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POSでシェアを上げる
●北米パナソニック
約三〇ある講演の中で最も関心を集めたの
は、二日目の基調講演だった。 パナソニッ
ク・ノース・アメリカ(松下電器米国法人)
でSCMを統轄するマイク・アギュラ上級副
社長は「POSデータを使ってシェアを上げ
るには」というタイトルで同社の取り組みを
語った。
同社は数年前から、主力商品の一つである
プラズマテレビにおいて、「シェアで圧倒的な
ナンバーワンになること」を目標に掲げ、そ
の具体的方策として、これまで小売り六〇〇
〇店舗にあった需要予測機能を自社内に吸収
した。 それにより、需要予測の精度を高める
だけでなく、サプライチェーン全体の在庫レ
ベルを引き下げることに成功した。
「プラズマテレビは、技術の進歩が急速に進
んでいるので、新製品が出るたびに価格が大
きく下がります。 二年前と比べると、同じ製
品の価格がだいたい四分の一になっています。
そのような競争が激しい製品で利益を上げる
ために、当社はここ数年の間に、これまで各
小売り店舗に任せていた需要予測を当社が全
面的に引き受けることにしました。 そのため、
POS(販売時点情報)データを活用して、
製造業者である当社が、店舗ごとの需要予測
をたて、それに基づいて納品するようにしま
した」
「小売りが最も得意とするはずの需要予測を
製造業が吸い上げるというのですから、小売
りからの理解を取り付けるのは容易ではあり
ませんでした。 けれど、これまで各小売り店
舗から上がってくる需要予測は、過去のデー
タから将来を予測した数字というよりは、売
れ筋製品を出来るだけ多く抑えておきたいと
いう側面が強かったのです。 結果的に見れば、
当社が市場全体の需要自体を読み間違えてい
なくても、地域によって、また店舗によって
在庫の多寡が分かれるので、パナソニック全
体としてみると販売機会を失っていました」
「当社は、i2テクノロジーズと組んで、小
売りから上がってくるPOSデータを分析し
て、そこから需要予測を立てるようにしまし
た。 当社が需要予測を立てるにはi2への支
払いを含め経費も労力もかかります。 ですか
ら、新しいやり方をはじめるにあたって、小
ドイツ・デュッセルドルフ市で五月二一、二二日の二日間、「欧州サプライチェ
ーン&ロジスティクス会議」が開催された。 本誌がこの会議に参加するのは二度目
のこと。 昨年に引き続き、欧米の大手荷主企業であるボルボやP&G、ハネウェ
ルやパナソニック・ノース・アメリカなどの興味深いケーススタディーが並び、熱
のこもった質疑応答が交わされた。 ケーススタディーに加え、参加者やスポンサー
の声を拾った。
(取材・編集
本誌欧州特派員
横田増生)
欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議
攻めのロジスティクスに注目集まる
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流通形態が大きく異なるので、アメリカでの
成功例を導入するのかどうかはアメリカから
は判断できません。 けれども、日本の本社も
アメリカの事例は十分に承知しています」
物流戦略で市場の飢餓感煽る
●P&Gイギリス
パナソニックのケーススタディーと並んで
注目を集めたのは、P&Gイギリスのバリュ
ーチェーン&ロジスティクス担当のモーリス・
リー氏の講演だった。 二〇〇六年夏にイギリ
スで発売したジレット(二〇〇五年一〇月に
P&Gが買収)の電動カミソリ「ジレットフ
ュージョンパワー」のプロモーションをサポー
トするために、同社のロジスティクス部門で
は、どのような対応を行ったのかを解説した。
「われわれロジスティクス部門が目指したの
は『ハリー・ポッター』の発売に見られるよ
うな?興奮〞を演出することでした。 P&G がジレットを買収したことで、イギリスでは
日用雑貨の部門で二位を大きく引き離してト
ップメーカーとなりました。 今回の新製品の
発売は、買収後の業務統合の真っ最中にあた
りましたが、大掛かりなプロモーションを伴
う新製品の発売は毎年のことなので、通常通
り発売の一〇カ月前から、当社のトップがテ
スコなどの大手小売りのトップと直接話し合
いを持ち、理解と協力を求めることからはじ
めました」
「ジレットのSCM業務に関しては、通常業
務はDHLエクセルサプライチェーンにセン
売りにもその経費などを負担してもらうため、
当社と小売りとの利益の配分率を変えました。
具体的には、従来の割引率を引き下げること
で、システム構築とその運営にかかる費用を
小売りに負担してもらうことにしました」
「ただし、パナソニックの需要予測が一方的
なものとならないためにも、各店舗における
製品の欠品率が年間を通じて一定の割合を上
回れば、当社がペナルティーとして一定金額
を支払うという項目を契約の中に入れました。
しかし、結果を見れば、ほとんどの店舗で需
要予測の誤差は、双方にとっての想定範囲内
に収まりました」
