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OCTOBER 2007 32
環境対応
東レ
使用済みの制服を繊維の原料に再生
「広域認定」取得して全国回収網構築
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
エコ事業の売り上げ倍増へ
東レグループでは〇五年度から「エコドリ
ーム計画」を進めている。 “エコドリーム”とは、
従来から同社が取り組んできた環境保全活動
の総称だ。 同社の製品の中から環境への配慮
の大きい製品を選んで“エコドリーム”のブ
ランド名を冠し、これらの製品の売り上げを
年々拡大していくことにより、事業活動の面
から地球環境に貢献しようという取り組みだ。
“エコドリーム”ブランドの製品には大き
く、環境配慮型製品とリサイクル製品の二種
類がある。 環境配慮型は、製品のライフサイ
クル全体でエネルギー使用量や炭酸ガス発生
量を抑えた省エネ型製品や、水・空気などの
浄化に役立つ製品を指している。 炭素繊維強
化プラスチック(CFRP= Carbon Fiber
Reinforced Plastics)などがその代表格だ。
軽量で強度があるため、自動車や航空機の外
板部材や構造材料などに用いることで燃費が
大きく向上し、環境負荷軽減につながる。 東
レが需要拡大に最も期待をかける製品だ。
とうもろこしなど非石油系原料からつくら
れる植物由来の材料なども、炭酸ガスの抑制
に効果のある製品として力を入れている。 こ
のほか家庭で使う浄水器や空気清浄器のフィ
ルター、さらに海水を淡水に変える装置など、
浄化型製品の品揃えも豊富だ。
一方、使用済み製品や製造工程で排出さ
れるクズなどを使ったリサイクル製品事業も
エコドリーム計画のもう一つの柱となってい
る。 繊維事業と樹脂・フィルム事業部門にリ
サイクル推進組織を設け、ユニフォームやエ
アコン用部材をリサイクルして製品の原料と
して再利用する活動などを行ってきた。 今後
はこうした活動を強化してリサイクル製品事
業の売り上げ拡大を図る。
環境配慮型製品とリサイクル製品事業を合
わせた売上高は〇五年度で一五三〇億円と、
グループ全体の売上高の十一%という比率だ
った。 これを二〇一〇年度までに二倍以上の
三四〇〇億円へ拡大することを目指している。
このうち繊維リサイクル事業は、〇六年度
の売上高が七五億円で、二〇一〇年に一〇
〇億円の売上高を目標に掲げている。 エコ
ドリーム計画全体から見ると規模は小さいが、
東レでは繊維リサイクル事業を循環型のトー
タルリサイクルシステムを確立するうえでの
極めて重要な事業分野として位置づけている。
繊維リサイクル事業のなかでは、ペットボ
トルやフィルムクズなどの再生原料を使って
生地を作る「再生型」のウエートが大きい。
〇一年四月に、自治体や企業に対して環境
に配慮した物品の購入を促すグリーン購入法
が施行され、対象品目に制服・作業服が入
った。 これが追い風となり、同社をはじめ繊
維メーカーの多くがこの方法でリサイクル事
業を本格的に展開し始めた。 自治体やメーカ
ー、小売りチェーンなどが制服の生地に採用し、
市場は少しずつ拡大している。
東レはユニフォームを使用後に回収して、ケミカ
ルリサイクルする事業を今年度から本格的に展開す
る。 このほど廃棄物処理法の特例制度利用「広域認定」を取得、日本通運のネットワークで全
都道府県のユーザーから同社の工場へ回収する体
制を整えた。 3 年後に6 万点の回収をざしている。
33 OCTOBER 2007
ただし「再生型」ではリサイクルに限界が
ある。 再生原料からユニフォームをつくっても、
使用後に焼却・埋め立て処分されてしまえば、
その段階でリサイクルは終わる。 そこで近年
では、もう一歩リサイクルを進め、使用後の
ユニフォームを回収して繊維などの原料とし
て再利用する「回収循環型」のリサイクルが
志向されるようになった。
小売店で不特定多数の消費者に販売され
たカジュアルウェアなどの一般衣料を使用後
に回収するのは極めて難しい。 だがユニフォ
ームならかなりの割合で販売先を特定でき
る。 そのような大口ユーザー向け製品を対象に、
東レをはじめとした大手合繊メーカーが回収
循環型リサイクルに取り組んでいる。
「循環型」で用途は拡大
メーカーが実施する回収循環型リサイクル
には三つの方法がある。 一つ目は回収した繊
維製品を自社工場の発電用ボイラーで燃やし、
熱エネルギーとして利用するサーマルリサイク
ル。 低コストで効率のいい方法だが、燃やす
時にCO2が発生するというマイナス面がある。
二つ目はマテリアルリサイクル。 回収した
繊維を裁断して熱を加え、液体にしたものを
成型してボタン・ファスナーなどの副資材や
ハンガーをつくる。 この方法は、溶解する際
