ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
特集
コスト偏重の誤算 顧客サービス管理のプロセス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMにおける顧客サービス管理 顧客サービス管理のプロセスには、図1で示したように、戦略的な要素とオペレーション的な要 素の両面がある。
戦略面において、プロセスを管 理するための仕組みが設計され、オペレーション において、それが実行される。
戦略面でのサブプロセスは、一般に長い時間軸 を持ち、企業戦略と密接にリンクして、プロセス 実行の枠組みを構築する。
企業内における戦略的 な顧客サービス管理プロセスの実行は、その企業 のプロセスとサプライチェーンのその他のメンバ ーを統合するうえで必要不可欠な第一歩となる。
一方、オペレーションのサブプロセスは時間軸が 短く、日次ベースでの顧客サービスの管理プロセ スの実行にフォーカスする。
図1はまた、顧客サービス管理の各サブプロセ スと他の七つのSCMプロセスのインターフェー スも示している。
これらのインターフェースは他 のプロセスが必要とするデータを転送する形を取 るかもしれないし、別のプロセスチームとの情報 やアイディアの共有を伴うかもしれない。
ロジスティクス機能のなかで、顧客サービスは 企業のロジスティクスシステムのアウトプットと 定義される。
顧客サービスとは、時間と場所の有 効活用におけるロジスティクスシステムのパフォ ーマンスの物差しであり、既存顧客を満足させ、 新規顧客を引きつける能力を測るものだ。
その意 味で、顧客サービスはマーケティングとロジステ ィクスの機能間の鍵となるインターフェースの役 割を果たしている。
顧客サービスに対する社内的なロジスティクス JUNE 2007 20 顧客サービス管理のプロセス SCMにおける顧客サービス管理には正しい手順がある。
効 果的な管理は、SCMのパフォーマンスを引き上げ、業績の 向上をもたらす。
ロジスティクス管理論の世界的権威が、具 体的な事例を交えながら、そのノウハウを解説する。
オハイオ州立大学ダグラス・ランバート教授 マイケル・クネマイヤー准教授 ノースフロリダ大学イェミシ・ボールモール准教授 管理の視点と、サプライチェーンプロセスとして の顧客サービス管理の視点は、明確に区分されな ければならない。
サプライチェーンにおける顧客サービス管理は、 顧客のPSA(Product and Service Agreement: 製品およびサービス協約)の管理運営を担当する。
PSAとは、特定の顧客や部門のニーズと企業の 製品やサービスをマッチングする文書だ。
顧客の 期待と企業自身の能力や必要な利益についての現 実的な理解に基づいた、顧客に対する企業のコミ ットメントを表す。
顧客リレーションシップ管理のプロセスチーム が、様々な複雑性とニーズに基づく各種の変数か らPSAを組み立てる。
変数には、アイテム数、 出荷ロケーション、オーダーの頻度、契約面での 制限、購買や配送の詳細、価格/サービスの保証 などが含まれる。
こうした変数の一部、あるいは 全部をPSAに含むのは、一般的な顧客を対象と した低レベルのカスタマイズから、特定の主要顧 客のための高レベルなカスタマイズまで、協約の 内容に幅が生じうるということを意味している。
大手化学品メーカーの3Mは顧客の重要度、顧 客の要求、3M自身の能力に基づいて、PSAの 構成要素を変化させている。
カスタマイズのレベ ルが上がるほど、顧客リレーションシップ管理の プロセスチームが組み立てた顧客PSAは付加価 値のあるサービスをより多く含むことになる。
より効率的かつ効果的にPSAを管理運営する 機会を特定するために、顧客サービス管理のプロ セスチームは、顧客とサプライヤーだけでなく、セ ールス、マーケティング、製造部門と共に活動に 取り組む。
