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JULY 2007 60
「それで、いくら下がったの?」
物流部長が性急な質問をする
大先生がコンサルをしている問屋の大阪支店
の物流センターでロジスティクス導入効果を検証
するための会議が開かれている。 休憩後会議が再
開された。 物流部長が、進行係としての役割を
意識してか、口火を切った。
「それで、物流コストは、結局いくら下がった
の?」
「いえ、正直なところ、まだ具体的には見えて
ません」
「なーんだ‥‥」
大阪の営業部長の率直な答えに、物流部長が
がっかりしたような顔をする。 すかさず、大先生
が大阪の営業部長を援護する。
「なーんだ、じゃないよ。 サービスにメスが入っ
たからといって、すぐにコスト削減に結びつくっ
てもんじゃないだろう」
「はい、そうでした。 すんません」
物流部長が素直に認める。 大先生が続ける。
「それに、物流の現場で明らかになった問題だ
けど、それは本質的には営業の問題さ。 いまやり
始めた営業の顧客支援が顧客の評価を得て、そ
れが売上増に結びつくのが本筋だ。 物流コストは
結果として減ってくる。 それでいい」
大先生の言葉に社長が頷く。 それを見て、物
流部長が、資料を見ながら質問を変えた。
「そうそう、ここにある物流センターの作業人
員の削減効果っていうのは、具体的にいうと、ど
んなこと?」
「はい、作業人件費を下げるということです」
大阪の営業部長が真面目な顔で答え、物流部
長を見てにやっとする。 かまわれたと思った物流
部長が、むっとしたようにつっかかる。
「そんなのわかってるよ。 そういうことじゃなく
って‥‥」
「いや、あんたが聞いたのはそういうことだよ」
大先生の断定に物流部長が言葉を詰まらせた。
そこで、物流部長の代わりに体力弟子が質問した。
「物流ABCを使って、物流コストを下げる取
り組みもなさってるようですね?
具体的に、物
《前回までのあらすじ》
カリスマ物流コンサルタントの“大先生”は、“美人弟子”と“体
力弟子”の二人を従え、問屋のロジスティクス導入を支援している。
試行錯誤の末、プロジェクトはいよいよ導入効果検証会議の日を
迎えた。 午前中の会議では、大阪支店の営業部長が物流ABC導入
の経緯を説明した。
湯浅和夫
湯浅コンサルティング
代表
《第
63
回》
〜ロジスティクス編・第
22
回〜
61 JULY 2007
流ABCで何をどうしようとされてるんですか?」
体力弟子の質問に物流部長が「そうそう」と
言いながら頷く。
大阪の営業部長が説明を始める。
「はい、日々の作業者数を事前に計画化しよう
ということです」
待ってましたとばかりに弟子たちが頷き、身を
乗り出す。 弟子たちの反応のよさに気を良くした
のか、大阪の営業部長が張りのある声で説明する。 「センターの作業人件費というのは、基本的に、
物流センターに何人配置するかということで、大
方決まってしまいます。 それに個々のアクティビ
ティごとに効率化をして作業時間を短縮しても、
それを直接人員削減に結びつけるのは難しいとい
うこともわかりました。 それから、人員削減した
いといっても、パートさんを切ることには躊躇す
るというのが本音のところです。 いろいろ考えた
結果、それらを同時に解決する方法として人員
配置計画に辿り着いたのです、はい」
人員は削減してもパートは切らない
データを元に配置に知恵を絞った
ここまで一気に話して大阪の営業部長は一呼
吸置いた。 みんな、興味深そうな顔で彼の顔を見
ている。 大先生が満足そうな顔でたばこを吹かし
ている。 美人弟子が言葉を挟んだ。
「アクティビティごとの作業時間短縮を人員削
減に結びつけ、ただしパートさんを切ることはし
ない、それらを同時に実現するための方策として
人員配置計画を作るということですね?」
Illustration©ELPH-Kanda Kadan
JULY 2007 62
「ふーん、マジックみたいなことだな。 それって
具体的に何をどうするの?」
物流部長が興味深そうに先を促した。
「はぁー、別にマジックというほどのことではな
いんですが、要するに、これまでは作業者の数は、
