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AUGUST 2005 10
ウォルマート流は通用しない
西友にもICタグ導入
買収によって世界最大の小売業・米ウォルマート・
ストアーズ傘下に入った西友は現在、総額約一〇〇
億円を投じて埼玉県三郷に専用物流センターを建設
している。 地上四階建て、延べ床面積約四万八〇〇
〇平方メートルの規模を誇り、二四時間稼働で常温
から冷凍までの全温度帯を扱うことができる。 土地建
物は物流不動産開発会社・米プロロジス社からの賃
貸だが、構造や内部施設は完全に西友側で設計して
いる。 「建材まで米国から取り寄せるほど徹底したウ
ォルマート流のセンターだ」と関係者はいう。 来年夏
の稼働後には、ウォルマートが現在、米国市場で実用
化に取り組んでいるICタグの導入も計画されている。
同センターの物流を担うのは、3PL専業では世界
最大規模を誇る英エクセル社の日本法人、エクセル・
ジャパン。 欧米市場で同社は大手小売業の流通セン
ター運営を数多く手掛けており、施設を提供するプロ
ロジスと同様、ウォルマートとは欧米市場で既に長期
的な関係を築いている。 パートナーの顔ぶれまでその
ままに、ウォルマートは欧米市場で培ったサプライチ
ェーンのモデルを日本に持ち込もうとしている。
同センターでは商品の自動補充も開始する。 これに
先立ち西友はウォルマートが「スマートシステム」と
呼ぶ店舗運営システムを過半数の店舗に導入。 調達
先のベンダーに販売情報を公開して在庫管理の最適
化を促す「リテールリンク」にも、約八〇〇社のメー
カーや卸を参加させている。
リテールリンクを通してベンダーは店頭のPOSデ
ータや在庫状況、過去の販売実績などを把握できる。
それを元に店頭で欠品の生じないようにベンダーが在
庫の補充を計画して小売側に提案する。 この「CP
F
R
(
Collaborative Planning,Forcasting and
Replenishment:
小売業とメーカーの協働による販売
計画、需要予測、補充)」の仕組みによってウォルマ
ートは米国市場で大きな成果を上げている。
もっとも、こうした欧米の大手小売業のSCMノウ
ハウを、日本の流通関係者の多くは醒めた目で見てい
る。 二〇〇〇年一二月に鳴り物入りで日本市場に参
入した小売業世界第二位の仏カルフールは今年三月
に国内の全店舗をイオンに売却。 わずか四年で日本市
場から撤退した。 九九年に参入したドラッグストアの
英ブーツ、化粧品の仏セフォラも三年後の二〇〇一
年には日本市場から撤退している。
欧米モデルを導入した日本の小売業も奮わない。 二
〇〇二年二月にウォルマートとの資本提携を結んで以
降、西友の業績に好転の兆しは見られない。 国内資
本ながら欧米流のメーカーとの直接取引を指向するイ
オンも、今のところ中間流通を自社化したことによる
効果は数字には表れていない。 大手卸の幹部は「直接取引が失敗することで、日
本市場では小売りが自分で中間流通を手掛けるより、
卸を使ったほうが効率的だということがはっきりする」
と、卸中抜きを狙った取り組みをむしろ歓迎する余裕
さえ見せる。 欧米のモデルをそのまま日本市場に適用
しても失敗する。 日本の流通市場は欧米以上に進ん
でいる。 そんな見方が静かに拡がっている。
しかし、こうした楽観論に対して在庫管理システム
を開発するシーコムスの関口壽一社長は「それでもウ
ォルマートは脅威だ。 ウォルマートのように単品レベ
ルの利益をきちんと把握できている小売りなど日本に
はない。 彼らが日本市場に腰を据えて取り組めば、い
ずれ数字も出来てくるだろう」と警鐘を鳴らす。
ウォルマートは「DPP(Direct Product Profit:
大手小売業が欧米流の直接取引を日本市場に適用しようとし
ている。 卸を中抜きしてメーカーから直接商品を調達すること
で、仕入れ価格の引き下げを狙う。 欧米の合理的なモデルを導
入すれば日本特有の非効率な多段階流通を是正できるという発
想だ。 しかし、国内流通関係者の多くは、その取り組みを冷や
やかな目で見ている。 (大矢昌浩)