「現在、この方法を一番高く評価しているの
は小売りです。 それまでの過剰在庫が減った
ことで、キャッシュフローがよくなったとい
うのが、小売りの共通した意見です。 需要予
測のプロジェクト前と比べると、在庫は一七
週間分から四週間分に圧縮することができ、
当社のシェアは一八%から四〇%に上げることが出来ました。 次のプロジェクトは、プラ
ズマテレビからはじめたこの需要予測の手法
を、パナソニックの全製品に広げることです」
講演後の質疑応答で、アギュラ上級副社長
は、同様の取り組みを日本でもやるつもりが
あるのかという質問に対して、こう答えた。
「小売りに代わって需要予測を行うのは、ア
メリカ独自の取り組みです。 日本では家電の
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で売上の一〇%で、プロモーションに関して
も同じような数字に収まっています」
4PL活用で生産性向上
●ハネウェル
電子部品メーカーのハネウェルでターボ技
術部門のSCMディレクターを務めるギアン
ピエロ・ルファット氏は「グローバルネット
ワークを管理する」というタイトルで、以下
のように講演した。
「ハネウェルというと、電子部品のイメージ
が強いと思いますが、自動車用のターボ技術
部門の売り上げは、全体の約三分の一を占め
る主要部門の一つです。 そしてターボ技術部
門の売り上げの六〇%近くはヨーロッパ市場
が占めています」
「私は九八年から当社がはじめた、ロジステ
ィクス業務を一元管理しようというプロジェ
クトを率いてきました。 最初の二年はトヨタ
自動車のカンバン方式を真似て、各国でSC
Mにおける可視性を高め、製造工場の要求に
迅速に応えることができるような体制を整え
ました。 二〇〇〇年からは、それまで各国ご
とにバラバラに行われていたロジスティクス
業務を、業務プロセスやITなどの分野で統
一しました。 ITシステムにはSAPのER
P(基幹業務パッケージ)ソフトを導入しま
した。 そうすることで、国境を越えた国際戦
略を練ることが可能になったのです」
「まずは、世界に十一カ所あった物流センタ
ーの再編に手をつけました。 人件費の高かっ
たイギリスとフランスなどの物流センターを
閉鎖して、チェコやルーマニアといった東欧
にセンターを移しました」
「二〇〇三年からは、アメリカのライダー・
システムを4PL業者に選び、現在に至るま
でロジスティクスのリエンジニアリングに取
り組んでいます。 ライダーに委託したのは、全
体最適化の青写真を描くことに加え、日々の
業務や、下請けの3PL業者への運賃支払い
などです。 ライダーを4PLに選んでからこ
れまで、物流の生産性は年間に平均七%ずつ
アップしています。 今後は、各物流センター
でのベストプラクティスを横展開することで、
ROI(投資利益率)の向上にも貢献してい
きたいと考えています」
参加者の評価分かれる
今回の会議の参加者は約一五〇人。 スポン
サー企業は六五社だった。 会議に参加した数
少ない日本人の一人、アステラス製薬欧州の
製造技術及びSCM担当マネジャーの嶋秀樹
氏(イギリス)は、「今回が初めての参加だっ
たが、いろんな業界でSCMにおいて創意工
夫しているのを聞くのは大いに刺激になる。 当
社でも製造部門と営業部門の綱引きのような
ことが行われているが、会議の講演のような
しっかりとしたプレゼンテーションを用意す
ることができれば、双方が今以上にうまく付
き合っていけるのではないかという感想を持
った」という。
またグッドイヤー・ダンロップでSCMを
ター運営や小売り店舗への配送を委託してい
ますが、プロモーション時にはシーウエイ(S
eaway)というパッキング専用の会社も並
行して利用しています。 シーウエイは発売の
二カ月前から、店舗でのディスプレイを重視
した箱や陳列のためのパッケージを担当しま
した。 その業務には計六万マンアワー(人・
時)を費やしました」
「ロジスティクス業務の準備に加えて、出荷
するタイミングに厳格なルールを設けました。
発売日の当日の午前〇時を過ぎるまでは、決
して製品を物流センターから出さないという
ものです。 ただし、発売前からテレビや新聞
を使って大規模な宣伝を展開していましたの
で、小売りとしては少しでも早く店頭に並べ
たいという気持ちがありました」
「そこで小売りが望むなら、通常の当社が手
配するルート配送を待たずに、小売りが専用
の車両で取りに来ても構わないことにしまし
た。 期待感を高め、製品の引き取りに公正を
期することで、日用雑貨において『ハリー・
ポッター』現象を作り出そうとしたのです。 こ
れは、われわれの期待通りとなり、多くの小
売業者がトラックを仕立てて『ジレットフュ
ージョンパワー』を取りに来ました」
「発売に先がけ二五〇〇パレット分の注文を
受け、発売第一週で一日平均約六〇〇パレッ
トの製品を出荷しました。 このプロモーショ
ンにどれだけのロジスティクスコストがかか
ったのかという個別数字は明らかにしていま
せんが、当社のロジスティクスコストは平均