何というか、まあ勘と経験で、たとえば、週末と
週初めは多め、週中は少なめという感じで人を入
れてましたが、結局は常に多めの人員配置になっ
てしまっていたといえます。 まあ、人が足りなく
て作業に遅れが出たら大変ですから、それもやむ
をえなかったと思います」
この言葉に社長をはじめみんなが頷く。
「そこで、せっかく物流ABCを入れて、アク
ティビティごとの処理時間を取ったのですから、
このデータを使って人数を適正化できないかと考
えたんです」
物流部長が「わかった。 それで」という意味を
込めて何度も頷く。
「どうしたかといいますと、物流センター内の
作業をたとえば入荷棚入れグループ、ピッキング
検品グループ、梱包グループなどというようにい
くつかに大きく区分しました。 各グループに含ま
れるアクティビティごとの一処理あたり作業時間
を合計して、グループごとの一処理当り作業時間
というものを出しました」
説明の途中で、突然物流部長が口を出した。
「なるほどー。 その時間があれば、あとはグルー
プごとの処理量を予測して、それを掛ければ一日
の必要作業時間が出るな。 その時間を一人当た
り稼働時間で割って人数を割り出すってわけか」
物流部長の解説に大阪の営業部長が「さすが
ー」と言いながら頷く。 物流部長が満更でもない
ような顔をする。 大阪の営業部長が続ける。
「部長のおっしゃるとおりです。 処理量は、こ
れまでの実績から毎週はじめに翌週の日々の出荷
量を予測しています。 特売とか特別量の多い出
荷は事前にわかりますので、それは別途足しこみ
ます。 日々の出荷量がわかれば、必要人数の算出は簡単です」
物流部長が頷きながら、課題を指摘する。
「そうすると、出荷量予測の精度が問題になる
な?」
物流部長の意見に大阪の営業部長がさらりと
答える。
「そうですが、翌週の出荷ですから、それほど
難しくはありません。 まあ、課題といえば、予測
した以上に出荷が出た場合だけです。 人数が少
ないと作業が遅れますから。 逆に、予測より出荷
が少なければ作業上は何も問題は出ません。 予測
をオーバーしたときの対策だけを考えておけば大
丈夫です。 対策としては、万一のときは支店の人
間を動員すれば何とかなります。 もう、この計画
化を始めて一カ月くらい経ちますが、明らかに効
果が出始めています。 確定数値ではありませんが、
仮の試算では一割以上作業人員が減ってると思
います」
大阪の営業部長が成果を誇る。 その顔を見て、
物流部長がいじわるな言い方をする。
「そうすると、出荷量が予測より少ない場合は、
人が余るので、のんびり仕事するってことか?」
63 JULY 2007
新入り物流部員の顔が見えない
「あいつは彼のせいで辞めました」
物流部長の皮肉な質問に大阪の営業部長が首を
振る。
「とんでもありません。 実際の出荷量が少ない場
合は、さっきの逆をやります」
「逆をやるって?」
物流部長が、意外な答えに即座に聞き返した。
「はい、余った作業者を支店に移し、支店の業務を
手伝ってもらってます。 これまで管理データの作成
などいろいろやりたくてもできなかったことが結構
ありますので、それをやってもらってます。 この費
用は営業が負担してます」
「へー、なるほど、その手があったか。 でも、パ
ートさんは嫌がらない?」
「嫌がるどころか、気分転換になるといって喜ん
でます。 それに、若干ですが、この際、パートの賃
金を上げました。 物流センターで効率化しても自
分たちは首になることはない、逆に賃金も上がった
しということで士気は高まっているようです」
物流部長が「あんたにはかなわん」という顔で首
を振っている。 突然、思い出したように質問した。
「でも、出荷量が多いかどうかは、その日になら
ないとわからないのでは?」
「あっ、言い忘れましたが、当日受注はやめまし
た」
「へっ‥‥」
「大体、どう考えても、当日に注文を受けて、そ
の日のうちに納品するなんて事態は異常です。 お客
様にも私どもにも、結局どちらにもいいことなど
何もありません。 そんなサービスは、日配品は別
としてあってはならないことです」
大阪の営業部長が持論を展開し、続ける。
「それはいいとしまして、うちの場合、当日注
文というのは、行数でいえば、二割くらいあった
