ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年8号
特集
最新物流施設 拠点戦略の考え方・進め方

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

` W 物流部門には何もできない 物流拠点を減らせば、在庫は減る。
理論的には間 違いではない。
分散していた在庫を集約すれば、相対 的に出荷量のバラツキは小さくなる。
それだけ安全在 庫の水準を下げることができる。
ただし、それが本当 に効果を発揮するのは、アイテム別の需給調整が機能 している時に限られる。
物流拠点の安全在庫水準が下がっても、生産や調 達が従来のままでは結局、在庫は減らない。
在庫の保 管場所が物流拠点から工場倉庫に移るだけだ。
在庫を 水平に統合するだけでは足りない。
川上の工場倉庫か ら末端の店頭在庫まで、サプライチェーンを垂直に統 合管理することで、初めて在庫の適正化が可能になる。
ところが、ほとんどの物流部門は、その権限を持っ ていない。
生産計画や調達は工場の縄張りだ。
一方、 取引ロットや納品リードタイム、需要予測は営業の手 中にある。
在庫水準を決定する要因は全て物流部門のらち外にある。
実は輸送費や庫内作業費、保管費 など、物流コストの全てについて同じことがいえる。
花王の関根史麿ロジスティクス部門部長は「物流 コストは製品の形状と生産拠点の立地で大枠が決ま ってしまう。
他に輸送ロットも大きな要素だが、需要 動向を起点にプル型で納品する体制では、ロットは市 場が決めている。
ロジスティクス部門が直接管理でき るのは、極論すれば輸送の単価と積載方法だけ。
それ も当社の場合、従来から積載率は九八%以上に達し ている。
そこに効率化の余地はない」という。
物流インフラの整備も既に片が付いている。
一九六 七年に花王は従来の特約店卸を経由するチャネルを 改め、全国に一二八の販社を設立した。
その時点で 流通在庫は一二八カ所に分散していた。
その後、販 最新設備を誇る大規模物流センターの建設ラッシ ュが続いている。
その一方、立地の悪い中小規模の施 設には空きが目立ってきた。
在庫拠点の大移動が始ま っている。
バブル期に建設された物流拠点の陳腐化、 物流不動産ファンドの台頭、SCMと3PLの普及、人 手不足――市場環境が拠点戦略の再考を迫っている。
AUGUST 2007 12 第1部 拠点戦略の考え方・進め方 社の統合による広域化と商物分離を段階的に進めて いき、二〇〇〇年頃までに拠点を約三〇カ所に集約 し、二〇〇三年には統廃合を完了した。
現在は国内二一カ所にフルラインの商品を保管する 物流センターを設置している。
この体制が現状では最 適だという判断だ。
在庫拠点を集約すれば、輸送ロッ トがまとまるため、工場から拠点までの輸送費は下が る。
ただし、消費地までの距離が遠くなるので、拠点 から顧客への二次輸送費が上がってしまう。
物流センターの規模の問題もある。
花王では延べ床 一万坪をおおよその目安としている。
庫内オペレーシ ョンの生産性は基本的に作業動線で決まる。
二万坪 を超えるような大規模拠点では移動距離が長くなり効 率が悪い。
大量の作業員を必要とするため人員募集 も難しくなる。
ただし規模が小さくなると、今度は輸 送ロットの問題が出てくる。
大型トラックに満載する ことを前提にすると一万坪程度が妥当という考えだ。
もっとも在庫拠点の配置は、輸送ロットやオペレー ションのコスト効率では決まらない。
顧客との取引条 件に定められた納品リードタイムと納品先の立地が、 在庫拠点の場所を決定する第一の要素となる。
日用 雑貨品の現状のリードタイムは受注後二四時間、受 注翌日納品だ。
顧客は日本全国に分布している。
「その条件をクリアするには、たとえ物量は少なく ても、沖縄や新潟にも在庫を置く必要がある。
現在の 日用雑貨の商習慣を前提とすれば二一カ所以下に拠 点を減らすことはできない。
仮にリードタイムが二四 時間ではなく、四八時間であれば拠点は五〜六カ所で 済むはず。
逆にリードタイムが短くなれば、もっと拠 点を分散させなければならなくなる」と関根部長は説 明する。
花王の場合、取引条件を変えない限り、拠点の水 平統合によって安全在庫水準を引き下げるという手 法はとれない。
しかも顧客はむしろ納品リードタイム の短縮を強く求めている。
一方の垂直統合も、生産 計画の権限は従来から工場が握っている。
ロジスティ クス部門は手足を縛られた格好だ。