に液体に異物が残るため再利用の用途が限定
されるのが弱点だ。
これに対して究極の循環型リサイクルとい
えるのが三つ目のケミカルリサイクルだ。 裁
断後に解重合という化学処理を行うことによ
って、もとの繊維製品の原料に戻してしまう
ことができる。 この方法なら用途は限定されず、
半永久的に再利用が可能になる。
東レの繊維リサイクル事業のなかで、回収
循環型の売り上げは〇六年度実績が十一億
円だった。 まだ規模は小さいが、今後、同社
はこの分野の売り上げ拡大を図り、なかでも
環境面で最も優れたケミカルリサイクル事業
に力を入れていく方針だ。
その第一弾として今年から、「ナイロン6」
という製品を使って製造した雨衣や防寒衣、
作業服などを対象にケミカルリサイクルを本
格的に展開する。
ケミカルリサイクルは技術的な難易度が高
い。 しかもこれまでは、マテリアルリサイク
ルに比べて工程でのエネルギー消費量が多い
という問題を抱えていた。 東レは独自の製法
によってエネルギーの消費量を抑えることに
成功し、技術基盤を確立。 回収した使用済
みユニフォームを製品の製造工程で出た繊維
クズなどといっしょにケミカルリサイクルする
施設を名古屋事業場内に稼動させた。
ケミカルリサイクルを行うには、対象製品
をリサイクルしやすいように設計(易リサイ
クル設計)しておくことが欠かせない条件と
なる。 表地も裏地もナイロンなどの同一素材
にする、副資材に天然素材、金属類などを一
切使用しない、といった易リサイクル設計の
ガイドラインをあらかじめ定めておく。 これ
をもとに商品化されたユニフォームだけを回
収してリサイクルする。
100
80
60
40
20
0
(億円/年)
2002年
(実績)
2004年
(実績)
2006年
(実績)
2008年
(計画)
2010年
(計画)
23
61 64
77
85
15
13
11
7
6
2004年2005年2006年
(計画)
2010年
(計画)
1,310
1,530
1,800
3,400億円
(売上高)
560億円
(営業利益)
リサイクル
有害物質削減
空気浄化
水浄化(水処理)
エネルギー削減
炭酸ガス削減
繊維リサイクル売上げと今後の計画「エコドリーム計画」による事業拡大
回収循環型
再生型
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ユニフォームの一般的なライフサイクルは
三〜五年。 東レでは数年前からナイロン6の
易リサイクル設計されたユニフォームを販売
しており、これらがまもなく回収の時期を迎
える。 本格的なリサイクルの開始に向けて同
社は、ユーザーのもとから使用済みユニフォ
ームをどのように回収するかを技術面と並ぶ
重要な課題ととらえ、その仕組みづくりに取
り組んできた。
日通のネットワークを活用
使用済みユニフォームについては、環境省
所管の社団法人環境生活文化機構が九六年
から、会員であるユニフォームメーカーなど
にリサイクルシステムを提供している。 ユー
ザーがユニフォームの購入にあたって使用後
のリサイクルを希望する場合に、メーカーが
機構に「リサイクルマーク」を交付してもらい、
これをユニフォームに縫着して販売する。
このマークのついたユニフォームが使用済
みになると、機構の指定する業者がユーザー
のもとへ回収に行き、指定工場でリサイクル
処理が行われる。 回収・リサイクルにかかる
費用はユーザーがユニフォームの購入時に支
払い、機構がプールしておく。 〇六年度はこ
のシステムの運用によって七万二〇〇〇点が
回収され、三八万六〇〇〇枚のリサイクルマ
ークが交付されている。
東レはケミカルリサイクルにおけるユニフ
ォームの回収を、機構のシステムと連携して
クとして産業廃棄物に区分されている。 従っ
て機構の仕組みのなかで一般廃棄物の「専ら
物」として扱うことはできない。
その一方、産業廃棄物には廃棄物処理法
の特例制度があり、「広域認定」を取得した
メーカーは自治体ごとに収集運搬の許可をと
らずに産業廃棄物となった自社製品を回収す
行うことにした。 同社のナイロン6で製造さ
れたユニフォームに機構の「リサイクルマー
ク」をつけて販売する。 これにより、ナイロ
ン6の易リサイクル設計がなされた使用済み
ユニフォームを、「リサイクルマーク」で識別
して回収することが可能になる。
ただし、ユニフォームの回収を行うには別途、
法律上の対応が必要だった。 廃棄物の回収は
廃棄物処理法で規制されており、使用済み製
品を全国のユーザーから回収するには自治体
ごとに収集・運搬の許可がいる。 もっとも繊
維製品の廃棄物はこの規制の対象から外れて
いる。 廃棄物処理法の成立する以前から回収
が行われていた古繊維・古紙・くず鉄・空き
瓶の四品目については、再生利用を目的とす
