ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年7号
現場改善
雑貨メーカーT社の拠点集約

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

45 JULY 2007 ター運営は自前」という方針を強く打ち出して いた。
二〇〇四年からは社内のスタッフだけで物流 改善活動にも取り組んでいた。
部門間の意見調 整に長けた優秀なスタッフが、プロジェクトリ ーダーとして活躍していた。
ところが今年に入 ってそのキーマンが退職してしまった。
このま ま社内の力だけで改善活動を進めていくのは困 難だと判断し、金融機関の仲介で当社NLF にサポートの依頼が舞い込んだのであった。
T社の物流担当役員のS取締役が我々のカ ウンターパートだった。
数回のヒアリングを経 て、東西二つの物流センターと主要な借庫の視 察を行った。
二つのセンター以外に、実に十二 カ所もの借庫があった。
その費用はT社の総支 払い物流費の五〇%を超えていた。
なぜこれだけの借庫が発生したのか、S取締 在庫の増加で拠点が分散 T社は年商約二四〇億円の中堅雑貨メーカ ーだ。
取扱いアイテム数は約五八〇〇。
関東に 本社を置き、北関東の生産工場に隣接して延 べ床約八〇〇坪の物流センターを所有している。
我々日本ロジファクトリー(NLF)がコンサ ルティングを開始した時点では、このほかにも 近畿に保管型物流センターを構え、両センター 周辺にいくつも倉庫を借りていた。
そのオペレーションも自社で処理していた。
T社は物流センター運営のアウトソーシングを 過去に二回、失敗している。
一回目は社内に物 流スペシャリストが不在だったことによる外部 委託コストの上昇、二回目は3PL企業の改 善失敗によるセンター機能の停止であった。
そ れらがトラウマとなり、T社のトップは「セン 役に尋ねた。
答えは以下の通りであった。
まず 工場隣接型のセンターがオーバーフローを起こ した。
そこで回転の少ないCランク商品の在庫 を、近くに借庫して保管することにした。
返品 や生産ミスによって発生したデッドストックも 別の倉庫に移した。
これに並行して、海外生産品の輸入が増加し た。
現在、T社では約四〇%の商品の生産を、 中国をはじめとしたアジア諸国のOEM(相手 先ブランド生産)メーカーに委託し、完成品を 日本に輸入している。
それを荷受けするための、 輸入コンテナのデバンニング用の倉庫を新たに 借庫した。
こうして、継ぎ接ぎ式に倉庫が増えていった。
T社のケースに限らず、場当たり的に増やした 借庫が物流管理上、適正な立地にあることは少 ない。
それが十二カ所にまで分散すれば、在庫 物量の増加に応じて、場当たり的な借庫を重ねた結果、 在庫拠点が一四カ所にまで分散していた。
その賃貸料は総 支払い物流費の半分以上を占めていた。
拠点集約プロジェ クトに取り組んだ。
改革プランはシンプルだったが、拠点 の閉鎖に伴うスタッフの転勤など、人の問題では苦労した。
雑貨メーカーT社の拠点集約 第54回 JULY 2007 46 管理に支障を来すだけでなく、横持ち輸送のコ ストが加速度的に増加してしまう。
我々は拠点集約の方法を検討していった。
主 な検証ポイントは以下の通りであった。
?得意先納品エリア分布とそのリードタイム ?調達先のエリア分布 ?輸入国からの寄港スケジュールおよび頻度 ?集約パターン別による必要倉庫面積の算出 ??の結果に基づく北関東エリア、横浜エリア、 千葉エリアそれぞれの借庫賃料と有力倉庫会 社および物流会社のリストアップ ?横持ち輸送の必要・不要の振り分けとコスト の算出 検証の結果、拠点を関東一カ所に集約でき ることが分かった。
ただし、北関東工場に隣接 した既存の物流センターではキャパが足りない。
メーカーの在庫削減の基本は、受注生産方式へ の移行による工場からの直送だ。
しかし、T社 の場合、いくら直送化を進めたとしてもリード タイム面での条件が厳しい顧客や輸入品用に一 定の在庫スペースは必要であり、工場の敷地に 増設の余地はなかった。
幸い工場から車で約一〇分の場所に適地が 見つかった。
そこに、協力倉庫会社に新たなセ ンターを建てさせて、賃借するかたちをとるこ とになった。
新設したセンターは平屋建ての約 一五〇〇坪の規模。
これと既存の工場隣接型 センターの八〇〇坪を併せて計二三〇〇坪のス ペースを確保した。
デッドストックの発生源を辿る 関東の新センターの稼働に合わせて、近畿物 流センターは閉鎖することになった。
また、今 まで神戸港と横浜港に分散していた輸入品の荷 揚げも横浜港に一本化することが決まった。
この拠点集約は副産物として三つの改善テー マを生んだ。
「?東西二拠点体制から一拠点体 制への移行に伴うオペレーションの安定化」、 「?デッドストックを生み出している返品・生 産ミスを撲滅するための営業部門、生産部門を 巻き込んだ改善」、「?梱包サイズの見直しによ る支払い運賃の明確化」である。
