ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
現場改善
物流会社M社のパート戦力化PJ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2007 66 パート比率は上がったが‥‥ 物流会社M社は電機メーカーS社のパーツセ ンターの運営を請け負っている。
S社の補修用 部品を保管し、全国七カ所に配置したサブセン ターに送付する。
年間の商品通過額約八〇億 円、取扱品目数約三万八〇〇〇アイテムの在 庫型センター(DC)で、一日あたり約一二〇 人のスタッフが働いている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)がM社 を支援するのは今回が二度目となる。
前回は、 それまで正社員中心で回していた庫内作業をパ ートに置き換えるプロジェクトを実施した。
そ の結果、庫内の非正社員比率を従来の三〇% から八五%に引き上げることに成功した。
それから一年半。
改めてM社のM社長から相 談を受けた。
「年々、アイテム数が増加し、運 営が厳しくなっている。
パート社員の採用方法 や運営管理、生産性と品質のバランスなどに問 題があるようだ。
そこで今度はパート・アルバ イトを中心とした非正社員の戦力化に力を入れ たい」という。
センターを訪問し、現場責任者のYセンター 長とT副センター長からもヒアリングを行った。
やはりパート・アルバイトそして派遣スタッフ の人繰りに頭を痛めているという。
具体的な問 題点としては以下の三点に整理できた。
?パート・アルバイトの定着率が悪く、せっか く仕事を覚えてもすぐに辞めてしまう。
?生産性を高めるためにはパート・アルバイト にどこまで仕事を任せれば良いのか。
?パート・アルバイトのモチベーション管理(や りがいづくりなど)はどうすれば良いか。
Yセンター長、T副センター長の両名にセン ターの案内をしてもらいながら、一時間ほど現 場を見て回った。
センターは二階建てで、ラッ クにはぎっしりと部品が保管されている。
出荷頻度のABC分析によるレイアウト、ロケーシ ョンの設定も成されている。
「5S(整理・整 頓・清掃・清潔・躾)」も、ほぼ及第点。
ただ し、現場スタッフの働きぶりは確かに機敏とは いえない。
指示された仕事を急ぐことなく、た だこなしているという印象だ。
これらの現場視察とヒアリングをもとに後日、 M社長にパート・アルバイトの戦力化を目的と した以下の改善テーマを提示した。
?採用媒体の見直し ?履歴書の見方 ?面接方法の見直し ?役割分担と権限委譲 ?コミュニケーションの取り方 第53回 物流センターで働くパート・アルバイトの戦力化に取り 組んだ。
パートの募集から採用までのプロセスを強化し、 社員とパートの役割分担を明確化した。
加えてパート向け の評価制度や表彰制度など、パート現場を管理するノウハ ウをセンター長と副センター長の二人に教え込んだ。
物流会社M社のパート戦力化PJ 67 JUNE 2007 ・印のマークがある場合、押印がしっかりなさ れている。
一方、「採用に値しない応募者」の履歴書は 次の通り。
・当方の会社名、住所、担当者名が間違っている ・折れ線の所がヨレヨレになっているぐらい、 明らかに何度も使用済みの履歴書を使用して いる ・履歴書に空欄が多い ・写真が大きくはみ出していたり、傾いて貼ら れている 履歴書一つで、そこまで決めつけて良いのか、 やはり会ってみないとわからないのではないかと いう意見もあると思う。
しかし我々の経験から 言わせてもらえば、履歴書ほど?一事が万事〞 という言葉があてはまるテーマはない。
そもそも自分の職場、自分の仕事を決める大 切な書類を不真面目に書く人などいない。
つま り提出された履歴書には、本人が真剣に取り組 んだ結果が表れている。
そこには本人の持って いる常識や集中力、慎重性などが明らかに出る のである。
?面接方法の見直し 携帯サイトからアクセスしてきた応募者でも、 面接日時等のやり取りにメールを使うのは避け るべきだ。
あえて電話を使用することで、本人 の「電話応対度」をチェックすることができる。
とくに最初の応対が大事だ。
応募者の携帯に は、こちらの番号はまず登録されていない。
相 手が分からないため、その人の?地〞が出る。
?評価制度、表彰制度の導入 M社長の同意を得て、これら六つのテーマを Yセンター長、T副センター長の両名に指導す ることになった。