また、顧客の注文と問い合わせのサポ ートにおいて、オンライン/リアルタイムの製品、 価格、注文ステータス情報を提供するために、テ クノロジーの活用度を高めている。
水道器具メーカー最大手のモーエン(Moen) は「顧客ネット(CustomerNet)」を導入した。
リ アルタイムオーダーと出荷情報への二十四時間ア クセスを通して顧客にワールドクラスのサービス を提供するために設計された、双方向型のウェブ サイトだ。
この顧客サービス管理ツールは、モー エンがウェブサイトの機能を特定の顧客や部門の ためにカスタマイズするにつれ進化し続ける。
顧客リレーションシップ管理プロセスが主要な 顧客および顧客セグメントを事前に定義し、カギ となる顧客と顧客セグメントを見定める一方、顧 客サービス管理は、各々の顧客や顧客セグメント を対象とした戦略を設定する。
ゴルフクラブメーカーのテーラーメイド ―アディ ダスゴルフカンパニーは、特定のゴルフ用品小売 業者とのリレーションシップを管理する基本的な 条件項目を定めたPSAを構築するため、同社の 顧客リレーションシップ管理プロセスチームの活 動を通じて、顧客ニーズの違いを検証した。
この協約は、リレーションシップに対するお互 いの最終目標と必要条件の相互的な理解を必要と する。
テーラーメイド ―アディダスゴルフカンパニ ーは、顧客サービス管理プロセスチームにそれら の協約をサポートする任を命じた。
各顧客とのP SAに基づいた取引先指向のプロセス改善と付加 価値サービスの向上において、彼らは小売業者の 社内的な擁護者としての役割を果たした。
顧客サービス管理は、PSAの管理運営のため の顧客情報と顧客接点の唯一のソース(源)であ ることにフォーカスしている。
顧客サービスのマ ネジャーは特定の顧客や顧客セグメントにフルタ イムで従事する。
彼らが必要であるのは、ウォル マートのようにサプライヤーが専門チームを持つ ような極めて大きな顧客を例外として、顧客リレ ーションシップ管理プロセスチームの個々人が機 能領域をメーンの仕事としているからだ。
セールスパーソンを除き、特定の顧客や顧客セ グメントにフルタイムで従事する唯一の担当者が 顧客サービスマネジャー(CSM:Customer Service Manager)だ。
セールスパーソンは、サ プライヤーとして、できれば無縁でありたいよう な顧客の問題の解決に当たる現場における企業の 代表者だ。
それに対してCSMは、顧客や顧客セ グメントの社内的な擁護者となる。
組織の顧客サービス管理プロセスの成功は、顧 客とその組織自身の能力についての知識に見合ったものになる。
顧客リレーションシップ管理のプ ロセスチームが作り上げたPSAは、その会社の 能力と、その会社が顧客に対して求める利益レベ ルに見合う顧客の要求と期待に対し、確約(コミ ットメント)を与える。
効果的な顧客サービス管理は、サービス環境を ビジネスの極めて重要な構成要素として捉えると いう哲学を備えた、サプライチェーンの全般的な サービスに関する考え方次第である。
効果的な顧客サービス管理の実現は、全体的な ものであり、企業全体に渡る責任であり、営業や 顧客サービスの仕事に留まるものではない。
変化 する顧客ニーズの理解、優先順位の最も高い顧客 や顧客セグメントへのリソースの集中、PSAで 定められている顧客の期待とつながるサービスレ 21 JUNE 2007 ベル向上のためのプロセスの再構築が必要だ。
効果的な顧客サービス管理の使命は、顧客がサ ービスのデリバリーを通じて相対的な差別化を享 受できるよう、製品と情報の円滑な供給を保証す ることであり、同時にそのコストは、在庫の削減 とキャパシティ効率の改善を通して最小限に抑え られなければならない。
顧客サービス管理プロセ スチームは、顧客サービスが確実に適したものに なるように、変化する要求と能力について顧客リ レーションシップ管理プロセスチームと意思疎通 を図らなければならない。
