ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年8号
欧州通信
欧州3PL座談会 荷主と信頼関係を築くには

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

最新現地レポート 欧州ロジ スティクス通信 AUGUST 2005 76 積極的なアプローチが足りない AMRリサーチ ニーゲル・モントゴメリー 氏(以下、司会者) 私は物流コンサルタン トとして、荷主のロジスティクス担当者と数 え切れないほど話し合いの場を設けてきまし た。
それを通じて気づいたのは、彼らの話に は時代を超えた共通点があるということです。
彼らは「3PL業者からの積極的なアプロー チが足りない」と異口同音に言います。
こう した荷主の声に対してパネリストの三人はど う答えるのでしょうか。
最初の質問ですので、 自己紹介も含めてお願いします。
DHLソリューション オリバー・ランドグ ラフ氏(以下、DHL) 私はDHLのソリ ューション部門で荷主との長期契約に基づい た国際業務を担当しています。
特に私の部門 が担当しているのは、ITや精密機器といっ た産業です。
最初の質問について私はこう考えています。
これまでは一度契約を結んだら、3PL業者 はその契約が終了するまで、あまり革新的な 業務改善に取り組むことが少なかったように 思います。
そこには3PL業者側のメンタリ ティーの問題もあるようです。
DHLではそ のような風潮を変えようと日々努力していま す。
一つは、荷主のロジスティクス担当者をス カウトすることで、荷主の視線を取り入れよ うとしています。
もう一つは、業務改善が3 PL業者にとって報われるような仕組み、つ まりゲインシェアリングのビジネスモデルを 作り、それを広めようとしています。
荷主の コスト削減に貢献することが、私たち3PL 業者の利益に結びつくような契約や料金体系 を作ることができれば、荷主と「Win ―W in」の関係を構築することができると考え るからです。
しかし現状では、まだ二つ、三 つの成功例があるだけで、大多数の荷主に理 解されているとは言えません。
ウィンカントン リチャード・コネリー氏 (以下、ウィンカントン) 当社はイギリスに 本社を置く3PLです。
コントラクト・ロジ スティクスの売り上げは、欧州ではDHL、 エクセルについで第三位の規模を誇ります。
欧州一五カ国に三六〇カ所の拠点を構えてい ます。
私たちの場合、最近の契約の多くには、ゲ インシェアリングの要素が入るようになりま した。
ただし、ゲインシェアリングと日々の 業務の改善は分けて考えるべきだと思ってい ます。
例えば、私たちは卸からの商品を大手小売 りに配送しているのですが、その小売りの店 第7 回 欧州3PL座談会 〜荷主と信頼関係を築くには〜 いかにして荷主との信頼関係を築くべきか――。
時代が変化し、求められる 業務内容やITの手法が変わっても、3PL業者にとって?荷主とのコラボレ ーション〞は永遠のテーマだ。
荷主の不安や不満を解消するにはどうしたらい いのか。
欧州3PL会議で、3PL業者の現場担当者たちがこの問題について 話し合った。
(構成・ 本誌欧州特派員 横田増生 ) パネリスト ■DHLソリューション オリバー・ランドグラフ氏(ビジネス開発担当上級副社長) ■ティア・ロジスティク フレッドハイム・シュミッター氏(ファッション・ライフスタイル部長) ■ウィンカントン リチャード・コネリー氏(トランスポート・ソリューション担当) 司会者 ■AMRリサーチ ニーゲル・モントゴメリー氏(リサーチ部長) 77 AUGUST 2005 舗のバックヤードがいつも雑然としているた め、バックヤードを整理してから、商品を運 び込んでいます。
バックヤードの整理は契約 に盛り込まれていませんが、そうしたほうが 商品の運び込みがスムーズになるため、自主 的に行っています。
些細な例ですが、こうし た日常の業務とゲインシェアリングは別物だ と思っています。
ゲインシェアリングに辿り 着くためには、荷主の業務内容を十分に知り、 信頼関係を積み上げていく必要があります。
ティア・ロジスティク フレッドハイム・シ ュミッター氏(以下、ティア) 当社はルク センブルクに本社を置いています。
自動車、 ファッション、家具など産業ごとに五つの事 業体から成り立っています。
私が担当してい るのはファッション・ライフスタイル部門で す。
ご存知かもしれませんが、ファッション業 界というのは、非常に?変わり者〞が多い業 界です。
私が話す内容も、DHLやウィンカ ントンとは少し異なるかもしれません。
どのように変わっているかというと、私た ちの顧客である某衣料品小売りは、年間に九 〇〇〇万着の女性衣類を販売しています。
そのうち半数以上を東南アジアの零細ベンダー から調達しているわけですが、一〇年ぐらい 前までは、小売業者がベンダーたちをコント ロールしていたようです。