?採用媒体の見直し これまでM社は、新聞チラシと求人雑誌を中 心にパートの募集広告を打っていた。
これを改 め、携帯電話に対応したインターネット広告を 新たに試してみることにした。
携帯電話向けの 求人サイトにM社の求人広告を掲載したのであ る。
パート・アルバイト層のライフスタイルに はマッチした募集媒体である。
しかも費用対効果が高い。
携帯電話向けの 求人サイトは現在数十社がアップされている。
広告出稿料金の相場は一週間の掲載で平均二 万五〇〇〇円程度。
紙媒体よりも安い。
それで いて、出稿一回当たり平均七人の問い合わせが あった。
紙媒体が平均二人なので、三倍以上の 効果ということになる。
?履歴書の見方 応募者が提出する履歴書類は、採用を判断 する上で重要な資料の一つとなる。
「採用に値 する応募者」の履歴書には、一般に以下のよう な傾向がある。
・履歴書、職務経歴書以外に「選考をよろしく お願いします」といった旨の送付状が一枚添 えてある ・履歴書の記入欄はできるだけ埋めている ・「応募動機」に前向き、かつ建設的なコメン トが入っている そして電話のやりとりの最後には、常識のある 応募者であれば「当日、何か持っていくものは ありますか?」と必ず尋ねてくるものである。
留守電になることもあるが、どれくらいのスピ ードでコールバックしてくるかということから 本人の就職意欲を窺うこともできる。
面接も当然、重要なプロセスである。
応募者 を判断する上で大事であることはもちろん、面 接に立ち会う採用側も面接によって応募者から 評価されていることを忘れてはならない。
つま り面接とは会社側が「選ぶ」機会であると同時 に、応募者から「選ばれる」機会でもある。
面 接者の印象や対応で、その会社が働くのにふさ わしい場所であるかを応募者は判断しているの である。
これまでM社では、主にYセンター長が面接 にあたっていた。
Yセンター長は大柄で声も大 きく、また強面である。
センター長としては相応しくても、面接官としては威圧感があり過ぎ る。
Yセンター長には悪いが、M社の印象は良 く映らない。
そう我々は判断した。
そこで面接官をT副センター長に代わっても らうことにした。
人当たりがソフトで、知的な イメージもある。
面接官にはうってつけだ。
急 に面接官を外されたYセンター長は、はじめ少 し拗ねていたが、「これもあなたのためです」と なだめて何とか納得してもらった。
?役割分担と権限委譲 正社員と非正社員の役割分担と権限委譲を 進めるために、 図1のようにセンター運営業務 の棚卸しを行った。
それまでYセンター長、T JUNE 2007 68 副センター長の両名には、率先してリフト作業 をやりたがる癖があった。
どちらが上手かを競 っている始末である。
現場主義にもほどがある。
管理職としては失格と言わざるを得ない。
管理職は本来、来月、三カ月後、来期とい うような将来を予測して、その準備を進め、改 善などの業務を行わなければならない。
一方で パート・アルバイトや派遣スタッフは今日明日 の作業をスピーディかつ正確に進めることが使 命である。
これよってそのセンター、その現場 は進化する。
そのことをわかっていない管理職が多い。
M 社に限らず、物流現場の管理職の多くが自分た ちの仕事を勘違いしている。
「業務(Task)」と 「作業(Work)」を混同しているのである。
?コミュニケーションの取り方 同様に管理職の多くが、現場スタッフに挨拶 や声をかけることだけでコミュニケーションが 取れていると勘違いしてしまっている。
コミュ ニケーションとは「会話」ではなく「対話」で ある。
M社の現場には、それまで「会話」はあ っても「対話」がなかった。
そのために意思の 疎通がうまくいっていなかった。
そこで社歴の長いパートから順番に、管理職 との個人面談を半年に一回ずつ実施していくこ とにした。
面談の時間配分を予め設定した。
一 人当り六〇分を目安とし、初めの四〇分は、管 理職は聞く側に徹する。
そして残り二〇分で管 理職の考えや方針を伝えることにした。
仕事のこと、職場の人 間関係、さらには家庭の 事情など、パートはそれぞれに様々な悩みを抱え ている。
それを管理職が じっくり聞くことで「私 は会社から看られてい る」と感じてもらうこと が狙いだ。
パートの人数 が多いため、Yセンター 長とT副センター長のほ かに正社員の現場リーダ ー三人を管理職側の面談 要員に加えた。