物流コストで製造場所を選定 それでも、効率化は進んでいる。
物流センターの出 荷実績をベースに需要を予測するシステムをロジステ ィクス部門が独自に開発、生産部門に定期的にデー タを提供することで、間接的ながら生産計画を調整す る体制を整えた。
これによって在庫削減と欠品率の改 善が両立できた。
(本誌二〇〇五年一〇月号特集) 昨年からは、物流コストを基準にして、どの工場の 何番の生産ラインで、どのアイテムを生産するかを判 断する取り組みを始めた。
花王の生産拠点は現在、国 内に八カ所ある。
二〇〇〇年に九州工場を閉鎖し物 流拠点に機能を変更して以降は、一アイテム・一工場を基本としている。
ただし、「アタック」をはじめ物量 の多い主力製品と、バルクが大きいため輸送費のかさ む紙おむつは、東西二拠点で生産している( 図2)。
例えば紙おむつの約四〇アイテムは現在、愛媛工場 と栃木工場の二カ所で生産している。
各工場にそれぞ れ一〇以上の生産ラインがある。
このうち、どのアイ テムを、どのラインで生産するかという意思決定に、 ロジスティクス部門が一役買っている。
同じアイテムの生産は可能な限り集約したほうが固 定費は下がる。
ただし、集約によって消費地までの輸 送距離が長くなると輸送費が上がる。
そのトレードオ フを、ロジスティクス部門が約一〇〇〇アイテムの全 てについて、それぞれシミュレーションしている。
制約条件下で効果が最大になる最適解を計算する 13 AUGUST 2007 花王の関根史麿ロジス ティクス部門部長 「線形計画法(LP:リニアプログラミング)」と呼ば れるオペレーション・リサーチ(OR)の手法を使っ て、物流コストが最小になる生産ラインの分担を弾き 出す。
製品ごとの売れ行きは時間と共に変化するため、 半期に一度のペースで分担の見直しも行っている。
もっともロジスティクス部門はデータを提供するだ けだ。
それでも説得力のあるデータを提示すれば、生 産部門は自主的に最適化へと動く。
それを狙ってロジ スティクス部門は工場再編に先立ち、物流に関するあ らゆる情報を蓄積したデータベースを構築している。
SKU(在庫管理の最小単位)ごとに、輸送の発地・ 着地、使用車両、物流コストを全て確認できる。
「こ のデータベースがなければ、シミュレーションも不可 能だった」と関根部長はいう。
データベースは製品設計にも活かされている。
生産 拠点の立地、製品形状、パレット一枚当たりの積載 個数から、SKU当たりの物流コストを弾き出すシミ ュレーターを作成。
それを設計部隊の包装技術研究 所に提供している。
パレットへの積みつけパターンに 配慮したパッケージデザインを促す狙いだ。
M&A後の物流統合 在庫水準および物流コストの八割以上が物流部門 の管轄外で決まる。
しかし製品の形状や生産計画を 決める権限を、花王のロジスティクス部門は持ってい ない。
営業から独立して需給をコントロールする部門、 いわゆるSCM部門も社内にはない。
それでも手持ち の物流データを駆使することで、ロジスティクス部門 は垂直統合による全体最適化に貢献している。
国内で日用雑貨品を店頭に供給するだけであれば、 花王のロジスティクスは既に完成しているとも言える。
しかし環境は常に変化する。
二〇〇三年に発売した「ヘルシア緑茶」のヒットに よって、新たに加工食品チャネルへの対応が課題にな っている。
日雑の二四時間と違って加食には受注後 数時間という短いリードタイムが求められる。
日雑用 の全国二一拠点体制では対応できない。
そのため現在 は物流子会社の花王ロジスティクスが所有するTC型 センターに在庫を置いて自社配送している。
しかし、 物量がまとまらないため効率は良くない。
今後はアウ トソーシングも検討しているという 二〇〇六年二月に花王傘下に入ったカネボウ化粧 品との物流統合も今後の課題だ。
買収によるシナジー 効果が期待されているが、化粧品と日雑では物流上の 特性が大きく異なる。
もともと花王の日雑事業と比較 するとカネボウ化粧品の事業規模は四分の一程度に 過ぎない。
物流のボリュームでは、数十分の一だ。
ただしアイテム数は花王よりもずっと多い。
花王の アイテム数は日用雑貨品が約一〇〇〇。
他に化粧品 の「ソフィーナ」が約五〇〇ある。
それに対してカネボウ化粧品のアイテム数は通常の化粧品だけでも三〇 〇〇以上。
関連商品や販促品などを含めると、その 倍にも跳ね上がる。
そもそも日雑と化粧品では庫内の設計が全く異なる。
基本的に日雑のピッキングゾーンは製品ごとに棚の間 口が固定されている。
