2007年12月号
SOLE

NASAにロジスティクスの導入を

DECEMBER 2007  76 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics 米ピッツバーグの年次総会に参加? NASAにロジスティクスの導入を  前回に引き続き、米国ピッツバーグ で開催された年次総会「SOLE20 07」の視察結果をレポートする。
会 議二日目から最終日には、NASAや DHS(国土安全保障省)、航空宇宙 産業などの関係者が登場。
宇宙空間で のロジスティクスの必要性が話し合われ たほか、災害時の物資輸送についてハ リケーン災害などの実体験に基づいた 報告が行われた。
アポロ計画は使い捨てを広めた  会議二日目は、八月二二日午前八 時から始まった。
この日のメインテー マは「宇宙空間ロジスティクス」であ る。
「宇宙空間ロジスティクスの計画と 展望」と題して基調講演を担当したN ASAのハーリー・スロンソン(Harley Thronson)の第一声は、参加者の早 朝の眠気を吹き飛ばすには十分だった。
「NASAにはロジスティクスを考える 文化は無い」。
その言葉は、NASAに よる宇宙計画が極めて特殊な事情の下 で遂行されていたことを物語っている。
すなわち、NASAの有人飛行計画は 一回一回に全力を投入するものであり、 計画段階から将来にわたる持続的なロ ジスティクスを考慮してきたとはいえな い。
計画そのものが衆目の下で行われ、 米国で最も権威ある人々である大統領 や議員の体面にも関係するため、これ までの計画は極めて“Risk-averse(リ スクを嫌う)”な性質を持ち、小さなリ スクの可能性さえ排除するように立案 されてきた。
その反面、“Stake-holder” (利害関係者)の大統領と議員が後押 ししさえすれば、いくらでも予算が付 くことになる。
 このような状況にあってはロジステ ィクス計画ではお馴染みの、さまざま な可能性を考慮した費用対効果追求の 思想は通用しない。
スロンソンによれ ば、一九九〇年代に始まった火星計画 はNASAの唯一の例外だ。
その二〇 年にわたる計画はさらに将来に引き継 ぐ任務があり、そこには物資調達をは じめとするロジスティクスを考慮する大 きな余地がある。
NASAの計画に最 も影響を与えたアポロ計画は使い捨て 文化を広めたが、四〇年目に入るシャ トル計画は二〇一〇年に終了する。
今 後は人類の月面生活計画(LAT?: NASA Lunar Architecture Plan)や、 国際宇宙ステーション(ISS)での 国際協力といった冒険的要素の少ない 活動が主流となるため、ロジスティク スの文化を導入しなければならない絶 対的な理由が存在する。
スロンソンは、 ロジスティクスの観点からはNASA が転換期を迎えつつあるとし、NAS Aを主導するロケットサイエンスの科学 者達は米国防総省(DoD)のロジス ティクスに学び、NASA独特のカル チャーを改革すべきである、と主張し て基調講演を終えた。
その主張はNA SAの文化に関するロジスティシャン達 の基調、主流というべき意見であるよ うで、NASA関係者による以後の発 言でも同じような論調を聞く場面がし ばしばあった。
宇宙ステーションにICタグ  一〇時半に始まったパネルディスカ ッション?「善し、悪し、宇宙ロジ活 動の過酷さ」ではハネウェル社のアン ディ・エバンス( Andy Evans)の司 会進行の下、宇宙空間におけるロジス ティクスの必要性とともに、宇宙ロジ スティクスの特殊性に関する意見が披 露された。
最初のパネリストであるI SSロシア担当のカーク・シュレーマン ( Kirk Shireman)は、工学的なロジ スティクスと宇宙空間におけるそれと がかなり異なることを具体的に例示し た。
すなわち、一〇時間の仕事、二時 間の体力作りといった宇宙飛行士達の 生活リズム。
活動の場所としてのステ ーション内における飛行士の生活空間 と食料品等備品庫及び部品庫が、それ ぞれほぼ同じ広さの空間を占有してい ること。
