2007年9月号
特集

3PL市場2007 4PL 契約を打ち切り配送管理を内製化──キンバリー・クラーク欧州

4PL 契約を打ち切り配送管理を内製化 ──キンバリー・クラーク欧州 ピーター・サーティーズ キンバリー・クラーク欧州 サプライチェーン部部長  紙製品大手のキンバリー・クラーク欧州は2002 年に、それまで付 き合いのあった4PL 企業との契約を打ち切り、ロジスティクス業務 を内製化した。
その後、同社の対売上高配送費比率は、毎年3%〜5% のペースで改善を続けている。
同社のサプライチェーン部長であるピー ター・サーティーズ氏が、ロジスティクス業務内製化の過程と成果 について語った。
   (取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 売上高の六%を占める配送費  まずはキンバリー・クラークという会社の概要から はじめます。
創業の地はアメリカ中西部で今から約 一四〇年前のことです。
現在はテキサス州ダラスに 本社を置き、ティッシュペーパーの「クリネックス」 やトイレットペーパーの「スコッティ」、紙おむつの「H uggies」、生理用品の「Kotex」などの 有力ブランドを擁しています。
 直近の売上高は一六七億ドル(二兆四〇億円・一 ドル=一二〇円換算)です。
そのうちヨーロッパは 三〇億ドル(三六〇〇億円)となります。
全社の従 業員は五万五〇〇〇人で、ヨーロッパは六五〇〇人 です。
キンバリー・クラーク欧州は、フランスのパリ に欧州本社を置き、イギリスやドイツといった西ヨー ロッパから、ポーランドやロシアといった東ヨーロッ パまで一四カ国に、二七カ所の拠点を持っています(図 1)。
 製品の七〇%はティッシュペーパーとトイレット ペーパー関連が占めており、その配送費は売上高の 六%に上ります。
ちなみに私が以前に勤めていた家 電メーカーでは売上高に占める配送費の比率が〇・ 五%でした。
それと比較すると紙製品の売上高に占 める配送費の大きさがわかってもらえると思います。
 当社はこれまで、他の製造業者と同じように、配 送を中心としたロジスティクス業務を本業(コア・ コンピタンス)ではない業務として位置付け、その 管理を大手4PL企業にアウトソーシングしていま した。
 その当時の年間の配送費は、一億五〇〇〇万〜一 億六〇〇〇万ドル(一八〇億〜一九二億円)でした。
4PL企業に対しては売上高に対する配送費の比率 を引き下げるように、何度も要請していました。
しかし、 結果には結びついていませんでした。
 そこで4PL企業との取引を打ち切り、配送管 理に関する機能を自社内に取り込むことにしました。
本業以外の機能をアウトソーシングすることで、本 社をスリム化しようとする傾向が強いアメリカ系企業 において、この取り組みは異例といえるものでした。
シェアードサービスを導入  配送管理業務を内製化するにあたり、その前段階 のステップとして、それまで欧州の各国に分散して いた会計業務や配送に関する業務を一カ所に集約す る「シェアードサービス」を行いました。
シェアード サービスとは、組織に不可欠な経理やロジスティク ス、総務といった間接業務を一カ所に集約することで、 コスト削減と業務の効率化、サービスレベルの向上 を図る手法です。
通常、企業規模が大きくなるほど 効果が上がるといわれています。
 具体的には二〇〇一年に、イギリス南部のブライ トンに「シェアード・サービス・センター(SSC)」 を立ち上げ、会計業務やカスタマーサービス、受注 業務などを集約しました。
間接業務を集約すること によって、効率を高め、良質の顧客サービスを提供 することが狙いです。
 これに合わせて、シェアード・サービス・センター を機能させるため、全社的な統合基幹業務システム (ERP)としてSAPのR/3の導入を開始しま した。
段階的に導入をはじめ、シェアードサービス の内容を見直すために、途中二年ほどの期間を空け て、最終的には二〇〇六年のロシアへの導入をもって、 すべてを完了させました。
 ERPソフトを導入した背景には、九〇年代の終 SEPTEMBER 2007  26 欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議? Case Study 27  SEPTEMBER 2007 3PL市場 2007 特集 わりごろからビジネスの変化するスピードが速くなっ ていったことに対する危機感がありました。
変化に 効果的に対応するために、ヨーロッパ全体で売り上 げや在庫、需要予測などの情報を共有し、さらなる 成長につなげるような仕組みを必要としており、その 核としてSAPのソフトを選んだのです。
 センターの場所を海辺の保養地として有名なブラ イトンに選んだのは、イギリスの語学学校が集まる 土地柄だからです。
ここに英語を勉強するために集 まってきたヨーロッパ二二カ国の人材三二〇人を雇っ て、業務に当たらせています。