第1部
11 AUGUST 2005
特 集
直接製品利益)」と呼ばれる管理指標によって、販売
価格から仕入れ価格と物流費を引いた利益を商品別
に管理している。 ここでいう物流費とは、「発注コス
ト」と店頭の「保管コスト」、そして店頭に陳列する
までの流通コストを合計した「陳列コスト」の三つを
足したものだ。
DPPはベンダーにも開示される。 米国でウォルマ
ートと取引している家電メーカーの担当者は「いくら
売れている商品であっても、DPPがマイナスになっ
ている場合には、いずれ取引を打ちきられるのが明ら
かなので、ベンダー側で自発的にコストを調整しなけ
ればならない。 しかし物流費を下げるのは簡単ではな
いため結局、卸値を下げることになる」と説明する。
日本型「二階層CPFR」
これに対して日本の小売業者はDPPを全く把握
できない状況に置かれている。 もともと日本の商慣習
は仕入れ値に物流費が含まれている上、メーカーは工
場の軒先で渡した場合の本体価格を明らかにしようと
しない。 しかも販売後にリベート等の補填があるため
店頭に陳列した時点では正確な仕入れ価格が確定し
ない。 つまり小売業者は仕入額が分からないまま、値
付けし販売しているのが実情だ。
単品の利益が分からなければ、利益を最大化する売
り場作りなど出来ようもない。 結果として小売業の経
営は売り上げ市場主義に陥る。 実際、シーコムスが国
内中堅スーパーでカップ麺のDPPを分析したところ、
売れ筋のA商品やB商品は赤字で、逆に回転率の低
いC商品だけが黒字という結果になったという。
関口社長は「こんな状態で国際的な勝負に勝てる
とは思えない。 欧米モデルは使えないと単に切り捨て
るのではなく、良いところは採り入れて、新しい日本
型の流通システムを作る必要がある」と指摘する。
その第一歩となるのが、メーカーによる取引制度改
革だ。 仕入れ価格は物流費込み、しかも三段階建値
制(一四頁参照)の従来の日本の取引制度では、い
くら流通の効率化を進めても買い手側はその成果を享
受できない。 そこで商品の本体価格と物流費を分離、
不透明なマージンを廃止して取引条件に見合ったメー
カー出荷価格を設定するように制度を改める。 日本で
も既にP&Gファーイースト・インクや日産自動車が
ゴーン改革で採用して成果を上げている。
こうして取引制度を改革し商品別の物流コストを
把握できる環境を整えた上で、効率化のために大規模
卸を介した二段階のCPFRを実現する――それが関
口社長の提案する日本型流通システムだ。 日本ではメ
ーカーと小売りが直接コラボレーションしても、お互
いに扱いシェアが限られているため、コストに比較し
て得られるメリットが少ない。 そこで小売りと大手卸、
大手卸とメーカーという二つの階層に分けて情報共有を進めようという発想だ。
小売りはPOSデータとコーザルデータ(販売に影
響を与える要因についての情報)を大手卸と共有。 ?
販売計画、?販売促進、?販売予測、?発注予測の
数値を協働して計画する。 大手卸は複数の小売りの
計画数値を統合して、アイテムごとに仕分け、各メー
カーと改めてCPFRを実施する。
このモデルでは、直接取引をベースとした欧米モデ
ルとは異なり、小売りとメーカーを仲介する大手卸が
サプライチェーンの主導権を握ることになる。 ただし、
それが既存の卸であるとは限らない。 事実、大手小売
りやメーカー、そして総合商社や物流企業までが日本
型中間流通の担い手として今や名乗りを上げているの
だ。
卸売業を含めたCPFRモデル(2者間モデル×2)
2者間モデル
小
売
業
卸
売
業
メ
ー
カ
ー
協 働
?販売計画
?販売促進
?販売予測
?発注予測
POSデータ
コーザルデータ
全ての計画の基礎 この計画をベースとして
2者間モデル
協働(CPFR)
?販売計画
?販売促進
?販売予測
?発注予測
小売別販促予測
POS/
コーザルデータ
DC出荷
DC在庫
関口壽一著「図解 よくわかる在庫起点経営」日刊工業新聞社より
シーコムスの
関口壽一社長
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