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移転作業で現場が混乱
今年五月、ゴルフ用品大手のブリヂストンスポーツ
は国内拠点を一カ所に集約する計画を断念した。 物
流コスト削減のメドが立たないことが理由だ。 同社で
は当日三時までの受注に対して、翌日配送を実施し
ている。 現在の東西二拠点を一カ所に集約して、従
来のリードタイムを維持するには、遠隔地の顧客に対
して航空便を使わなくてはならない。 年間で八〇〇〇
万円から一億円の運賃増となる。
シミュレーションの結果、拠点集約によるコスト削
減では、新たに発生する運賃増をカバーできないこと
が分かった。 同社で物流改革の陣頭指揮をとる高岡
哲也IT・流通企画部総括グループマネージャーは、
「拠点を減らすことが必ずしも効率化につながるわけ
ではないことが明らかになった。 改革の目的はあくま
でも効率化だ。 それが実現できるのであれば、拠点数
は一拠点だろうが二拠点だろうが問題ではない」と説
明する。
同社は九〇年代前半に販売会社から流通在庫を引
き上げて商物分離し、本社で一括管理する体制を構
築している。 当時の同業界にあっては先進的な取り組
みだった。 この時、全国に五社あった販売会社がそれ
ぞれ持っていた倉庫を東西二拠点に集約した。 埼玉
県所沢市の関東流通センター(TRC)と大阪市の
関西流通センター(SRC)の両拠点だ。
そのTRCの賃貸契約が二〇〇五年に満了になる
のを機に、経営レベルで東西二拠点を一カ所に統合す
る方針が打ち出された。 この方針に沿って二〇〇五年
八月、マルチテナント型大型物流施設「プロロジスパ
ーク横浜」内に「横浜ディストリビューションセンタ
ー(YDC)」を設置、TRCの機能を移転した。 同
年末にはSRCも移転させ、一拠点に集約するという
構想だった。
ところが、YDCへの移転作業はスムーズには進ま
なかった。 お盆休みの一週間で一気に移転を済ませる
という強引な計画が災いし、数々のトラブルが発生し
てしまう。 オペレーションを担う従業員を現地で新規
採用したものの、一週間という短い育成期間では、商
品知識や作業手順を十分に理解させることができない。
新たに導入した「WMS(W a r e h o u s e
Management System:倉庫管理システム)」も思い
通りに動かない。 自動倉庫など重装備のマテハン機器
を導入しているため、ある程度の初期トラブルは想定
していたが、調整が不十分な状態で本稼働の日を迎え
ることになってしまった。
案の定、現場ではトラブルが続発した。 従業員は荷
物の保管場所がわからず、出荷時刻に間に合わない。
焦ったセールスが、置いてあった荷物を勝手に持って
行ってしまう。 在庫の数が狂いだし、棚卸しを何度やっても合わない。 「どこから手を付けていいかわから
ない程、現場は混乱していた」と高岡総括グループマ
ネージャーはいう。
追い打ちをかけるように、?隠れ在庫〞の存在が発
覚した。 従来のTRCとSRCにはそれぞれ約三〇
〇〇坪、計六〇〇〇坪分の在庫があった。 それに対
して新設したYDCの保管面積は約四五〇〇坪。 そ
れでも集約に合わせて在庫を削減することで、納まる
はずだった。
ところがTRC分を移しただけの段階で四五〇〇
坪が一杯になってしまった。 いざ移転する段階になっ
て、報告されていなかった在庫がボロボロ出てきた。
そもそも物流部門には在庫量をコントロールする権限
自体がない。 スペースが足りない。 結局、二〇〇五年
従来の東西2拠点体制を1カ所に統合するため、中央拠点
を新設した。 しかし移転作業につまずき、現場は大混乱に陥
ってしまう。 期待されたコスト削減はおろか、サービスレベ
ルの維持さえ危うくなる。 拠点数を減らせば効率化するわけ
ではないことを、同社は身をもって学んだ。 (柴山高宏)
AUGUST 2007 18
