2007年9月号
物流IT解剖
物流IT解剖
近鉄エクスプレス
SEPTEMBER 2007 54
第6 回
国ごとのローカルITでは
多国籍企業は満足しない
近鉄エクスプレス(KWE)が約
八年かけて開発したフォワーディン
グ業務の基幹システムが、今年に入っ
て相次いで中国の主要拠点に導入さ
れた。
すでに日本をはじめ、アメリカ、 欧州、アジアでは全面稼働しており、 同社が扱う航空貨物の九六%(件数 ベース)を処理している。
一足早く 稼動したロジスティクス分野の標準 システムなどと合わせると、IT刷 新は完成しつつある。
日本企業は現場からのボトムアッ プで情報システムを開発する傾向が あり、国や法人ごとに異なるシステ ムを使っていることが多い。
情報を 一元的に扱うときは、バッチ処理で データを集めて対応しているのが現 状だ。
こうした考え方は物流分野で も一般的で、欧米の国際インテグレー ターのように世界中のネットワークの 末端までシステムを標準化している ほうが珍しい。
しかし、グローバルで活動する荷 主企業にとっては、世界規模で情報 を一元管理することは、もはや常識 だ。
陳腐化の早い製品を扱う外資系 ハイテクメーカーは特にそうした意識 が強い。
このことをKWEは一九九 六年に思い知らされた。
以前から取 引実績があり、同社にとって重要な 営業ターゲットでもある米系ハイテ クメーカーから、グローバルなIT を持っていないことを理由に取引を 断られてしまったのである。
すでに欧米の有力フォワーダーは世 界規模のシステムを持っていた。
こ のままではライバルとの競争に勝てな い──。
とりわけ危機感を募らせた のが営業畑の役員を務めていた辻本 博圭現社長だった。
辻本氏は社内で 「情報システムがぜんぜんグローバル になっていない」と主張。
基幹シス テムを刷新し、世界規模で貨物追跡 などを行う体制の実現を訴えた。
それ以前のKWEにとっては、国 や現地法人ごとにシステムが異なる のは当たり前だった。
八〇年代に同 社がはじめて情報システム部門を発 足したときからI Tに携わってきた 松田芳昭副社長は、次のように明か す。
「税関のシステムや顧客ニーズは 地域ごとに違う。
しかも我々の航空 貨物の品質は高い。
結果だけを一つ のバスケットに入れて、みんなが見 られるシステムさえ作っておけば、そ れぞれのシステムはローカルで十分だ と思っていた」 ところが肝心の顧客は、そうは考 えていなかった。
九六年の物流コン ペでそれがハッキリしたことから、I T 部門としてもグローバルシステム の実現に本腰を入れることになった。
ただ、この壮大な計画には、巨額の 投資と長い準備期間が必要だ。
経営 トップの全面的な支持がなければ成 功はおぼつかない。
そこで外部の経 営コンサルタントの手も借りながら、 まずは社内のコンセンサスを作り上 げていった。
国際物流コンペの敗退をきっかけに 10年かけてグローバルシステムを整備 近鉄エクスプレス グローバルなIT がないことを理由に、96 年に重要な取引先のコンペから締め出さ れた。
これを機にシステム開発のための情報子会社をダラス(米テキサス州)に設置。
国や地域ごとにローカルシステムを運用する体制の見直しに着手した。
途中、フォ ワーディング業務のシステム開発に難航したものの、2004 年には一連の世界標準シ ステムを完成。
以降は各地に導入を進め、10 年越しの構想にメドをつけた。
グローバル化 ◆本社組織 本社・情報システム部(千葉県市川市)に 44人の社員が所属。
ベンダーの常駐者なども入れると 常時110人弱が勤務 ◆情報子会社 国内にはシステム子会社は持っていな い。
80年代に1度設立したが、役割が不明確だったた め数年で廃止した。
現在は96年に米ダラス(テキサス州) に設置した開発子会社が、グローバルレベルで標準化し たシステムの開発を担っている。
《沿革》1981年にNECのホストコンピュータを使ったシステムを稼働し、日本ではこの仕組み を拡充しながら基幹システムとして活用してきた。
しかし90年代半ばに、主要取引先の1社だ った米系ハイテクメーカーから、グローバルを一元的に管理できる情報システムがないことを 理由に入札から締め出された。
これをきっかけに96年に米ダラスにシステム子会社を新設。
全 世界を標準化されたシステムで一元管理できるITの仕組みづくりに着手した。
ロジスティクス や経理分野のシステムはほどなく稼働したが、肝心のフォワーディング業務の基幹システム 「UFS」の開発は難航。
そこで2002年に新たな社内プロジェクトを立ち上げ、改めて開発に本 腰をいれた。
そして05年から各地への導入をスタート。
今年に入って中国の主要拠点への導 入を進めた結果、すでに取扱航空貨物の全件数の96%を新システムでカバーしている。
55 SEPTEMBER 2007 米国に開発子会社を新設し 世界標準システムを構築 いざ実行が決まると、KWEの米 国法人で責任者を務めていた辻本氏 は、今度はシステム開発を担う情報 子会社を米ダラス(テキサス州)に 新設することを提案した。
