ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年7号
SOLE
東京電力の横須賀火力発電所を見学大規模なシステム保全の現場を知る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2007 76 マイクロバスに乗り込み、発電所 構内への現地見学に出掛けること となった。
冷却水の放水路に沿った緑地化 ゾーンを横目で見ながら、構内道 路を海に向かって移動する。
道路 の右側地帯には発電で生まれた電 気の変電所と、設備のメンテナン スその他を請け負う協力会社のプ レハブが建ち並び、左側地帯には 八つの発電機を格納した、通常の オフィスビルで言えば六階建てほ どの細長い建屋が延々と続く。
我々を乗せたマイクロバスは、ま ず所内に二つある冷却水取水路の 一つを見る位置まで直進し、東京 湾を臨んだ。
取水路は東京湾と直 接繋がっているため、外部からの不 意の侵入その他に対するセキュリテ ィ対策上の機器が置かれている。
発電機や燃料タンクが設置され た臨海地域は埋め立てにより確保された土地ではあるが、岩盤に届く まで打ち込まれた杭により、地震そ の他にも十分に耐えうるようになっ ている。
前述した変電所、協力会 社のある地区は山を一部造成して 整備した土地であるため、狸等の 野生動物の生息地ともなっている。
ちなみに、臨海地区には戦時中 この地を使用していた海軍の設備 が、山側地区には戦後進駐してき な地であり、横須賀火力発電所にほ ど近い場所には来港記念館がある。
また、冷却海水取り込みを目的とし て海岸沿いに建設された同発電所の すぐ横には、南房総と横須賀を結ぶ 東京湾フェリーが運行している。
横須賀火力発電所は一九六〇年 に設立され、一号機として、当時 日本最大の二六・五万キロワット もの発電容量を誇るクロスコンパ ンウンド型タービン発電機が運転 を開始した。
最後の八号機が運転 を開始した一九七〇年には、一カ 所の発電所としては世界最大とな る二六三万キロワットの出力を誇 る火力発電所となった。
同発電所は東京湾の西に連なる 五つの火力発電所から成る、東京 電力の西火力事業所に属している。
他の四つは、川崎、横浜、南横浜、 東扇島の各火力発電所であり、関 東における電力の安定供給に貢献 している。
横須賀火力発電所では、重油・ 原油を燃料として用いる八号機ま でのボイラー&タービン設備による 当学会のフォーラムでは、実 務に役立つ見聞を広めることを 目的の一つにしている。
その手段として、教室で先達 から貴重な知見を聞き、参考情 報に基づいた考察をすることが大 事であるのは言うまでもない。
そ れと同時に実際に現地に赴いて 現場を見る、また現場の実務者 から生の声をお聞きして具体的 な知見を深めるのも重要なこと であると考え、今年は年間を通 して計四回の現場見学会を計画 している。
五月度のフォーラムでは、現 場見学会の第二回として、東京 電力の横須賀火力発電所と防衛 大学校のバーチャル・リアリテ ィ実験室を見学した。
海沿いにそびえる横須賀発電所 今回の見学会は、東京電力の横 須賀火力発電所(横須賀市久里浜) の見学で始まった。
久里浜は幕末に おけるペリー提督の日本来港で有名 SOLE日本支部フォーラムの報告 東京電力の横須賀火力発電所を見学 大規模なシステム保全の現場を知る The International Society of Logistics 火力発電機と、軽油・都市ガスを 燃料とする二つのガスタービン発 電機が稼働している。
ガスタービン発電は、発電容量 は少ないものの、起動から発電開 始までの立ち上がりの早さから緊 急用の発電設備として、また、二 酸化炭素排出量が少ないというメ リットから重宝されている。
見学し たこの日も、三、四号機の火力発 電機に加えて一つのガスタービン発電機が稼働していた。
戦後、世界的なすう勢として、石 炭利用から重油への燃料移行がし ばらく続いた。
横須賀発電所にお いても、一九七二年には一、二号 機が石炭炊きから重油専焼へ移行 を始めている。
これは、地球温暖 化の議論では避けては通れない二 酸化炭素排出の削減にとって大き な転機であったと言える。
見学当日、京浜急行/JR久里 浜駅から一五分ほどバスに揺られ て「東電前」バス停に降り立つと、 目の前には海を臨む横須賀火力発 電所が広がっていた。
圧倒的な存 在感であった。
