2007年9月号
値段

日本郵船

SEPTEMBER 2007  66 商船三井との利益格差が拡大  我が国の海運業界において、日本郵船は長 らく売上高、利益額の両面でトップの地位を守 ってきた。
しかしながら、〇三年度には商船三 井に経常利益で逆転を許し、その後は年を追う 毎に両社の利益水準格差が拡大。
〇六年度決 算では商船三井の連結経常利益一八二五億円 に対し、郵船の同利益額は六割以下の一〇七 五億円にとどまる結果となった。
〇七年度は非 海運事業の収支改善などにより両社の格差は若 干縮小する見込みだが、それでも郵船の経常利 益水準は商船三井の六五%程度にとどまる見 通しである。
利益水準の格差はそのまま株価に 反映されている。
七月二三日時点の株価を比 較すると、商船三井の一八四七円に対し郵船 はその約六五%の一二一五円と、まさに業績 格差に見合った株価水準となっている。
 利益格差がここまで大きく開いた背景は何か。
最大の要因として、〇三年後半以降の市況上 昇が最も大きかったケープサイズ船(主に鉄鉱 石を輸送する大型ドライバルク船)の保有規模 格差が挙げられよう。
ケープサイズ船の全体的 な運航規模では両社間に大きな差はないが、「コ ア船隊」と呼ばれる固定コスト船(自社グルー プ建造船もしくは長期用船)の保有規模は大 きく異なる。
商船三井のケープサイズコア船隊 は現状概ね一〇〇隻規模に達していると見られ るのに対し、郵船は約六〇隻と業界三位の川 崎汽船とほぼ同規模にとどまるとみられ、調達 コストが市況に連動する短期用船の比率が相対 的に大きいと考えられる。
 コア船隊の殆どは造船船価が上昇する〇四年 以前に発注されたもので、調達コストは固定的 かつ低水準である。
コア船隊に余裕のある商船 三井はその約三割を好市況下でスポット運航さ せているのに対し、郵船はその殆どを相対的に 運賃の低い中長期契約で固めており、市況高 メリットを享受しきれていない。
クレディ・ス イス証券(以下、当社)では、ケープサイズを 中心としたドライバルク事業における両社の利 益水準差は〇七年度見込みで四〇〇億〜五〇 〇億円に達すると予想している。
 この部分に関しては、不定期船市況が上昇 する前の段階で新造整備拡大の意思決定を下 した商船三井経営陣の経営判断の「勝ち」で あるといえる。
少なくともドライバルク市況が 〇三年以前の水準に逆戻りした状況が長期化 しない限り、郵船のドライバルク収益が商船三 井に追いつくことはないだろう。
 もう一つの収益格差の背景は、連結子会社で ある日本貨物航空(NCA)の不振である。
〇 五年八月に全日本空輸(ANA)の持分(二七・ 六%)買い取りによって日本郵船の連結子会社 となったNCAは、〇六年度の経常損益が一八 一億円の赤字(〇五年度は一〇四億円の赤字) となり、郵船の連結業績に対して大きなマイナ スインパクトを与えた。
〇六年度の期初時点に おける会社計画では二億円の経常黒字確保を 見込んでいたものが、四半期毎に下方修正を繰 日本郵船 大型ドライバルク船の確保で後手 市況高メリットを享受しきれず  国内海運業界で売り上げ、利益ともにトップの座を誇っていた 日本郵船だが、近年は利益面で商船三井に水をあけられている。
大型ドライバルク船の保有規模の小ささ、連結子会社である日本 貨物航空の不振等が影響している。
板崎王亮 クレディ・スイス証券 運輸担当アナリスト 第32 回 いたざき おおすけ 八八年 三月神戸市外国語大学卒。
同 年四月岡三証券入社。
その後、 シュローダー証券、INGベア リング証券を経て、二〇〇一年 二月にクレディ・スイス証券 に入社。
八八年以来、運輸セ クターを中心にアナリスト活 動を展開している。
著者プロフィール 67  SEPTEMBER 2007 り返し、結果的に前年を大きく上回る赤字の 着地となったことで、株式市場ではNCAの連 結子会社化自体が経営判断の誤りではないかと の見方もある。
しかしながら、連結子会社後の 業績不振は原因が比較的はっきりしたものが多 く、適切な対処を施せば、高い確度での収益 回復が期待できると当社は考えている。
 そもそも、連結子会社化前も含めたNCA の過去はどういう状況であったのか振り返って みたい。