欧米系の 有力フォワーダーを凌駕する世界標 準システムを作ろうとしたら、日本 という殻を破る必要がある。
そもそ も国内で開発しようにも、最先端 の仕事を任せられる人材やITベン ダーを確保できないというのがその理 由だった。
標準システムを世界各地の法人が 一緒に使うとなると、運用・保守の ための負担をどう処理するかという 問題もあった。
諸々の課題をクリア するためKWEは、九六年一〇月に ダラスに近鉄グローバルインフォメー ション・テクノロジー(KGIT) を設立。
この会社が適正な利益を確 保しながら、システム開発や運用を 担っていく体制を整えた。
経営レベ ルのIT戦略はKWEの情報システ ム部(千葉県市川市)が策定し、グ ローバルITの開発や運用は新会社 が担うという役割分担である。
このときKGITで開発すること になったシステムは主に四つあった。
フォワーディング業務のための「U FS」、ロジスティクス分野で保管・ 流通加工をまかなう「UWF」、イ ンターネットに対応した貨物追跡な どの顧客向けシステム「CSS」、そ して経理・会計の「UAS」である。
さらに日常業務を管理するための「U RS」も、業務システムとは別に作 る必要があった(上図参照)。
いずれも、まずはグローバルな標 準システムを開発し、ここに最小限 のカスタマイズを加えて世界各地の 法人に導入していく。
これはKWE にとって、IT戦略の大幅な方針転 換を意味していた。
前述したように、それ以前の同社 のIT管理はきわめて日本的なもの だった。
八一年にN E C 製のホス トコンピュータを導入して以来、ほ ぼNEC一社に依存しながら手作り のローカルシステムを運用していた。
八〇年代にはシステムを保守・運用 するための情報子会社も設置。
明確 な存在価値を見出せなかったため子 会社は数年で解散したが、IT管理 の手法はグローバル企業のそれには ほど遠かった。
これがKGITの設立で大きく見 直された。
「NECと関連会社に依 存していたホストコンピュータのシス テムを、グローバルで完全にオープ ンなシステムに変える。
しかも開発 はアメリカのKGITが中心になり、 実際にソフトをつくる作業はインド に外注。
従来とは天と地ほどの差の ある変化だった」と情報システム部 の計良長雄部長は振り返る。
もっとも管理手法こそ日本流だっ たが、フォワーディング業務を世界 中で展開していくには高度なIT武 装が欠かせないというKWEの信念 は一貫していた。
だからこそ先進的 な顧客が示したニーズにも敏感に反 応した。
「日系企業の仕事だけをやっ ていたら、たぶんグローバルなシステ ムの必要性にも気づかなかったはずだ。
グローバル企業のビジネスをやってい たからこそショックを感じたのだと思 う」(松田副社長) 遅々として進まないUFS 改めて社内PJを発足 KGITの発足により、システム 開発の体制は整った。
従来のKWE は、現場の使い勝手を重視してシス IT 担当役員の松田芳昭副社長 図1 KWE のシステムの概要 G-SCM お客様システム 業務システム 管理システム CSS EDI SDS UFS PC2000 UWS OMS L-PASS 在庫計画 供給元出荷 輸出通関 国際輸送 輸入通関 入庫・保管 物流加工 受注業務 出 荷 納 品 UAS URS サプライチェーン ■G-SCM【Global SCM】 インターネット経由で、複数倉庫の在庫の状況や、入出庫情報 の照会、輸送中の物品などを顧客が確認できるシステム ■CSS【Customer Service System】 インターネットに対応した顧客専用の貨物追跡システム ■UFS【Unified Freight System】 すべての輸送貨物に対応した、KWE 全体のフォワーディングシステ ム ■UWS【Unified Warehouse System】 物流拠点における在庫管理およびディストリビューションに対 応した、ロジスティクス業務のためのシステム ■URS【Unified Reporting System】 実績管理などを担っているシステム ■UAS【Unified Accounting System】 会計管理などに使っているシステム ■その他 SDS=貿易書類作成システム、PC2000=日本の輸入通関システ ム、OMS=受注業務システム、L-PASS=近鉄ロジスティクスシ ステムズが持つ国内の貨物追跡システム 図1 KWE グローバルロジスティクスシステム G-SCM お客様システム 業務システム 管理システム CSS EDI SDS UFS PC2000 UWS OMS L-PASS 在庫計画 供給元出荷 輸出通関 国際輸送 輸入通関 入庫・保管 物流加工 受注業務 出 荷 納 品 UAS URS サプライチェーン ■G-SCM【Global SCM】インターネット経由で、複数倉庫の在庫の状況や、入出庫 