まず正門すぐにある「TEPC Oふれあい館」に案内され、ビデ オ上映を通して火力発電の仕組み や当地の設備概要といった基礎的 な知識を教授いただいた。
その後 77 JULY 2007 たGHQの施設が朽ち果てつつも 未だ残っているとのことである。
マイクロバスは東京湾を臨む取 水路から切り返し、見学のメーン である発電機の建屋の前に横付け された。
建屋に案内され、プラン トのパイプやダクトが縦横に延びる 一階部分から、エレベータで八基 の発電機が並んで設置された二 階部分に上がる。
建屋の裏にはボイラー設備があ る。
枝分かれした巡回管内を流れ る純水を小さなバーナー一つひと つの炎で炊き、温度五六六度、圧 力一六九キログラム/平方センチ メートルの蒸気を発生させる。
そ の蒸気が配管を通って建屋に引き 込まれ、羽を叩いてタービンを回 転させる。
タービンは蒸気のエネルギーを 回転エネルギーに効率的に変える ため、高圧用、中圧用、低圧用に 分かれており、羽の長さや向きと いった形状には独特のノウハウが 蓄積されている。
タービンの軸の 延長はそのまま銅と鉄で構成され た発電機のローター軸となってお り、軸の回転が電気を発生させる しくみになっている。
軸の回転は毎分三〇〇〇回転、す なわち毎秒五〇回転である。
これが 我々の家庭でおなじみの五〇ヘルツ を意味する。
発電機一基では一万 五〇〇〇ボルトの発電が可能だ。
タ ービン、発電機とも外殻で覆われて いて内部は見えないが、タービン軸 と発電機のローター軸の継ぎ目には 数十センチメートルほどの銀色をし た軸が露出している。
だが、回転が 極めて高速であるため、実際にはそ れが回転しているようには見えない。
タービンを叩いてエネルギーを失 った蒸気は、海水冷却水により復 水され、再びボイラーに戻ってゆく。
冷却水として使用された海水は、構 内中央の道路沿いに掘られた放水 路を通って、再び東京湾に流される。
発電で生まれた電気は、送電のた めにいったん六万六〇〇〇ボルトお よび二七万五〇〇〇ボルトの高電 圧に変圧され、変電所を通じて送電 鉄塔へと流れ、三浦半島、横浜、湘 南方面の電力を賄うことになる。
ボイラー、タービンおよび発電 機の周りには人気が全くない。
こ れらの大型発電設備を制御するの が、二つの発電機に一室ずつ併置 された中央操縦室(中操)である。
ボイラーの燃焼状況を見るための テレビ画面が置かれた中繰では、二 十四時間態勢で常時七人の運転者 が業務に当たる。
八時間交替の三直(三チーム)制で一日をカバー できる計算だが、あえて五直(五 チーム)制にすることにより、昼 間・夜間勤務の交替や休暇等、シ フト組みに余裕を持たせている。
環境保全に対する取り組み 発電所の付加価値が生み出した 電気にあることは明白だ。
だが、そ れ以上に今日的な意味で人々の関 心を集めているのが、大気保全や 水質保全、二酸化炭素排出量削減 といった、いわゆる「環境にやさし い」工夫である。
ボイラーで重油等が燃焼した後 に発生した燃焼ガスは、脱硝装置、 電気式集塵器、脱硫装置を経て地 上二〇〇メートルの集合型煙突か ら排出される。
脱硝装置は、大気 汚染源となる窒素酸化物(NOx) 等を除去する。
電気式集塵器は、煤 や灰を集めるためのものであるが、 これらから希少物質であるバナジ ウムやニッケルが抽出され再利用 される。
脱硫装置により硫黄酸化 物(SOx)が除かれ、総合排水 処理装置により発電所排水の水質 保全がなされている。
ただし、二 酸化炭素排出量削減には、燃料や 発電効率そのものの改善等、総合 的な対策が求められる。
発電機建屋の見学を終えた我々 はマイクロバスに揺られ、再び「T EPCOふれあい館」に戻った後、 広報係の方と最後の質疑応答を行 った。
東京電力のような大企業で は広報の対応もしっかりしており、 地元の理解を得るための催しも活 発である。
今年は六月九日に「T EPCOふれあいデー」が開催さ れることをお聞きして、見学後身 近に感じるようになった火力発電 所の見学は終了となった。
火力発電所は大規模なシステム 保全の格好の例だと言える。
複雑な化学反応プロセスは無い ものの、燃料や水の供給、排ガス や排水の廃棄といったプロセス産 業特有のシステムを、現在三〇〇 人ほど常駐しているという協力会 社スタッフとの連係により保守・ 保全を実施する体制、法律等の規 則遵守体制、廃棄物の処理や活用 建屋の2階部分には8基の発電機が並ぶ 境、地球環境を考慮した工夫で 地域住民にアピールすることは元 より、国のエネルギー施策への協 力は大企業の使命の一つである。