マーケティング、財務、生産、購買、ロジステ ィクスを含む複数の機能部門からのマネジャーで 構成されたプロセスチームが、戦略プロセスを指 揮する。
このチームは主要顧客、主要サプライヤ ー、3PLのロジスティクスプロバイダーの代表 者といった社外メンバーも含んでいるかもしれな い。
このチームはフルタイムではない。
メンバー は異なった機能部門や企業から集まって、伝統的 な機能部門の責任と専門知識を横断するプロセス 活動を実行する。
戦略プロセスチームは、顧客サービス戦略を決 定し、そのインフラと枠組みを設計して、実行に 移せるようにする責任を担う。
戦略レベルで手順 を組み立て、実行を監視する責任も担っている。
オペレーションのプロセスは、大きくて極めて 重要な顧客の場合は特別チームによって管理され るかもしれないし、一人のCSMに日常的な管理 責任を与えるやり方で管理されるかもしれない。
そのチームあるいはCSMは、定められた枠組 みの中で、戦略プロセスチームに近いところで常 勤として日常的に、アクティビティを実行する責 任がある。
チーム外の従業員がプロセス実行に関 わることがあっても、顧客サービス管理プロセス チームあるいはCSMは管理責任を持ち続ける。
顧客サービス管理プロセスにおけるCSMの役 割は、従来型のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)担当者や、 注文のステータス情報を提供したり請求関連の問 題を解決したりするような受注クラークのそれと は異なる。
CSMは、他のサプライチェーンプロ セスチームやCSR部門と協調し、顧客からの問 い合わせやクレームへの効果的なソリューション を提供する。
3Mでは、CSMポジションの給与をフィール ドセールスの給与体系に合わせている。
CSMを ロジスティクス機能における日々の受注管理責任 から切り離し、その給与体系を社内の顧客擁護者 として相応しいものにするためだ。
セールスパー ソンが外向きの顧客擁護者であるの同じことであ る。
このようにCSMとセールスパーソンの給与 体系をマッチングさせる取り組みは、昇進に従い、 様々なレベルのセールスパーソンとCSR担当者 の給与体系を結びつけることにも広がっている。
CSMは、顧客のフルタイムの支持者であり、 往々にして何かのついでに顧客サービスを受け持 っているに過ぎない営業やサービスの担当者とは 異なる。
企業の顧客窓口としての役割を果たし、 積極的なコミュニケーションをとり、顧客の課題 や質問に対する解決策を導き、好条件の機会を見 つけて営業部隊に引き継ぎ、企業や製品のパフォ ーマンスについてのフィードバックを入手し、P SAのフルフィルメントを支援するうえでの必要 に応じて機能部門やプロセスのマネジャーにレポ ートを発行する。
CSMの最も重要な責務は、顧 客リレーションシップ管理プロセスチームのメン バーが各々の機能部門の責務に戻っても、PSA で定められている約束を会社が確実に実行するよ うにし、その実行を徹底させることだ。
戦略面における 顧客サービス管理プロセス 戦略的な顧客サービス管理は、四つのサブプロ セスを持っている。
これらのサブプロセスはPS A実行のために必要な枠組みと基本的なインフラ を取り扱う。
このレベルでは、プロセスチームは、 PSAに含まれる製品やサービスを、それぞれど う届け、管理するのか、その設計に責任を負う。
図2は、戦略的な顧客サービス管理のサブプロ セスと各サブプロセスに含まれるアクティビティ、 そしてサブプロセスと他の七つのSCMプロセスとのインターフェースを示している。
現状では、顧客サービス管理の戦略的なサブプ ロセスとオペレーション的なサブプロセスに明確 な区分がないことも珍しくはないだろう。
しかし、 多数の企業経営層と我々が重ねたディスカッショ ンによれば、今後企業は、サプライチェーン全体 に渡る事後的でオペレーション的な顧客サービス 管理のアプローチから、サービス上の課題に事前 に対処することを可能にする、より戦略的なアプ ローチに向かって動いていくことが予想される。