んですが、そういう注文が来るのは決まったお客
さまなんですよ。 数でいえば数%です。 ですから、
私が行って、そういう注文はやめてほしいとお願いしてきました。 みなさん、受け入れていただき
ました」
物流部長が、いかにも感心したという顔で褒め
る。
「あんたが理詰めでお願いすると、向こうも嫌
とは言えないだろう。 それにしても、やることし
っかりやってるなー。 たしかに、予測が外れた場
合の対処法だとか前日受注にしてしまうというよ
うな枠組みをきっちり作ることが、重要なんだよ
な。 あんたは、やっぱり違う。 えらい。 必ず出世
する」
座に笑いが起こった。 本社の営業部長が続ける。
「そうだな、うちの他の連中だったら、予測が
外れたらどうするんだ、当日受注があるから無理
だとか、できない理由ばっかり挙げて、結局やら
ないな。 うん、大したもんだ」
二人の部長に褒められて、大阪の営業部長が
苦笑して下を向く。 ちょっと間ができたのを見計
らって、体力弟子が整理の質問をした。
「こういうことですね。 翌週の日々の出荷量を
予測して、それをもとに日々の人員配置を決めて、
JULY 2007 64
事前にそれに合わせてパートさんの人数を調整す
る。 調整するというのは、パートさんの出勤体制
を調整するということですね。 そして、前日に確
定した出荷量を見て、支店の応援を手配するか
パートさんを支店に派遣するかといったことを決
めるということですね?」
「そうです。 予測よりも人数が少なくて済むと
判断できれば、翌日休みたいというパートさんに
は休んでもらいます。 みなさん出勤したいという
のであれば、余った人数分を支店に派遣するよう
手配をします。 予測より多くの人が必要なときは、
支店の応援もありますが、その前にパートさんの
増員が手配できれば、そうします。 はい、そうい
うことです」
体力弟子が納得した顔で頷く。 美人弟子がさ
らに確認する。
「アクティビティ別の作業時間の短縮は、グル
ープごとの処理時間に反映されて、人数の削減
に結びつくということですね?
グループごとの
人員のやりくりもあるんですね?」
「はい、そうです。 時間帯によってグループ間
の移動などもしています」
「なるほど。 うまくやってますね。 感心しました」
美人弟子が賛辞を贈る。 体力弟子が同感とい
うように大きく頷く。 大阪の営業部長が「いえい
え」というように、顔の前で手を振る。
「実は、うちの営業の若手に、お二人のどちら
かが大阪でおやりになった物流ABCの研修会
に行かせたんですが、そのとき、この作業時間を
使った人員配置計画のお話があったようで、彼が
帰ってきて、是非これをやりたいと私に進言して
きたのです。 それでやらせていただきました」
「なんだ、そうか。 それでちょっと安心した」
物流部長の妙な感想に座に笑いが起こった。 そ
のとき、突然、大先生が思い出したように物流部
長に質問した。
「営業の若手といえば、あんたが連れてきたあの新入りの物流部員はどうした?
あれから顔を
見ないけど」
物流部長が一瞬困った顔をする。 営業部長が、
物流部長の顔を思わせぶりに見ながら答える。
「あいつは彼のせいで辞めました」
物流部長が慌てて「おれのせいじゃないよ」と
顔の前で手を振るが、社長がだめを押した。
「あなたのせいじゃなくても、あなたが原因に
は変わりないわね」
観念したように、物流部長が説明を始めた。
(本連載はフィクションです)
ゆあさ・かずお
一九七一年早稲田大学大学
院修士課程修了。 同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経て、二〇〇四年四月に独立。 湯
浅コンサルティングを設立し社長に就任。 著
書に『現代物流システム論(共著)』(有斐閣)、
『物流ABCの手順』(かんき出版)、『物流管
理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわか
る本』(以上PHP研究所)ほか多数。 湯浅コ
ンサルティングhttp://yuasa-c.co.jp
PROFILE
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