?効率の良い発電システムの追求 は、依然として発電所の任務の 根幹であり、また右記?〜?の 各項目とも両立する。
?新システム導入時には、メーカー や機器類のメンテナンスを請け負 う協力会社との関係、およびメ ンテナンス作業を見直す必要が ある。
人間の三次元空間知覚 東電の火力発電所を後にした我々 は、バス、電車を乗り継ぐこと約 三〇分、同じ横須賀市内にある防 衛大学校(防大)を訪れた。
最寄り駅である京浜急行の馬堀 海岸駅からタクシーで数分の場所に ある防大正門から、共同利用器材 として校内に整備された通称「テレ オペ室」へ直行した。
バーチャル・ リアリティの装置が並ぶ実験室だ。
バーチャル・リアリティとは、まる で三次元の実空間にいるかのような 錯覚を覚える人工的に作成したコ ンピュータ画像表示を主として指す。
テレオペ室を訪ねた我々は、応 用物理学科の斎田真也教授から、人 間の三次元空間知覚に関する数々 の面白い現象を、コンピュータと資 料を用いてご説明いただいた。
二つ以上の対象物の隔たりを認 知する「奥行き感」と、対象物の絶 対的位置を示す「距離感」とでは、 人間は「奥行き感」に相当程度頼 っている。
そのために多くの視覚的 な錯誤が生じる。
その一例として、 運動視差と呼ばれる現象により、ス クリーン上に映された何の変哲もな い模様が、ある場所は出っ張り、ある場所は引っ込む等の立体的な物 体として認識できるデモを体験した。
また、網膜上に映った単なる二 次元映像を意味あるものとして知 覚する上で、人間が産まれ育つ過 程で獲得する経験がいかに大きなウ エートを占めているかについても説 明があり、有名な「エイムズの部 屋」が例に挙げられた。
歪んだ四角 形を普通の部屋に見せかけることに よって、両隅に立った同じ体格の人 間が、一方は超小柄に、また一方 は超大柄に見えてしまう例である。
この他にも、物体の影、風景画にお ける霞等が人間の空間認知に及ぼ す影響についても説明を受けた。
これらは絵画において意識的に 使われてきた手法でもある。
今回 の見学内容は、こうした手法に対 する科学的研究であるとも言える。
人間の視覚認識力に関する研究を 引き合いに出し、ロボットなどで 使われる視覚認識を人間と同じよ うに行わせることがいかに困難であ るかを斎田教授は力説されていた。
約三〇分のバーチャル・リアリ ティ体験により、例えば工場にお けるマテリアルハンドリングや運搬 作業における視覚や物の認識の機 械化は、人間的空間認識力を目指 すのではなく、それ固有の目的を 明確にした上で人間とは別個の認 識システムとして機能させることが 大事であると再確認できた。
今回の見学会は午後一時から五 時と、丸半日かけて行われた。
火 力発電所での現場見学とともに、防 大という教育・研究機関における 科学的な体験を組み合わせた試み であった。
参加者個々にとってどれ だけ有意義であったかは別にして、 少なくとも飽きのこない見学会であ ったとだけは言えるであろう。
および取水路や放水路の貝類除去 等に見られる環境保全体制等、様々 な保全体制を維持しなければなら ない。
そのため、日常的に実施する作 業と、定期的あるいは緊急に行う 作業を人的、物的資源の制約を考 慮しながら効率よくスケジューリン グするノウハウが必要となる。
最後に、発電所に関しては全くの 素人ではあるが、ロジスティクスの 見地から今回の見学を総括したい。
?四五年以上経つ初期の発電設備 (一、二号機)の運転終了および 閉鎖は、開所以来はじめての経 験であるため、手順が重要である。
?その手順の中には、古い発電設 備から代替設備への移行スケジ ュールの計画作りといった重要な ものが含まれるかも知れない。
?メーカーによる発電機器類の予 想信頼性とは別に、実際の寿命、 信頼性に関するこれまでの取得 データを整理し、設備の今後の 維持管理の糧とする必要がある。
?古い発電設備に対する要員の練 度を維持し、新しいシステムに対 する要員の教育・育成との両立 性を維持する教育体系が今後と も大事である。
?二酸化炭素排出対策など周辺環 JULY 2007 78

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