特殊な備品ばかりで汎用品は 皆無に等しく、スペア節約のため予備 物品はできるだけ置かない方針をとっ ていること。
多国籍環境下にあり、度 量衡の単位そのものが統一されていな いこと。
ISS内はまったく整頓され ておらず、どんな食料があるか正確に はわからない状況であり、緻密な作業 を行うには適していない環境であるこ と。
このため、シュレーマンはRFI D(Radio Frequency Identification: 無線ICタグ)によるISS内の整理 を検討中であるとコメントした。
 次に登場したスカイ・コーポレーシ ョン社長のデニス・ウィンゴ( Dennis Wingo)は、宇宙空間を舞台にしたビ ジネスについて興味深い話をした。
ス カイ・コーポレーションは宇宙空間で衛 星を運行・管理しており、ウィンゴの 話は非常に具体的であった。
要約する と、?商業衛星の打ち上げコストは重 量一キログラムにつき約一〇万ドルで あり、五年から八年の寿命をもつ衛星 一基当たりの年間必要経費は二五〇〇 万ドルである、?衛星ビジネスとして 77  DECMBER 2007 への探査が続けられる──となっている。
災害対策のスペシャリスト不足も  最終日となる二三日のメインテーマ は「人道主義と災害救難」。
この日は 「人道支援・災害救援システムを成功 へ導く鍵」と題したプレナリーセッシ ョン(全体会議)から始まった。
災害 対策は昨今の国内事情から国を挙げて の対応がなされている。
DoDはもち ろん、連邦緊急事態管理庁(FEMA : Federal Emergency Management Agency)や国土安全保障省(DHS :Department of Homeland Security) といった日本でもよく知られた組織か らの参加者が目立った。
前回の報告で も述べたが、ハリケーン「ディーン」の 影響でピッツバーグの天候は悪く、彼 らの話には当事者ならではの身近さと、 真剣さを感じることができた。
 プレナリーセッションの司会は統 合参謀本部のミハイル・サムロール (Michael Sumrall)が務め、FEMAの ウイリアム・スミス( William Smith)、 DHSのリチャード・スキナー(Richard Skinner)とケビン・リアドン(Kevin Reardon)、インテグレィティド・ビジネ スサービス社長のコリー・クック(Corey Cook)といったところが持論を展開し た。
その中では、ハリケーン「カトリ ーナ」災害での国家支出は一億二〇〇 〇万ドルに上ったこと、ハリケーンそ は、衛星一基当たり一〇〇億円の売り 上げが運営可能な限度である、?社は 現在、重量が一トンから三トンまでの 衛星二七六基を運用している、?衛星 の定点コントロールは燃料を消費する が、南北方向のコントロールの方が東 西よりも多くの燃料を必要とする、? 太陽エネルギーの利用による衛星にお ける節エネ効果は大きく、最大で三分 の一にしたケースもある、?産業面か ら期待される宇宙開発は月面基地での 製品の特殊加工・生産であり、付加価 値の高いものが生産されることにより、 結果的に宇宙空間、とりわけ月面にお けるロジスティクスの必要性が増すであ ろう。
その際ロジスティクスに要求され る特性は完結性であり、航空母艦にお けるロジスティクスにその類似性をみる ことができる──ということだった。
 またウィンゴは、NASA関係者の 意識改革や自助努力によるロジスティ クス概念の導入は身近な目標ではある が、地上におけるロジスティクス概念の 発展がシステム運用に慣熟した後に発 生したことを考えると、宇宙工場では 必要に駆られてロジスティクス技術が導 入されるであろうと予見する。
これも 面白い見方だろう。
 昼食後に始まったパネルディスカッ ション?「未来の宇宙ロジ活動のロー ドマップ」では、NASAのスロンソ ンが司会者として再度登場し、ロッキ ード・マーチン・スペースシステムズの ジョン・ブル( John Bull)、NASA コンサルタントのDr.グリオ・バルシ (Giulio Varsi)及びジョンソン宇宙セン ターのアンソニー・ブティナ(Anthony Butina)が自説を披露した。
