ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年12号
特集
日本郵便の行方 船出前から難問山積の宅配新会社

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

オペレーション企画部の山本龍太郎施設担当部長は 「これまで集配局の配置は徒歩と自転車による配達 を前提にしたものだった。
それをバイクと四輪を前 提に変えた。
具体的には往復一時間の距離を目安に して集配局の立地を見直し、一〇四八カ所の集配局 を削減して内務(集配局内の作業)を集約した。
そ のうえで集配局の職員を郵便業務の従事者と、それ 以外とに分離した」と説明する(図)。
 この巨大な郵便ネットワークに現在、通常郵便と メール便(ゆうメール)、宅配便(ゆうパック)が相 乗りしている。
ゆうメールとゆうパックはこれまで「小 包郵便物」という括りで、郵便法の下で運営されて きた。
それが民営化に伴い国土交通省の管轄する宅 配便に位置付けを変えた。
常識的に考えれば日通と の宅配便事業の統合によって、ゆうメールとゆうパッ クのオペレーションは来年一〇月から新会社に移管 されることになる。
 しかし、ゆうメールは本来であればれっきとした 郵便物だ。
ゆうメールは郵便物の配達を規制する信 書便法の定義の曖昧さを突いて、ヤマト運輸を始め とする物流企業が開始したメール便に対抗し、それ までの冊子小包をリニューアルした商品だ。
サイズ が小さくポストに投函するだけで済むため、わざわ ざ通常郵便のネットワークと分ける必要はない。
 通常郵便の配送密度は、ヤマトのメール便とは、 いまだ圧倒的な開きがある。
それを宅配便と一緒に 切り出してしまえば、効率は大きく悪化する。
「そ のためメール便に関しては新会社発足後も基本的な 体制はこれまでと変わらないと考えている」と、日 本郵便郵便事業本部郵便事業部の山崎勝代部長は いう。
結局、メール便の配送は宅配新会社が日本郵 便に委託するかたちに収まりそうだ。
第1部  十一月一日、日通は泉川正毅副社長を本部長とし て計二〇人で構成する宅配便事業統合推進本部を社 内に設置した。
郵政も関連分野の担当責任者約二〇 人を指名し、日通との交渉にあたっている。
来年四 月に予定されている最終契約を結ぶまでに、統合の 範囲や新会社のスキーム、移籍する社員とその処遇 などを詰める必要がある。
トップダウンで急遽まとまっ た事業統合だけに、細部は現時点で全く固まってい ない。
ただし双方ともリストラは必至だ。
弱者同士 の統合であるだけに、相乗効果を得られなければ新 会社は大幅な赤字が避けられない。
 日通がペリカン便とアロー便(中ロット便)のい わゆる“ペリアロ事業”で使用しているドライバー 用端末の稼働数は現在一万五〇〇〇台〜二万台。
そ れに準じた数のドライバーが全国に配備されている ことになる。
一方、郵便業務に従事する正社員は現 在約一〇万人。
うち配達員(外務員)が約六万五 〇〇〇人いる。
 幹線輸送の基地となるターミナルは日通が全国七 四カ所、「ペリカン便センター」と呼ぶ集配拠点は約 七〇〇カ所を配置している。
これに対して郵便の配 送ネットワークは、エリア内を管理する「統括支社」 が全国七〇カ所、その傘下の支店が一〇二三カ所、 各支店の周辺に点在し集配だけを担う「サテライト センター」が二五六〇カ所だ。
 従来、郵便事業は郵便・郵貯・簡保のいわゆる郵 政三事業と窓口業務を同じ郵便局のなかで一体のも のとして運営してきた。
しかし民営化に伴い、四事 業がそれぞれ別会社に分かれることになったことから、 昨年後半から今年三月末にかけて、郵便の集配を受 け持つ郵便局(集配局)の再編を行った。
 この再編を担当した日本郵便オペレーション本部 DECEMBER 2007  12 ポスト民営化市場のシナリオ 船出前から難問山積の宅配新会社  日本郵便の配送網は通常郵便と宅配便が一体となってい る。
一方の日通は宅配便部隊を全国の各支社・協力会社 の下部組織として位置付けている。
その運用体制は拠点ご とに大きなバラツキがある。
この2 つの巨大なネットワーク から宅配便だけを切り出して統合するスキームを来年4 月 までに固めなくてはならない。
        (大矢昌浩) 13  DECEMBER 2007  それに対して宅配便は、配送密度の低い過疎地を 除き、新会社が正社員のセールスドライバーを主力 とする独自の配送網を構築することになる。
