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AUGUST 2005 80
一九九二年にリオデジャネイロ(ブラジル)
で開催された環境と開発に関する国連会議、
いわゆる地球サミット以降、世界的な規模で
環境対策が講じられるようになりました。 こ
れを受けて、海運会社も環境問題を最重要課
題の一つに挙げています。 今回は海運各社の
環境対策について解説します。
海洋汚染と大気汚染
一九九七年十二月に「気候変動枠組み条
約国際会議(COP3)」で京都議定書が採
択されました。 これは先進国の温室効果ガス
(GHG=Green House Gas
)の排出削減目
標を定めたものであり、CO
2
をはじめとす
る六種類のGHG排出量を二〇〇八〜二〇
一二年の間に一九九〇年実績に比べ先進国
全体で五・二%の削減を義務付けるというも
のです。 日本の削減目標は六%。 ロシアの批
准をもって発効要件を満たし、スタートしま
した。
世界全体の四分の一のGHGを排出する米
国の不参加、中国・韓国・インドなど主要排
出国が削減義務を負っていないといった問題
点もありますが、地球温暖化防止策として大
いに期待されています。 日本も六%の義務を
果たすべく国を挙げて諸対策に取り組んでい
ます。
運航中の船舶から排出されるCO
2
は大気
汚染や海洋汚染の原因となります。 そのため
海運会社も環境問題と無関係ではありません。
もっとも、外航海運で使用される船舶からの
CO
2
は複数国にまたがって排出されるため、
日本の排出量としてカウントされないルール
になっています。 これは国際航空の分野と同様です。
そこで日本の海運会社は別途IMO(国際
海事機関)の場で排出の抑制や削減に取り組
むことになっています。 削減の対象から除外
されているとはいえ、環境問題を無視し、社
会的な責任を果たさない企業は社会の一員と
して認められないとの判断からです。 グルー
プ経営という観点からすると、内航海運は対
象に含まれていることもあり、海運会社はそ
れぞれ独自の経営判断で環境問題に対処して
います。
外航海運が関係する環境問題には大きく分
けて海洋汚染防止対策と大気汚染防止対策
の二つがあります。 このうち海洋汚染防止対
策では、タンカー座礁事故による油流出の被
害など過去の苦い経験をもとに、国際条約で
対策が講じられているものがあります。 これ
に対して、CO
2
排出量削減といった大気汚
染防止対策については世界的に見て海運会社
の取り組みは他の事業に比べ遅れているのが
現状です。
しかし、商船三井、日本郵船、川崎汽船と
いった日本の海運会社は世界に先駆けて対策
に乗り出しています。 各社とも環境報告書
(レポート)の発行や、グループ会社を含め
海運会社の環境対策
《第5回》
国際物流の基礎知識
商船三井 森隆行
営業調査室主任研究員
図1 船舶を取り巻く環境問題
海洋汚染防止対策 大気汚染防止対策
安全運航(船体管理、教育・訓練、サブサタンダード船排
除、優れた機器導入など)
油流出リスク軽減対策(タンカーのダブルハル化、燃料タ
ンクの二重構造化)
排出物対策(発生抑制、廃油・生活ゴミの焼却・粉砕・陸
揚げ処理など)
バラスト水対策(運用対策、新バラスト条約に適合した新
システムの開発など)
環境ホルモン対策(船底塗装のTinFree化など)
シップリサイクル(適正処分)など
地球温暖化対策:CO2削減対策
酸性雨対策:NOx(窒素酸化物)/SOx(硫黄酸化物)の
削減対策(燃費改善-省エネ装置、主機・省エネ船型採用、
最適船体状況の維持、輸送効率の向上、低硫黄燃料使用など)
オゾン層保護-フロン対策(冷媒の切り替え)
ダイオキシン対策(排出抑制型焼却炉の採用)
出所:商船三井「うなばら」2004年5月号
風圧抵抗を軽減する
商船三井の自動車専用船
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たISO14001の認証取得などに取り組
んでいます。 また国際海洋汚染防止条約(M
ARPOL)などの国際条約を積極的に先取
りしています。
邦船大手二社の環境対策
海運会社は環境対策として具体的にどのよ
うなことを推進しているのか。 商船三井と日
本郵船の事例を紹介しましょう。
●
商船三井
自動車専用船では風の抵抗を減らす独特
な形状を採用し、エネルギー効率の向上に
役立てています。 これによって燃料の使用
量を従来比で四〜六%削減することが可能
になります。 例えば、「日本〜ロサンゼルス」
間の航海では片道約一〇〇トンのCO
2
削
減に結びつきます。
ちなみに日本造船学会は、この風圧低減
形状を採用して建造された商船三井の自動
車専用船「Courageous Ace
」を二〇〇三
年の「シップ・オブ・ザ・イヤー」に選び
ました。
東海大学、西芝電機と共同で船舶用風
力発電機を開発し、船舶風力発電にも取
り組んでいます。 風力による自然エネルギ
ーを利用して航海中の船の冷暖房などに活
用することで、CO
2
やNOX、SOXなど
の排出量削減を図ろうという試みです。 こ
の装置では年間に七〇〇〇〜九〇〇〇K
wh(キロワットアワー)の発電が可能に
なります。 二〇〇四年から実船実験を実施
しています。
●
日本郵船
太陽電池発電を船舶に利用しています。
二〇〇三年十二月、甲板に広さ十三平方
メートルの太陽電池パネルを搭載し、船上
で発電できる装置を積んだLPG船を就
航させました。 もっとも、最大出力は〇・
七キロワットのため、現段階では船内の食
堂の照明用として使用する程度にとどまっ
ています。 太陽電池に続いて「直線翼垂直
軸型風力発電機」の開発にも着手してい
ます。
二〇〇四年に運航船舶のエンジンからの
排気ガス対策として「ばい煙除去装置」を
開発しました。 この装置は排ガス中の粒子
状物資(PM)を大幅に削減します。 陸上
試運転では「A重油焚き発電機」において
PMを五七%低減させた、という成果を上
げています。
商船三井と日本郵船の環境対策はほんの一
例にすぎません。 日本の海運会社はこのほか
にも、?冷凍コンテナの冷媒をフロンから代
替、?原油流出を防ぐためのタンカーのダブ
ルハル化、?燃料タンクの二重構造化――な
ど環境リスク軽減に向けた活動に取り組んでいます。 もちろん、安全運航の徹底によって事故そ
のものを起こさないようにする努力も続けて
います。 それでも不幸にして事故や災害に遭
った場合を想定した訓練と対策も怠っていま
せん。 定期的に世界的規模でのシミュレーシ
ョンを実施しています。
海運は海という自然と大きな関わりを持っ
た産業です。 環境を守り続け、負荷を与えな
いようにするためには?安全が第一〞です。
海運会社は常にそのことを念頭に置いてビジ
ネスを展開しているのです。
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年
丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現
職。 主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航
海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」
(鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会
員。 青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、
東京海洋大学海洋工学部講師
航空機
営業用小型トラック
営業用普通トラック
内航貨物船
鉄道
大型コンテナ船
大型タンカー
図2 輸送機関別CO2排出源 (単位:g-C/トンキロ、炭素換算)
0 100 200 300 400
398
226
43
11
6
3
1
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