戦略プロセスチームには、効果的な顧客サービス 管理プロセスの枠組み構築を通して、これを達成 する責任がある。
1 顧客サービス管理の戦略を立てる JUNE 2007 22 顧客サービス管理プロセスは、顧客リレーショ ンシップ管理プロセスチームが組み立てたPSA で定められた約束を果たすための、全体的な顧客サービス戦略の構築に焦点を当てる。
企業の特定 のターゲット市場は、顧客サービス管理戦略の構 築に影響を及ぼす。
テーラーメイド ―アディダスゴルフカンパニーは ハンデが〇〜一〇のゴルファーをターゲットにし ている。
そうしたゴルファーは大抵、ゴルフ製品 についてより高度で専門的な問題を持っている。
このターゲット市場のニーズに対処するために同 社は、製品についての掘り下げた専門的な情報を、 ウェブサイトを通じて提供している。
そのウェブサイトは、この消費者グループから のよくある問い合わせに回答を与え、小売業者の ネットワークにとって価値のあるリソースとなる。
ウェブサイトで入手できるその情報は、テーラー メイド ―アディダスブランドの名を生かして、小売 業者の顧客サービス活動を支援している。
このサブプロセスにおいて、顧客サービス管理 チームは、顧客サービス管理プロセスの成果とし てもたらされるものを明確にし、アクションを起 こすトリガーとシグナルを操作できるようにし、人 員配置のニーズを明確にする。
このサブプロセス の成果としてもたらされるものとは、PSAの管 理運用で発生する標準化されたイベントに対する、 標準化された対応だ。
この最初のサブプロセスの アウトプットは、該当するトリガー、シグナル、成 果を備えた関連イベントのリストである。
最初の戦略サブプロセスを実行するとき、顧客 サービス管理チームは顧客リレーションシップ管 理チームと協調する。
すべての人にとってのすべ てにはなり得ないと認識しているからだ。
PSA は顧客の重要度、顧客の要求、企業の能力によっ て変化する。
それゆえに、多くの組織は、顧客リ レーションシップ管理プロセスで決定されたPS Aのカスタマイゼーションレベルの直接的な結果 として、段階的に区分された顧客サービス戦略を 展開する。
それは、顧客リレーションシップ管理 の一部として顧客サービス管理とたびたび一つに まとめられる。
シェルUKにおける顧客サービス戦略の構築は、 中央集権化された活動ではない。
顧客サービス管 理戦略は個々のオペレーティングユニットのなか で、予め決められた顧客の区分に基づいて決定さ れる。
複数のユニットにわたる分散化が意味する ものは、すべての顧客サービス管理モジュールを、 すべてのオペレーティングユニットで受け入れる ことはできないという認識だ。
シェルUKは、顧客リレーションシップ実行ソ リューションパック(CRISP:Customer Relationship Implementation Solution Pack) を、営業部門における問題対応策として開発した。
CRISPは、顧客が複数の部門にまたがるどん なことを要求してきても対処する?生きた解決策 〞を提供する。
シェルUKの顧客サービス戦略構 築には認定レベルの明確化も含まれており、CR ISPは顧客サービスの人員配置ニーズ、インフ ラ、成果物を定義付けするのに役立てられている。
次に続くサブプロセスにおける対応手順の構築 に先立ち、組織は顧客サービスの構造を決定する。
どんな人員配置、管理、技術的なリソースが必要 とされていて、それが利用可能なのかを明確にし、 その利用可能性を組織の戦略上の照準とマッチン 23 JUNE 2007 グさせる。
このサブプロセスは、行動、利益性、 ロイヤルティに基づいて顧客を分類するために、 マーケティング部門と協力する。
2 対応手順を定める 二番目のサブプロセスにおいて、チームは対応 を必要とするイベントのタイプを洗い出し、それ から、それらのイベントの各々について対応手順 を定める。