これに 伴い宅配新会社のセールスドライバー候補となる郵 政の外務員約六万五〇〇〇人は、通常郵便組と宅 配新会社組に分割される。
そこに日通および地区通 運と呼ばれる協力会社の延べ一万数千人のドライバー が加わる。
もちろんトータルの人数は大幅に削減し なければならない。
統合前には相当な修羅場が予想 される。
郵政の法人営業力  ハンドルを握らずに法人向け営業を担当する営業 部隊は郵政組が主流になりそうだ。
というのも日通 にはペリカン便の専門営業がほとんどいないからだ。
日通は市場で劣勢に立っていたペリアロ事業を他の 事業から切り離し、専業化によって強化するという それまでの方針を二〇〇一年に撤回している。
それ 以降、ペリアロ事業は本業を補完する輸送商品の一 つという扱いになっている。
 ペリカン便センターも日通の各支社や地区通運の 下部組織として位置付けられている。
その営業体制 やドライバーのチーム編成、日常のオペレーション管 理など、かなりの部分は各支社・地区通運に所属 するペリカン便センター長の裁量に委ねられている。
といってもセンター長の多くはオペレーションの管理 に追われがちで、営業成績、作業品質とも拠点ごと に大きなバラつきがある。
 日通の各支社にも営業専任者はいるが、ペリカン 便だけを扱っているわけではない。
ロジスティクス 事業や一般輸送などのほうが比重は大きい。
日通本 部のペリカン便の専門営業は次長以下五人に過ぎな い。
それに対して日本郵便は本社と全国十一の支社 に営業部隊を設置している。
民営化に備え各支社の 有望な人材を霞ヶ関の本部に抜擢もしている。
 ロジスティクス事業部の山田伸治部長は「公社時 代から二年半をかけて民営化に向けた準備を進めて きた。
ようやく正式に活動を開始できる」と意気込む。
ゆうパック事業本部ゆうパック事業部の稲葉一雄部 長も「これまで我々は他の宅配業者のように大口顧 客に対して相対で条件を交渉することができなかった。
民営化によって、やっと同じ土俵に乗ることができた」 という。
民営化で営業の士気は上がっている。
 公社時代の〇三年に郵政は日立物流と提携し、法 人顧客向けの営業に共同で取り組んできた。
当時、 公社の売り物はゆうパックしかなかったが、日立物 流とともに顧客を回ることで3PL営業のノウハウ を身につけようという狙いだった。
日立物流は郵政 の持つブランド力と幅広い顧客層に期待した。
 日立物流グローバル営業開発本部営業企画部の鈴 木浩久郵政推進グループ担当部長は「取り組み当初 は鳴かず飛ばずの時期が続いた。
それでも当社と回 ればゆうパックがとれるという認識が徐々に郵政内 に浸透してきたことで、昨年あたりから毎月連続し て仕事がとれるようになってきた。
当社のゆうパッ クの取り扱い個数も年間五〇万個程度だったものが 今年は八〇万個程度まで膨らみそうだ。
売上高は当 社側だけで年間三〇億円近くに達している。
時間は かかったが、ようやく成果が現れてきた」という。
 総勢一〇万人の社員を抱える日本郵便は、人材 面では民間物流企業と比較して圧倒的な優位に立つ。
上意下達や部門別の縦割り、エリア的な縄張り意識 など、役所的な悪弊を解消して、彼らの力を活かす ことができれば物流市場の突破口は開ける。
特集 ●分社化で郵便局と郵政事業は分離した(イメージ) 分社化 郵便局長【1名】 (三事業を総合的に運営) (10名の郵便局) [郵便事業会社4名] [郵便局会社6名] 参考:普通局1人当たり平均 1,400通・620カ所 【外務業務】 一人当たり 内務 【4名】 共通 0.7人 郵便 1.2人 貯保 2.1人 外務 【5名】 郵便 2.9人 貯保 2.1人   午前 ●集配  290通  140カ所   午後 ●貯金・保険  募集・集金 郵便局長【1名】【外務業務】 一人当たり 内務 【3名】 (三事業窓口) 外務 【2名】 (貯金・保険) 募集・集金 終 日 貯金・保険 480通 240カ所 内務 【1名】 (郵便・区分 け作業) 外務 【3名】 (郵便) 従 来民営化後 終 日 集 配 日立物流グローバル営業開発 本部営業企画部の鈴木浩久 郵政推進グループ担当部長

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