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CFTに再建かける
AV機器やPC周辺機器の製造販売を手がけるテ
ィアックは、これまで明確な物流拠点戦略をとってこ
なかった。 「新しい販売拠点ができると、それに付随
するかたちで物流が後からついて回る格好だった。 し
っかりとした方針がなかったことは否めない」と、和
田伸夫執行役員事業戦略室長は認める。
従来、周辺機器部門では、国内五カ所に設置した
物流拠点とは別に、営業所がそれぞれ倉庫を保有して
いた。 新しい営業所が増えるたびに、倉庫の数が増え
ていった。 当然、在庫と物流コストは膨れあがってい
く。 海外でも同様だった。 現地法人が勝手に倉庫を
設け、手元に在庫を抱えてしまう。 全体最適にはほど
遠い状態だった。
しかし、やむを得ない面もあった。 周辺機器部門が
主力とする光ディスクドライブなどの主な顧客は、大
手PCメーカーだ。 PCメーカー業界では部品サプラ
イヤーによる「VMI(ベンダー主導型在庫管理)」
が常套手段となっている。 サプライヤーはPCメーカ
ーの生産拠点の近くに「VMI倉庫」を持たなくては
ならなかった。 それが事実上の取引条件ともいえた。
同社の周辺機器事業は、PC普及率急上昇の追い
風を受け、九〇年代後半から二〇〇一年にかけて右
肩上がりの成長を遂げていた。 時間経過により価格が
著しく下落してしまう商品特性上、輸送手段に航空
機を多用していたが、多少のコスト増は目をつぶるこ
とができた。 ところがITバブル崩壊を機に状況は一
転する。 連結売上高は〇一年の一八〇〇億円をピー
クに反転。 急激な業績悪化によって同社は存亡の危
機に立たされた。
〇四年末、事業再生に実績のある投資ファンドの
フェニックス・キャピタルの出資が決まった。 ここか
ら本格的な経営の建て直しが始まった。 希望退職を
実施し、社員数を七〇〇〇人超から約四〇〇〇人に
削減。 給与の引き下げも断行した。
その上で選択と集中による事業ポートフォリオの再
編を行った。 そして存続事業を再建するための改革の
切り札として「クロスファンクショナルチーム(CF
T)」を発足させた。 日産自動車のゴーン改革でも活
躍した機能横断型のプロジェクトチームだ。 各部門か
ら組織横断的にメンバーを集め、課題を組織全体のも
のとして共有し、改革に取り組んでいく。
ティアックでは、「組織人事」「経営管理」「調達・
生産・物流」「開発力強化」「ブランド・中長期戦略」
の五つのCFTが結成された。 このうち「調達・生
産・物流」CFTの狙いは「物流コストの削減だった。
それだけ当社の物流には効率化の余地が大きいことが
分かっていた」と和田執行役員は説明する。
自社工場ではVMIを促進まずは組織の再編だ。 〇五年五月、従来の物流本
部を廃止して、新たにSCM本部の役割を担う事業
推進本部を設立した。 それまでの物流本部は機能が
形骸化していた。 3PLの選定まで各事業部が独自
に行っているほどだった。 「物流管理は独立してやる
ものではない。 生産・販売と連動させて初めて成り立
つものだ。 それが従来の物流本部とSCM本部との決
定的な違いだ」と和田執行役員は説明する。
次に拠点の集約に着手した。 商物分離を徹底し国
内営業所の倉庫は基本的に全廃した。 海外販社も同
様だ。 VMI倉庫についてもメーカーの理解を得た上
で、順次撤収していった。 逆に自社工場では、取引先
の協力を仰ぎ、VMI化を進めた。 もっともネジなど
事業再生ファンドのフェニックス・キャピタルの支援を受
け経営再建に取り組んでいる。 機能横断の「クロスファン
クショナルチーム(CFT)」を導入、日産を蘇らせたゴーン
流改革で物流体制にもメスを入れる。 各地に点在していた