一方、化粧品はロケーションを 固定すると膨大な数の間口が必要になるため、バッチ ごとにバックヤードから製品を取り出し、ピッキング 用の棚にフリーロケーションで補充する方法がとられ ている。
一般に考えられているほど日雑と化粧品の物 流統合は容易なことではない。
昨年末、酒造メーカーのメルシャンを買収したキリ ンビールも同じ課題に直面している。
基本的にワイン はメルシャン。
缶チューハイや洋酒などはキリンのイ AUGUST 2007 14 ンフラに乗せるかたちで統合する方針だが、物量の大 きい缶チューハイが抜けることで、メルシャンの拠点 網は再編が必至だ。
しかもキリンは今年七月、持ち株会社制に移行して いる。
これまでキリングループの物流は、圧倒的に物 量の大きいビールがベースカーゴになることで、他の 飲料製品や加工食品も有利な条件で輸送網や拠点を 利用することができた。
ビール事業の恩恵を受けてき たわけだ。
しかし、純粋持株会社の下では各事業会社 の独立採算が強化される。
グループ横断的な取り組み は、それだけ難しくなる。
「とりわけ物流拠点戦略は、資産が絡むだけに大き な影響を受ける。
そこにグループ物流会社の新たな役 割があると考えている。
グループが物流のシナジー効 果を発揮するには、第三者的な立場で事業会社間の 利害を調整し全体を最適化する機能が必要だ」と、キ リン物流の吉田泰訓取締役物流管理部長はいう。
今回の持ち株会社化に合わせて、キリンは従来キリ ンビール本体にあった不動産事業部を廃止し、グルー プ会社のビル管理会社を社名変更するかたちで新たに キリンリアルエステートを設立している。
メーカー事 業と資産の分離が進む。
メーカーが物流拠点に自ら新 規投資を行うことは今後考えにくい。
むしろ物流資産 は切り離されていく。
3PL+物流不動産ファンド それに代わってグループ物流会社が拠点の確保と運 用を担う。
これに伴い物流会社は多様な荷主の異なる チャネルに対し、それぞれ求められる物流サービスを 提供しながら、共同化の機会をつかんで効率化を実現 していかなくてはならない。
その拠点戦略は、メーカ ーとはまた違ったものになる。
DHLの3PL部門、DHLサプライチェーンは 昨年の三月から五月にかけて、外資系物流不動産フ ァンドが所有する「ABM成田エアカーゴセンター」 に、それまで松戸や船橋、川崎など関東地区五カ所に 分散していた拠点を集約した。
同様に大阪でも南港の 「プロロジスパーク大阪」に大阪北部と中央部にあっ た二カ所を統合した。
3PL事業は顧客別にインフラを構築していくため、 事業の拡大によって拠点の分散が顕著になってくる。
それを集約することで、スペース効率や管理コストの 効率化、共同配送などが可能になる。
ただし、専用拠 点を使用していた荷主に集約のメリットを提示して、 拠点を移すことへの同意を取り付ける必要がある。
「荷主を一社ずつ説得し、新たな施設に移転させる には大変な手間がかる。
しかし、それをやるだけの価 値はある」とDHLサプライチェーンの河村修一常務 はいう。
実際、コストメリットは大きい。
成田への集 約では、それまで使用していた延べ約一万二〇〇〇坪が七〇〇〇坪に圧縮できた。
坪単価も下がった。
作業効率も大幅に向上した。
従来型の施設は多層 階であっても入出庫を一階でしか処理できないため、 垂直搬送機などを使ってモノを縦方向に動かす必要が あった。
それに対して物流不動産ファンドが手がける 新型施設は上層階に直接トラックを乗り付けるための ランプウェイが備わっている。
建設規模も大きい。
「入荷から出荷までをワンフロアで処理できるため、 オペレーションの生産性は大幅に向上する。
スペース 的にも二〇%〜三〇%の効率化は難なく実現できる」 と河村常務は説明する。
外資系の物流不動産ファン ドが新しいコンセプトの物流施設を日本に持ち込んだ ことで、3PLの物流拠点戦略が変わろうとしている。
( 大矢昌浩) 15 AUGUST 2007 キリン物流の吉田泰訓 取締役物流管理部長 DHLサプライチェー ンの河村修一常務 DHLサプライチェーンは関東地区5カ 所に分散していた拠点を、「ABM成田エ アカーゴセンター」(写真上)に集約した。
同様に大阪では南港の「プロロジスパー ク大阪」(写真下)に集約した。
いずれも 外資系物流ファンドの大規模物流施設だ。
入庫から出庫までワンフロアで処理でき るため従来型の施設と比べ作業生産性が 大きく改善されたという。

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