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OCTOBER 2007 50
積極的に事業領域を拡大
今年度(〇七年度)は、ヤマトホールディン
グスの現行中期経営計画「ヤマトグループレボ
リューションプラン2007〜新価・革新3か
年計画」の最終年度にあたる。
同計画は、現有の宅急便ネットワークをベ
ースに、積極投資や提携、M&A(企業の買
収・合併)等による機能の高度化を図る一方
で、スケールメリットと高密度化による生産性
改善に基づく持続的な成長を意図したものだと
捉えられる。 また、従前の経営計画との比較では、
グループ全体での成長を意識している点、デリ
バリー事業の安定成長・非デリバリー事業の高
成長を目指している点が特徴として挙げられる。
計画策定の背景には、?今年一〇月に民営
化を予定している日本郵政公社との競合をはじ
めとした、より厳しい市場環境への備えを進め
ること、?宅配市場の成熟化に伴い、よりバ
ランスのとれた収益基盤を構築すること──が
念頭にあったものと推察される。
さて、ここ数年の取り組みを振り返ると、「自
前主義からの脱却」、「外部戦力の有効活用を
前提とした事業領域の拡大」といった一歩踏み
込んだ施策が打ち出されており、経営の方向性
に若干の変化が出てきた点が注目される。
セイノーホールディングスをはじめとした特
積業者との連携による「JITBOXチャー
ター便」も変化の現れの一つだ。 特別積み合わ
せ便(特積み)のサービスでは物足りないが貸
し切り便を満載にするほどの量はまとまらない、
中ロットの貨物を抱える荷主をターゲットにサ
ービスを展開し、取り扱いを順調に伸ばしている。
同サービスの運営にはフランチャイズ方式を
とっている。 ヤマトのほかセイノー、日本通運
など大手特積み一五社が出資するボックスチャ
ーター社を事業の企画・運営を担当するフラン
チャイザーとして位置づけ、その下に特積み各
社をフランチャイジーとして組織する。 販売活
動のほか、集荷〜幹線輸送〜配送を行うのは
フランチャイジー各社である。
複数の企業が実務に関わるだけに、サービス
レベルや品質管理の点では難しさもあるものと
見られる。 とはいえ、安定的な幹線輸送網とロ
イヤリティー収入の獲得に加え、これまで不得
意としてきた企業間物流へのアプローチ手段の
入手というメリットがもたらされたと評価して
いる。
その他にも、ファインクレジットの子会社化、
日本郵船グループや丸井との資本・業務提携
といった施策が打ち出されている。 日本郵船グ
ループとの提携は、既に国際航空貨物の共同
混載をスタートさせているなど、ヤマトが出遅
れていた国際物流分野での足がかりを確保でき
たことに意味があろう。 また、丸井の子会社で
あるムービングとの提携により、家電・家具の
配送を行うホームコンビニエンス事業の増強が
図られる見通しだ。
いずれの施策も、短期的な収益貢献というよ
りは、宅急便のネットワークに次ぐ、中長期的
ヤマトホールディングス
提携効果の顕在化には時間
労務費高騰が当面のリスクに
自前主義を貫いてきたヤマトが、近年、
他社との提携を次々と発表している。 メール
便事業では、収益性確保のためにサービス
レベルを落とすという新たな一面も見せた。
「変革」は吉と出るか凶と出るか。 結果が明
らかになるのはこれからだ。
一柳創
大和総研
企業調査第一部アナリスト
第33回
51 OCTOBER 2007
な収益基盤の獲得に向けたものと捉えるべきで
あろう。 自社ネットワークを前提とした宅配便
ビジネスと違い外部戦力の有効活用を前提とし
た施策であるだけに、成果が顕在化するまでに
は時間がかかると思われる。 当面は、デリバリ
ー事業を牽引役とした安定成長を保ちながら関
連事業の育成を行うという図式になるだろう。
主力のデリバリー事業に関しては、輸配送ネ
ットワークの再構築と、パッケージサービスか
