ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年10号
特集
環境物流の進め方 環境経営のビジョンと現実

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2007  14 環境経営のビジョンと現実  ロジスティクスの管理対象が環境負荷にまで拡がってい る。
物流コスト、リードタイム、サービス品質に続き、CO2 排出量が4つめの尺度として浮上している。
省エネの徹底か ら協力物流会社の選別、取引条件の改善、さらにはプロセ ス設計に至るまで、環境を軸にしたサプライチェーンの再構 築が迫っている。
              (大矢昌浩) 自然環境まで含めて最適化  近く日本政府は一億トン分のC O2 排出権を購 入する方針だ。
現在の相場だと約三〇〇〇億円〜 四〇〇〇億円の税金を投入することになる。
京都議 定書で政府が国際公約したCO2排出量の削減目標 の未達が原因だ。
日本は二〇〇八年〜一二年の平均 排出量を一九九〇年比で六%削減する義務を負って いるが、〇五年実績では逆に約八%増えている。
公 約違反を金で解決するわけだ。
今後も日本の排出量 増加には歯止めがかかりそうもない。
政府が排出権 の購入に支払う費用は、さらに拡大することが予想 される。
 企業向けの環境規制には拍車がかかる一方だ。
昨 年四月に施行された改正省エネ法は、物流事業者だ けでなく大手荷主企業に対しても、物流活動から生 じるCO2の排出量を毎年一%のペースで削減するこ とを義務付けた。
達成できなかった企業は社名公表 などの罰則を受ける。
これまで物流に係わる環境規 制は物流事業者だけが対象だった。
改正省エネ法で 初めて荷主にも法の網がかけられた。
規制の対象と なる大手荷主は約八〇〇社。
その物量を合計すれば 国内貨物輸送量の過半に及ぶ。
 「その影響は既にトラック運送市場に顕著に現れて いる」と日通総合研究所の山本明弘物流技術環境部 長兼環境グループ担当部長は指摘する。
トラックか ら鉄道へのモーダルシフトが進み、荷主が協力運送 会社を選ぶ条件に「グリーン認証」の取得が加わった。
その影響から各地の省エネ講習会にはトラック運送 会社の参加が急増しているという。
 使用済み製品の処理負担をメーカーに求める動き も活発化している。
既に日本では、家電、ハイテク 機器、建設、食品、自動車の分野で、それぞれリサ イクル法が成立している。
EUでも二〇〇五年に廃 家電・電子機器(WEEE)指令が本格的に発動し た。
これによって対象製品のコストは一〜二%上昇 することが見込まれている。
企業の社会的責任(C SR)が、理念ではなく現実のコストとして目の前 にのし掛かってきた。
 これに伴い環境負荷低減が、ロジスティクスの新 たな使命に加わった。
個別企業の枠を超え、取引先 まで含めたサプライチェーンへと拡がった全体最適 に、今度は自然環境までが含まれた格好だ。
その管 理手法としては、製品が生産されて最終的に廃棄さ れるまでのトータルコストを把握する「ライフサイク ルコスティング」や、環境負荷を評価する「ライフ サイクルアセスメント」が提唱されている。
しかし、 方法論としては洗練されているとは言い難い。
多頻 度小口配送によるCO2の増加と、在庫削減による 省資源効果のトレードオフを検証することさえ満足 に処理できないのが現状だ。
日本的商慣行の改善に挑む  日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が 主催する「ロジスティクス環境会議」では、「グリー ンサプライチェーン」という造語を使って環境負荷 低減にアプローチしようとしている。
使用済み製品の 回収から廃棄・リサイクルまでのリバースロジスティ クスを含めたSCMを、環境負荷低減という視点か ら進めていこうというキーワードだ。
 その推進部隊となっている同会議の「グリーンサ プライチェーン推進委員会」は、「源流管理」と「取 引条件」の二つの分科会を設けている。
同委員長を 務める日通総研の山本部長は「『源流管理』という 第1部 15  OCTOBER 2007 のも一種の造語で、製品企画や生産段階で物流上の 環境負荷に配慮し、設計や梱包を改善していく取り 組みを指している。
一方の取引条件分科会では、過 度な多頻度小口化や時間指定、リードタイム短縮な ど、物流に係わる取引条件の問題を扱っている」と 説明する。
 同委員会の発足に先立ち、JILSは二〇〇四年 二月に「商慣行の改善と物流効率化に関する基礎調 査」と題した報告書をまとめている。