情報の照会、輸送中の物品などを顧客が確認できるシステム ■CSS【Customer Service System】インターネットに対応した顧客専用の貨物追跡シ ステム ■UFS【Unified Freight System】すべての輸送貨物に対応した、KWE 全体のフォワー ディングシステム ■UWS【Unified Warehouse System】物流拠点における在庫管理およびディストリ ビューションに対応した、ロジスティクス業務のためのシステム ■URS【Unified Reporting System】実績管理などを担っている標準システム ■UAS【Unified Accounting System】会計管理などに使っているシステム ■その他 SDS=貿易書類作成システム、PC2000=日本の輸入通関システム、OMS =受注業務システム、L-PASS=近鉄ロジスティクスシステムズが持つ国内の貨物追 跡システム 情報子会社 プロジェクト SEPTEMBER 2007 56 開発体制 テムを細かく作りこんでいたのだが、 新システムでは開発手法についての 判断も多くがKGITに委ねられた。
その結果、日本的な手作りにはこだ わらず、パッケージソフトの大胆な 活用も現実的な選択肢となった。
最初に着手したのは、システム刷 新のきっかけとなったグローバルな貨 物追跡システムだった。
フォワーディ ングの仕組みそのものはローカルシス テムの集合体でも、まずは顧客ニー ズに応えなければいけない。
そこで顧 客向けの「CSS」から着手し、次 いで「UWS」、「UAS」という順 番で開発していった。
保管・流通加工のための「UWS」 は、一般にWMS(倉庫管理システ ム)と呼ばれているシステムの延長 線上にある。
KGITはこのシステ ムを、米国の大手WMSベンダーで あるEXEテクノロジーズ(※〇三 年にSSAグローバルが買収、さら にSSAは〇六年にインフォアに買 収されている)のパッケージを大幅 に修正して開発した。
「UWS」は日本でも成田ターミナ ルで九八年の稼働時から導入された。
当初は標準システムならではの使い 勝手の悪さもあったようだが、徐々 に使いこなしていった。
他にも世界 各地の主要拠点に導入され、今では 完全に定着している。
経理の「UAS」にも既存のER Pパッケージを活用した。
国際会計 基準への対応や各国の税制への適応 が求められるこの分野では、既製品 のほうが有利と最初から考えていた。
複数のERPパッケージを検討した なかから、自由度が高く、価格の安 かった米オラクルの製品を選択。
全 世界に展開していった。
最大の難関は、フォワーディン グ業務の「U F S 」だった。
ここ でも最初はパッケージ活用を考えた が、「アジアやヨーロッパなど一部の エリアだけをカバーする製品はあった。
しかし、グローバルをカバーできる パッケージは見つからなかった。
従 来のようにエリアごとに別々のシステ ムを導入して、その情報を一つのバ スケットで管理するようなことはした くなかったため、手作りで対応する ことを決めた」(計良部長) このときの手作りという選択が厄 介な問題を招くことになった。
もと もと国やエリア別に異なるシステムを 使っていたのは、フォワーディング業 務で処理すべき業務内容がエリアご とに異なっていたからだ。
これを標 準システムで処理するためには、業 務のやり方そのものを見直さざるをえ ない。
既存のパッケージソフトに全 員が従うというのならまだしも、ゼ ロから手作りするシステムでこれをや るのは容易ではなかった。
結局、KGITの発足から五年余 り経っても「UFS」は動かなかった。
社内では不満が噴出した。
業を煮や した経営陣は、二〇〇二年十一月に 改めて「ニューKGIT」と呼ぶ大 規模プロジェクトを発足。
テコ入れ を図った。
責任者として、情報シス テム部の部長職を離れてすでに一〇 年が経過していた松田氏に白羽の矢 が立ち、プロジェクトを牽引してい くことになった。
このときアドバイスを受けた外資 系コンサルティングファームからは、 「UFS」の開発が停滞してしまっ た理由として、経営レベルの関与不 足や、開発体制の弱さ、ユーザーの 参画が少ないことなどを指摘された。
皮肉なことに、ダラスに本社を構え るKGITを中心とする開発体制で は、技術的に高度なことは追求でき ても、業務そのものを変えていくの は難しかったのである。
ニューKGITプロジェクトは「三 年で全システムを動かす」ことを社 内で宣言した。
そしてコンサルタン トの力も借りながら、ユーザー部門 の部門長を組織化するなどして、全 社的でかつグローバルな推進体制を 作り上げていった。
このプロジェク トの稼働中は毎週水曜日に世界各国 の関係者が参加するテレビ会議が催 され、業務の標準化などの難問を一 つずつ解消していった。
プロジェクトのスタートから約三 年半後、ついに「UFS」は稼働し た。
