ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年8号
ケース
3PLオランダTNT

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2007 40 3PL部門売却の理由 オランダTNTは二〇〇六年八月、3PL (ロジスティクス)部門のTNTロジスティ クスを、プライベート・エクイティ・ファンドのアポロ・マネジメントに一四億八〇〇〇 万ユーロ(二四八六億四〇〇〇万円:一ユー ロ=一六八円換算)で売却することに同意し た。
その後、同部門は本社をロンドンに移し、 現在はCEVAロジスティクスとして活動を 続けている。
これに先立つ二〇〇五年十二月に、TNT がロジスティクス部門の売却を発表したとき の業界の反応は、?驚き半分、納得半分〞と いったところだった。
驚きの理由は、ロジス ティクス部門がTNTの売上高の三分の一に 当たる約四〇億ユーロ(約六七二六億円)を 占め、四万人の従業員を抱える主要部門であ ったことに起因する。
一方、納得の理由は、ロジスティクス部門 の利益率の低さにある。
売却前の二〇〇四年 決算の各部門の営業利益率は、エクスプレス 部門六・九%、郵便部門二一・四%に対し、ロ ジスティクス部門は二・二%にとどまってい た。
前年の二〇〇三年に至っては赤字だった。
TNTのピーター・バン・ローベン戦略担 当部長は「ロジスティクス部門の利益率は、エ クスプレスや郵便事業と比べると、非常に見 劣りがした。
加えて、当社が得意としてきた ネットワーク作りのノウハウを生かすことも できない。
TNTロジスティクスは一〇〇〇 社以上の荷主企業の業務を引き受けていたが、 これはロジスティクス部門の中に一〇〇〇社 の独立した小さな会社を抱えているのと変わりがなかった。
当社にとってロジスティクス 部門の売却は、当然の結論だった」という。
ロジスティクス事業の利益率の低さはTN Tに限ったことではない。
実際、欧米市場に おけるロジスティクス事業の業界平均利益率 を見ると、一〇年前に約八%あったものが現 在は四%前後にまで落ちてきている。
低い収 益性はロジスティクス事業の持つ構造的問題 ともいえる。
ローベン戦略担当部長は「ロジスティクス 事業では、荷主企業に特化したサービスを提 供するために、荷主はすべての料金を把握し 3PL オランダTNT 3PL部門を売却し国際宅配強化 リストラと自社株買いで株価上昇 オランダ郵政省を前身とする国際インテグレ ーター、TNTの株価が上昇している。
民営化以 降、主力事業の一つとしてきた3PL(ロジステ ィクス)部門を2006年に売却し、自社株買いを 実施。
エクスプレス(国際宅配便)事業と郵便 事業に特化する戦略を打ち出したことが株式市 場で好感されている。
41 AUGUST 2007 ている。
契約の更新時には必ず料金の引き下 げを求められる。
さらに一つひとつの企業に 特化した事業であるだけに、スケールメリッ トによるコストダウンを実現することも難し い」と指摘する。
もっとも、ロジスティクス事業に対する認 識は、TNTと同じ国際インテグレーターで あっても企業によって大きく違う。
ロジステ ィクス部門に「将来性あり」とするのは、ド イツポスト傘下のDHLだ。
同社は二〇〇五 年にイギリスに本社を置く3PL世界最大手 のエクセルを約五六億ユーロ(約九四〇〇億 円)で買収し、業界トップのシェアを握った。
その対極にあるのがフェデックスで、「低 収入の3PL事業は魅力なし」と言い切って いる。
その中間がUPSで、ロジスティクス 部門としてUPSサプライ・チェーン・ソリ ューションズを持っているものの、対象はス ペアパーツなど、エクスプレス貨物の獲得に プラスになる案件を中心としている。
これに対してTNTは、従来までDHL寄 り、つまりロジスティクス部門重視のスタン スだとみられてきた。
それがロジスティクス部門の売却へと動いたということは、同社が それまでの戦略を転換し、フェデックス寄り に舵を切ったということになる。
そもそもこの売却は、同社が二〇〇五年十 二月に策定した経営計画に基づいている。
経 営計画は、?エクスプレス(国際宅配便)と郵 便事業への特化、?ロジスティクス部門の売 却、?自社株の買い戻し――という三つの施 策を柱としている。
ロジスティクス部門を売 却した資金を使って、自社株の買戻しを行い、 加えてエクスプレス事業のネットワークを拡 充して経営の大黒柱に育てるというものだ。