 ブルは、宇宙ロジスティクスの特徴 は宇宙空間における物資の保管、集配、 維持、待避、廃棄にあり、特に人間の 待避や入院、施設の建設、維持、運営、 廃棄には地上にはない特別の仕様が必 要であると述べ、宇宙ロジスティクスに 対する人材育成がテキサス大の教育コ ースですでに始まっていることにふれ た。
バルシは宇宙ロジスティクスそもそ ものの定義から議論する必要はあるも のの、宇宙空間を舞台にした遠距離通 信のロジスティクスが組織としてすでに 存在する事実を挙げていた。
 ブティナは宇宙でのロジスティクスは 地上とは違うことを強調。
NASA全 体の機能は複雑であり、宇宙空間への 物資輸送に特化したジョンソン基地で はロジスティクスに関する決定権がど こにあるかが明確でない、とも述べた。
また、重複性、冗長性を排除してシス テムへの支援を最適化しようとする従 来のロジスティクス的手法が宇宙空間 ではよいことなのかという疑問や、地 上でのロジスティクス計画の立案で前 提とされるよりも、宇宙空間での活動 には予想できないことが少なくないと する持論を展開した。
 パネルディスカッション?は午後二 時に終了し、引き続きペーパーセッショ ンで個人発表が多数行われたが、これ については割愛しよう。
二日目の宇宙 空間でのロジスティクスの話題を終える にあたって、NASAの今後の予定を まとめておくことにする。
?シャトル 計画が終了する二〇一〇年、ISSが 完成予定である、?一五年にはISS の運用を開始し、?二〇年には人類の 月への回帰、さらには月面での本格的 生活が準備段階に入り、平行して火星 REGIONS (Field Activities) Operating Environment ?Business Processes ?C2 ?Policy ?Planning ?Mgmt NRP/Public Sector Partners STATE & LOCAL GOVT EFFICIENT LOGISTICS SERVICES, EQUIPMENT, & SUPPLIES HQ LOGISTICS (Domestic J4) Most Effective Level of Execution DOD Private Sector Partners ●FEMAの活動環境 Cultural Political Legislation DHS Directives Agency Guidance Budget/Resources Audits/Reviews INFLUENCES MASS CARE ESF 6 の他の災害で一回に緊急展開できる隊 員数は四〇〇〇人程度である等の具体 的な数字とともに、次のような点での 問題提起が相次いだ。
1.警察、消防その他の隊員による初 動と民間協力態勢の重要性 2.支援物資に関するデータベース構 築の重要性 3.NGOを始め多くの組織が入り組 んで活動を行うがゆえのコミュニ ケーションの重要性 4.災害があって初めて大統領、議会 等の承認により予算が下りるFE MAの予算上の問題  災害対処に関しては、九一年に政府 レポートが発表されて以来一六年の間 大きな進歩がなく、「カトリーナ」の教 訓を生かし切れていないと結論づけら れた。
また、将来の不安材料として徴 兵制時代の経験豊かな世代の大量退職 による災害対策スペシャリストの不足 が懸念されており、初日に取り上げら れた「2012年ロジスティシャン問 題」がここにも影を落としていること が感じられた。
 プレナリーセッションに続いて、一 〇時から始まったパネルディスカッショ ン?「将来の国内災害のための種々な 計画」では、ラピダスグループ社長ジ ョアンヌ・ワイマン( Joanne Wyman) を司会、DLAのマシュー・フィーリー (Mathew Feely)とDHSのレニー・ラ イネス(Rennie Raines)をパネリストと して将来の災害への備えが議論された。
 議論の概要は次の通りである。
?テキ サス州には「A-Matrix」という組織があ る。