現場からは以前より使い勝手が 悪くなったという批判の声も伝わっ てきた。
それは当然とも言えた。
「U FS」では、貨物の発地側で入力し たデータを、着地側ですぐに利用で きる仕組みになっている。
そのメリッ トはシステム全体を評価しなければ 分からない。
役割を終えたプロジェ クトは〇六年六月に解散した。
インドにテスト環境を置き 開発実務を外注化 以降、KWEグループに所属する システム部門の役割分担はより明確 になった。
戦略はKWEの本社が策 定し、システム開発のための方針な どは主にダラスのKGITが決める。
情報システム部の計良長雄部 長 57 SEPTEMBER 2007 3PL 準システムはすべて英語で作られて いる。
日本で使うときの操作画面の 一部こそ日本語で表示されるが、こ れはあくまでも例外的なローカライズ だ。
日本以外では、すべて英語で業 務を行っている。
テレビ会議で世界 各国をつなぎ、ちょっとした議論を 英語でやるのも日常茶飯事だ。
情報システム部に所属していた時 代から、意識的にIT人材の育成に 努めてきた松田副社長は、「ITベ ンダーはたくさん存在するが、どの ようなシステムを作るかという計画 はKWEの社員にしか作れない。
幸 い現在のKWEにはグローバルにI Tを使いこなせる要員が育っている。
もし私が明日、辞めるとしても、会 社に残したと胸を張れるのが人材だ」 と満足そうに語る。
もっとも、大型開発が一段落した こともあって、ITの担当者数を適 正規模に圧縮していくことも求めら れている。
KWEグループには現在、 連結ベースで約七五〇〇人の社員が いる。
このうちIT担当者は約三九 〇人を数える。
情報システム部とし ても、「ちょっと多すぎるため三〇〇 人体制ぐらいにできないかと考えて いる」(計良部長)のだという。
ITコストについても同様に削減 する必要がある。
ニューKGITプ ロジェクトがピークだった〇四年には、 KWE全体のITコストは一年で約 六五億円かかっていた。
連結売上高 が二三八三億円(〇五年三月期)だっ たことから計算すると、売上高IT コスト比率は約二・七%だった。
こ の水準を二%程度まで減らしていく ことを模索している。
ロジスティクスのITを どう高度化するかが課題 一方では、ITコストを押し上げ る要因も発生している。
IT部門が 現在、頭を悩ませているのはロジス ティクス分野における対応だ。
顧客 主導で仕組みを作ることを基本とし てきた同社のロジスティクス事業では、 顧客ごとのシステムのカスタマイズが 避けられない。
結果として社内には 一〇〇〇パターンを超すシステムが 現存していて、この数は急速に増え つづけている。
約四〇人いる本社の情報システム 部員の四分の一は顧客向けシステム を担当している。
人件費だけでも負 担は大きいのだが、外部ベンダーへ の支払いが発生しないこうした内部 処理は、営業部門のコスト意識を希 薄にしてしまう。
このため営業ニー ズに基づく開発コストは、原則とし てすべて営業部門が負担するように しているのだが、新規案件に伴うシ ステム構築や既存システムの修正は 引きも切らない。
このままでは仕事量の伸びに応じ て、IT部門の負担もどんどん増え てしまう。
「そろそろKWEとしての SCMや3PLの道具立てを明確に していく必要がある。
既存のシステ ムを使ってもらうケースと、一から 専用システムを作るケースで価格を 変えるなどの対応をしていかなければ、 体力的に追いつかなくなる」と計良 部長は懸念している。
しかし、ロジスティクス事業にお けるシステム投資を効率化するには、 営業ターゲットの絞りこみなど、事 業戦略自体にまでメスを入れる必要 がある。
営業対象の荷主を、業種だ けでなく、グローバル展開の度合いや、 事業規模などにまで踏み込んで分析 し、そこで必要とされるシステム構 築費用を算定した上で対応を判断し ていかなければならない。
K W EのI Tは、フォワーディ ング業務や管理システムについては、 十年越しの刷新構想にメドをつけた ことで同業他社に対する優位性を確 保できているように見える。
ただし、 ロジスティクス分野におけるIT改 革は、これからが正念場だ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) そしてシステム開発の実務はインド のITベンダーに外注している。
グ ローバルシステムのデータセンターは 東京とダラスの二カ所に設置してい るが、インドにもシステム開発のた めのテスト環境がある。
きわめてグローバルな開発体制を 敷いていることもあって、一連の標 CSS UFS UAS UWS URS データ照会 情報照会 実績照会 データのダウンロード CSS UFS UAS UWS URS TYO DAL India お客様 JP GLOBAL DATA CENTER GLOBAL DATA CENTER AM Development Offshore (TEST 環境のみ) Internet 図2 KWE Global Data Center 構成イメージ ※データはAMDC̶JPDC 間でリプリケーション(相互コピー)でバックアップ