らフレキシブルサービスへの転換による差別化
が見受けられる。 本来的に、末端の集配能力
をはじめとしたネットワークの強さこそが他社
との最大の差別化要素との認識であり、「エリア・
センター制」導入(〇三年度)や、メール便
事業の再構築を通じた拠点整備や要員増強(〇
六年度)は、事業基盤の増強に向けた戦略的
な取り組みという見方ができると考えている。
しかし、短期的な結果
としては、業績にマイナ
スの影響を残した。 今後、
事業拡大等を通じてプラ
スの結果を出すことが求
められるところだ。
テコ入れ策の一環とし
て、〇六年一〇月には
メール便サービスの見直
しを行い、料金体系の
変更とともにリードタイ
ムの延長( 従来は翌日
配達が基本)を実施した。
リードタイム延長で作業
平準化のメリットを享受
できれば採算性の面でプラスに働くと期待でき
る。 だが同時に、ある意味ではサービスレベル
の引き下げを選択したと取れる点にこれまでの
ヤマトとは違う、変化の一端が垣間見える。
中期計画は未達を予想
中期計画の数値目標(〇七年度:売上高一・
三兆円、経常利益八〇〇億円)に対し、第1
四半期(四─六月期)決算後に発表した会社計
画は売上高一・二四兆円、経常利益七四〇億
円であった。 3PLを手がける「BIZ─ロジ
事業」の苦戦等もあり売上高の中計目標達成
は困難と見られるが、利益面に関しては、税制
改正に伴う償却費負担増(六〇億円)を考慮
すれば実質的な目標を達成する計画となってい
る。
基本的な構図として、新サービスの投入で差
別化を図り、単価の下落を取扱数量の拡大で
吸収し、安定成長を果たすものと見ている。 に
もかかわらず株式市場における評価が充分に改
善していない背景には、昨今の労働市場の動向
があるのではないか。 労働集約的な側面を有す
るデリバリー事業では、競争力の維持・拡大に
向けマンパワーの確保が重要な課題だろう。 定
期的かつ継続的に労働力を確保する必要のある
同社にとって、外部環境としての労働需給タイ
ト化やパート賃金の上昇等はコスト面でのリス
ク要因となる。
〇六年度実績においては労働力の前倒し投
入が費用負担増となったが、一方で習熟度向
上による生産性改善効果があったのではないか
と推察される。 今期は需要動向に合わせた労働
力の投入が計画されているが、デリバリー事業
の安定的な収益拡大に向けパート活用の積極
化とサービスレベルの維持・向上、生産性との
バランスをいかに図るかは、今後の業績動向を
占う上での重要なポイントとなろう。
大和総研では、通販・流通系やメーカー系
の貨物獲得を背景とした取扱伸長による増収
効果、関連事業での連携強化がプラス要因と
なると見ており、増収増益基調を見込んでいる。
ただし、会社計画との比較では、関連事業ト
ータルでの収入見通しがやや楽観的と見られる
こと、労務コストの負担が想定を上回る可能性
があるとの判断から、若干の計画未達を見込ん
でいる。 営業利益段階で、〇七年度六九〇億
円(三%増益。 会社計画は七二〇億円)、〇
八年度七四〇億円(七%増益)を予想している。
労務コストを中心に固定費的なコストの比重
が高い同社の収益構造上、マイナスインパクト
の大きい価格競争を避けるための品質面での差
別化、一部荷主への値戻しの動き等をはじめと
した商品/価格戦略は従来以上に重要な要素
となるのではないだろうか。 外部戦力の活用も
含めてのネットワーク増強を通じたグループと
しての収益基盤強化とともに、持続的な成長
を果たすことが求められる。
ヤマトホールディングスの過去10 年間の株価推移
(円)
《出来高》
ひとつやなぎ・はじめ
九七年三月早稲田大学理
工学部土木工学科卒。 同
年四月大和総研入社、企
業調査部インフラチーム
に配属。 九九年から物流
担当に。
著者プロフィール
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