九〇年度から現在までの収益状況を見 ると、良い点と悪い点が浮かび上がる。
良い点 としては、売上高の年率平均成長率が五・二% と順調に拡大しており、また、直近二期を含 め計六期経常赤字を記録しているものの、赤字 の期を除けば平均ROA(総資産事業利益率) は五・四%とまずまずの水準であることだ。
一 方、悪い点は、赤字転落時の赤字額が大きい ため、これまでの当期純損益 を合計すると累積損失となっ てしまう点である。
平時にい くら利益を稼いでも、数度の 赤字でこれらを吐き出してしま うようでは健全なビジネスとは 言えまい。
ビジネスの健全化 を図るには、競合他社に対す る相対競争力を引き上げ、利 益率の底上げを図る必要がある。
 幸い、NCAの場合、処方 箋は比較的はっきりしている。
ANAから譲り受けた旧型機 材(B747─200、機齢 は二〇年近い)中心のフリー ト構成が、全てではないにしろ相対競争力劣位 の主因と考えられ、これを早期に新鋭機(B7 47─400、B747─8)に入れ替えること で大幅な競争力改善が見込まれるのである。
〇 六年度末時点での保有機材の平均機齢は十一・ 四年であるが、新鋭機導入が進み旧型機材の 退役が完了する〇八年度末には一・九年へと 大幅な若返りが実現する。
これによる燃費改善、 メンテナンス費用軽減のほか、人件費のダブル コスト構造(ANAからの出向乗員と現在養 成中の自社乗員の二重構造)も解消が見込まれ、 単位当たり運航コストは大幅に低減する見通し である。
コスト削減による直接的な収支改善効 果に加え、相対競争力向上による営業力アッ プも見込まれ、収支改善は来年度以降、急ピ ッチで進むだろう。
郵船では〇九年度にNCA の経常黒字転換を見込んでおり、十分に実現 可能であると当社は考えている。
 収支改善計画の達成を可能と考えさせるに足 る実績を、日本郵船の現経営陣は持っている。
関連事業のうち、物流、ターミナル運営、客 船の各事業をコア三事業と位置付け、戦略的 施策による収支改善を徹底した結果、三事業 トータルの経常損益は〇三年度五五億円の赤 字から〇六年度は二七二億円の黒字へ大幅か つコンスタントな改善を実現したのである。
物流事業に拡大見込める  物流事業では、東欧、中国などでの業務受 託拡大や、宅配便最大手のヤマトホールディン グスとの資本・業務提携など将来への種蒔きも 着実に進められており、今後更なる収益規模拡 大が見込まれる。
また、ターミナル事業では〇 二年に買収した米セレス・ターミナルズへの顧 客誘致などで着実に稼働率が向上。
客船事業 では、供給過剰気味の米国から日本へ豪華客 船一隻を配置転換するなど配船効率化を図っ た結果、米国同時テロ事件前の〇〇年度に四 隻体制で記録した経常最高益(三八億円)を 〇六年度は三隻体制で上回る(四六億円)こ とに成功した。
 日本郵船の今後の収益見通しであるが、当 社では、〇七年度の連結経常利益を会社計画 比一二〇億円上乗せの一四二〇億円(〇六 年度比三二%増)と予想している。
また、〇 九年度までの平均予想経常増益率は一八%と、 商船三井(同七%増を予想)を上回る収益改 善を予想している。
これは主に、NCAにつ いて現状の大幅赤字から収支均衡までの収支 改善(約一八〇億円の増益要因)を見込んで いることに加え、ドライバルク事業においても、 商船三井が〇三年度までに発注した低コストの 新造船竣工が来期以降一巡することにより、現 状以上に同事業の利益水準格差は拡大しない と予想していることが主因である(業績予想は 全て〇七年七月二三日時点)。
 株価は、冒頭で述べたように七月二三日時 点で商船三井の約六五%の水準であり、〇七 年度予想の利益水準格差にほぼ一致している。
両社の発行済株式数は潜在株式数考慮後では ほぼ同水準(十二億株強)であり、単純に言 うなら、両社の利益水準格差が将来的に縮小 すれば両社の株価格差も縮小傾向に向かうとい えるのではないだろうか。
(円) 日本郵船の過去10 年間の株価推移 《出来高》

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