すでに日本をはじめ、アメリカ、 欧州、アジアでは全面稼働しており、 同社が扱う航空貨物の九六%(件数 ベース)を処理している。
一足早く 稼動したロジスティクス分野の標準 システムなどと合わせると、IT刷 新は完成しつつある。
日本企業は現場からのボトムアッ プで情報システムを開発する傾向が あり、国や法人ごとに異なるシステ ムを使っていることが多い。
情報を 一元的に扱うときは、バッチ処理で データを集めて対応しているのが現 状だ。
こうした考え方は物流分野で も一般的で、欧米の国際インテグレー ターのように世界中のネットワークの 末端までシステムを標準化している ほうが珍しい。
しかし、グローバルで活動する荷 主企業にとっては、世界規模で情報 を一元管理することは、もはや常識 だ。
陳腐化の早い製品を扱う外資系 ハイテクメーカーは特にそうした意識 が強い。
このことをKWEは一九九 六年に思い知らされた。
以前から取 引実績があり、同社にとって重要な 営業ターゲットでもある米系ハイテ クメーカーから、グローバルなIT を持っていないことを理由に取引を 断られてしまったのである。
すでに欧米の有力フォワーダーは世 界規模のシステムを持っていた。
こ のままではライバルとの競争に勝てな い──。
とりわけ危機感を募らせた のが営業畑の役員を務めていた辻本 博圭現社長だった。
辻本氏は社内で 「情報システムがぜんぜんグローバル になっていない」と主張。
基幹シス テムを刷新し、世界規模で貨物追跡 などを行う体制の実現を訴えた。
それ以前のKWEにとっては、国 や現地法人ごとにシステムが異なる のは当たり前だった。
八〇年代に同 社がはじめて情報システム部門を発 足したときからI Tに携わってきた 松田芳昭副社長は、次のように明か す。
「税関のシステムや顧客ニーズは 地域ごとに違う。
しかも我々の航空 貨物の品質は高い。
結果だけを一つ のバスケットに入れて、みんなが見 られるシステムさえ作っておけば、そ れぞれのシステムはローカルで十分だ と思っていた」 ところが肝心の顧客は、そうは考 えていなかった。
九六年の物流コン ペでそれがハッキリしたことから、I T 部門としてもグローバルシステム の実現に本腰を入れることになった。
ただ、この壮大な計画には、巨額の 投資と長い準備期間が必要だ。
経営 トップの全面的な支持がなければ成 功はおぼつかない。
そこで外部の経 営コンサルタントの手も借りながら、 まずは社内のコンセンサスを作り上 げていった。
国際物流コンペの敗退をきっかけに 10年かけてグローバルシステムを整備 近鉄エクスプレス グローバルなIT がないことを理由に、96 年に重要な取引先のコンペから締め出さ れた。
これを機にシステム開発のための情報子会社をダラス(米テキサス州)に設置。
国や地域ごとにローカルシステムを運用する体制の見直しに着手した。
途中、フォ ワーディング業務のシステム開発に難航したものの、2004 年には一連の世界標準シ ステムを完成。
以降は各地に導入を進め、10 年越しの構想にメドをつけた。
グローバル化 ◆本社組織 本社・情報システム部(千葉県市川市)に 44人の社員が所属。
ベンダーの常駐者なども入れると 常時110人弱が勤務 ◆情報子会社 国内にはシステム子会社は持っていな い。
80年代に1度設立したが、役割が不明確だったた め数年で廃止した。
現在は96年に米ダラス(テキサス州) に設置した開発子会社が、グローバルレベルで標準化し たシステムの開発を担っている。
《沿革》1981年にNECのホストコンピュータを使ったシステムを稼働し、日本ではこの仕組み を拡充しながら基幹システムとして活用してきた。
しかし90年代半ばに、主要取引先の1社だ った米系ハイテクメーカーから、グローバルを一元的に管理できる情報システムがないことを 理由に入札から締め出された。
これをきっかけに96年に米ダラスにシステム子会社を新設。
全 世界を標準化されたシステムで一元管理できるITの仕組みづくりに着手した。
ロジスティクス や経理分野のシステムはほどなく稼働したが、肝心のフォワーディング業務の基幹システム 「UFS」の開発は難航。
そこで2002年に新たな社内プロジェクトを立ち上げ、改めて開発に本 腰をいれた。
そして05年から各地への導入をスタート。
今年に入って中国の主要拠点への導 入を進めた結果、すでに取扱航空貨物の全件数の96%を新システムでカバーしている。
55 SEPTEMBER 2007 米国に開発子会社を新設し 世界標準システムを構築 いざ実行が決まると、KWEの米 国法人で責任者を務めていた辻本氏 は、今度はシステム開発を担う情報 子会社を米ダラス(テキサス州)に 新設することを提案した。
欧米系の 有力フォワーダーを凌駕する世界標 準システムを作ろうとしたら、日本 という殻を破る必要がある。
