の貨物を処理する能力をもっ
ています。 ドバイでは、当社の戦略パートナ
ーであるエミレーツ社に、貨物の積み替えか
ら航空便の手配までを委託しています。
東南アジア発アメリカ向けにも「シー・ア
ンド・エア」を使うことができます。 ジャカ
ルタから台湾までを飛行機で運び、そこから
高雄港まで横持ちをかけて海上輸送でアメリ
カの西海岸まで運ぶルートです。 これだと一
四日前後かかります。 ジャカルタからタンジ
ュン・ペラパスまでを海上輸送として、そこ
から航空輸送に切り替えると、アメリカの主
要空港までの到着には七日前後かかります。
航空貨物と比べた場合、「シー・アンド・エ
ア」の優位性はいくつかあります。 一つは運
賃が安いという点です。 航空貨物と「シー・
アンド・エア」の運賃を比べた表があります。
五〇立方メートル(あるいは八三五〇キログ
ラム)の貨物の場合、航空貨物なら一万九二
〇五ドル(二三〇万四六〇〇円)となります。
これがタンジュン・ペラパス経由の「シー・
アンド・エア」の場合、運賃は一万七〇三四
ドル(二〇四万四〇八〇円)と一〇%以上安
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航空便の四日と「シー・アンド・エア」の七
日という違いなら、航空貨物の輸送枠の都合
で逆転することも起こり得ます。 とくに東南
アジアのクアラルンプールやシンガポールと
いった混み合った空港から貨物を航空便で運
ぼうとすると、一週間先まで輸送枠に空きが
ないこともあるからです。
近くのすいている空港まで横持ちをかける
となると、時間もかかり運賃もさらにかさみ
ます。 そうなると、?シー・アンド・エア〞
という輸送手段がぐっと現実味のある、しか
も魅力的な選択肢となるのです。
「シー・アンド・エア」の利用を検討するこ
とによって、全体の輸送費はいくらかかって
いるのか。 本当に航空便を利用する必要があ
る貨物は、全体でどれくらいあるのか。 もし
荷主側が今まで以上に生産計画をきっちりと
立てるとするならば、航空輸送はどこまで減
らすことができるのか。 そういったことを見直すことができます。 航空輸送を減らして、「シー・アンド・エ
ア」によるジャスト・イン・タイムの体制が
作れるのなら、それまで着地で支払っていた
保管料も減らすことができるのです。 荷主と
そこまで話を進めることができたのなら、
「シ
ー・アンド・エア」のなかには、海上輸送に
切り替えてもいい部分があるのではないか、と
話をさらに一歩進めることができます。 海上
輸送にするのなら、貸切コンテナにするのか
混載コンテナにするのかも検討します。
このように荷主のサプライチェーンに深く
関与することによって、無駄を省き、しかもコ
ストを最小限に抑えることが当社の狙いです。
H&Mや日立系メーカーも利用
そうした荷主の一つに、H&Mというスウ
ェーデンに本社を置くカジュアル衣料の大手
小売業者があります。 H&Mは二〇〇六年春
から、それまでの航空貨物一辺倒の輸送体制
を改め「シー・アンド・エア」を取り込むこ
とにしました。 主な理由は、それまで使って
いたバングラデシュの空港がたえず混雑して
いるために、輸送スケジュールが立たないこ
とでした。
そこでH&Mは、バングラデシュからドバ
イまで海上輸送を行い、そこから飛行機に載
せてドイツのハンブルグ空港に運び、そこか
らH&Mの物流センターまでトラックで運ぶ
ことにしました。 最初の週に取り扱った貨物
は二〇トンでしたが、二週目にはそれが一二
四トンとなり、その後二一四トンまで増えて
います。
もう一つの荷主は、守秘義務のために企業
名は公表できませんが、コンピュータメーカ
ーで、中国・深
で作ったラップトップコン
ピュータを、香港経由の航空便でサウジアラ
ビアまで運んでいました。 それを香港までは
航空便のままとして、そこからドバイまで海
上輸送で運び、サウジアラビアに持ち込むこ
とにしたことで、輸送日数は若干増えました
が、コンピュータ一台につき二〇ドルの運賃
削減ができました。 年間の削減額は二六〇万
ドルにも上っています。
東南アジア発アメリカ向けで「シー・アンド・エア」を利用している荷主には、カリフ
ォルニアのサンノゼに本社を置く日立グロー
バルストレージテクノロジーズがあります。 日
立製作所とIBMのジョイントベンチャー企
業で、コンピュータのハードディスクドライブ
の大手メーカーです。 同社が「シー・アンド・
エア」を利用するのは、航空貨物運賃と着地
での保管料金の削減が主な理由となります。
このように当社と取引のある多くの荷主が
現在、「シー・アンド・エア」の有効性に気づ
き、サプライチェーンの効率化に役立ててい
ます。
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