この手順には、対応に必要な社内およ び社外との協力関係の醸成、そして対顧客と内部 的な対応の区別が含まれる。
このサブプロセスに おいて、組織は顧客を明確に分類しておくことが 求められる。
これらの特定された顧客セグメント に合わせて、主要なビジネスイベントが決定され、 適切な対応手順が構築される。
コミュニケーションは、このサブプロセスの実 行にとっても重要だ。
CSMチームは、対応が必 要なイベントをどのように決定するのだろうか。
モーエンでは、PSAで決められた約束通りに 届けられなかった全てのアクティビティについて、 対応の必要あり、としている。
標準化された対応が不十分であった場合、顧客 の問い合わせは、正式な対応と手順のデータベー ス構築のトリガーとなりえる。
テーラーメイド ―アディダスゴルフカンパニーで は、この戦略サブプロセスに関連するKPIを一 つも作らなかったが、アカウントマネジャーは、顧 客のクレームや質問、問い合わせを社内のメカニ ズムを通して追跡し分類することによって、期待 されるサービスレベルをうまく特定してきた。
例えば、CSMチームは保証書情報、量、コン タクトした日時を記録して集計し、それらのデー タを保証書、充足率、ダメージ問題に関連した標 準的な手順を整備するためのインプットとして用 いている。
時間をかけて収集されたデータは、「顧客サービス指数報告書」に毎年掲載される。
これ らのデータは他のプロセスチームにフィードバッ クされ、顧客サービス管理プロセスを改善するた めに生産チーム(製造、技術、品質部門のマネジ ャーで構成)に利用される。
この手順の結果、同 社の顧客サービスの問い合わせの頻度は低減した。
顧客サービス管理のプロセスチームは、オーダ ーフルフィルメントのプロセスチームと協力して 現実的に顧客に何が届けられるかを決定する。
ま た、顧客サービスの取り組みを支援する十分なビ ジビリティの提供において、製造フロー管理のプ ロセスチームとも協力し合う。
3 対応手順を実行する基盤を固める 顧客サービス管理のプロセスチームは、当該イ ベントにふさわしい対応手順について決定を下し た後、それらを実行するための基盤を特定する。
各イベントに対処する上で必要であり、社内およ び社外の協力のための適切なコミュニケーション 手順を決定づける情報ソースは必ず特定されなけ ればならない。
チームはまた、PSAを効率的か つ効果的に管理するためのITとコミュニケーシ ョンのニーズも特定する。
この基盤の構築を制限 する制約条件があった場合、それに影響を受ける PSAの構成要素は改めて評価されなければなら ないし、結局はそれらを実現可能なものに修正し なければならない。
顧客サービス追跡のソフトウエアは、約束違反 の発生を特定し、必要とされる行動へと即座に導 くだけでなく、一連の出来事を文書化する機能を 持っている。
行動の責任を、個々のCSMに振り 当て、効果的なソリューションがもたらされるま で追跡し続ける。
中国の第一汽車(FAW)と独フォルクスワー ゲンによる大規模ジョイントベンチャーのFAW ―フォルクスワーゲンオートモーティブカンパニー は、SAPを活用して、コンタクトセンターから セールス、サービス、マーケティングまで、すべ ての顧客サービスファンクションを一つのプラッ トフォームに統合している。
このシステムによっ て同社のCSMは、いつでもどこでも最新の製品 情報を入手し、顧客の問題に対処できるようにな った。
またFAW ―フォルクスワーゲンは地域のデ ィーラーを通じて販売しているが、SAPの利用 により顧客の直接的なフィードバックを入手でき るようになった。
それは卓越した顧客サービスを保証するためには必要な情報だった。
4 評価指標の枠組みを作る 最後にチームは、プロセスのパフォーマンスの 測定とモニタリングに使う評価指標(メトリクス) の枠組みを作り、パフォーマンス改善の目標を定 める。