る一般廃棄物という意味の「専ら物」として
定義され、廃棄物処理法の適用を受けない。
機構では、使用済みのユニフォームがこの
「専ら物」にあたり自治体ごとの許可やマニ
フェストの管理は不要であるとした東京都の
見解に基づいて、回収を行っている。 ところが、
東レがケミカルリサイクルを行うナイロン6
製の使用済みユニフォームは、廃プラスチッ
繊維リサイクル室の大橋庸二
担当部長
リサイクルシステムの流れ
東レユーザー
?リサイクルマーク付
ユニフォーム製造
?ユニフォームを原
料へリサイクル
?マーク付ユニフォーム販売
?使用後ユニフォーム回収
日本通運
環境生活文化機構
?リサイクルマーク
交付
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ることができる。 そこで同社はこの制度を利用、
独自に「広域認定」を取得して回収を行う
方法をとることにした。
「自動車や家電品と違って、繊維にはリサ
イクルを実施するうえでの規定を定めた法律
がないため、廃棄物処理法の解釈が曖昧なま
ま回収を行っているケースも多い。 広域認定
をとることで法に則った形でリサイクルを進
められる」と、同社繊維リサイクル室の大橋
庸二担当部長は説明する。
同社は今年の五月、日本通運とその子会社
など再委託先を合わせた一一四社の運送会社
を協力回収業者として登録し、ナイロン6製
ユニフォームの産業廃棄物を対象に広域認定
を取得した。 これにより、日通のネットワー
クを使ってユニフォームを全国のユーザーか
ら名古屋の事業場へ回収できるようになった。
過去の販売実績をもとに同社では、ケミカル
リサイクルの対象となる回収量を初年度に八
〇〇〇点、三年後には六万点と予測している。
“出口問題”を解決
繊維のリサイクル率は自動車や家電品と
比べてはるかに低い。 流通構造が複雑なうえ、
多様な素材からなる混合品が多く、一律にリ
サイクルできないことが主な理由とされてい
る。 だが、それ以上に問題なのは、繊維には
自動車や家電品のように有効な資源として再
利用する道がこれまでなかったことだ。
回収されても従来の「専ら物」としてリサ
イクルする方法では、裁断後に反毛という処
理を施して作業用の軍手や引っ越し用の緩衝
材などに再利用されるのがせいぜい。 しかも
これらのリサイクル品は、昨今では低価格の
輸入品に押され、売り先は縮小している。 要
するに繊維品のリサイクルは“出口”がない
状態なのだ。
「その“出口問題”を解決する方法がまさ
しく循環型のケミカルリサイクルだ」と大橋
担当部長は力説する。 もとの繊維原料まで戻
す技術を確立できたことで、再利用の道が広
がるとともに、リサイクル後の有効な市場を
創出することが可能になった。 回収の仕組み
を新たに構築したことも含めて、今回の取り
組みは繊維のリサイクルに大きな飛躍をもた
らすものといえる。
ユニフォームの営業を管轄する機能製品事
業部の神原茂郎部長は、「環境により適した
リサイクル方法を新たな選択肢として顧客に
提供できるようになった。 法的にも問題なく
回収できる仕組みがあれば、顧客が次回にユ
ニフォームをモデルチェンジする時も当社の
ものを採用してもらえる」と、ケミカルリサ
イクルシステムの構築にビジネス拡大を期待
する。
とはいえケミカルリサイクルは従来の方法
よりもコストがかかる。 易リサイクル設計さ
れた商品であっても、工場の解重合工程に投
入する前に脱色や金属性ファスナーの切除な
どの前処理を行わなければならない。 またク
リーニングせずに排出されたものや、ズボン
の折り返しに異物が詰まったものは、よごれ
や異物を除去するためさらに前処理に人手が
要る。
前述のとおりリサイクル費用はプリペイド
方式で、「リサイクルマーク」が発行される
際にユーザーが支払う。 アイテムにもよるが
一点あたりおよそ百円前後だ。 回収運賃を含
むすべての処理費用をこの金額内におさめる
のは容易でない。 一方のユーザー側にしてみ
れば、製品単価に上乗せして費用を負担する
ことになる。 「法による義務付けがないなかで、
そこまでしてリサイクルすることを顧客に強
く勧めるわけにもいかない。 それでも企業の
環境意識は徐々に高まっており、これからは
販売数も伸びていくはず」と神原部長は期待
を込める。
東レのように広域認定制度を利用して回収
の仕組みづくりをめざす企業は年々増えてい
る。 このことは、循環型社会の実現に向けて、
企業がリサイクルのための物流ネットワーク
構築を重視し始めたことを物語っている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
機能製品事業部の神原茂郎
部長
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