ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年8号
特集
直接取引 vs 卸流通 日本型中間流通のビジョンと現実

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2005 12 日本型中間流通のビジョンと現実 日本の物流コストは二三・四% ボストン・コンサルティング・グループは「ECR ニッポン」と名付けた大規模なSCMプロジェクトを、 当時の堀紘一社長の呼びかけで九七年に立ち上げて いる。
大手メーカーと大手流通業者の協働による効率 化を目指したもので、国内の有力企業約五〇社が参 画。
各社のトップ同士で物流合理化にメスを入れる初 の取り組みとして、大きな注目を集めた。
しかし、同プロジェクトは途中で大手流通業者が相 次いで離脱し結局、一年を待たずに頓挫してしまった。
それでもこの取り組みの中で、注目すべきデータが明 らかになっている。
日本の多段階流通のコストだ。
大 手メーカーと大手小売りのサプライチェーンを調査し た結果、日本では全体の約五〇%の商品が、工場出 荷から店頭に並ぶまでに三カ所の物流拠点を経由し、 その場合の一ケース当たりのトータル物流コストは九 六〇円であることが分かった。
当時の一ケース当たりの商品金額は四一〇二円。
売 上高物流費比率は二三・四%という計算だ。
日本ロ ジスティクスシステム協会の調べによると、日本の個 別企業の物流コストは平均五・〇一%(二〇〇三年) で、国際的に見ても妥当な水準にある。
ところがサプ ライチェーン全体で見たときには極めて非効率である ことが数字で証明された恰好だ。
基本的に工場から店舗に至る間の中継地点の数を 減らせば、サプライチェーン全体の物流コストは下が る。
工場からトラックに満載して出荷した製品を、そ のまま店舗に納品した時に最もコストは小さくなる。
実際、欧米では工場から大型店舗への直送が一部で 実施されている。
しかし店舗の規模が小さくバックヤ ードも貧弱な日本で同じことをするのは難しい。
次善の策が中継地点を一カ所に集約することだ。
多 数のメーカーと多数の店舗を結ぶサプライチェーンは、 流通センター一カ所に全てのメーカーの商品を集め、 そこで店舗別に仕分けて処理した時に、トータルコス トは最小化する。
先のECRニッポンの調査でも、三 カ所を経由した場合に九六〇円だった物流コストが、 一カ所では四九四円と約半分に下がる。
同じ発想から日本市場における理想的なサプライチ ェーンのモデルを設計し、現状と比較した調査分析報 告書が、大手日雑メーカー一〇社が参加する業界サ プライチェーン研究会によって「VOES:Vision for Optimal and Effective Supply Chain Management 」 というタイトルで九八年一月に発表されている。
同報告書によると、日本には日用雑貨品や化粧品 を販売する店舗が約三〇万軒存在し、約一〇〇〇社 のメーカーから年間約四億ケースの商品が供給されて いる。
このサプライチェーンは、工場と店舗間を一カ 所で中継する大型物流センターを日本各地に計一一 四カ所設置した時に最適化される。
その時の売上高 物流コストは四・六一%になると、同報告書は試算 している(図1)。
これに対して同業界には調査時点で二千数百カ所 に上る中間流通拠点がある。
メーカー別の縦割り、か つ多段階の流通が、多大な重複投資と高コスト物流 を招いている。
これを改め、工場から店舗までを物流 拠点一カ所で中継する新たなサプライチェーンを構築 する。
それが日本市場におけるSCMの最も基本的な アプローチだった。
「一括物流」が多段階流通に拍車 ところが現実には、ビジョンと逆行する取り組みが 拡がっている。
九〇年代以降、多くの小売業が「一 欧米市場並の上位集中が起こらない限り、今後も日本では卸 を介した中間流通が主流であり続ける。
日本市場のように多数 の店舗と多数のサプライヤーを結ぶサプライチェーンは、フル ラインの商品を取り揃えた中間流通センターを1カ所だけ経由 した時に、最もトータルコストが小さくなる。