 例えば、フランス最大手の小売り業者であるカル フールからの注文の電話は、ブライトンにある「フ ランス・デスク」につながります。
そこでフランスか ら英語を勉強に来たフランス人の従業員が、母国語 で対応します。
各国の「デスク」には、注文を受け る担当や、在庫を管理する担当、配送業者を手配す る担当などがおり、一連の業務がその場で完結する ようになっています。
運送会社一五〇社と直接運賃交渉  シェアード・サービス・センターの業務は、立ち 上げ当初は会計処理や受注処理が中心でしたが、翌 二〇〇二年からは受注業務に付随して配送業務も処 理することになりました。
それまでの4PL企業との 取引を打ち切って、配送管理を内製化したわけです。
その狙いはコスト削減にありました。
 4PL企業にアウトソーシングすれば配送管理に 関わる手間や労力を省くことができます。
しかしその 反面、業務に対するコントロールが大きく制限され ることにもなります。
またパートナーが大きな4PL 企業であればあるほど、小回りが利かないという傾向 も出てきます。
 そこで当社は、配送業務を自社に取り込むと同時 に、一〇〇社を超える中小のトラック業者と取引を 始め、業者同士を競争させることによって、また積 極的に安い運賃で運んでくれる業者を探すことによっ て、自ら配送費を引き下げようと考えたのです。
 配送管理を内製化した具体的な狙いを列記すると 以下のようになります。
?取引業者数を増やすことで運賃を引き下げる。
?取引業者数を増やしながらも管理費は引き下げる。
?新規契約の成立を迅速にする。
?契約内容を柔軟にする。
?すべてのデータをコンピュータ上でやり取りする。
 自社で配送の手配を始めてからは、「スペインのA 地点からB地点に行くトラックが一〇台空いている。
運賃は一台一〇〇ユーロだがどうだろう」といった 中小のトラック運送業者からの問い合わせにも柔軟 に対応できるようになりました。
 4PL企業が間に入っていたときは、業者の身元 照会や正式な契約書を取り交わすのに時間がかかり、 返事をするのに二、三週間かかっていました。
しか しそうする間に、そうした業者のほとんどはほかで仕 事を見つけてしまいます。
4PL企業が安全に仕事 をしようとすることが、運賃の高くつく一因となって いたのです。
運送契約書を簡略化  当社では三人の専属社員を配して、既存トラック 業者との運賃交渉と、新規の業者との取引開始に関 する業務を行っています。
新規業者からの問い合わ ■ベルギー ■チェコ ■デンマーク ■フランス ■ドイツ ■イタリア ■オランダ ■ポーランド ■ロシア ■スロバキア ■スペイン ■スイス ■トルコ ■英国 14 カ国・27 拠点 図1 キンバリー・クラークの欧州拠点 工場や販売拠点シェアード・サービス・センター シェアード・サービス・センター 導入時期 地域 業務内容 場所 人員 使用ソフト 2001 年に開始して、2006 年に終了 西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ イギリス南部のブライトン 320 人(22 カ国から) SAPのR/3 会計処理とその分析、受注管理と出荷業務、 そのほかの付帯業務 せには当日か、遅くとも翌日には返事のできる態勢 を整えました。
安い運賃を獲得するには、この迅速 な対応が不可欠です。
そのために、運送契約書も簡 単な書式のもの一枚に簡略化しました。
これをファ クスでやり取りするだけで契約が成立します。
 われわれは、三年契約のような長期にわたる契約 を求めてはいません。
むしろ、一定の範囲内であれ ば協力会社の出入りはあったほうがいいと考えていま す。
実際には、協力会社約一五〇社のうち、毎年二 〇社前後が入れ替わっています。
 当社に特化したサービスを求めれば、輸送の品質 は高くなりますが、運賃も高くなります。
トラックの 輸送枠を、その時々のマーケットから安く購入する やり方でも、一定のサービスレベルは確保できると判 断しました。
また多くの業者を集めることで、運賃 の安くなる帰り荷のルートも数多く活用できるように なりました。
当社仕立てのサービスではなく、ニッチ (隙間)のサービスを探すことにしたのです。
 現在では、配送全体の八割が貸し切り輸送を使っ ており、残りの二割が特積み輸送を使っています。
特積みを使うのはフランス行きの貨物ですが、これも 二年後をめどに貸し切り輸送に切り替えていく予定 です。
求車求貨システムも利用  輸送管理システムについては一九九九年から、シュ ナイダー・ロジスティクスの「SUMIT」という ソフトを使ってきましたが、フランス行きの貨物の切 り替えをスムーズにするためにも、i2テクノロジー ズのソフトに移行することを検討しています。
 二〇〇三年から求車情報システムの利用を始めて おり、二〇〇五年からは現在使用しているトランス ワイドというヨーロッパ全域における求車求貨情報 システムに加入することによって、常時二〇〇〇社 近くのトラック業者に対して、運んで欲しい貨物の 情報を発信しています。