しかし現在ではM BA(経営学修士号)を持った小売りのバイ ヤーたちが、香港の高級ホテルで買い付け業 者たちと会って仕入れの値段を指示するだけ です。
摂氏四〇度、湿度九八%というバング ラデシュの工場で、四〇〇人を超す女性従業 員が働いていて、そこでは午後一時になると お祈りのためにすべての作業が中断すること などバイヤーたちは知りません。
ですから、私たちが、零細ベンダーとの 日々のやり取りを行うのです。
小売りから指 示された納期通りに商品が届くように現地の スタッフがいつも電話をかけています。
そう、 電話です。
インターネットを前提にした商売 が成り立たない世界なのです。
小売りがスーツを発注してから店舗に納入 されるまで三〇〇日近い日数がかかります。
航空機をエアバス社に発注して出来上がるま でのほうが速いのです。
ファッション業界は サプライチェーンを効率化することで、経営 を変革するという意識がまだ十分に浸透して ない業界なのです。
そういった業界で荷主と の信頼関係を作っていくのは非常に骨の折れ る作業です。
彼らにとって3PL業者など交 換可能な外部業者でしかないのですから。
運賃しか気にしない荷主も多い 司会者 3PL業者が荷主の産業について熟 知すべきだというのは、すでに業界のコンセ ンサスとなりましたが、荷主側は3PL業界 について十分に知っているといえるのでしょうか。
誤解が、信頼関係の欠如へとつながる こともあります。
3PL業者の業務内容を知 らずに、ただ安く仕事を引き受けてくれれば いいという荷主もいるはずです。
ウィンカントンもちろん荷主に我々の仕事 を知ってもらうに越したことはありません。
しかし3PL業務に対する認識は荷主によっ て大きく違います。
外注するロジスティクス 業務の内容だけでなく、道路料金から、人材 の雇用の問題や法的な問題などを我々と話し 合う荷主もいれば、そんなことには一切興味 を示さずに、とにかく荷物を安く運んでくれ ればそれでいい、という荷主も少なくありま DHLソリューションのオ リバー・ランドグラフ氏 (ビジネス開発担当上級副 社長) ティア・ロジスティクのフ レッドハイム・シュミッタ ー氏(ファッション・ライ フスタイル部長) AUGUST 2005 78 せん。
どちらのほうがいい仕事ができるかと いえば、前者のような荷主です。
DHL 荷主と3PL業者はパートナーシッ プですから、どちらがどちらの仕事を理解す るかというのではなく、お互いの共通の目標 を設定することができるかどうかが大切です。
お互いが理解できる?共通言語〞のようなも の、例えばROI(投資収益率)といったよ うなマクロな視点が必要です。
ロジスティク ス業務を外注すれば、荷主の企業価値がどれ だけ上がるのか、という視点を加えると、パ ートナーシップという言葉が現実味を帯びて きます。
ひたすら料金の引き下げの要求する荷主の 場合でも、その立場が理解できるケースもあ ります。
例えば、ハイテクメーカーの場合、 扱う製品によっては半年で三〇%も価格が下 がります。
しかしトラックの運賃を下げるの には限界があります。
そういう荷主に対して は、サプライチェーンから無駄な部分を取り 除いて全体のコストを下げるように提案しま す。
そこで、先程説明したゲインシェアリン グやROIという観点が必要になるのです。
荷主の企業価値を高めるのに貢献したのであ れば、その分のいくらかは3PL業者に還元 するという仕組みです。
ティア ファッション業界ではバイヤーが大 きな権限を握っています。
バイヤーと比べる とロジスティクス担当者の立場や発言力は、 天と地ほどの差があります。
バイヤーは、往々 にして唯我独尊的で、誰の意見にも耳を傾け ません。
そのため、ロジスティクスの担当者 は、我々3PL業者を使って、いろいろな数 字を提出させ、業務改善に取り組んでいる ?アリバイ工作〞をすることがあります。
し かし私たちの提案が、実行されることはほと んどありません。
例えば、タイにある七〇〇〇社というベン ダーを一〇分の一に絞れば、ABC分析が容 易になりますよ、といった基本的なことでさ え無視されてしまうのです。
唯一の例外とい えるのが、M&Aで経営陣が一新されるタイ ミングです。
ファッション業界においてM& Aは、前例を覆し業務を効率化する絶好の機 会になります。
世界規模のネットワークか 地域・業種特化型か 司会者 次の質問は、3PL業者の理想的 な事業規模についてです。
DHLに代表され るような世界各国を網羅するネットワークが 必要なのか、それとも地域や特定の業種に特 化した3PL業者として生き残るのか。
ウィンカントン 我々は、欧州を中心に3P L業務を展開してきましたが、これからも荷 主からの要望に応じて、ネットワークを広げ たり、サービスメニューを増やしたりしていくつもりです。