ところが、それ と逆行する動きが市場では拡がっている。
(大矢昌浩) 第2部 ロジビズ「再」入門《特別編》 13 AUGUST 2005 特 集 括物流」を旗印に自社専用の物流センターの建設に 乗り出している。
それまで小売業の多くは、調達先ベ ンダーにそれぞれ店舗まで商品を納品させていた。
こ れを改め、商品をいったん自社専用センターに集約し て、一括して店舗に納品しようという取り組みだ。
これによって、店舗側ではベンダーごとに荷受けす る必要がなくなり、本来の販売業務に人手を割けるよ うになる。
ベンダー側でも各店舗への納品が、専用セ ンター一カ所で済むようになるため運送費を削減でき る。
ベンダー一〇〇社が一〇〇店舗に納品するには一 〇〇×一〇〇=一万の配送が必要だが、一括物流セン ターを経由することで一〇〇+一〇〇=二〇〇に減 らせるという理屈だ。
小売業の立場から見れば合理的なこの取り組みが、 サプライチェーン全体の効率をむしろ悪化させている。
小売業が新たに専用センターを設置することで、ベン ダーと店舗の間に新たな物流階層が生まれる。
工場と 店舗を結ぶ物流段階が増えれば、トータルコストは増 加する。
小売業が自ら主導する一括物流によってサプライチ ェーンを最適化しようとするなら、専用センターの設 置に伴い、メーカーや卸の既存のセンターを経由せず に、工場から専用センターに直送する体制を組む必要 がある。
しかしメーカーや卸などのベンダー側では、 これを受け入れられない。
複数の小売業を顧客に抱えるベンダーは、一部の小 売業が工場直送に移行しても、既存センターを閉鎖で きない。
既存センターを維持したまま工場直送を受け 入れて、センターで処理する物量が減れば、施設の稼 働率やルート配送の積載率が下がってしまう。
一括物 流の導入で納品が一カ所で済むようになってもコスト が下がるとは限らないのだ。
それにも関わらず、小売 業は専用センターの設置に伴い、ベンダー側に新たに 「センターフィー」を請求する。
卸価格には店舗納品 までの物流費が含まれている。
物流の一部を小売り側 で代替するのだから、その分はセンターフィーとして ベンダー側が負担すべきだという考え方だ。
センターフィー VS 建値制 センターフィーは通常、商品価格に一定の料率を掛 けて計算する。
その料率は小売業が買い手という立場 を利用して一方的に決定しているケースがほとんどだ。
なかには実費以上のセンターフィーをベンダー側から 徴収することで、それを新たな収益源にしている小売 業も珍しくはない。
料率は商品特性や保管形態によっても異なるが、現 状では大手加工食品卸で三・五%程度のフィーを支 払わされている。
もともと粗利の薄い卸が負担できる 金額ではない。
結果的にマージンを増やす形で負担は メーカーへと波及する。
こうして小売業の一括物流が生み出す多段階流通のコストが、サプライチェーンを 逆流していく。
現在の日本市場には全体最適化とは正反対の個別 最適が蔓延している。
これを是正するにはまず、物流 費の見えない店着価格制と、特約店制度に象徴され る公平性を欠いた販売価格を見直す必要がある。
米 国では同じ取引条件であれば、誰が購入者であっても 同じ価格で販売しなければならないとする「ロビンソ ン・パットマン法」という反トラスト法がある。
特約 店だけに安値で卸し、小売りの直接購入を認めない日 本メーカーの取引制度は米国なら違法扱いだ。
小売 業が引き起こしたセンターフィー問題は、これまで日 本市場でサプライチェーンの主導権を握ってきたメー カーに、抜本的な流通政策の再考を迫っている。
図1 VOESでは全国の中間物流拠点が114カ所のとき物流コストは最小化すると分析した 6拠点 6.62% 9拠点 5.02% 16拠点 4.28% 12拠点 4.54% 29 拠点 4.32% 18拠点 4.18% 4拠点 4.96% 7拠点 4.79% 13拠点 5.09% 地域 拠点数 コスト比率 メーカー数=約1000社 店舗数=約30万軒 中間拠点=二千数百拠点 総物流コストを最小化する中間物流 拠点数の各地域別表示と対卸売り販 売高総物流コスト比率

購読案内広告案内