そもそ も国内で開発しようにも、最先端 の仕事を任せられる人材やITベン ダーを確保できないというのがその理 由だった。
標準システムを世界各地の法人が 一緒に使うとなると、運用・保守の ための負担をどう処理するかという 問題もあった。
諸々の課題をクリア するためKWEは、九六年一〇月に ダラスに近鉄グローバルインフォメー ション・テクノロジー(KGIT) を設立。
この会社が適正な利益を確 保しながら、システム開発や運用を 担っていく体制を整えた。
経営レベ ルのIT戦略はKWEの情報システ ム部(千葉県市川市)が策定し、グ ローバルITの開発や運用は新会社 が担うという役割分担である。
このときKGITで開発すること になったシステムは主に四つあった。
フォワーディング業務のための「U FS」、ロジスティクス分野で保管・ 流通加工をまかなう「UWF」、イ ンターネットに対応した貨物追跡な どの顧客向けシステム「CSS」、そ して経理・会計の「UAS」である。
さらに日常業務を管理するための「U RS」も、業務システムとは別に作 る必要があった(上図参照)。
いずれも、まずはグローバルな標 準システムを開発し、ここに最小限 のカスタマイズを加えて世界各地の 法人に導入していく。
これはKWE にとって、IT戦略の大幅な方針転 換を意味していた。
前述したように、それ以前の同社 のIT管理はきわめて日本的なもの だった。
八一年にN E C 製のホス トコンピュータを導入して以来、ほ ぼNEC一社に依存しながら手作り のローカルシステムを運用していた。
八〇年代にはシステムを保守・運用 するための情報子会社も設置。
明確 な存在価値を見出せなかったため子 会社は数年で解散したが、IT管理 の手法はグローバル企業のそれには ほど遠かった。
これがKGITの設立で大きく見 直された。
「NECと関連会社に依 存していたホストコンピュータのシス テムを、グローバルで完全にオープ ンなシステムに変える。
しかも開発 はアメリカのKGITが中心になり、 実際にソフトをつくる作業はインド に外注。
従来とは天と地ほどの差の ある変化だった」と情報システム部 の計良長雄部長は振り返る。
もっとも管理手法こそ日本流だっ たが、フォワーディング業務を世界 中で展開していくには高度なIT武 装が欠かせないというKWEの信念 は一貫していた。
だからこそ先進的 な顧客が示したニーズにも敏感に反 応した。
「日系企業の仕事だけをやっ ていたら、たぶんグローバルなシステ ムの必要性にも気づかなかったはずだ。
グローバル企業のビジネスをやってい たからこそショックを感じたのだと思 う」(松田副社長) 遅々として進まないUFS 改めて社内PJを発足 KGITの発足により、システム 開発の体制は整った。
従来のKWE は、現場の使い勝手を重視してシス IT 担当役員の松田芳昭副社長 図1 KWE のシステムの概要 G-SCM お客様システム 業務システム 管理システム CSS EDI SDS UFS PC2000 UWS OMS L-PASS 在庫計画 供給元出荷 輸出通関 国際輸送 輸入通関 入庫・保管 物流加工 受注業務 出 荷 納 品 UAS URS サプライチェーン ■G-SCM【Global SCM】 インターネット経由で、複数倉庫の在庫の状況や、入出庫情報 の照会、輸送中の物品などを顧客が確認できるシステム ■CSS【Customer Service System】 インターネットに対応した顧客専用の貨物追跡システム ■UFS【Unified Freight System】 すべての輸送貨物に対応した、KWE 全体のフォワーディングシステ ム ■UWS【Unified Warehouse System】 物流拠点における在庫管理およびディストリビューションに対 応した、ロジスティクス業務のためのシステム ■URS【Unified Reporting System】 実績管理などを担っているシステム ■UAS【Unified Accounting System】 会計管理などに使っているシステム ■その他 SDS=貿易書類作成システム、PC2000=日本の輸入通関システ ム、OMS=受注業務システム、L-PASS=近鉄ロジスティクスシ ステムズが持つ国内の貨物追跡システム 図1 KWE グローバルロジスティクスシステム G-SCM お客様システム 業務システム 管理システム CSS EDI SDS UFS PC2000 UWS OMS L-PASS 在庫計画 供給元出荷 輸出通関 国際輸送 輸入通関 入庫・保管 物流加工 受注業務 出 荷 納 品 UAS URS サプライチェーン ■G-SCM【Global SCM】インターネット経由で、複数倉庫の在庫の状況や、入出庫 情報の照会、輸送中の物品などを顧客が確認できるシステム ■CSS【Customer Service System】インターネットに対応した顧客専用の貨物追跡シ ステム ■UFS【Unified Freight System】すべての輸送貨物に対応した、KWE 全体のフォワー ディングシステム ■UWS【Unified Warehouse System】物流拠点における在庫管理およびディストリ ビューションに対応した、ロジスティクス業務のためのシステム ■URS【Unified Reporting System】実績管理などを担っている標準システム ■UAS【Unified Accounting System】会計管理などに使っているシステム ■その他 SDS=貿易書類作成システム、PC2000=日本の輸入通関システム、OMS =受注業務システム、L-PASS=近鉄ロジスティクスシステムズが持つ国内の貨物追 跡システム 情報子会社 プロジェクト SEPTEMBER 2007 56 開発体制 テムを細かく作りこんでいたのだが、 新システムでは開発手法についての 判断も多くがKGITに委ねられた。
その結果、日本的な手作りにはこだ わらず、パッケージソフトの大胆な 活用も現実的な選択肢となった。
最初に着手したのは、システム刷 新のきっかけとなったグローバルな貨 物追跡システムだった。
フォワーディ ングの仕組みそのものはローカルシス テムの集合体でも、まずは顧客ニー ズに応えなければいけない。
そこで顧 客向けの「CSS」から着手し、次 いで「UWS」、「UAS」という順 番で開発していった。
保管・流通加工のための「UWS」 は、一般にWMS(倉庫管理システ ム)と呼ばれているシステムの延長 線上にある。
KGITはこのシステ ムを、米国の大手WMSベンダーで あるEXEテクノロジーズ(※〇三 年にSSAグローバルが買収、さら にSSAは〇六年にインフォアに買 収されている)のパッケージを大幅 に修正して開発した。
「UWS」は日本でも成田ターミナ ルで九八年の稼働時から導入された。
当初は標準システムならではの使い 勝手の悪さもあったようだが、徐々 に使いこなしていった。
他にも世界 各地の主要拠点に導入され、今では 完全に定着している。
経理の「UAS」にも既存のER Pパッケージを活用した。
国際会計 基準への対応や各国の税制への適応 が求められるこの分野では、既製品 のほうが有利と最初から考えていた。
複数のERPパッケージを検討した なかから、自由度が高く、価格の安 かった米オラクルの製品を選択。
全 世界に展開していった。
最大の難関は、フォワーディン グ業務の「U F S 」だった。
ここ でも最初はパッケージ活用を考えた が、「アジアやヨーロッパなど一部の エリアだけをカバーする製品はあった。
しかし、グローバルをカバーできる パッケージは見つからなかった。
従 来のようにエリアごとに別々のシステ ムを導入して、その情報を一つのバ スケットで管理するようなことはした くなかったため、手作りで対応する ことを決めた」(計良部長) このときの手作りという選択が厄 介な問題を招くことになった。
もと もと国やエリア別に異なるシステムを 使っていたのは、フォワーディング業 務で処理すべき業務内容がエリアご とに異なっていたからだ。
これを標 準システムで処理するためには、業 務のやり方そのものを見直さざるをえ ない。
既存のパッケージソフトに全 員が従うというのならまだしも、ゼ ロから手作りするシステムでこれをや るのは容易ではなかった。
結局、KGITの発足から五年余 り経っても「UFS」は動かなかった。
社内では不満が噴出した。
業を煮や した経営陣は、二〇〇二年十一月に 改めて「ニューKGIT」と呼ぶ大 規模プロジェクトを発足。
テコ入れ を図った。
責任者として、情報シス テム部の部長職を離れてすでに一〇 年が経過していた松田氏に白羽の矢 が立ち、プロジェクトを牽引してい くことになった。
このときアドバイスを受けた外資 系コンサルティングファームからは、 「UFS」の開発が停滞してしまっ た理由として、経営レベルの関与不 足や、開発体制の弱さ、ユーザーの 参画が少ないことなどを指摘された。
皮肉なことに、ダラスに本社を構え るKGITを中心とする開発体制で は、技術的に高度なことは追求でき ても、業務そのものを変えていくの は難しかったのである。
ニューKGITプロジェクトは「三 年で全システムを動かす」ことを社 内で宣言した。
そしてコンサルタン トの力も借りながら、ユーザー部門 の部門長を組織化するなどして、全 社的でかつグローバルな推進体制を 作り上げていった。
このプロジェク トの稼働中は毎週水曜日に世界各国 の関係者が参加するテレビ会議が催 され、業務の標準化などの難問を一 つずつ解消していった。
プロジェクトのスタートから約三 年半後、ついに「UFS」は稼働し た。
現場からは以前より使い勝手が 悪くなったという批判の声も伝わっ てきた。
それは当然とも言えた。
「U FS」では、貨物の発地側で入力し たデータを、着地側ですぐに利用で きる仕組みになっている。