必要なら自分たちが持ってい ないサービスを提供している同業他社を買収 することもあります。
もちろん、手を広げす ぎないことも大切な点だと思います。
どのよ うな業態がベストなのかは、その時々の荷主 とその契約内容によって変わります。
司会者 業界では、「すべての業者がDHL のように世界各国を網羅するようになると、 差別化要因がなくなる」という声も聞こえて きます。
DHL 考えるべきは、何が荷主にとっての 差別化要因になるかということです。
例えば、 書籍の流通業者にとっては、ロジスティクス 業務そのものが本業となるので、現場の作業 AMRリサーチのニーゲ ル・モントゴメリー氏(リ サーチ部長) ウィンカントンのリチャー ド・コネリー氏(トランスポ ート・ソリューション担当) 欧州ロジスティクス通信 79 AUGUST 2005 を外注することはあっても、システムやSC Mの構築といった業務は社内に残しています。
これに対して、製造業者なら第一にお金を使 うべきはR&D(研究開発)であるはずです。
もし製造業者のロジスティクス担当者が、S CMソフトを作るのに予算を要求しても、財 務担当者が認めないでしょう。
特に私が担当 する精密機器の業界では、SCMにできるだ けお金をかけたくないという動きが顕著です。
欧州ではフィリップス(本社・オランダ)と ソニーが最近、配送費を抑えようと共同配送 を始めました。
司会者 では、実際に荷主との信頼を築くに はどうしたらいいのでしょう。
ティア 大切なのは荷主に対して正直である ことです。
契約に漕ぎ着けたいからといって、 「私たちは何でもできます」などとは言わない ことです。
中国からの輸送業務について、「二四時間いつでも貨物の問い合わせに答えられ ます」といえば、すぐに破綻をきたします。
荷主は、どの3PL業者にだって得意、不得 意があるのを承知しています。
それと、自分たちの不得意な部分には、同 業他社を使うことも躊躇しないことです。
社 内のプレッシャーもあり簡単ではありません が、それが契約が長続きするポイントです。
例えば、アメリカにほとんどネットワークを 持っていない我々は、アメリカの業務ではD HLを積極的に使っていくことが必要なので す。
DHL 荷主から聞こえてくる3PL業者へ の不信をさかのぼれば、「SCMを3PL業 者に外注してみたけれど、業務はよくならな いし、おまけにSCMのコントロールまで失 ってしまった」という点があります。
荷主が 外注する以前のコストを把握してないケース と、荷主が社内で使っていたKPIが外注先 が使えるほどしっかりしていないケースが考 えられます。
我々は初めてSCMを外注する荷主向けに、 共通のソリューションフォーマットを作って、 それを業務立ち上げの際に使うようにしてい ます。
これまでの業務構築からそのノウハウ を集めて、パッケージにしたものです。
それ を土台として、実際に業務を始めてから、 徐々に荷主ごとにカスタマイズして、求めら れるKPIに変換していくのです。
そうする ことで、初めて業務を外注する荷主の不信感 は大きく軽減されます。
ICタグ実用化は時期尚早 司会者 最後に、3PL業者から荷主への積 極的なアプローチの手段としてのICタグの 役割について聞かせてください。
DHL ICタグについては、アメリカのウ ォルマートやドイツのメトロなどが、サプラ イヤーにその使用を要求するかたちで進んで います。
我々は両者の間で業務を請け負うわ けですが、実用化には早くてもあと、二、三 年かかるでしょう。
3PL業務において、I Cタグは様々な輸送業者を管理するのに有効 な手段だと思っています。
ティアファッション業界では、もう少し時 間がかかると思っています。
ICタグも大切 ですが、その前に解決しなければならない問 題を抱えているからです。
例えば、欧州の店 舗では、八〇%を超す商品が、ハンガーに吊 るされて販売されます。
しかし、輸入商品の ほとんどはハンガーを使用していません。
メ ーカーは、輸入商品の大半をハンガーにかけ るという作業をしなければならないのです。
将来へ向けた投資より、日常業務で手一杯と いうのが現状です。
各社のプロフィール ティア・ロジスティク(Thiel Logistics) 本社 ルクセンブルク・グレーベンマハ 創業 1985年 売上高 17億ユーロ(2210億円)=2004年度 従業員数 9000人 エリア 44カ国 ウィンカントン(Wincanton) 本社 英国チッペンハム 創業 1925年 売上高 15億ポンド(3000億円)=2004年度 従業員数 2万4400人 エリア 15カ国 DHL 本社 スイス・バーゼル 創業 1969年(2002年にドイツポストの完全子会社に) 売上高 約320億ユーロ(4兆1600億円)=2004年度 従業員数 17万人 エリア 220カ国

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