拠点の統廃合を行い、工場直送体制へのシフトを進めてい
る。 目指すは拠点の全廃だ。 (柴山高宏)
AUGUST 2007 16
ゴーン流改革で拠点全廃に挑む
――ティアック
第2部事例に学ぶ物流拠点集約
単価は安いが管理に手間がかかり、在庫が切れると生
産に支障が出る部品が中心で、在庫削減よりも管理
の簡略化が狙いだという。
国内に五カ所あった物流拠点の統廃合は既に〇二
年頃から段階的に取り組んでいたが、〇五年九月には
成田の物流拠点を閉鎖した。 成田は空港に近いとい
う地の利はあったが、それ以上に拠点集約したときに
得られるコストメリットを重視した。 国内のPCメー
カーが生産拠点を海外にシフトする傾向が強まり、物
量が次第に減ってきたことも、同社の決断を後押しし
た。 これによって国内は埼玉県入間市の一拠点体制
に移行した。
現在は物流拠点の全廃に取り組んでいる。 和田執
行役員は、「理想は物流拠点を持たないことだ。 物流
拠点にお金をかけず、全て工場から直送したい。 その
ために生産拠点=物流拠点へとシフトを進めている」
という。
光ディスクドライブの工場はインドネシアとマレー
シアに二カ所ある。 そこから全製品をシンガポールの
ハブセンターにいったん集約し、日本を含め世界中に
供給する体制をとっている。 それを工場からの、海を
またいだ顧客直送に切り替えようという発想だ。 シン
ガポールのハブセンターも、各国の物流センターも中
抜きする。
既にトライアルは開始している。 ただし、課題は山
積みだ。 工場に在庫を置くことを現地のスタッフに説
明すること自体、骨が折れる。 現場のスタッフとの間
で折衝に当たっている大野忠宏事業推進本部生産物
流統括センター部部長は「工場サイドは完成した製品
をいつまでも手元に置いておくことに抵抗がある。 早
く配送してしまいたい。 しかし現場の協力なしには工
場直送は成り立たない。 時間をかけてでもメリットを
説明し、お互いが納得いくまで話し合いたい」と、苦
労をにじませる。
物流管理の負担が増してしまうことも見逃せない。
これまで海外の生産拠点から日本国内に運ばれてくる
荷物は、いったん入間に集約し、そこからトラックで
配送すればよかった。 それを直送体制に切り替えるに
は、納品先ごとに輸送ルートをアレンジする必要があ
る。 頼みのフォワーダーとのコミュニケーションがス
ムーズにいかず、物流管理課には大きな負担がのしか
かっている。
在庫日数を六割削減
それでも取り組みは進んでいる。 工場直送に合わせ
て、新たに「GPSI(グローバル・プロダクショ
ン・セールス・インベントリー)」システムを導入し
た。 生産の進捗、販売動向、在庫ステータスをグロー
バルに一元管理するシステムだ。 可視化によって、グ
ローバル・ロジスティクスの統合を図る。 一連の取り組みは確実に成果を上げている。 ピーク
時には一四五日分あった在庫日数が現在は六二日分
まで改善された。 それだけキャッシュフローが好転し
たことになる。 しかし、業績が回復したというには、
いまだほど遠い状況だ。 CFTは、今後も活動を継続
する。
「在庫の責任の所在は、一体どこにあるんだという
話題は常々出てくる。 営業の責任、生産計画の立て
方の責任、部品購買の責任など、考え方は人それぞれ
だ。 しかし在庫とは本来、会社の総合的実績として、
発生してしまうものだと思う。 会社の在庫は皆で削減
していこうという考え方を、全社的に浸透させていき
たい」と和田執行役員はいう。 待ったなしの改革が続
いている。
17 AUGUST 2007
和田伸夫執行役員
事業戦略室長
大野忠宏事業推進
本部生産物流統括
センター部部長
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