メトリクスを作り上げるにあたっては、会 社全体が一貫したアプローチをとらなければなら ない。
顧客サービス管理メトリクスは、PSAの 管理運営における問題の特定と機会の改善に必要 な情報をマネジャーに提供すべきものである。
メ トリクスの測定は、プロセスの管理だけでなく、 効率性の改善にも使われる。
チームは、顧客リレ ーションシップ管理チームと協力して、メトリク スをその会社の目的と確実に一致するものにしな JUNE 2007 24 ければならない。
メトリクスには、サービスレベルに対する顧客 の期待を反映するものを選択すべきである。
また組織の効率性、ROA(総資産利益率)、最終的 にはEVA(経済付加価値)で測定されるような 財務的なパフォーマンスに対し、顧客サービス管 理が与える影響を反映するものにすべきである。
図3は、顧客サービス管理が売上、総経費、在 庫投資、その他の流動資産と固定資産にどれだけ 影響を与えうるかを検証するための枠組みを示し ている。
例えば、改善された顧客サービス管理は、 主要顧客との関係を維持し強化することで売上増 につながる可能性がある。
また、このプロセスを 通して入手した顧客情報は、より利幅の大きい製 品を販売したり、卓越したサービスの提供を通し て全体的な顧客シェアを増大させたりする機会を 特定することで、その会社の力になる。
同様に、改善された顧客サービス管理は、不適 切なパフォーマンスに関連した売上損失を回避す ることによって全体的な売り上げを増大させる可 能性がある。
改善した計画立案と企業と顧客間の コミュニケーションを通して、返品や注文処理、 トランザクション等のコスト削減、クレームの最 小化あるいは排除、保証・交換・修理プログラム の改善、緊急出荷の数の抑制などで、経費が削減 される可能性もある。
顧客サービス管理における改善を通じて入手し た顧客知識は、より質の高い需要予測と需要計画 立案、より低いレベルの安全在庫、品質管理問題 を特定し排除する能力の向上につながる可能性が ある。
不完全な注文や納期違いの結果として問題 になる請求が減少し、取引先に対する売掛金が改 善される可能性もある。
そして最後に、顧客サー ビス管理プロセスによって促進された顧客参加は、 製品開発の取り組み改善、より質の高い資産投資 計画と設備活用につながる可能性がある。
顧客サービス管理に責任を持つチームには、こ のプロセスが会社の財務的なパフォーマンスにど れだけ影響を与えるかを見積もることが求められ る。
潜在的な財務的関連性の判定は、そのプロセ スにおける将来の投資を正当化する助けとなり、 卓越したパフォーマンスに対する報酬を決定する うえで役に立つ。
メトリクスは、顧客サービス管理がEVAで測 定されるような財務的パフォーマンスに与える影 響を理解した上で整備される必要があり、それら のメトリクスは財務的な物差しと必ず結びつけら れていなくてはならない。
顧客サービス管理プロ セスに関連するメトリクスは、顧客に接する組織 の中の領域をターゲットとする。
こうしたメトリ クスにより、各プロセスの価値の測定が可能にな る。
典型的なプロセス測定には、CSRのアクセ ス度、インプットの正確性、顧客サービス管理プ ロセスチームあるいはCSMの、顧客の問い合わ せに対し効果的に対応する能力などがある。
シェルUKでは、CRISPが財務部と協力し て各プロセスのメトリクスを開発している。
メト リクスは幹部レベル、管理レベル、オペレーショ ンレベルでそれぞれ定義される。
どのメトリクス が適切であるかは、各オペレーションユニットが 決定する。
CRISPによって作られた網羅的な メトリクスのリストから何を選択し、どんな財務 的責任を負うのかは、個々のオペレーティングユ ニットの判断に委ねられているのである。
25 JUNE 2007 メトリクスは、顧客サービス管理プロセスチー ムによって定期的に検証され、再評価されなけれ ばならない。
より実情に見合ったメトリクスを開 発するためだ。
