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JULY 2007 4
るようになってきた。 しかも導入の費
用対効果をはっきり打ち出して話を
するようになってきた」
――ICタグ事業は今のところどこ
も赤字のようです。 このままICタ
グの普及が終息してしまう恐れは?
「ブームが終わったといっても、後
戻りはしていません。 スピードは遅い
けれども着実に数字は伸びています。
二〇〇四年時点の調査でICタグを
導入していると答えたユーザー企業
は、正式に集計はしませんでしたが、
一%程度だったと記憶しています。 ま
た今回の七%という結果にしても、実
際には導入しているのに、そこはノウ
ハウだとして外部には秘密にしている
ケースが、とくに製造業などでは少な
くないと見ています」
――ICタグの使い道としては?
「物流倉庫管理と在庫管理、それと
最近は文書管理に利用するケースが増えています。 病院のカルテや資産
台帳などの管理ですね。 一方でトレ
ーサビリティや企業間をまたがったS
CMには、今のところほとんど使われ
ていない。 複数の事業者が絡んでく
る使い方は、コストや受益者負担の
点で難しいようです」
――タグの低価格化では、物流業の
送り状や小売業の値札などに使い捨
てで利用されることが前提条件でし
ブームは終わった
――矢野経済研究所が六月に発表し
た「RF―ID(無線ICタグ)のユー
ザーニーズ動向調査」では、国内主
要企業のICタグ導入率が七%でし
た。 この結果をどう評価していますか。
「今回調査対象としたのは、ICタグ
のユーザーとなり得る六業界(製造、
流通、物流、アミューズメント、リー
ス/レンタル、セキュリティ/文書資
産管理)の産業中分類で、それぞれ
売上高上位四〇社にランクされる大
手企業です(有効回答数三一〇社)。
仮に調査対象を新興市場も含めた全
上場企業に拡大したとすれば、導入
率は恐らくもっと下がる。 二%〜三%
かも知れません」
――経済産業省をはじめ、各種の調
査レポートが当初予想していたほど
普及は進んでいません。
「私自身、二〇〇七年の時点では既
にかなりのユーザーが導入を決め、実
運用していると予測していました。 し
かし結果として予測は外れました。 今
になって振り返って考えると予測が
外れた理由の一つはコスト。 タグの値
段が予定通りには下がらなかった。 ま
たベンダー側の啓蒙活動や提案にも
問題があったと思います。 便利なツ
ールができたので買って下さいという
ばかりで、どう使ったら便利なのか、
どれだけの効果があるのかを提示でき
ていなかった。 ベンダーの公表するタ
グのスペックも信憑性を欠いていた」
――ブームは終わりました。
「そう思います。 当社では今回と同
様の調査を二〇〇四年にも実施して
いますが、当時はまだ実用化の事例
などないに等しかったにも関わらず、
ICタグ関連のベンダーはどこも強
気一辺倒でした。 爆発的に市場が拡
大すると、熱に浮かれていた。 ユーザ
ーにしても当初は目新しさもあって、
たいした検証もせずに導入してしまう
傾向があった」
「それが今は冷静に現実を見るよう
になってきた。 ベンダーがちゃんとユ
ーザーの声を聞いて、何が求められて
いるのかを探った上で、それを提案す
矢野経済研究所
松枝秀如
シニアアナリスト
「タグの単価二〇円までは見えてきた」
既に国内主要企業のほとんどがICタグの存在と機能を認知してい
るものの、実際の導入率は現状七%に過ぎない。 しかし、二〇〇八年
から二〇一〇年の間にブレークスルーが訪れる。 それによってICタ
グの国内販売数量は急拡大し、量産効果でタグの単価は二〇円まで低
下する。 矢野経済研究所が報告している。
(聞き手・大矢昌浩)
た。 しかし今のところその動きはあり
ません。
「それでもアパレルや靴に、単品レ
ベルの導入が進むのは確実でしょう」
――その場合でも使い捨てではなく、
回収してリユースすることになるかも
知れない。
「確かに、ICタグを使い捨てるこ
とに対してプライバシー問題や環境
面から批判が出てくる可能性は否定
できません。 しかしプライバシー問題
は技術的に解決できる。 消費者が自
分の判断でタグの情報を消すことの
できる?キルタグ〞と呼ばれる技術
などが開発されています。 環境問題
にしても、使い捨てのほうが効率がい
いとなれば、企業は結局はそちらに傾
く」ICタグの次に来るもの
――矢野経済研究所の予測では二〇
一〇年度にはICタグ単体の国内市
場規模が一七億九二〇〇万枚・三五
八億四〇〇〇万円に拡大し、単価が
現在の一八〇円から二〇円に低下す
るとされています。 この予測が当た
るには、〇八年から一〇年の間に劇
的なブレークスルーが起きなければな
らない。
「大手宅配会社が一社で年間一〇億
個もの荷物を扱っていることを考え
れば、一七億九二〇〇万個という量
が実現不可能とは思いません。 つま
りタグの量産は徐々に拡大するので
はなく、大手企業が本格導入するこ
とで一気に進むと考えています」
――結局、ICタグはそれほど普及
しないまま、次のツールに移行して
しまう可能性はありませんか。
「実は半導体シリコンを使わない
『プラスチックタグ』と呼ばれる次世
代タグの研究が現在進められていま
す。 ICタグの製造コストというのは、
ICチップをタグに搭載するためのハ
ンドリングなど、チップ周りの加工に
多くが割かれています。 それに対して
プラスチックタグはICチップを使わ
ないので大幅な低価格化が期待でき
る」
「印刷技術を使って、プラスチック
の基盤上に直接電子デバイスを作っ
てしまおうというもので、これが実用
化されればバーコードのように現場の
プリンタでタグをどんどん作成できる。
米国企業や日本の産業技術総合研究
所などで研究開発が進められていま
す。 ただし、プラスチックタグが普及
するのは、まだずっと先のことになり
そうです。 現状ではやはりICタグが
最も有望な自動認識ツールだと言えます」
5 JULY 2007
まつえだ・ひでゆき一九七〇年大阪府
生まれ、新聞社などを経て一九九九年
矢野経済研究所入社。 入社以来、主に
情報・通信産業を担当し、中でも自動
認識システム(バーコードやRFID、
ICカード、バイオメトリクスなど)な
どを得意としている。 現在、情報・通
信産業本部コムテック事業部ユビキタ
ステクノロジー課課長。
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