一七五二年にオランダの国営郵便局として 出発し、その後の民営化を経て 株式公開を遂げた同社にとって、 この経営計画は、従来の主業で あった郵便事業をサブに据え、 エクスプレス事業をメーンとす る国際インテグレーターに生ま れ変わるという大胆な方向転換 を意味している( 図2)。
郵便事業は、現時点ではオラ ンダ国内の独占が認められてい るため、利益率は二〇%前後と 高い。
しかし国内郵便物は減少 傾向に歯止めがかからない状態で、パイの拡 大は期待できない。
これを受けてTNTの郵 便部門では、二〇〇一年と二〇〇四年の二度 にわたり大規模なコスト削減を行っている。
さらに二〇〇六年の年末には、人員削減を含 む三億ユーロ(約五〇〇億円)のコスト削減 案を発表した。
「国内の郵便物が、年率で三%以上減り続 ける中ではコスト削減は避けられない。
これ までも、さまざまな業務の効率化に取り組ん できたが、それだけでは限界があるので、今 回は人員の削減に踏み込んだ。
この数字を達 成するには、本来なら一万人を超す従業員を 削減する必要がある。
しかしそれでは社会的 な影響が大きいという判断から、全体の給与 レベルを落とすことで、削減する人員を六〇 〇〇人から七〇〇〇人規模に抑えた。
しかも、 その多くは退職者を補充しない自然減で吸収する方向で、組合と話し合いを続けている。
従業員には大きな痛みを伴う決定となるが、 われわれはこれまでも組合と良好な関係を維 持してきた。
今回の話し合いも、今年中にま とまると期待している」とローベン戦略担当 部長は説明する。
中国、インド、ブラジルで買収 欧州連合(EU)では二〇〇九年をメドと して郵便事業の自由化を予定している。
これ によってTNTの国内郵便市場の独占が崩れ る。
それでも「郵便事業において政府の規制 AUGUST 2007 42 送が重要な部分を占めている。
アメリカ大陸 に比べて、ヨーロッパは狭い。
面積で比べる と四分の一程度しかない。
ヨーロッパの経済 活動の中心といわれるロンドン パリ 北部 イタリアは、トラックで一晩走れば到着する距離だ」という。
そのためTNTのエクスプレス部門がベル ギーのリエージュに構えるハブ拠点は、航空 輸送とトラック輸送の両方を組み合わせたマ ルチモーダル拠点となっている。
同様に、イ ンドや中国、ブラジル等でも、トラック輸送 網から着手して段階的にネットワークを広げ ていく方針だ。
ローベン戦略担当部長は「まずは陸上のネ ットワークを確実なものにしてから近隣の 国々への進出を果たしたい。
その足掛かりと して三つの企業を買収した。
二〇〇七年の投 資についても、(地場の)エクスプレス企業 を買収するために使う可能性が高い」という。
一方、北米市場は今のところほとんど手つ かずの状態だ。
ヨーロッパ市場ではシェア一 七%を抑え、業界トップクラスの強さを誇る 反面、アメリカ市場では業務範囲が事実上、 ヨーロッパ発・北米主要都市向けの配達だけ にとどまっており、全米ネットワークと呼ぶ にはほど遠い状態だ。
「これまで当社は北米にそれほど力を入れ てこなかった。
北米ではフェデックスとUP Sの二社がすでに密度の濃いネットワークを 張り巡らしている。
そこに我々が資金や人材 を投じるのは得策ではないと考えている。
ヨ ーロッパの同業他社がアメリカのエクスプレ ス市場に参入して苦戦している様子を見るに つけ、TNTとしてはヨーロッパにしっかり とした軸足を置き、アジアや南米でネットワ ークを築くことの方が賢明だと判断している」 とローベン戦略担当部長は説明する。
ヨーロッパの同業他社とは、もちろんドイ ツポスト傘下のDHLのことである。
DHL は二〇〇三年に同業界米国三位のエアボー ン・エクスプレスを買収し、北米のエクスプ レス市場に本格参入した。
しかし、これまで は必要ない。
むしろ郵便自由化は当社にとっ て追い風にもなり得る」とローベン戦略担当 部長。
EU全体の郵便市場は六〇〇億ユーロ で、オランダは三五億ユーロ前後にすぎない。
オランダ国内で他の郵便局と競争してシェア を失うリスクより、海外の市場でのチャンス の方が大きいという理屈だ。
しかし、新規参入に伴う郵便事業の競争激 化は必至で、従来の高い利益率を維持してい くことは難しい。
そこでTNTは今後の市場 規模拡大を見込めるエクスプレス事業を、郵 便事業に代わる新たな主力として位置付けた わけだ。
この業態転換に合わせて、同社は過去一年 間に三つの買収を行っている。