そのメリッ トはシステム全体を評価しなければ 分からない。
役割を終えたプロジェ クトは〇六年六月に解散した。
インドにテスト環境を置き 開発実務を外注化 以降、KWEグループに所属する システム部門の役割分担はより明確 になった。
戦略はKWEの本社が策 定し、システム開発のための方針な どは主にダラスのKGITが決める。
情報システム部の計良長雄部 長 57 SEPTEMBER 2007 3PL 準システムはすべて英語で作られて いる。
日本で使うときの操作画面の 一部こそ日本語で表示されるが、こ れはあくまでも例外的なローカライズ だ。
日本以外では、すべて英語で業 務を行っている。
テレビ会議で世界 各国をつなぎ、ちょっとした議論を 英語でやるのも日常茶飯事だ。
情報システム部に所属していた時 代から、意識的にIT人材の育成に 努めてきた松田副社長は、「ITベ ンダーはたくさん存在するが、どの ようなシステムを作るかという計画 はKWEの社員にしか作れない。
幸 い現在のKWEにはグローバルにI Tを使いこなせる要員が育っている。
もし私が明日、辞めるとしても、会 社に残したと胸を張れるのが人材だ」 と満足そうに語る。
もっとも、大型開発が一段落した こともあって、ITの担当者数を適 正規模に圧縮していくことも求めら れている。
KWEグループには現在、 連結ベースで約七五〇〇人の社員が いる。
このうちIT担当者は約三九 〇人を数える。
情報システム部とし ても、「ちょっと多すぎるため三〇〇 人体制ぐらいにできないかと考えて いる」(計良部長)のだという。
ITコストについても同様に削減 する必要がある。
ニューKGITプ ロジェクトがピークだった〇四年には、 KWE全体のITコストは一年で約 六五億円かかっていた。
連結売上高 が二三八三億円(〇五年三月期)だっ たことから計算すると、売上高IT コスト比率は約二・七%だった。
こ の水準を二%程度まで減らしていく ことを模索している。
ロジスティクスのITを どう高度化するかが課題 一方では、ITコストを押し上げ る要因も発生している。
IT部門が 現在、頭を悩ませているのはロジス ティクス分野における対応だ。
顧客 主導で仕組みを作ることを基本とし てきた同社のロジスティクス事業では、 顧客ごとのシステムのカスタマイズが 避けられない。
結果として社内には 一〇〇〇パターンを超すシステムが 現存していて、この数は急速に増え つづけている。
約四〇人いる本社の情報システム 部員の四分の一は顧客向けシステム を担当している。
人件費だけでも負 担は大きいのだが、外部ベンダーへ の支払いが発生しないこうした内部 処理は、営業部門のコスト意識を希 薄にしてしまう。
このため営業ニー ズに基づく開発コストは、原則とし てすべて営業部門が負担するように しているのだが、新規案件に伴うシ ステム構築や既存システムの修正は 引きも切らない。
このままでは仕事量の伸びに応じ て、IT部門の負担もどんどん増え てしまう。
「そろそろKWEとしての SCMや3PLの道具立てを明確に していく必要がある。
既存のシステ ムを使ってもらうケースと、一から 専用システムを作るケースで価格を 変えるなどの対応をしていかなければ、 体力的に追いつかなくなる」と計良 部長は懸念している。
しかし、ロジスティクス事業にお けるシステム投資を効率化するには、 営業ターゲットの絞りこみなど、事 業戦略自体にまでメスを入れる必要 がある。
営業対象の荷主を、業種だ けでなく、グローバル展開の度合いや、 事業規模などにまで踏み込んで分析 し、そこで必要とされるシステム構 築費用を算定した上で対応を判断し ていかなければならない。
K W EのI Tは、フォワーディ ング業務や管理システムについては、 十年越しの刷新構想にメドをつけた ことで同業他社に対する優位性を確 保できているように見える。
ただし、 ロジスティクス分野におけるIT改 革は、これからが正念場だ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) そしてシステム開発の実務はインド のITベンダーに外注している。
グ ローバルシステムのデータセンターは 東京とダラスの二カ所に設置してい るが、インドにもシステム開発のた めのテスト環境がある。
きわめてグローバルな開発体制を 敷いていることもあって、一連の標 CSS UFS UAS UWS URS データ照会 情報照会 実績照会 データのダウンロード CSS UFS UAS UWS URS TYO DAL India お客様 JP GLOBAL DATA CENTER GLOBAL DATA CENTER AM Development Offshore (TEST 環境のみ) Internet 図2 KWE Global Data Center 構成イメージ ※データはAMDC̶JPDC 間でリプリケーション(相互コピー)でバックアップ