試算を重ねて拠点統合計画を撤回
――ブリヂストンスポーツ
第2部事例に学ぶ物流拠点集約
度中の拠点集約を諦めざるを得ないという、不本意な
結果となってしまった。
二〇〇五年九月、急遽プロジェクトチームが組織さ
れた。 それまで移転計画の実行部隊を務めてきた物流
部門の前任者は全て担当から外され、トラブルバスタ
ーとして新たにゴルフクラブ事業部やアパレル企画部、
マーケティング部など、様々な部署から約二〇人が招
集された。
まずは現場の収拾だ。 人手に頼らざるを得なかった。
大量の従業員を新規採用した。 しかも移転前と比べ
作業時間は延長し、残業代は増加した。 「いくら現場
が混乱していようがサービスレベルは維持しなくては
ならない。 背に腹は代えられなかった」と高岡総括グ
ループマネージャーは当時の苦労をこう振り返る。 そ
の結果、荷役費が大幅に上昇し、運賃等を含めたト
ータル物流コストは移転前と比べ三〇%近くも増加し
てしまった。
協力物流会社の梅田運輸倉庫の助けも借りながら、
なんとか急場を凌いで、プロジェクトチームは二〇〇
五年いっぱいで解散した。 その後、現在のIT・流通
企画部が業務を引き継いだ。 オペレーションの安定化
と並行して、ゼロベースで物流拠点体制と運営方針を
再び検討した。
依然として在庫削減は経営課題の一つにあがってい
る。 しかし、在庫量は基本的には、売り方、買い方で
決まる。 需給調整を担当している事業部門がその気に
ならなければ、拠点数を減らしても在庫は減らない。
そこで物流部門では棚卸しを毎月実施して、データを
事業部門に提供すると共に、社外のコンサルタントを
招いて在庫管理に関する社内啓蒙活動を開始した。 そ
の効果が今年に入って徐々に数字に現れてきていると
いう。
梅田運輸倉庫をパートナーに
3PLの提案を引き出す試みにも着手している。 二
〇〇七年に入り、コンペを開催した。 その際に、?納
期や流通加工などのサービスレベルを落とさない。 ?
物流コストを移転前の水準に近づけるという前提で、
一拠点に集約した方が良いのか、それとも東西二拠点
を維持した方が良いのかという判断まで含めた提案を
求めた。
このコンペには梅田運輸倉庫を含め五社が参加した。
最終選考には大手3PLと梅田運輸倉庫の二社が残
った。 大手3PLの提案はユニークだった。 空き倉庫
の問題から拠点自体は関東の二カ所に分かれるが、ア
イテム単位では一カ所にまとめて在庫するというプラ
ンだ。 緻密なシミュレーションに裏付けされたハイレ
ベルな提案だったが、実現性に不安が残った。
結局、このコンペは従来からブリヂストンスポーツ
の元請けを任されていた梅田運輸倉庫が落札した。 最大の理由はコストだ。 梅田運輸倉庫のコスト構造をガ
ラス張りにして、荷主と一緒に改善活動を進めていく
ことで、二年間でトータルコストを三割削減するとい
う計画だ。 オペレーションの実績があるだけに、荷主
としては安心感があった。
拠点体制については、IT・流通企画部で改めて
検証することにした。 半年近くをかけて様々な角度か
ら拠点統合のシミュレーションを行ったが、明確なメ
リットは見い出せなかった。 その結果、「当面は二拠
点体制でいくことにした。 ただし企業は生き物。 市場
環境は常に変化する。 全てを予測することなどできな
い。 今後も検討は重ねていく」と高岡総括グループマ
ネージャーはいう。 同社の物流拠点改革はまだ始まっ
たばかりだ。
19 AUGUST 2007
?多様な荷姿のスポーツ用品が並ぶ?小物はオリコンに詰めコンベアへ
?アイテム数は2万5000SKUにも及ぶ?流通加工は別室で行う
新拠点をプロロジスパーク横浜に設置した
ブリヂストンスポーツの
高岡哲也IT・流通企画部
総括グループマネージャー
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