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コスト削減からROA向上へ
物流改善のパターンが大きく変化している。 これま
で改善はあくまでコスト削減が目的であり、方法論と
しては輸送費、作業費などの変動費削減がほとんどで
あった。 しかし、経済環境は変化した。 これまでの改
善手法を今後も頑なに続けようとすれば、自らの首を
絞めることになりかねない。
輸配送を担う物流事業者は燃料高や人件費の高騰
に喘いでいる。 料金の見直しや物流コンペを依頼しよ
うものなら、逆に値上げを切り出されたり、取引の打
ち切りに動くようになってきている。 盛んに価格交渉
と取引先の切り替えを行ってきた荷主企業が、その地
域の物流企業からマークされ、地域全体から取引を敬
遠された結果、業務遂行が難しくなるというケースさ
え出てきている。
パート・アルバイトの活用も同様だ。 パート・アル
バイトに社員なみの業務やサービス残業を依頼しよう
ものなら「こんな給料ではやっていられない」と辞め
られるのがオチである。 その足で労働基準監督局に出
向かれでもすれば、その後の人材募集にも深刻な影響
を与えることになる。 輸送費と人件費は今や変動費と
は言えなくなっている。 叩けば下がる、絞れば絞るほ
ど減らせるものではないのである。
こうした流れは二〇〇五年頃から既に現れていた。
現場のリストラを行ったことで、その後の景気の拡大
にキャパシティの面で対応できず、派遣会社に毎日数
十人単位の人集めを依頼しながら凌いでいる企業が続
出している。 このような失敗体験から、変動費の削減
を唱える荷主企業は一時期に比べて激減した。 それに
代わって、多くの企業は現在、「ROA(総資産利益
率)の向上」を物流管理の目標に掲げるようになって
いる。
ROAは当期利益を総資産で割って計算する。 分
母となる資産を小さくすればROAは向上する。 その
ため荷主企業は自社の物流資産を持たず、流通在庫
を出来る限り圧縮するようなオペレーションを志向し
ている。 具体的には納品先の至近に拠点を持つ物流
企業にフルアウトソーシングを行い、発注頻度を上げ、
通過型の業務運営への移行を進めている。
そこでは三六五日・二四時間、ミスなく稼働ができ
る物流体制が必要となる。 現場運営はIT・マテハ
ンをフル活用した高度なものになっていかざるを得な
い。 このような体制を構築できた物流企業のサービス
レベルは、その業界においてのデファクト・スタンダ
ードとなり、その物流企業には荷主企業が列を成すと
いう好循環が生まれる。
一方、自社の老朽化した資産に縛られ、体制も業
務も旧態依然とした状態で、個人の力量に頼らざるを
得ないような荷主企業は、物流体制の構築でも後手に回っている。 規模のメリットも、自動化、標準化の
メリットも得られないまま、流れに取り残されている。
輸送インフラには路線便(特別積み合わせ便)を使
うしかない。 路線便には安価で全国対応ができるとい
うメリットがある。 リードタイムも、かろうじてクリ
アできるかも知れない。 ただし、業種別・企業別のサ
ービスには対応できない。 差別化のできない結果とし
て路線事業者には激しいコスト低減要求と、品質につ
いてのクレームが集中するような状況になっている。
このように、荷主企業の物流戦略は単純なコスト削
減から、物流機能の高度化によるROA向上にシフ
トしている。 これに合わせて物流拠点の機能は業態ご
とに全く異なる方向へと進化を始めている。 そのトレ
ンドに先手を打つことが、荷主企業の物流戦略担当
機能高度化の業態別トレンド
物流改善によるコスト削減の余地は狭まってきている。 そ
れに代わってROA(総資産利益率)の向上を目的に掲げた
改革が本格化している。 ロジスティクスの高度化によって、
経営効率を高めようという取り組みだ。 これに伴い物流拠点
戦略が大きく変化しようとしている。 (中根治)
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第5部
者および3PLに求められている。
工場隣接型拠点の方向性
多くのメーカーがこれまで生産拠点と保管拠点を分
けて運営していた。 しかも広大な敷地を持つ工場には
生産設備しかなく、保管については工場周辺の外部
倉庫か、自社の施設の余剰スペースに平置きする程度
の運用しかされてこなかった。 このため繁忙期には多
額の保管費用と横持ち費用を発生させていた。
このようなムダが放置されてきたのは、「物流は営
業の管轄であり、生産の管轄外である」という固定観
念があったからだ。 しかしSCMの概念が浸透するこ
とによって、それまで管理責任がグレーゾーンとなっ
ていた在庫と、それに関連する保管費用にメスが入る
こととなった。
これに伴い、在庫にかかる費用のうち、外部に流出
していた支払い物流費を社内に取りこむ動きが盛んに
なっている。 生産改善と同様に、「内化(うちか)」と
呼ばれる。 この動きが工場敷地内への拠点設置や機