 複数の中小トラック業者と取引をする際、どうやっ て正確に迅速にデータをやり取りするかということ が大きな問題になります。
取引のある一五〇社のう ち、九割まではEDI(電子データ交換)が可能です。
しかしなかには電話やファクス、スプレッドシート(表 計算ソフト)を使いたいという業者もいます。
その中で、 一番多いのはファクスです。
こうした業者を排除し ては、安い運賃を手にすることはできません。
 当初は、シェアード・サービス・センターの人員 を使って、手作業でデータをコンピュータに入力して いました。
しかし取引にペーパーワークが必要になる と、業務のスピードと効率は著しく落ちるし、ER Pソフトを導入して達成したデータの交換性や精度 も落ちてしまいます。
専用ソフトでペーパーレス化  この問題を解決するために、外部の力を借りました。
社内にも情報システム部門はあるのですが、そこに 頼んでいては時間がかかりすぎると判断したからです。
 われわれが選んだのは「Omprompt(オン プロンプト)」というソフトです。
このソフトは、ト ラック業者が、ファクスであろうと、電話であろうと、 いかなる手段で送られてきたデータでも、当社のE DIのフォーマットに変換するというものです。
 このソフトを導入したことでトラック業者は好きな 通信方法を選びながらも、当社はその情報を一〇〇% 電子データとして取り込むことができるようになりま した。
オンプロンプトを利用することによって、簡単 SEPTEMBER 2007  28 3PL市場 2007 特集 で迅速、柔軟性に富むコミュニケーションが可能に なりました。
 オンプロンプトの費用は、利用回数に応じて料金 を支払うかたちの従量制となっています。
初期投資 は必要ありませんでした。
もしこれが導入時に一万 五〇〇〇ドル(一八〇万円)もかかるとなっていた なら、二の足を踏んだかもしれません。
データ変換 の費用が完全な変動費となったことも、システムの 導入を容易にしました。
 またこれにより、輸送管理システムからERP、 求車求貨情報までのデータが無理なくつながりました。
しかもこのソフトには、郵便番号などの間違いを自 動的に訂正する機能もついているので、マスターデー タの精度も高まりました(図2)。
米国でも内製化を検討  システムの利用費用について具体的な数字を公開 することはできませんが、以下の側面から内製化と 情報の電子化のメリットを勘案すれば充分に採算が 合っているということができます。
 配送業務を社内に取り込んで以降、当社の売上高 に占める配送費の比率は年率で三〜五%の範囲で下 がり続けています。
現在は年間に約一億七〇〇〇万 ドル(二〇四億円)を支払っています。
 全体のシステムにオンプロンプトを導入したこと で、データの手作業から解放され本来の業務である 顧客への対応に集中することができるようになりまし た。
これによってシェアード・サービス・センターの 生産性は一六%上がりました。
加えてトラック業者 と取り交わす契約書の読み取りにも、オンプロンプ トを使うことで、業者が入札してから契約が成立す るまでの時間が、それまでの半分で済むようになりま した。
 データの精度が上がったことで、顧客からの問い 合わせに、タイムリーに正確に答えることができるよ うになりました。
顧客からのクレームは減少し、配 送費のインボイスの間違いなども減少しました。
 今後の展開としては、小売業界で高まっているR FID(ICタグ)の対応のために、オンプロンプ トを使えないだろうかと考えています。
ヨーロッパで はドイツの小売り大手であるメトロ、アメリカでは ウォルマートが主導する形でRFIDの利用が進ん でいますが、それが中小の小売りにまで広がるように なった時点で、サプライヤーや小売りから上がってく るデータを変換するのにオンプロンプトを利用したい と思っています。
 それとは別に、現行の倉庫管理システムをERP ソフトにつなげることや、ヨーロッパでの配送業務の 内製化の成功例を本国アメリカやほかの地域でも導 入する可能性も検討しています。
  29  SEPTEMBER 2007 図2 キンバリー・クラークの配送管理システムの概要 ERP ソフト SAP R/3 輸送管理システム シュナイダー・ロジスティクスの SUMIT 倉庫管理システム 求貨求車情報システム トランスワイド 中小トラック業者 約150 社 OmPrompt 会社概要(キンバリー・クラーク) 本 社 創 業 業 務 売上高 最終利益 従業員数 欧州本社 欧州売上高 欧州従業員数 米国テキサス州ダラス 1865 年 パーソナルケア、ヘルスケアなどの製造 167 億4700 万ドル (前年同期比5.3%増) 14 億9900 万ドル(同4.4%減) 55,000 人 パリ 30 億1400 万ドル 6,500 人 (いずれも2006 年の数字)

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