この知識の伝達を確実にするため に、CRISPは実行の初期段階では、オペレー ティングユニットと密接に動く。
このことがまた、 導入手順のコントロールと持続性を確実にする。
サプライチェーン上の一つの企業だけでなく、 サプライチェーン全体の収益性にプラスの影響を 与えるプロセスを実行することが重要だ。
サプラ イチェーン全体でメトリクスの足並みを揃えるこ とは、他メンバーの正しい行為に対する各組織の 奨励が可能になり、有効である。
SCMの最大の目標とは、リスクと報酬をパー トナーとシェアしながらサプライチェーン全体に 利益をもたらす行動を促すことであるはずだ。
も しある企業の経営層がその企業のEVAには良い 影響を与えるが、主要サプライヤーないしは顧客 のEVAに悪い影響を与える決定をした場合、両 社双方の管理チームは、改善の実行に対するイン センティブを手に入れられるように、利益がどこ でシェアされるかの協約を案出すべきである。
オペレーション面における 顧客サービス管理プロセス オペレーション面において、顧客サービス管理 プロセスチームやCSMは、戦略プロセスチーム が作り上げた枠組みの中でデザインされた顧客サ ービス管理プロセスの実行に責任を持つ。
図4が 示すのは、四つのオペレーションサブプロセス、各 サブプロセスに含まれるアクティビティ、他のサ プライチェーンプロセスとのインターフェースだ。
1 イベントを認識する オペレーションサブプロセスの第一段階は、イ ベントを認識すること、あるいは少なくともイベントについて知らされていることだ。
その目的は、 内部的な対応と対顧客対応、あるいは事前的な対 応と事後的な対応を区別することだ。
事前的な対応は、PSAの管理運営におけるチ ャレンジングな部分である。
顧客サービスイベン トには、保証関連の問い合わせ、充足率、品質ク レーム、技術的な質問、注文の催促と問い合わせ に関する質問などが例として挙げられる。
チーム は、会社のオペレーションを徹底的に理解してい る必要があり、顧客と社内のオペレーションに起 こったイベントの影響を先読みしようと試みる必 要がある。
アクションを必要とするイベントは他 のプロセスの各々に根ざしている可能性があるた め、連携が絶対不可欠である。
社内で定められた トリガーに基づき、それに沿う形でイベントと対 応を整理することが重要だ。
モーエンは、通常の在庫補充方式に収まらない 梱包や物量、出荷の実行面での極めて稀な要求を 伴う注文を、イベントの一つとして取り扱ってい る。
そうした注文がシステムに入ってきたら、部 門横断チームが警戒態勢につく。
チームは営業や マーケティングと協力して、何がその情報ルート を下ってきているのかを特定し、顧客の要求につ いて社内で話し合う。
社内のコミュニケーション は、顧客の特殊な要求を満たす上での潜在的な障 害物を特定するのに極めて重要な意味を持つ。
2 状況と選択肢を評価する イベントが認識されたら、CSMは、そのイベ JUNE 2007 26 ントを顧客と社内オペレーションへの混乱を最小 限に抑えて管理するための選択肢の評価にかかる。
CSMはそのイベントから影響を受ける、あるい はソリューションの実行に貢献できる各機能部門 のスペシャリストと連携して、予め定められた一 連の選択的なアクションに従う。
これは、その選 択肢の対応によって影響を受ける可能性がある他 のプロセスとの協力を必要とする。
モーエンのCSMでは、SAPを使って情報を 集め、注文処理の潜在的な選択肢を効果的に評価 している。
状況と選択肢を評価する際のもう一つ の重要な検討材料は、顧客のオペレーション上の 制限とモーエンのオペレーション上の制限を完全 に理解することだ。
例えば、モーエンのあるCS Mは、集中購買を行う特定のバイヤーに、そのバ イヤーの決定が引き起こす潜在的なマイナスの結 果について伝え、いくつかの既存の注文の規模縮 小を呼びかけた。