能増強へとつながっている。 そこでは作業性を維持・
向上させながら、いかに保管スペースを確保するかが
テーマになっている。
具体的には自動倉庫やピックカートなどのマテハン
設備の導入が進んでいる。 これらの設備は収納効率の
点で、多くは従来の二倍以上のメリットがある。 また、
組み立てや射出成型など、生産工程の一部を物流拠
点で処理するプロセス改革も進んでいる。 その結果、
外見は老朽化していても、中に入ると最新鋭のマテハ
ンがフル稼働しているという光景が珍しくなくなって
きている。
このようにメーカーは、自社敷地内の保管効率を高
め、物流を内化することで、外部倉庫への保管料支
払いや横持ち費用をなくし、ROAの向上を進めてい
る。 現在、こうした取り組みは大手メーカーが中心と
なっているが、今後は中堅以下のメーカーに拡がって
いくものと思われる。
中間流通拠点の方向性
中間流通業の業態は前述の通り、販売代理業と購
買代理業に二分される。 いずれの立場をとるにしても、
メーカーや小売りに対して自らの価値を納得させるこ
とができなければ、中間流通業はその存在自体を否定
されかねない立場に追い込まれている。
一般に中間流通業は「?品揃え」「?ロット調整」
「?物流」「?リテールサポート:販売促進」「?ファ
イナンス」の五つをもって五大機能とされる。 このう
ち「?品揃え」機能は、メーカー特約販売店制度の
弱体化によって商圏の囲い込みが難しくなり、中間流
通業者の強みは失われつつある。
「?ファイナンス」機能、いわゆる掛売りや代金回収といった機能も、資本力のある大規模小売チェーン
にとっては、さしたる魅力を持つものではなくなって
いる。 また「?ロット調整」と「?物流」機能も、オ
ペレーション面だけなら3PL企業をはじめとする物
流企業でも十分に担えるようになってきた。
このような背景から、中間流通業の多くは「?リテ
ールサポート:販売促進」を目的とした、情報インフ
ラの整備に力を注いでいる。 具体的には商品の売れ筋、
死に筋情報といったものから、新商品情報、メーカー
の発掘とプロデュースや品質保証、トレーサビリティ
や店頭販促支援といった機能が中間流通業の付加価
値となる。
これらに対応するためには、商品単品レベルでの情
報把握と、販売から返品回収までのワンストップの流
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通機能提供が必要になる。 その究極的なモデルがコン
ビニ本部である。 先進的なITインフラを使って店舗
運営に必要なあらゆる情報を分析しフランチャイジー
に提供するだけでなく、商品企画から物流機能まで、
メーカーから店舗に至るサプライチェーンを完全にコ
ントロールしている。
同様に中間流通業の多くが、基幹システムとなるI
Tへの投資と、単品データを効率的に獲得するための
ピッキングシステムへの投資を増加させている。 単品
レベルの流通処理を人海戦術で行っている企業と、ピ
ッキングシステムを導入した企業では、生産性に四倍
〜五倍の開きがある。 これらの設備に投資できる企業
とそうでない企業との差はもはや埋めがたいものにな
っている。
さらには、これらの付加価値を中間流通段階で付
与できない商品(たとえば国内家具や建材)を扱う業
界、もしくはファイナンスの面で売り手と買い手の資
本力格差が非常に大きい業界(大手小売によってP
B化されるような商品)については、中間流通業の存
在価値は既になくなっているとも言える。 このような
業界は売り手と買い手の直接取引となり、流通面を
物流企業が担うようになってきている。
川下センターの役割の変遷
小売業のビジネスモデルは基本的にコストオン(仕
入れ値に必要経費と利益を上乗せして販売する)構
造になっている。 競合が増えるほど売り上げが圧迫さ
れ、仕入れとローコスト・オペレーションで少しでも
後手に回れば、すぐに赤字に陥る厳しい世界だ。 販管
費の削減と中間流通コストの徹底的な排除が宿命的
に義務付けられている。
実際、小売業界はこれらに優れた企業だけが生き残
る淘汰の歴史を繰り返してきた。 市場が拡大基調で
大量消費が行われていた時代には、百貨店や全国スー
パーなど、品揃えと量の確保に勝る企業が強かった。
物流をはじめバックヤード機能は中間流通業に任せ、
自らのリソースを店舗網拡大に集中する戦略が効果を
発揮した。
その後、ホームセンターのように膨大な品揃えを広
大な店舗に並べ、広域から大量集客するモデル、ある
いはドラッグストアのように特化した商品を大規模に
チェーン展開することで仕入原価や売れ残りロスを引
き下げ、高収益を上げるビジネスモデルなどが現れた。
現在は専門店やスーパーセンターに代表される、中間
流通を介しない、メーカー直接取引によって低価格・
高収益を実現するモデルが現れてきている。
これらの進化の要点は、販管費の削減の手法が?仕
入れチャネルの使い分けによる、相対的なローコスト