個人面談では、様々な 改善提案を聞くことにな った。
その結果、夏冬の 空調などの環境整備に加 え、休憩時間などにM社 の不満をしばしば周囲に 漏らしていたベテランパ ート一名を配置転換する ことになった。
ある新聞社が実施した アンケートによると、「上 司に言われてやりがいを 感じる一声」の一位は 「ありがとう」、二位は「助かったよ」であった。
これは物流現場でも同様である。
ところが物流 現場の作業は、うまくできて当たり前という特 性があるため、管理職はどうしてもミスを指摘 するばかりになりがちだ。
それでは現場の雰囲 気が暗くなってしまう。
69 JUNE 2007 そこで面談を担当したYセンター長、T副セ ンター長、現場リーダー三人に対し、自分が受 け持っている部下やパート一人ひとりについて、 長所を三つずつ書き出してもらうことにした。
マイナス思考になりがちな現場管理職に、部 下・パートの長所をみつけ、誉めるということ を意識的に行わせようという狙いである。
?評価制度、表彰制度の導入 物流現場における評価制度や表彰制度の必 要性は昨今ますます高まっている。
パート・ア ルバイトが今や現場オペレーションの主力とな っている以上、それも当然と言えば当然である。
ただし、あまりに大掛かりな制度を作ると、プ レッシャーや責任の重さに及び腰になり、脱落 するパートも出てきてしまう。
Yセンター長と T副センター長と話し合い、M社の現状に相応 しい制度を検討した。
時給を決める人事考課は「勤務態度」と「能 力」によって決める。
このうち勤務態度はさら に「a.勤務態度」「b. 協調性」「c. 責任性」 の三つの小項目に分け、それぞれについて具体 的な基準を明示した。
「無断欠勤は無かったか」 という具合である。
一方の「能力考課」には「a. 業務知識」「b. 理解力」「c. 表現力」を小項目として設定し た。
これもまた「自分の言いたいことを簡潔に 表現できるか」など、計十二項目の基準が設定 されている。
それぞれの基準をクリアできているかどうか、 まずパート本人が自己申告する。
それをもとに 管理者と個人面談を行う。
両者の評価にギャッ プはないか、あればその理由は何か、どう改善 していけば良いか、個人にフィードバックする 仕組みである。
作業評価は、「生産性」と「品質」に関して それぞれ一つずつの指標を選び、目標を設定す ることにした。
具体的には「生産性」は「ピッ キング個数/人・分」、「品質」は「ピッキング ミス率(ミスピッキング行数/全ピッキング行 数)」を用いた( 図2)。
これに並行して二種類の表彰制度を設けた。
「月間ベストピッキング賞(上記二つの指標を 基に総合評価)」と、「月間MVP賞(人事考 課表の主要ポイント三つに絞った項目に基づき 評価)」である。
ただし、表彰は該当者ナシの 場合もあるという前提にした。
受賞者には毎月の最初の朝礼でトロフィーと 商品券が渡され、センター内のメーン掲示板に 名前と写真が掲示される。
いささか大げさかと 少々不安もあったが、いざ実施してみると現場 は予想以上に雰囲気が明るくなり、授賞式は盛 り上がった。
その後、現在はパート・アルバイ トから社員への登用制度を作成している。
派遣スタッフの課題 派遣スタッフも基本的にはパートと同様に扱 う。
朝礼や昼礼など現場の基本行事にも参加さ せる。
先の目標管理の対象にもなっている。
た だし、派遣であるため現場の管理者が直接、個 人評価をすることはできない。
評価は派遣会社 の担当者を通じて間接的に本人に伝えてもらう しかない。
その意味でも基礎教育を施したスタッフを派遣する付加価値のある派遣会社が求められてい る。
しかし人手不足による売り手市場が、それ を阻止してしまっているのが実状だ。
そのため 派遣スタッフは繁忙期や採用不足の際の臨時 労働力として利用することが基本であり、自社 パートの戦力化と採用の強化が先決となる。
M社のセンターは現在、社員一五%、パー ト・アルバイト八〇%、派遣五%で運営してい る。
派遣に対する依存度は低いと言える。
それ でも社員、パート・アルバイト、派遣スタッフ という労働力の多重構造を前提として、垣根の ない情報共有と教育、そして目標設定とインセ ンティブの仕組みが必要であることには違いは ない。

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