そのいくつかの既存の注文は、 トラック満載の量で出荷するというモーエン側の ニーズによって大幅な納期遅延を引き起こしかね ないものだった。
納期遅延は、店舗レベルの在庫 入手性に影響を及ぼしていたかもしれない。
3 ソリューションの実行 選択されたソリューションの実行は、他のビジ ネスプロセスオーナーや機能部門のマネジャーが その実行にたびたび参加する必要があるだけに、 提携が協調される。
テーラーメイド ―アディダスゴルフカンパニーで は、ある対応は、実際には顧客を同社の小売業者 ネットワークのメンバーのもとに突き返すことか もしれない。
そのイベントに対応する能力をCS Mが持っていたとしても、ゴルフ業界のサプライ チェーンの慣習から、顧客を小売業者に押し戻さ なければならないのである。
小売業者ネットワークにおける中抜きへの懸念が、テーラーメイド―ア ディダスに対して、同社のソリューションがサプ ライチェーンの他のメンバーに与えうる影響に配 慮することを求めているのである。
このように、オペレーション・サブプロセスの 詳細は、その会社のサプライチェーン上の位置付 けによって変化する。
顧客サービス管理プロセス は企業間(B to B)取引では、より複雑になるか もしれないし、企業―消費者間(B to C)取引に おいては、より一般的なものになるかもしれない。
4 観察と報告 顧客サービス管理プロセスには、プロセスのパ フォーマンスを観察し報告することが含まれる。
このサブプロセスには、可能なプロセス改善を特 定し、それらを戦略レベルのサブプロセスにフィ ードバックし、対応手順を開発することが含まれ ている。
プロセス改善のフィードバックは、将来 的なイベントの発生の回避に役立つ。
観察と報告のサブプロセスにはまた、今後の参 考として利用できるデータベースにイベントを記 録すること、どの範囲に対してその対応が実行さ れたかを知るためにイベントの進展を観察するこ とも含まれる。
情報を収集することと、課題がい かに解決されているかを顧客に知らせることも、 このサブプロセスの一部である。
プロセスのパフ ォーマンスは、測定され、顧客リレーションシッ プ管理とサプライヤーリレーションシップ管理チ ームに伝達される。
最も効果的なフィードバック は、継続的な流れの中で、プロセス改善の指針と 明確な方向を与えてくれる。
定期的なレビューは、戦略プロセスの特定のメ トリクスを使って行うことができる。
プロセス改 善のための一つひとつの機会は、そのプロセスに 変化をもたらすはずだ。
テーラーメイド ―アディダスゴルフカンパニーは、 より細かにイベントの進展を観察するリアルタイ ムの顧客サービス情報を提供するi2テクノロジ ーズのシステムの導入を通して、観察と報告の能 力を向上させた。
システムは、顧客サービス情報 にタイムリーにアクセスする能力を引き上げた。
結論 顧客サービス管理は、SCMの重要なプロセス だ。
考え抜かれた実行、シームレスなプロセス実 行は、収益拡大、経費低減、在庫レベルの低下、 資産活用の向上、欠品率の改善などを通して、そ の企業のEVAを大きく高めうる。
また顧客サービス管理は、サービスの失敗を最 小化し事前に回避するように、PSAをオペレー ションする。
それによってオペーションの柔軟性 は高まり、効果的なシステムとインフラ作りが促 進される。
経営層は想定外の問題に素早く反応し たり事前予測的に対応したりできるようになる。
これに自社だけなくサプライチェーン全体で取 り組むことで、経営層は、顧客サービス管理プロ セスの一部として必要な、社内的および社外的な 協力を向上させる方法を見つけ出すことが可能に なるのである。
27 JUNE 2007 ※この論文は、『The Customer Service Management Process』(2003)を本誌編集部が抄訳したものです。

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