データベース化を含め、こうした寄 付金、寄付物資を効果的に管理する組 織が必要である、?災害対処には教育・ 訓練が重要である、?地方自治体ごと に異なる事情を勉強しておくことが、災 害対策には役立つ、?警察、消防といっ た多くの組織が活動を行うことになるた め、コミュニケーション訓練も大事である ──。
ここでも災害時における優れたマ ニュアルを完備しているウォルマートが 引き合いに出され、ロジスティクス面で の優良性が語られた。
また、ライネスは 災害対策では国主体でなく事情の分かる 地方が主導権を取るべきであるとの持論 を展開していたが、多くの賛同を得るま でには至っていない様子だった。
来年度はアジアもテーマに  昼食をはさんで十二時半からは会議 最後のパネルディスカッション?「人 道支援・災害復旧のためのグローバル ロジスティクス」が開催された。
司会 はランド社のチャールズ・ネムファコス (Charles Nemfakos)。
ミネアポリスで の橋桁落下事故に関連して、国内調査 費だけで一〇〇億ドルが必要であろう との見積りを示した上で、災害活動で の物資輸送プラットフォームとしての トラック、列車及び航空の得失を述べ た後、ウォルマートがRFIDの利用 により一億ドルもの利益をあげたこと を示し、ディスカッションの口火を切 った。
 パネリストとして参加した国際災害 支援センターの米国代表トッド・ホー ン(Todd Horne)は、彼の組織の具 体的な活動内容を解説した。
国外で の災害対策の補給所はマイアミ、ドバ イ、イタリアにあること、今回の「デ ィーン」の被害に対し、ジャマイカの 二五〇〇世帯に二週間分の食料と九 万ポンドの物資を支給したこと、及び 民間からの寄付のうち九〇%は現地 では役に立たず、食料と薬が最も必要 であるほか、現金での寄付が効果的 であることを付け加えた。
軍医のジョ セフ・モア(Joseph Moore)は、イ ラク戦争で五〇万人のクルド人避難を 支援した実体験から、現地住民の信 頼を得るためには数カ月の時間が必要 だったことや、やや無謀な行動を取り がちなNGOとの協力関係が不可欠 であった事例を紹介した。
 ロジスティック・マネージメント機 構のデビッド・レラー(David Leller) は、災害時の物資輸送では防衛ロ ジスティック局(DLA:Defense Logistic Agency)が主役となること、 不測の災害時にはハイテク技術を用い ることより慎重に計画を立てること の方が肝心であることなどを述べた。
実体験に基づいたパネリストの話は聴 衆の興味を惹いたようだった。
 さて、パネルディスカッション?の 後にはいつも通りペーパーセッション が一時間ほど続き、午後三時四五分か ら会議の閉会式が執り行われた。
最終 日まで残った参加者を前に、パネルデ ィスカッション?の司会をしていたネ ムファコスが来年度の会議のテーマと して「ロジスティクスの変革とグロー バル経済」を宣言し、来年八月の再会 を約束して三日間にわたる会議を締め くくった。
日本支部から参加した我々 にとって意外だったのは、来年の会議 では日本が音頭をとり、アジアのロジ スティクスを話題に入れて欲しいとの 要望をネムファコスが口にしたことで ある。
この要望への対応を後日日本支 部での議題としなければと思いながら、 我々は会場を後にした。
DECEMBER 2007  78 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは12月11 日(火) 「資源循環型社会実現に貢献するため のシステム食品リサイクルへの対応」 (株)環テックシステムズ 西出昌史氏 の講演を予定している。
このフォーラ ムは年間計画に基づいて運営してい るが、単月のみの参加も可能。
1回の 参加費は6,000円。
ご希望の方は事 務局 ( sole-j-offi ce@cpost.plala. or.jp)までお問い合わせください。

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