このうち「?オペレーションの安定化」につ いては、拠点集約によって集中することになっ た入出庫オペレーションをスピーディに処理す ることに加え、業務精度の維持・向上が課題で あった。
ここでもやはり重要なポイントは?人材〞で あった。
人手不足の折、新センターのオペレー ションを担うパート・アルバイトの募集には苦 戦を強いられた。
結局、定員の半分しか集める ことができず、残りのマンパワーを派遣会社に 委ねるしかなかった。
管理スタッフの確保には、さらに手を焼いた。
机上で考えれば、関東の新センターには、閉鎖 した近畿物流センターのスタッフを投入すれば いい。
しかし、スタッフは転勤を強いられるこ とになる。
幸いにしてS取締役と人事部が調整 に動き、熱心に説得したことで、同センターの 副センター長クラス二人とラインリーダー一人 の計三人のスタッフは異動を受け入れてくれた。
しかし、センター長は転勤に応じることができ ず、自主退職する結果になってしまった。
その 穴埋めに、NLFの人材紹介事業部(ロジキャ リアバンク)の登録者を新センター長として新 たに採用して、何とかオペレーション品質のメ ドを立てた。
一般に物流マンは他の業界に比べ転勤を嫌う 傾向がある。
とりわけ首都圏から地方への転勤 は避けられることが多い。
仮にT社の集約先が 近畿であったら、スタッフを異動させることは、 もっと困難であっただろう。
「?返品・生産ミスの撲滅」については、返 品の原因分析をもとに、物流面、営業面、生 産面、それぞれに対策を打った。
物流に起因する返品は、?ピッキングミスおよび出荷ミスに よる品違いと、?商品破損が大半を占めていた。
そこで新センターでは作業品質に焦点を定めた 管理指標を新たに設定し、その改善に注力する ことにした。
具体的には棚番地の文字や伝票印 字を大きくすることでピッキングミスを回避す るともに、ダブル検品を実施した。
営業面では、卸向けルートにおける返品を前 提とした押し込み販売(過剰納品)が、返品を 発生させる主な原因となっていた。
これを改善 するため、営業マンを対象にしたペナルティ制 度を導入した。
返品を処理するための、いわゆ る?赤伝〞を発生させた場合には、その実額に 対し一・五倍の売り上げを担当営業マンの成 績から差し引くという社内ルールを設定し、返 品を受ければ営業成績が下がるようにした。
これでT社の営業マンの活動には抑止力がか かった。
しかし、肝心の得意先が返品を前提に した発注を続けたために、返品はほとんど減少 しなかった。
また、取引先卸にとってT社は在 庫のバッファーセンターとして支持されている ところがあった。
このようなことから現在は、 取引先卸の在庫適正化を目指した「定数納入 システム」の導入を検討している。
アイテムご とに適正在庫量を設定し、不足した量をT社が 自動的に補充する事実上の自動補充システムだ。
トータルコストを二割削減 生産面におけるミスは、海外で生産するOE M品に集中していた。
現地工場での「製造依頼 書」の見落とし、不良品のチェックミスなどが 主な原因だった。
T社の海外生産比率は年々 拡大する傾向にあり、放置できない問題だった。
これに対して我々NLFは、指導員を日本か ら現地に派遣する案を提示した。
結局、この案 が役員会でも承認され、海外主要工場七カ所 に、定期的に指導員を送り込み「製造依頼書」 の読み方、チェック方法、検品作業の進め方、 受注から出荷までの業務フローの組み換えなど の現場改善を行うことになった。
その担当者としてT社の工場長OBら三人 を起用した。
この指導員派遣から約半年が経過 した段階で、現地での生産ミスは派遣以前に比 べて半減した。
次は国内の輸入受け入れ側のチェック機能強 化であった。
T社のように海外からの調達比率 が高い企業では現場での製品チェックはもちろ んのこと国内入庫時の数量検品や製品の抜き 取り検査が不可欠だ。
輸入コンテナ到着時の入荷検品人員を実質的に二名増員することで、製 品名、数量、品質のチェックを強化した。
「?梱包サイズの見直しによる支払い運賃の 明確化」では、それまで三六種類あった出荷梱 包サイズを二〇種類に絞り込んだ。
従来は梱包 方法のパターンが多過ぎて、作業が煩雑になっ ていた。
また特積み各社の運賃タリフとの整合 性が取れず、支払い運賃の請求書をチェックす ることができなかった。
梱包物がそれぞれ運賃 タリフのどれに該当するのか、判断が困難であ った。
梱包パターンを絞り込んだことで、全体 の九〇%について出荷梱包サイズおよび重量と 請求書が連動するようになった。
一連の改革によって、T社のトータル物流コ ストは改革前と比べ、現時点で約二〇%削減 された。
現在は協力物流会社の見直しを含む配 送インフラの強化によって、納期および配送リ ードタイムの安定化に取り組んでいる。
47 JULY 2007

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