物流の非効率 を招いている日本独特の商慣行の実態を調査・整理 し、その改善策を打ち出すことが狙いだ。
JILS の北條英JILS総合研究所主任研究員は「この報 告書を作成した時も、我々の念頭にあったのは環境 問題だった」という。
 九〇年代末からJILSは物流分野における環境 問題を主要なテーマの一つに据えてきた。
改善事例 の調査を基に環境対策の方法論を体系化。
チェック リストを作成して、エコドライブや簡易梱包など、 保管・荷役・輸配送・流通加工・包装といった物流 機能ごとに打ち手を整理した。
 「しかし、個々の活動を徹底していくほどに、現 場でやれることには限界があるということが見えてき た」と北條主任研究員。
そもそも現場の物流活動を 発生させている要因は何なのか。
バラピッキングや返 品の発生、リードタイムなどの物流のスペックを決め ているのは、取引条件や商慣行だ。
それならば取引 条件や商慣行を見直すことで、より大きな環境負荷 低減が可能になるはずだと、関心の矛先が移っていっ た。
この問題意識がグリーンサプライチェーン推進 委員会にそのまま受け継がれている。
そこでは長年 の懸案とされてきた日本的商慣行や取引条件が、環 境負荷という視点から改めて検証されている。
特集環境物流の進め方 (社会制度的な周期性) 取引条件(商慣行)が物流交通へ影響を及ぼす波及過程のフローチャート ●生活習慣に基づく商慣行 合理的なライフスタイル の普及・啓発 ●貨物車交通への影響 走行台キロ数の増大 【ライフスタイルの変化】 趣味・嗜好の多様化 公共・民間工事の 平準化 流行の変化・需要変動 少量多品種化 品質の過剰な高度化 【不要な物流の発生】 返品横持ち、ワンクッション等 (倉庫間、物流センター間の物流等) 商物分離の未達成 (商流と物流の非分離) リードタイムの短縮の コスト・費用負担の明確化 需要予測の基盤整備 物流効率化の努力意識低下 多頻度小口納品のコストの 明確化・費用負担の整理 時間指定納品コストの 明確化・費用負担の整理 物流会社側での配送の ダイアグラム化の提案 ボリュームディスカウント の輸送単位との整合化 平準化を推進する 物流料金体系の導入 発注時期の集中 (時間帯、日、曜日、 季節、月集中等) メニュープライシング等 サービスやロットごとの 明確な価格体系の設定 リードタイムの 標準化・規格化 短納期、リードタイム の短縮緊急納品 (発注〜納品の時間が短い) 物流設備・機器の 大ロット対応等への誘導 多頻度小口配送 (少量ずつの 納品を依頼する) 積み合わせ困難計画性の阻害 建設資材関係についての 平準化の推進 積載率の 低下 ロットの 小口化 物流量の増大(重量・距離) ピーク期への集中 ピーク期への集中 在庫の増大 価格の硬直化 曖昧な返品条件 (返品の運用が曖昧な契約等) 物流費用の 分離表示の促進 店着価格制(運賃込み価格) (引き渡し場所までの 運賃を商品価値に含める) 物流コストの 会計基準の策定 サービスレベルが物流コストに与える 影響のシミュレーション手法の開発 無理な条件の要求発生 【全般的な改善策】 影響が大きい商慣行既存の法制度の遵守 その他の商慣行 商慣行の改善策 説明事項 重要な波及過程 その他の波及過程 指針・ガイドラインの策定・普及 商慣行改善のための組織設置 物流ITSの導入促進 (核家族化、一人世帯の増加、 生活時間の個別分散化等) 【不必要な条件の要求】 品質への 過度な要求 納期の 過度な要求 【ピーク集中】 (日本ロジスティクスシステム協会資料) (自然環境の周期性) お歳暮等の慣習月末〆、五十日 週末まとめ買い年度末発注 需要の ピーク集中 取引の ピーク集中 ライフスタイルの多様化・個別化 農産物出荷時期等 【法規制等】 再販制 (製造業等が、販売業者の 販売価格を指定する) 【多段階流通】 流通の多層化、多段階性 (多段階に卸売業者が介在する等) 【契約条件の曖昧さ】 (包括的な事項のみで 契約を行う等) 標準約款等の 契約事項の ガイドライン作成 事業者間の強弱関係 顧客ごとの納品 条件の設定 詳細条件の非文書化 書面なし契約 ●一般的な商慣行 【メーカーの流通経路管理】 委託販売制、指定工事店制 (系列取引等の固定的な流通ルート) 希望小売価格・建値制 (メーカーによる販売価格の設定) 商品サイクルの短縮 時間指定納品 (納品時間を指定する) 荷捌施設・積替施設 等の設備 返品条件の 明確化

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