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担当するバーンド・ブリックマン氏(ドイツ)
は「会議の二日間は充実していた。 価格のプ
レッシャーに悩まされ続けているタイヤ業界
でも、SCMを軸に業務を変えていけばこれ
まで以上に利益を上げることができそうなヒ
ントを得ることができた」と語った。
もちろん全員が会議に満足したわけではな
い。 アルキャンパッキングのSCMディレク
ターであるルーレン―デービ・シャルビ氏(フ
ランス)は、こう指摘する。
「まずは会議の参加費が高すぎる(日本円で
約三五万円)。 この会議には以前も参加した
けれど、そのときと比べるとぐっとスポンサ
ー色が濃くなっていて、講演についても、純
粋なプレゼンテーションなのか、それともセ
ールスのためなのかを見極めなければならな
くなってきた。 それに会議の間に商談会が二
度も入っているのが理解できない。 おまけに、
会議内容を録音したCDも高すぎる(約七万円)。 もう二度と参加することはないだろう」
と手厳しく批判した。
一方、スポンサー企業側は、会議におおむ
ね満足しているようだ(上の囲み記事参照)。
同会議を主催するワールド・トレード・グル
ープ(WTG)のローレンス・アレン氏は、
「今回の会議は、フォーマットは前回と同様な
がら、発表内容は前回より充実している。 参
加者たちと話していても手ごたえを感じる」
という。 なお、WTGはロンドンに本社を置
き、SCM関連の会議に加え、年一〇回ほど
のビジネス会議を開催している。
スポンサー企業インタビュー「会議に参加した理由を教えてください」
i2テクノロジーズ
メッタ・クローグ氏(デンマーク)
当社が今回の会議に参加した狙いは2
つあります。 一つは会議のスピーカーと
して参加しているパナソニックやSTマイ
クロエレクトロニクスといった既存顧客
のフォローアップで、もう一つは新規顧
客の開拓です。 当社はIBMのようにだれ
もが知っている多国籍企業ではありません。 SCMに特化した
ソフトやソリューションを取り扱っているのですから、このよ
うな会議に参加するメリットは大きいと考えています。
オラクル
パオロ・レベギ氏(イタリア)
当社がこの会議に参加するのは初めて
のこと。 ヨーロッパでは、同様な会議か
ら絞り込んで、年2、3回参加することに
しています。 参加の目的は、当社が取り
扱うビジネス・データベースからミドル
ウエア、ビジネスアプリケーションまで
幅広いソリューションのメニューを荷主のSCM担当者や3PL
企業の担当者に販売するきっかけを作ることです。 今回のよう
な会議は、それぞれの企業が抱える本当の問題を話し合うのに
最適な場所だ、と考えています。
ヴォコレクト(Vocollect)
ラフ・ユジュスキー氏(イギリス)
当社は物流センターのピッキング作業
に、従来のバーコードではなく、専用ヘ
ッドフォンと作業内容を音読するソフト
を使って作業の効率化を図る商品を販売
しています。 アメリカでは今年、創業20
年を迎えますが、ヨーロッパではまだ5年
の歴史しかありません。 昨年は東京にも事務所を開設しました。
今回の会議に参加するのは初めてのことで、ヨーロッパにおけ
る当社の認知度を上げることが目的の一つです。
3M
ジョナサン・ジャックマン氏(イギリス)
この会議に参加するのは今回が初めて
です。 文具用品メーカーの3Mがそれま
で自社の工場で使っていたSCMのソフト
会社HighJump Software社を買収した
のは2004年のことです。 けれど3Mが
SCMのソフトを取り扱っていることは、
まだほとんど知られていません。 現在は、
業界内での知名度を上げることを目的と
して、ヨーロッパでは年10回ほどこのような会議に参加してい
ます。 会議に参加することで、大きな契約を結ぶというよりも、
営業の出発点となればと考えています。
ヒューレット・パッカード
ジェーン・フレンコ・レミー氏(フランス)
HPは2、3年前から、社内で蓄えた
SCMやベンダー管理のノウハウを、社
外に販売し始めました。 自動車産業、製
薬産業、小売業などで販売実績を上げて
います。 しかし、まだ認知度が低いので、
積極的にこのような会議を利用するよう
にしています。 この会議に参加するのは初めてですが、会議の
規模は、新規の顧客を見つけ出すのにピッタリのサイズだと思
っています。 とくに会議の合間に個別の商談会が設けてあるの
が魅力の一つです。
アジリティ
ピーター・クロエ氏(スイス)
アメリカのロジスティクス企業である
ジオロジスティクスがドバイに本社を置
くPWCに買収されたのは昨年のことで
す。 ジオの他に買収した2社のロジステ
ィクス企業が、一つになってアジリティ
が生まれました。 この会議にはジオ時代
に参加したことがあり、商談会から大型契約に発展したことが
あったので、新社名を広めると同時に、再び大型契約を獲得す
ることを目指して参加しました。
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