化〞から?物理的プロセス、タッチ回数をカットする
ことによる絶対的なローコスト化〞へと変化してきていることである。 今後も大手小売りとメーカーが接近
する「直接流通モデル」がより進むことが予想される。
これらの流れと歩を同じくして年々鮮明になってい
るのは、店舗設計と立地の重要性である。 成熟した国
内市場において、パイの拡大は望み薄であることは自
明である。 いかに店舗に人を集めるか、あるいは人が
集まる場所に自社の店舗を構えるかが、小売りの最重
要課題となっている。
当然のことながら人口密集地域に土地・施設の空
きは少なく、集客に見合った店舗面積やバックヤード
を確保することは困難である。 いきおい多頻度・少量
の物流体制が必要になる。 これらの状況に呼応して、
小売業の物流センターも人口密集地・交通至便な地
域にニーズが集中している。
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東京を中心とする関東地区を見ると、賃料が高く、
新規参入余地が少ない神奈川県を代表とする西部地
域から、埼玉・千葉などの東部地域にニーズが移動す
る動きと、湾岸からより幹線道路沿いの内陸地域へと
向かう流れが出てきている。
大阪地区では、根強い人気であった北摂地域から、
新規施設の供給が多い湾岸沿いや、京都南IC付近
などの幹線道路沿いの内陸地域に物流施設を構える
動きが出てきている。 特に大阪地区は最大の繁華街で
あるキタ・ミナミ地区において大型商業施設の新規参
入余地が乏しいことから、郊外に大規模商業施設が
次々参入する状況であり、モノの流れも郊外へシフト
する傾向にある。 小売業においては物流拠点も立地勝
負の状況になっているのである。
3PLの拠点戦略
これらの状況をまとめると、まず大きな流れとして
物流改善の方向性は業務レベルのコスト削減から、経
営レベルのROA向上へと軸足を移している。 これを
受けて、荷主企業は自社の物流資産を持たず、流通
在庫をできる限り圧縮するようなオペレーションを志
向するようになってきている。 しかし輸配送だけをア
ウトソーシングしていては、高度化する顧客ニーズ、
サービスレベルに対応できない。 拠点活用が非常に重
要な役割を担うようになっている。
そのトレンドは業態によって異なる。 メーカーは外
部倉庫を集約し、自社敷地内の保管効率を高める投
資を増加させている。 一方、中間流通業・小売業に
おいては、庫内業務の「自動化」「機械化」「標準化」
が鮮明になってきている。 拠点の立地や仕様は、集
約/大型化に伴い、スペース効率や輸配送エリアカバ
ー率の高さに優れたものが選択される傾向にある。 そ
して、今後は大企業から中堅中小に同様の取り組み
が波及する可能性が大である。
これに対して3PLは、どのような拠点戦略を展開
すべきか。 まずはターゲットとする荷主の絞り込みで
ある。 自社が保管・輸送のフルラインで対応できる業
態あるいはエリアを決め、そこに特化する。 先行投資
も必要だ。 具体的な要望を受けてから、拠点や協力
会社を探していては間に合わない。
自社のテリトリーエリア、もしくは特化した業態が
集積するエリアにおいて、「売れる拠点」を確保する。
その上で、協力会社との連携を強める。 専門特化した
同業者間競争においては、差別化要因も高度化する。
雌雄を決するのは第一に繁閑差への対応力であり、第
二にエリアカバー力である。 それがクリアできれば中
堅企業であっても大手物流事業者に伍して戦える。
一方、大手3PL事業者は、既存顧客の流出に注
意する必要が出てきている。 二〇〇〇年初頭に契約
を結んだ「3PL第一世代」の荷主は現在、契約更新時期を迎えている。 新たに不動産ファンドによる物
流施設のみの供給が一般化したことで、3PL契約
打ち切りに伴う荷主側のリスクは軽減されている。 こ
れによって荷主の多くが物件の確保とオペレーション
を分離して、自社に最適のロジスティクスができない
かを模索し始めている。
取引が長期化すると、当然のことながら品質要求、
原価低減要求は高まっていく。 3PLとしては、これ
らのニーズを的確に受け止め、お互いに忌憚なく意見
交換できるような関係性を構築しておかないと、突然
契約終了を突きつけられることになりかねない。
物流センター機能の高度化、そして供給形態の変
化によって、3PL市場はまた新しいステージに入っ
たといえる。
31 AUGUST 2007
中根治(なかね・おさむ)
ロジスティクス・サポート&パートナーズ
専務取締役。 1969年生まれ。 外資系製薬会
社にてMRを経験後、ブックオフコーポレー
ションで店長、物流センター長を経て日本ロ
ジファクトリー入社。 同社取締役を経て、
2005年1月にロジスティクス・サポート&
パートナーズの設立に参画。 専務取締役に就
任し現在に至る。 エリアを問わず現場に赴き
対応。 改善実績多数。
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