ロジスティク ス部門を売却することが決まった二〇〇六年 八月に、インドのスピーディッジ社と中国の ハウ・ロジスティクスを買収。
さらに二〇〇 七年一月にはブラジルのマキュリオ社を買収 し、海外のネットワークを拡充した。
買収した三社は、いずれもエクスプレス企 業だが、輸送モードとしてはトラックをメー ンとしている。
エクスプレス企業の国際輸送 ネットワークといえば、一般には貨物航空機 を連想するが、少なくともヨーロッパにおい ては従来からトラックが重要な役割を果たし てきた。
ローベン戦略担当部長は「たしかに、当社 も四〇機以上の貨物機を持っているが、ヨー ロッパのネットワークではトラックによる輸 43 AUGUST 2007 のところUPSとフェデックスという二強の 牙城を崩す勢いは見られない。
それに対して「ヨーロッパのエクスプレス 市場規模は、アメリカと比べるとまだ小さい く未成熟であることから、ヨーロッパでは今 後もエクスプレス市場が拡大していくと考え ている。
業界の経験則によると、エクスプレ ス市場の伸びは、GDP(国内総生産)の伸 びの二倍から三倍といわれる。
ヨーロッパの GDPの伸びを二〜三%とするなら、エクス プレス市場は六〜九%伸びていくことになる。
ヨーロッパでトップのシェアを抑える当社と しては、中小の業者のシェアを奪う形で、業 界平均を上回る成長ができるはずだ」という。
改革を受け株価は急上昇 TNTの一連の経営改革に株式市場はポジ ティブに反応している。
経営計画を発表する 前には一時二〇ユーロを切っていた株価が、 二〇〇六年は最高値で三六ユーロをつけた。
ほぼ二倍に値上がりしたことになる。
これに は同社が経営計画通り、二〇〇六年に全株式 の約一五%にあたる一九〇億万株を買い戻し たことも影響している。
業績も好調だ。
二〇 〇六年十二月期の決算は、売上高・最終利 益がともに前年比で約八%の伸びとなり、さらに二〇〇七年の第1四半期では前年同期比 の伸びが約九%となった。
ローベン戦略担当部長は「株価の上昇は、 経営計画の三つの柱による相乗効果だと考え ている。
経営計画発表以降では、同業他社と 比べると、当社の株価の上昇率が一番高い ( 図3)。
これは、われわれの計画が間違って なかったということを意味している。
二〇〇 六年と二〇〇七年第1四半期の業績について も、エクスプレス部門、郵便部門とも、おお むね満足いく結果となった」と手応えを感じ ている。
( 本誌欧州特派員・横田増生) ――EUに限らず、各国政府 が郵便事業に独占を認めてき たのは、国内を統一料金で配 達するというユニバーサル・ サービスを維持するためでは ないか? 「オランダは小さい国なので、 自由化となっても郵便が受け 取れないという人はでてこな い。
それに、自由化後も、わ れわれがオランダ国内の郵便 物を統一料金で配達しなけれ ばならないという義務は残る ことになる」 ――TNTは二〇〇五年一〇 月、同じく郵便事業の自由化 が進んでいる日本郵政公社と 合弁事業の立ち上げについて 話し合いを進めたが、二〇〇 六年六月になりその話し合い を打ち切ったと理解している。
「当社は株式上場企業であ り、民営化の移行期間にある 日本郵政公社とは話し合いを 進めるスピードが違っていた というのが、話し合いをいっ たん中断した大きな理由だ。
われわれには株主に説明する 責任もあり、一定の期限内に 結論を出すことが必要だった。
しかし、これはあくまでも話 し合いの中断であり、今年秋 に予定されている日本郵政公 社の民営化後には、話し合い を再開する余地を多分に残し ている」 ――ヨーロッパのメディアの 間には、UPSやフェデック スが、TNTを買収するチャ ンスを狙っているという噂が 根強い。
また、TNTのロジ スティクス部門の売却は、T NT自身が身売りにそなえて エクスプレス部門の強化を始 めたためだ、という業界人も いる。
「そういった噂については、 基本的にノーコメントで通し ている。
しかしわれわれは先 に挙げた経営計画が有効であ ることを信じているし、われ われこそが、株主に最善の価 値を作り出せる能力があると 信じている。
買収に対する最 大の防御は株価を高めること であり、その点に成功を収め ていることからも、TNTが 身売り先を探しているといっ た噂は、単なる噂に過ぎない ことがわかるはずだ」 「日本郵政民営化後には交渉再開も」 TNT ピーター・バン・ローベン 戦略担当部長 Interview

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