ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
特集
コスト偏重の誤算 顧客指向で指標と組織を改革

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

ロジスティクスの始め方 物流コスト削減や在庫の圧縮など、顧客にとっては 直接的な価値を持たない内部的な物差しだけで動いて いるロジスティクス部門が珍しくない。
実際、日本企 業の多くはロジスティクスの生み出す顧客サービスの 明確なゴールと、それを管理するKPI(主要業績評 価指標)を持っていない。
SCMに関するKPIは大きく三つに分かれる。
通 常の財務指標のほかに、対顧客向けの指標と内部向 けの指標がある( 図1)。
営業部門は基本的に対顧客 指標でパフォーマンスを評価される。
一方で生産部門 やロジスティクス部門には対内部指標が使われる。
生 産効率を上げる、あるいは在庫やコストを減らすと部 門の評価が上がる。
営業部門は要求納期受け入れ率や納期遵守率、注 文完了達成率などを向上させるために、往々にして必 要以上の生産を工場に求める。
工場もそれに気付いて いるため指示通りにはしない。
独自の需要予測を元に 自ら生産計画を立て、コストを抑えようとする。
ロジスティクス部門も同様だ。
物流コストという、 営業部門や生産部門とは多くの場面で対立する関係 にある指標を使っている。
そのため、同じ社内でさえ 部門間の利害が一致しない。
相手が社外ともなれば尚 更だ。
全体最適を実現するには生産と営業の双方を コントロールする機能を持った組織が必要だ。
それが SCM部門のはずだった。
実際、世界的企業はどこも上級副社長クラスをS CM部門のトップに据えてサプライチェーンの統合を 図っている。
ところが日本企業の多くは、せっかくS CM部門を作っても肝心の権限を与えない。
「組織の 問題はこれまでも繰り返し指摘してきたが結局、日本 顧客指向で指標と組織を改革 在庫水準や物流コストは、顧客にとっては何の意味も 持たない。
対顧客向けの管理指標を導入してマーケティ ング戦略に立脚したロジスティクスに舵を切る必要があ る。
物流企業も同様だ。
従来の原価積み上げ方式では 3PL事業は成功しない。
(大矢昌浩) JUNE 2007 16 企業は何も変わっていない。
むしろ最近の中国特需に よる景気回復で改革が後退してしまった感さえある。
世界企業との差は開く一方だ」とPRTMの入江仁 之パートナーは嘆く。
組織改革だけで全てが解決するわけではない。
それ でも単独で判断すればトレードオフのバランスはとれ る。
さらには、トレードオフを解消して対顧客指標と 対内部指標を同時に向上させる、つまりコストと在庫 水準を抑えながら、顧客サービスを向上していく仕組 みを作ることさえ可能になる。
「サービスパーツなどが典型的だが、どの顧客が、ど の部品を、いつのタイミングで必要になるのかという 情報がハッキリしてくれば、当面必要のない部品や、 時間が経ってから必要になるような部品の在庫を持た ずに済み、同時に欠品を避けることができる。
また世 界規模でビジネスを展開している場合などは在庫のア ロケーションを見直すことでも両立が可能になってく る」と入江パートナーは説明する。
改めてSCMの原点に返る必要がある。
ライバルに 勝つための顧客サービスの設計がその第一歩だ。
市場 を調査し、サービスに対するニーズをもとに顧客を分 類する。
次に顧客セグメントごとの利益貢献額で優先 順位を決める。
そして競合との比較から各サービス要 素の目標値を設定し、最後に顧客サービスのパッケー ジを構築する。
運用開始後はKPIでサービスのパフ ォーマンスを把握し、改善を重ねていく。
ロジスティクスとは本来、マーケティングの一要素 であり、売るための仕組みだ。
経営学においては半世 紀も前からマーケティングの半分がロジスティクスだ と言われてきた。
市場の成熟とSCMの普及によって、 ロジスティクスのもたらす顧客サービスの重要性は一 層大きくなっている。
これまでのようにコスト偏重で、 17 JUNE 2007 顧客サービスの設計どころかニーズの把握さえ怪しい 状況は打破する必要がある。
原価積み上げ方式の罠 同じことが物流業の経営にも当てはまる。
オペレー ションの原価を元にサービス価格を設定している限り、 物流業は価格競争から逃れられない。
輸送や荷役など 複数の物流要素をパッケージにした高度化されたサー ビスは、要素の総和を超える価値を生む。
それが物流 業の利益の源泉となる。
3PLの荷主は単純輸送や荷役の機能に対してで はなく、顧客サービス・パッケージに対価を支払って いる。
物流ABC(Activity Based Costing:活動 基準原価計算)によって把握されるオペレーションの コストは、3PL側の内部指標に過ぎない。
荷主にも たらす価値を表してはいない。
荷主企業と同様に3PLもまた顧客サービスから 出発して事業モデルを設計し直す必要がある。
荷主のロジスティクス管理における対顧客指標が、そのまま 3PLのKPIになる。
それを元に3PLは荷主ニー ズを分類することができる。
荷主の内部指標のうちコストは3PLのサービス提 供価格に当たる。
その利益貢献額から3PLは荷主 セグメントの優先順位を決めることができる。
そのよ うにパートナーを主体的に判断する3PLは、従来型 の原価積み上げ方式を脱却し、ソリューションの価格 決定権を握ることになる。
ただし、それを受け入れることができるのは、ロジ スティクスの生み出す顧客サービスの役割を十分に理 解している荷主企業に限られる。
荷主と3PLの歯 車がかみ合った時、初めてWin ―Winのアウトソ ーシングが実現する。

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